マジカル・リテラシー【Magical Literacy】 作:自認コメディ
高校生の朝は遅い。中学生に比べて、だ。
朝読書や朝活なんて意味のない時間がないから、優雅に身支度をして、授業ギリギリの時間に登校できる。しかしまぁ、一人暮らしで起こしてくれる人がいないため、登校時間ギリギリに起きて焦って身支度を開始するのだが。
今日は遅刻せず、こうして朝の教室にいる。先週は一時間目の移動教室に直で登校したからな。自身の確かな成長を感じられる。えらっ!
「おい、リツ! やばい!」
大きな声が耳をつんざく。声の方を向くと、予想していた男の悲壮な顔が視界を埋め尽くしていた。
「どしたん?」
「健康診断の結果で、他は全部Aなのに尿検査がCなんだ! おれ死んじまうのかなぁ!?」
彼は
僕が高校生になって初めてできた友達で、ノリが面白い。あと、ずっと前から友達だったかのように接してくれるので嬉しい。
タカトとの出会いはなかなかの衝撃だった。出席番号1番の彼は、ホームルームの自己紹介でトップバッターだった。
「秋村タカトです! キムタカって呼んでください! 好きな魔法少女は『真珠の魔法少女』! 世界で一番美人だと思ってます!」
と、入学初日とは思えないほどに元気
「名前→あだ名→好きな魔法少女or芸能人」という自己紹介テンプレートを作成した偉大な彼は、ホームルーム後に僕に近づいてきて「俺以外に男子いないと思ってた! よろしくな!」と言い、お互いに挨拶をして友達になるに至ったのだ。
「見してみ……尿検査の前日って控えた?」
「ん? ああ、『夜遅くまで激しい運動を行うなど、前夜は疲労しないようにしてください』って書いてあったからな」
「じゃあなんで
「1回しかしてないぞ!」
「お前は発情期のサルか!」
そう言って、二人でひとしきり笑う。
「失礼だな。猿じゃないから俺に発情期はない」
「そうだったね。一年中いつでも性交が可能だもんね」
「できることなら一年中パンパンしてたい。パンくんって呼んでくれ。よろしくな」
「結局チンパンジーやんけ」
もう一度、タカトとひとしきり笑う。ウッキッキーw
タカトとはウマが合う。サルだけど。←激オモロギャグ
彼とはこうしてウィットに富んだ会話をしている。どちらがボケでどちらがツッコミでも構わない。タカトがボケれば僕がツッコミ、僕がボケればタカトがツッコむ。
家ではスルースキルが高い両親を相手にしていたので、ボケをスルーされることには慣れ切っていた。しかし、打てば響く彼との会話ならば一生続くのかもしれない。
ここに来たのは、彼に会うためだったのか。僕とお前のコンビでお笑いのテッペンを目指そう。この相方とともに僕は世界に羽ばたく──。
「キムタカ~! クルルンに下ネタやめろし~!」
ギャルが割り込んでくる。タカトと話していると、やけに突っかかってくるギャルだ。やめてくれ、僕と彼を引き離さないでくれ。
「なっ……! リツばっかずるいぞ! 俺だって下ネタ苦手かもしれないだろ!」
「そんなことないだろ!」
ギャルにタカトを盗られた。漫談してる。いいなぁ……。
僕も混ぜてくれ。
「キムタカは俗よ! それに比べてクルルンはどう! どう見たって清楚じゃん! 清楚超えて
「今日は調子いい方なの。心配しないで」
「んー! 儚い!」
参加できた。へへへ。
「あっ、やば! 移動教室じゃん!」
「僕らも行くか」
「おう」
クラスメイトがぞろぞろと教室を出ていく。
最後にタカトと僕が教室を出ようとしたとき、タカトが僕に振り返って言った。
「元気出たみたいで良かった!」
*
僕はベンチに腰かけて、奇妙な色に濁った空を見上げた。今日は緑色だ。
「はぁ~……」
「どうしたの? ポルックスちゃん、大きなため息。幸せ逃げちゃうよ?」
いけない、いけない。
きゃぴ! 私は星の魔法少女、ポルックス!
今は学校が終わった放課後で、高校に入ってからできるようになった領域内の雑魚処理をしてるの!
「私が元気分けてあげるよ! ふんっ」
この元気っ子はタンポポの魔法少女。中学のときのアルバイトで何度か会った魔法少女で、この子もこの学校に来ていたという。
というか、中学のアルバイトではこの子しか魔法少女を見かけなかったわ。復興作業はおじさんおばさんだらけだったし。
「元気は朝にも十分もらったんだけど、悩みがあってねぇ」
「あっ! みんな別にポルックスちゃんが嫌いで遠くにいるんじゃないよ。ポルックスちゃんのこと、あんまり知らないからどう接したらいいか分からないんだと思うの。私は友達だしね!」
あと、魔法少女科のホームルームや授業に一度も顔を出さないポルックスを気にかけてくれる良い子ちゃんで、こうして遠巻きに見られているぼっちな私に話しかけてくれる。
名前はモブ……モブ子とか言われていた気がする。イジメられてんの? 私らいじめられっ子同盟なの?
「悩みがあってねぇ」
「えっ、聞こえなかったかな? 友達だよね? ね、ねぇ?」
ちょっと涙目になってる。かわいそうでかわいい。でもかわいそうすぎると悲しくなるから、程々にしましょうね~。
「友達に相談なんだけど」
「と、友達。えへへ!」
「ネットの知り合いに『喋らないと殺す』って言われているんだ……」
「事件じゃない!」
モブ子は声を上げて立ち上がった。
「ダメだよ! そんなのにマトモに対応したら! そんなこと言う男はネットでしか女の子と会話できないから、世間と感覚がズレてるんだよ! 高校生にだって手を出しちゃうんだよ!」
「いや、2個上のゲームのフレンドで……あと女性」
モブ子は「なぁんだ」と安心して座った。
「そうだったの? オフ会でも誘われたの?」
「いや。VC……通話しようって言われてて、『高校になったらする』って約束してたんだ。でも、通話しなくてもテキストチャットで十分だったから、する必要ないし」
「どのくらい一緒にゲームしてる人なの?」
はて、いつからだったか。指を折って数える。
「4年くらい?」
「ならいいんじゃない? 4年も一緒にゲームしていれば、その人がどういう人かも分かってるでしょ」
「まぁそうだけど」
「信頼関係が築けていて、これからも関わり続けるんなら、いい変化だと思うよ!」
「う~ん」
「……ほら! 私だって、SNSで知り合った子と夢の国行ったよ! 友達の友達で、イソスタで知り合ったの!」
そう言ってスマホを見せてきた。画面には、変身前と思しきモブ子を含む3人の少女。
ネットに、顔写真を上げている、だと……?
ありえない。最近の中学生はこうもネットリテラシーが欠如しているのか?
「あれ? ポルックスちゃん? また聞こえなくなっちゃった? お~い」
モブ子が、ひどく遠くの人のように感じる。
モブ子、あなたは陰キャじゃなかったのね……。
いじめられっ子同盟なんて、最初っからなかったのね……ほろほろ。
キムタカの好きな魔法少女……『真珠の魔法少女』なんですけどねぇ……
ただ留学生ちゃんの方の話で出す予定だったので本編とはあんま関係ないです。美人さんです。