マジカル・リテラシー【Magical Literacy】 作:自認コメディ
ねこだまし:優先度+3
てだすけ:優先度+5
「
今日の卿は一味違う。なぜなら、昨日の卿は徹夜明けであったが、今日の卿は8時間も寝たからぞい。
授業終わりの放課後、領域内にはぞいの構えを取るポルックスの姿があった。
今日はその振替出勤みたいなものである。まぁ、シフト制というわけでもないが。
さて、お仕事お仕事。
周囲に人影はない。建物の残骸が散らばる通りを歩きながら、次の作業場所へ向かおうとする。
……
右腕を上げる。握った拳の中からまばゆい光が漏れ出し、それは形を変え、やがて一つの輪郭を取る。
右手には、光の剣が握られていた。
ガラリ、と瓦礫が崩れる音がする。
前方の建物の陰から、頭部のない獣がおもむろに姿を現した。大型犬程度の体格を持つそれは、こちらに気づくや否や、勢いよく地面を蹴った。
おっ、速い。
噛みつこうと飛びかかってきた獣を、光の剣で叩きつける。
ドゴォッ!
……あれ、生きてる。
一撃では消滅しなかったので、もう一度叩く。今度こそ消えた。
ガルム系か。それに、さっきの視線の個体がまだいる。
背後の建物の陰から、もう一匹が飛び出してきた。
振り返りざまに、剣を持たない左拳を一発お見舞いする。
パァンッ!
今度は一撃粉砕だ。
周囲を見渡す。ほかに敵の姿は見当たらない。
視線もない。ヨシッ!
それにしても、光の剣より拳の方が強いってどういうこと。
剣なのに切れないし、「ドゴォ」って思いっきり鈍い音するんですけど。まぁ、その後の拳の方は「パァン」なんだけどね。
魔法少女には、それぞれ固有の魔法がある。
イメージすればなんでもできるというものではなく、その魔法少女のモチーフによって、できることが変わる。
例えば、タンポポの魔法少女であれば、タンポポっぽいことができる。モブ子は綿毛を飛ばしたり、浮遊したりしていた。テレビで見た炎や氷を出す魔法らしい魔法も、モチーフとイメージが結び付けばできるだろう。
僕が使える魔法は、光と転移だ。
さっき出した光の剣は、色々試した結果できるようになったものだ。性能はさておき、最初は光るだけだった魔法が、イメージ次第では形を取ったり、掴めたりするようになった。
転移の方は、
視線による制限があるため、戦闘中は基本的に使えない魔法だが、工夫次第では使い道もある。さっき視線を感じ取った方法のタネも、この制限を利用したものだ。
現在は、どちらもあまり戦闘には使わず、変身によって強化された肉体だけで、こうした雑魚処理の仕事をしている。
しかし、戦闘からの離脱も転移で一応可能なので、領域発生直後の偵察なんかの危険度が高い仕事も狙っている。
マネマネマネー。
「あっ、三人くらいの魔法少女グループ発見。挨拶だけでもしよぉ」
遠くに豆粒ほどの魔法少女の影を発見し、その目の前に転移する。
「ドーモ、同僚=サン、ポルックスです」
三人に挨拶とオジギをするも、なぜかこちらを睨んでいる。
はて、どこかで会って粗相でもしただろうか?
「ポルックス……。そう、アンタが」
前に出てきたのは、赤い髪に赤いドレスを
品定めするように僕の全身を観察してくる。足元から上へ、なめるように視線が移動し、最後に顔で止まった。
いやん、全身舐めまわされちゃった。
「アタシは立花アカネ。アンタと同じクラスよ。後ろの二人のうち一人は別のクラスだけど、どっちも同じ魔法少女科」
緑のエルフ耳の少女と、青い犬耳の少女がにこっと笑い、手を振ってくる。こちらも手を振り返した。
「アンタ、学生証見せなさいよ」
え?
立花さんがこちらに手のひらを上にして差し出してきた。
だ、出せと?
「カツアゲですか?」
「違うわよ。ちょっと確認したいだけ」
「立花さん、であいがしらに『財布を出せ』は不健全です。卿でも知っているぞい」
「言ってないわよ! 学生証だけ見してくれればいいの! あと立花って呼ばないで! 変な語尾と一人称!」
おお。全部拾ってくれる。
面白いかも、アカネさん。
ああ、肩掴んで揺らさないで、あばばばば。
しかし、ポルックスの方の学生証を財布に入れていただろうか。確認していないから、ちょっと転移で逃げようかな?
魔法少女なら光で目つぶししても大丈夫かな?
僕の顔面を光らせて、ねこだましをした隙に逃げようかと思い悩んでいると、声がかかった。
「何をしているの?」
その場の誰でもない人の声が響いた。
現れたのは、水色の魔法少女だった。
すらりとした長身に、均整の取れた細身の体つき。淡い水色の髪は毛先に向かってほんのり桃色に染まり、動くたびに柔らかく揺れている。
どこか涼しげな雰囲気を纏ったその少女は、僕たちの様子を少し怒ったような顔で眺めていた。
「私は二年生の『サファイアの魔法少女』だよ。何をしていたの?」
「……一年の立花アカネです。『バラの魔法少女』です。ポルックスちゃんに学生証を見せてもらおうとしていました」
なんか怒られているような雰囲気。
さっさと「家に忘れた」とか言って断ればよかった。アカネさんに申し訳ない気持ちが出てくる。
「そう。一人を囲んで騒いでいたから、何かトラブルかと思ったよ。ポルックスちゃんは、学生証を見せられる?」
「えっと、家に忘れたかもしれないので、確認させてください」
少し離れて、腰から垂れ下がる謎の白布をまさぐり、財布を取り出す。
「どういう収納してんの?」
アカネさんが言っているのが聞こえてきた。
ポルックスの学生証は……うん、あるね。
「はい、これ学生証です」
「ありがとう」
アカネさんが学生証を受け取り、じっと眺める。
「本当にポルックスって名前なのね。座席表にポルックスって変な名前が書いてあるから不思議に思ったの。それに授業に出てないし」
「卿は授業免除です」
「そ。理事長に言ったらアタシもしてくれないかしら。自主学習するし」
アカネさんと僕が穏やかに会話しているのを見て、二年生の先輩魔法少女は頷いていた。
「じゃあトラブル解決だね。解散!」
水色先輩の声で、その場は解散した。
鶴の一声だ。
アカネたち三人に別れを告げて、少し歩いてから転移しようとするも、できない。
ふと横を見ると、こちらを笑顔で見つめる先輩がいた。
「先輩、なんで付いてきてるんですか」
「ん? ああ、ポルックスちゃんとお話ししようかと思って」
水色先輩が「先輩かぁ」と一言呟いて、頬を緩めている。
先輩が刺さったのか?
「アカネちゃんと話そうと思って来たんだけど、叱っちゃったから、また今度話そうかなって。だから今日はポルックスちゃんと」
水色先輩は、そのまま話を続ける。
「私はラビリス・アネット。二年生だけど、実は今年から入ってきた留学生で、魔法少女一か月目なんだ。だから、さっきはちょっと怖かったの。顔に出てなかったかな?」
アネット先輩はそう言って、ムニムニと頬を揉んでいる。
「卿はポルックスです。お顔は大丈夫でしたよ。それより、アカネさんに用事が?」
「うん、ちょっと挨拶をしにね。……ここだけの話なんだけど、アカネちゃんのお姉さんから妹を気にかけてって言われているんだ。あっ、対策本部で会った大学生なんだけどね!」
「うーん、アカネちゃんに嫌われちゃったかなぁ」
そう言って、うんうん唸っている。
かわいらしい人だ。
「じゃあね、ポルックスちゃん。また今度話そうね!」
そう言って、僕たちは手を振って別れた。
本編に留学生ちゃん出てきました。偽プロローグで言ったことなんて信じないでください。