ロゥタス・ザラ
C.E.53年9月8日(アスランより二歳年上、原作開始時に18歳)。血液型はO型。身長は177cm。見た目はアスランそっくりだが、髪色などカラーリングに関しては父親譲りである。
アスランと同等の才能を持つ上に、頭が柔らかい。考え方が柔軟ゆえ精神が強く、メンタルデバフ(「闇に落ちろ」など)が効かない。
立場としてはクルーゼ隊の副隊長(黒服)かつそれなりに名の知れた研究者。フレデリック・アデスは同じく副隊長(兼艦長なためアデスのほうが若干偉いとロゥタスは思っている)。
士官学校は赤服かつ主席で卒業。アスランが卒業するまでは、歴代1位の記録保持者であった。
18歳で黒服になるほど高い能力を有するが、その功績のほとんどは研究によるものであり、ヘリオポリス襲撃作戦に関しては、技術者として同道していた。
ハインラインに「友人」と言わせるくらいには、研究者・技術者として優秀。
──プラント最高評議会首都、アプリリウス市。
その一角に佇むクライン邸──プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの邸宅にある一室にて、一組の男女──否、見事なまでのバカップルが久方ぶりの逢瀬を繰り広げていた。
「ラクスたんちゅっちゅ〜」
「ロゥたんちゅっちゅ〜」
親同士が決めた政略結婚というお決まりの婚姻関係でありながらも、当人たちは仲睦まじい(?)甘い時間を心ゆくまで堪能していた。
勿論、プラントでも有数の名家に生まれたしかるべき身分の二人である。結婚前の過度なスキンシップや婚前交渉など言語道断でありご法度中のご法度。「ちゅっちゅ〜」と口では愛らしく囁き合いつつも、実際に行われているのは互いの頬へ優しく唇をついばむだけのバードキスであった。理性が完璧に残っているのか、それとも完全に蒸発しているのか分からない絶妙かつ怪しいイチャつき方である。
「……何をやっているんですか、二人とも」
そこへ、空気の読めなさにかけては宇宙一、頭の堅さにおいても右に出る者のいない男──アスラン・ザラがノックも無しに足早に入室してきた。
「──おいおいアスラン、空気を読んでくれよ。せっかく今いいところだったのに」
「空気を読むのは貴方だ兄上!!よくもあの状況で俺に話を投げつけて逃げ出してくれましたね!?おかげで俺は──っ!」
怒りに肩を震わせ、今にも掴みかからんばかりの勢いで抗議するアスランに対し、ロゥタスは「まあまあ」と手を開いて宥めるような動作を見せる。
一方、部屋の主であるラクス・クラインはといえば──とんでもない醜態を未来の義理の弟に見られたショックから、金魚のように口をパクパクと開閉させながら完全にフリーズしていた。
そもそも、プラントの歌姫として絶大な人気を誇るラクス・クラインという少女は、いくら愛する婚約者相手とはいえ、軽々しく異性に甘えて見せるような不作法な女性ではない。
ただ、激戦が続く戦場から無事に帰投したばかりの婚約者が、あまりに疲れた顔で「はぁ……癒やしが欲しいなぁ」と甘えるように呟いたため、ついつい口走ってしまったのだ。
「あの、ロゥ様。私でよろしければ、何でもして差し上げますわ」と。
その結果として完成したのが、この地獄のようなバカップルキス未遂である。
人として、ーーそして何より一人の乙女としてあまりにもあんまりな醜態を、幼馴染であり親しい友人、そして将来の義弟となるアスランにそんな決定的現場を目撃された精神的ダメージは計り知れず、可憐な歌姫の高度な思考回路は完全にショートしていた。
「まあ落ち着けって、アスラン。あのタイミングでお前に話を振って逃げたのは悪かったと思ってるけどさ。で、あの後結局どうなったんだよ?」
「どうなったもこうなったもありません!……ハァ、そもそもすべての始まりは、一時間前の父上の執務室でのやり取りですよ……!」
頭を抱えて深々とため息をつくアスランの脳裏に、一時間前に繰り広げられた恐ろしい惨劇が鮮明に蘇る──。
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一時間前──アプリリウス市、国防委員会本部。
ヘリオポリスから帰還したロゥタス・ザラは、国防委員長から直々に登庁命令を受けたため、弟のアスラン・ザラを連れて、国防委員長の元までやってきていた。
「パトリック・ザラ国防委員長、ただいま軍務より戻りました」
「ロゥタス!! 今回の件、一体どういうつもりだ!!」
執務室のドアが閉まるや否や、パトリック・ザラは落雷のような大音量で咆哮した。激しい怒気を含んだ鋭い視線が、長男であるロゥタスを真っ直ぐに射抜く。
「はて。私としては、プラントの勝利に繋がる確実で堅実な一手を打てたと思っているのですが。何か問題でもありましたか?」
「問題しかないわ!! なぜあそこで命令を無視し、連邦の新造艦を見逃して撤退した!!」
「その件については、詳細な分析レポートと共にシミュレートした戦略データを添付し、事前に艦からお送りしたはずです」
「レポートは読んだ! だが所詮は『可能性』と『仮説』の話だろう!あそこでチリの一つも残さずナチュラル共を殲滅していれば、貴様の懸念した事項もろとも全て吹き飛ばせたはずだ!!」
真っ赤になって激昂する父親に対し、ロゥタスは慌てる様子もなく、ただ冷淡な──どこか哀れむような静かな目線を向けた。
「……」
「なんだその目は! それが父親に向ける目か!!」
「いえ。あまりに『使えない政治家』に向けた目ですよ、パトリック・ザラ国防委員長殿」
「ロゥタス!!」
親子とはいえあまりにも不遜な態度の息子に激怒するパトリック。だが、言い募ろうとした彼の頬へ、鋭い平手が飛んだ。
「じゃぁかしい!!」
「ヴァッ!?」
突然、息子から強烈な平手打ちを受けたパトリックは、左頬を押さえながら一瞬思考を停止させる。
本来ならば軍紀違反、あるいは親道に対する大不遜である。しかし、ロゥタスはそんな威圧すら意に介さず、一気に畳みかけた。
「言わせていただきますがね、父上。我々は極秘任務中で戦力も限られていたんですよ? それに、彼らとて中立地帯で極秘に兵器を開発しているのです。迎撃小隊の1つや2つあって当然です。そんな戦力的に不利な状況でナチュラルの新造艦を完璧に──それこそ通信の一通も、ブラックボックスの一片も残さずに沈めることなど、誰であっても不可能です。現にあの現場で指揮を執っていたクルーゼ隊長すら不可能と判断し、私の撤退進言を受け入れてくださった。英雄ラウ・ル・クルーゼに不可能な芸当が、他のザフト将兵にできるとお思いですか?」
「ぐっ……!」
あまりにも道理の通った息子の反論に、何も言い返せないパトリック。その顔からは、すでに物理的な平手の痛みすら吹き飛んでいた。
「第一、親父殿は思想も戦略も中途半端すぎるのです」
「何ッ!?」
「ナチュラルを根絶やしにしたいのか、それともプラントの完全独立を成し遂げたいのか。貴方の政策からは何の明確な理念も読み取れない」
「な、何を貴様……!」
隠してきたわけではないものの、大っぴらに公言していたわけではない「ナチュラル全滅」という妄執を息子に見抜かれていると知り、驚愕するパトリック。
「大方、母上をナチュラルに殺された復讐として、この独立戦争に乗じてナチュラルを全滅させようと目論んでいるのでしょうが──そんな甘い考え、上手くいくはずがないでしょう」
「そんなことはない!! 現にニュートロン・ジャマーで敵の通信と核融合は完全に阻害できている! 今こそ好機なのだ!!」
「なわけがないでしょう!! たった一度の大戦でナチュラルを全滅させられるなどという考え自体が甘いのです! 人口差がどれだけあると思っているのですか、100倍ですよ、100倍! たった一回の戦争で150億人近い人類を死滅させるなど、土台不可能な話です!」
「──では、貴様ならどうするというのだ!!」
「私なら──大戦を『三度』引き起こします」
「………………なに?」
パトリックの顔から激しい怒気が失せ、困惑と疑問が取って代わる。ロゥタスは静かに、しかし狂気的な作戦を語り始めた。
「まず今大戦では無理をせず、『我が軍の損害を最小限に抑え、圧倒的優位な条件でプラントを独立』させます。NJの稼働継続、プラントの完全独立承認、関税の全額免除、対等な貿易協定を要求するのです」
「…………ほう」
「そもそもプラントの最大の弱点は二つ。『生活拠点の脆弱さ』と『絶対的な人口の少なさ』です。この二つの弱点を抱えたまま生存闘争などできるはずがありません」
急に黙り込むパトリックを余所に、ロゥタスは「相手の拠点は核ミサイルで滅ぼせないのに、こちらは戦艦の主砲を喰らったら崩壊するとか、拠点の耐久性が違いすぎます」と事もなげに、どこか自嘲気味に息を漏らす。
「だからこそ戦争を長期化──正確には『段階的』に分けるのです。第一次大戦で有利な和平を結んだ後、いや和平交渉が始まったくらいからNJ下でも稼働する核動力炉──便宜上『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー』とでも言うべきものを 搭載した核動力炉の研究を開始。終戦直後、これを親プラント派の地球国家へ貸与し、エネルギー支援という形で多大な『恩』を売ります」
「……それでは、ナチュラルが増長するだけではないか!」
パトリックが眉をひそめ、不満げに声を荒らげる。ロゥタスは『甘いな』とでも言いたげに、薄く嘲笑を浮かべながら人差し指を振った。
「ええ。ですが増長するナチュラルは
「次の段階、だと……?」
ロゥタスは流れるような動作でデスクの端に腰をかけ、組んだ脚の上に両手を置いた。その目はまるでチェス盤の駒を俯瞰する絶対者のように冷ややかだった。
「第二次大戦の誘発です。すなわち──『親コーディネーター派ナチュラル』と『反コーディネーター派ナチュラル』による、ナチュラル同士の大戦です」
「……!」
あまりの発想の飛躍に、パトリックが言葉を失う。驚きを隠さない父親をしり目にロゥタスは淡々と言葉を紡いでいく。
「プラントが親プラント派のナチュラルだけに資源と技術を流し続ければ、地球上で大規模な派閥闘争が起こるのは火を見るより明らか。我々が裏で糸を引いて両勢力が拮抗するよう調整し、第三の和平派勢力が生まれないようにコントロールしつつ第二次大戦を開戦させます」
「ふむ。なぜ第三勢力を作らせない? その第三の勢力があったとて、我々が第四の勢力として介入しても問題ないと思うが」
疑問を呈する父親に対し、ロゥタスは心底呆れたように肩をすくめてみせた。
「だから
「なるほど……」
パトリックの表情から次第に苛立ちが消え、息子の提示する壮大かつ凄惨なプランに引き込まれていく。
一方で、部屋の壁際で気配を消していたアスランは、呼吸することすら忘れて兄の背中を見つめていた。自分の知る優しい兄が語っているとは到底思えない、悪魔のような構想に、背筋を氷でなぞられたような悪寒が走る。
「そうして地球上でナチュラル同士を徹底的に戦わせつつ、我々に従順なナチュラルだけを宇宙へ回収・吸収して人口差を埋める。そして最終段階──第三次大戦です」
「第三次大戦……」
言葉の響きそのものが持つ重圧に、執務室の空気が一段と冷え込む。
「まず、地球から『親コーディネーター派ナチュラル』がいなくなったと思わせないように、ゲリラ的な抵抗をしつつ主戦場を宇宙へ誘引し、これを撃滅します」
「『撃滅する』と簡単に言うが、具体的にはどのようにするのだ?」
パトリックはすでにロゥタスを対等以上の戦略家として認め始めていた。前のめりになり、息子の次の一手を促す。ロゥタスは手元の端末を操作し、簡易的な地球図のうちとある三か所をピックアップする。そこには、カオシュン、ビクトリア、パナマと記載されていた。
「マスドライバーですよ父上。技術発達が進んでいるとはいえ、そのころにはまともな宇宙拠点を失っているナチュラル共が大軍を展開するためには、マスドライバーを必ず使います。事故を防ぎ安定して打ち上げる固定装置を使う以上、軌道と移動先は限定されます。また、大気圏突破は現在の技術でも無防備になりますから、そこを狙い撃ちすれば宇宙で決戦をしようとするナチュラルを減らすことなど造作もないでしょう」
実際、C.E.においてマスドライバーは高価で地球連合が所有しているものは三つだけだ。その三つを宇宙空間から監視し、迎撃態勢を整える。プランが順当に進み人員の豊富なザフトであれば、容易に行えるだろう。
「だが、それはナチュラル共がこちらに戦いを挑んでこない限り使えない策だ」
「ええ、そうです。そもそもプラントとていまだに空気資源や水資源は貴重です。それらを無尽蔵に供給することのできる地球を痛めつけすぎるのは、遠くない将来にコーディネーターの首を絞めます」
「しかし、それでは!!」
せっかくの殲滅機会を逃すのかと喰ってかかろうとするパトリック。だが、ロゥタスは静かに手をかざし、父親の言葉を遮った。
「ええ、ナチュラルを完璧に滅ぼすことはできないでしょう。──ですが、屈服させることはできる」
「
ロゥタスの瞳の奥に、暗く濁った歪んだ笑みが灯る。
「そうです。コーディネーターを討とうとする度、戦う前にその芽を摘まれ続ける。まともな人間なら、先に精神が折れるでしょう」
「だが、アイツらは──ナチュラルは決して真面ではない!!」
腕を叩きつけるパトリック。それを見てもロゥタスは冷静に続けた。
「仮に、コーディネーター憎しで研究を続けても、宇宙艦艇の持つ『大気圏突破に無防備になる』という弱点は容易に消せるものではありません。何年も何十年も我々がいる
息子の冷徹な戦術眼に驚くパトリック。
「このように、ナチュラル共の反抗意識を殺し、やがて自ら首を垂れさせる。それが私の考える対ナチュラルプランです」
「……ふん。ならば、その『首を垂れてきた』愚か者どもはどうするつもりだ」
依然として鋭い怒気を孕んだ目を向けつつも、息子の提示した冷酷な計算に「一考の余地あり」と踏んだパトリックが、腕組みをして問い詰める。ロゥタスは眉一つ動かさず、至極当然のことのように言葉を継いだ。
「……火星のテラフォーミング開拓民にでもしましょう。あそこなら大気もあります。プラントの技術があれば居住可能でしょう。もっとも、プラントからの物資支援がなければ困窮する程度に環境を調整し、死ぬまで奴隷労働に従事してもらうことになりますが」
「……なるほど。お前が私を『甘い』と言った理由が分かった気がする」
パトリック・ザラは、深く感心したように重々しい息を吐いた。
「ええ。ナチュラルを殺して終わらせるなど、奴らを甘やかしすぎです。死は救済に過ぎない。母上を殺した愚かなナチュラル共には、ナチュラルとして生まれた己の運命を死ぬまで呪い続ける地獄の人生を与えてこそ……真の弔いというものでしょう」
「……分かった。私の跡を継ぐお前が、軟弱な平和主義者ではないかと危惧していたが……どうやら私の目が眩んでいたようだ。お前は私の想像を遥かに超える思想の持ち主だったのだな」
「父上ほどのお方にそこまで言っていただけるとは、光栄です」
執務室の壁際でこの恐ろしい会話を全て聞いていたアスラン(※最初からずっと居ました)は、顔面を蒼白にさせて震えていた。
キラの両親は穏やかなナチュラルであり、キラ自身も平和を愛する心優しい少女なのだ。そして何より、アスラン自身にも、父や今ここで惨絶な対ナチュラル戦略を語っていた兄ほどの敵愾心など存在しない。
父も兄も、ただ純粋にプラントの独立と平和のために尽力している──そう信じ切っていただけに、突きつけられた悪夢のような現実に彼が受けたショックと落胆は絶大だった。膝から崩れ落ちそうになるのを、必死の思いで耐えるアスラン。
そんな弟の葛藤など知ってか知らずか、ロゥタスは至極当然のような顔でさらに言葉を重ねた。
「──ただ父上。私が裏でこの大規模計画を推し進めるにあたり、表向きは『ナチュラルとの融和を模索するポーズ』を演出する必要があります。そのためにも、次期後継者としては私ではなく、アスランを前に立てるべきかと」
「む? なぜだ?」
思わぬ名前に眉をひそめるパトリック。ロゥタスはチラリと壁際で凍りついている弟へ視線を送り、ニヤリと悪質な笑みを浮かべた。
「アスランの婚約者は、ナチュラルの両親を持つキラ嬢です。『プラントは平和と融和を望んでいるが、致し方なく戦っている』というポーズを取り、プラントの民衆や連合の一般市民に見せるためには、アスランとキラ嬢の仲が深まることが最高の証拠になりますからね」
「なるほど、実に見事な戦略だロゥタス! ではアスラン、早速──」
「あ、ちょ、兄上!? ちょっと待ってください!!」
突如として自分へ飛び火してきた展開に、アスランは蒼白だった顔を跳ね上げて慌てて叫んだ。しかし、逃がす気など毛頭ないロゥタスは、弟の肩をガシッと掴んで父親の前へ引きずり出す。
「と、い・う・わ・け・で・アスラン!早速キラ嬢との結婚の日取りを親父殿と相談して決めてしまいな?」
「なるほど、それは至急進めねばな! アスラン、式の準備だ!」
「兄上! 兄上!? 兄さぁぁぁん!!!」
あまりの理不尽な連携プレイに必死で抗議の声をあげるアスランを余所に、ロゥタスは颯爽と回れ右をした。
「じゃ、俺は自分の婚約者のところに行ってくっから!」
ポンと弟の背中を叩いてパトリックに押し付けると、ロゥタスは自動ドアが開いた瞬間に、風のような素早さで執務室を後にしたのだった。
──回想終了。
「──という経緯で、俺は父上に捕まって結婚式の話をしこたま聞かされる羽目になったんですよ!!」
アスランは身を乗り出し、叫ぶように真相をぶちまけた。
「ノリノリでヤマト夫妻*1に通信を開いて、『いやー、うちの息子が近々お世話になりまして!』なんてにこやかに会話まで*2始めてるし!!あの人、ナチュラル殲滅主義のタカ派じゃなかったんですか!?なんで義理の娘の両親にはあんなにデレデレ*3なんですか!!」
「ははは! まあ、ヤマト夫妻は聖人のようなお人だからなぁ……。タカ派で気性の激しいエザリア・ジュール殿*4やアルバートさん*5とカフェで時間を潰すことのできるお方なんて人類150億と言えどもあの二人くらいだろうさ」
クライン邸のラクスの私室で、ロゥタスは楽しそうに笑い声をあげた。
「それに、まあ……『ナチュラルの親を持つ相手と婚約するなどけしからん』とブツブツ不満を漏らしていた親父殿が納得してくれたなら、万々歳じゃないか」
「万々歳なわけがあるか!! ……それに、兄上の言っていたあの地獄のような対ナチュラルプラン、本気なんですか!? あんなことになったら、今は良くても将来的に……キラや、カリダさんたちにまで危険が及ぶかもしれないんですよ!?」
そう、アスランは一時間前の執務室での話し合いから、それがずっと喉に刺さった刺棘のように気になっていた。
兄であるロゥタスは、もとよりナチュラルに対して強い敵愾心を抱くような人間ではないはずだ。それに、アスランたちが月の幼年学校で暮らしていた頃、ロゥタスは何度もヤマト家を訪れ、ご夫妻と親交を深めていた。その時の兄の姿は、亡き母レノアと同じように、温かく二人を信頼しているように見えていたのだ。
「ん? ああ、あれ?」
ロゥタスはケロッとした顔で首を傾げた。
「ハッタリに決まってんだろ」
「は……? ハッタリ……!?」
「当たり前だろ。あんな数十年かかるような大計画、途中で破綻するに決まってるだろ。親父殿があまりに『ナチュラル絶対殺すマン』になってて話が通じそうになかったから、親父殿以上の超絶タカ派を演じて煙に巻いただけだよ」
「〜〜〜〜っ!!」
アスランはあまりの怒りと理不尽さに拳を震わせた。
「それを……それを俺に説明もせず、押し付けて逃げたんですか貴方は!!」
「いやー、でもおかげでアスランとキラちゃんの結婚もトントン拍子に進みそうだし、親父殿の意識も『ナチュラル殲滅』から『息子の結婚と孫の顔』に逸らせたんだから一石二鳥だろ?」
「だ・か・ら! 俺とキラはまだそういう段階じゃ──」
「……あの、お二人とも」
それまで思考停止していたラクスが、ようやく正気を取り戻し、おずおずと控えめに手を挙げた。
「ロゥタス様……先ほどのお話、本当ですの? 私との婚約を維持しつつ、アスランさんとキラさんのご結婚を優先されるというのは……」
「ん? ああ、ラクス。驚かせてごめんね。でも大丈夫、ラクスとの結婚も真剣に考えてる。ただ、アスランたちと違って、俺たちの婚約はそれこそ政治の色が濃い。だから、まずはアスランたちに先陣を切ってもらって、親父殿の意識を孫フィーバーに向けさせるのが最優先だからね」
「孫フィーバー……!?」
呆然とするラクス*6を前に、ロゥタスは満足げに頷いた。
「さあアスラン! 悩んでいる暇はないぞ! ハインライン設計局に連絡を取って、キラちゃんに『式場はアプリリウスの一等地に決めたよ』と伝えるんだ!」
「伝えるわけないでしょうが!!!!」
アスランの必死な叫び声が、平和なクライン邸に虚しく響き渡るのであった──。