Blue Archive fo MetroExodus 作:宇迦之たま猫
### 青空の下のアルチョム
### 第9話 学区外美味しい物巡りその4「柴関ラーメン」
アビドス自治区は暑かった。
いや、暑いという言葉だけでは足りない。駅を出た瞬間、容赦なく照りつける太陽と乾燥した熱風に出迎えられ、僕は早くも今日の服装を後悔していた。レッドウィンターで暮らしていると、どうしても寒さを基準に物事を考えてしまう。いつも着ている白いダッフルコートは流石に寮へ置いてきたけれど、それでも今の服装は少々厚着だったらしい。
建物の隙間から吹き込む風には細かな砂が混じっている。道路の端には砂が積もり、遠くの建物は陽炎で輪郭が揺らいでいた。
荒れ果てた街並みには覚えがある。カスピ海沿岸を旅した時も、こんな風景を見た。もっとも、あちらは水の確保からして命懸けだったし、道端の自動販売機で冷たい飲み物を買うこともできなかったけれど。
「……冷たい」
買ったばかりのミネラルウォーターを喉へ流し込む。たったそれだけで随分と生き返った気分になった。
さて、今回の目的は観光ではない。もちろん遺跡の探索でもなければ、放射性物質の回収でもない。
食事だ。
ゲヘナではヴルストプレート、百鬼夜行では団子、トリニティではケーキを食べた。どれも美味しかったけれど、特にトリニティのケーキは色々な意味で忘れられない経験になった。あの小さな一切れに二千クレジット以上を要求された時は、何かの冗談かと思ったものだ。
今回はもう少し財布に優しい食事にしたい。
そんなわけで、事前に調べておいた店へ向かっていた。
名前は『柴関ラーメン』。
ラーメンというものは、どうやら麺料理の一種らしい。僕が知っているヌードルとは少し違うようだけれど、写真を見る限りでは大きな違いがあるようには思えなかった。丼に入ったスープと麺、そして肉や野菜。少なくとも写真に写っている料理は随分と美味しそうだ。
もっとも、その写真を見た時に真っ先に思ったことは別にある。
肉が多い。
随分と気前のいい店らしい。
◇
目的の店は、アビドス高等学校からそう遠くない場所にあった。
周囲には営業していない店や砂に埋もれかけた建物も多かったけれど、そこだけは人の生活がしっかりと残っている。店先には暖簾が掛かり、入り口の横には営業中を示す札が置かれていた。
そして何より、素晴らしく食欲を刺激する匂いが漂っていた。
「ここか」
扉を開けると、外の暑さとは違う熱気が顔に当たった。店内には数人の先客がいて、それぞれ丼に顔を近付けながら食事をしている。厨房からは鍋の煮える音が聞こえ、肉を煮込んだような濃厚な香りが立ち込めていた。
「いらっしゃいませー! 柴関ラーメンへようこそ!」
元気な声に迎えられた。
声の主は黒い髪を左右で結んだ、猫の耳と尻尾を持つ女の子だった。赤みがかった瞳に、きびきびとした動作。店の制服らしい黒い服を着て、腰には前掛けを巻いている。
「お一人様ですか?」
「うん」
「それじゃあ、カウンターの空いてる席にどうぞ! お水はすぐ持ってきますね!」
「ありがとう」
案内された席に腰を下ろす。
厨房では青い法被を着た柴犬の獣人が鍋を見ていた。頭には手拭い、顔には年季を感じさせる傷跡がある。片目を閉じたその姿は、随分と貫禄があった。
「へい、いらっしゃい! 注文は決まってるかい?」
「まだ。メニューを見てもいいかな?」
「おう、ゆっくり決めな!」
壁に掛けられた品書きへ目を向ける。
色々あるけれど、まずは店の名前を冠した料理を選ぶのが無難だろう。値段も手頃だ。トリニティのケーキ一切れで、ここの料理なら何杯食べられるだろうか。
……考えるのはよそう。
「お待たせしました! お冷やです!」
先程の女の子が水の入ったコップを置いてくれた。
「ご注文はお決まりですか?」
「この柴関ヌードルを一つ」
「はい! 柴関ラーメン一丁ですね!」
「……ラーメン?」
「はい?」
「ヌードルじゃないの?」
女の子が瞬きをした。
「えっと……麺料理だからヌードルでも間違いじゃないですけど、これはラーメンです」
「そうなんだ。写真を見た時はヌードルだと思ったんだけど」
「……もしかして、お客さん。ラーメン食べたことないんですか?」
「うん。初めてだよ」
「ええっ!?」
思っていたより大きな声が出たらしく、厨房の店主までこちらを見た。
「どうした、セリカちゃん?」
「大将、このお客さん、ラーメンを食べるの初めてなんですって!」
「ほう! そいつはいいな!」
店主は豪快に笑った。
「だったら腕によりをかけねえとな。初めて食うラーメンがうちの店ってのも、何かの縁だ!」
「あはは……大将、いつも通りでいいですからね?」
「わかってるって!」
セリカと呼ばれた女の子は苦笑しながら厨房へ注文を伝えに行った。
随分と賑やかな店だ。
僕はコップの水を一口飲み、改めて厨房の様子を眺めた。
大きな寸胴鍋から立ち上る湯気。茹で上げられた麺。丼に注がれる褐色のスープ。そこへ手際よく盛り付けられていく具材。
調理そのものは決して珍しいものではない。
けれど、この料理には妙な迫力があった。
特に肉だ。
あの分厚い肉を、一人分の料理に何枚も使うつもりなのだろうか。
……本当にいいのかな。
「お待たせしました! 柴関ラーメンです!」
目の前に置かれた丼を見て、僕はしばらく言葉を失った。
大きい。
まず丼そのものが大きい。
その中にたっぷりとスープが注がれ、太めの麺が沈んでいる。上には山のように盛られた野菜。その脇には分厚く切られた肉が並び、刻んだネギと味付けされた卵が彩りを添えていた。
表面には食欲を誘う油が浮かんでいる。
写真で見た時も大きいとは思ったけれど、実物はもっと凄かった。
「……これ、一人分?」
「もちろんです!」
「随分と多いんだね」
「うちはボリュームも売りなんです! あっ、食べきれなさそうなら無理しないでくださいね?」
「いや、大丈夫。ありがとう」
むしろ、この量で本当にあの値段なのかという疑問の方が大きい。
かつてのメトロでこれだけの食事を出そうと思えば、一体どれほどの軍用弾が必要だっただろう。
「それじゃ、ごゆっくりどうぞ!」
セリカは他の客の注文を取りに向かった。
さて。
まずはスープから試してみよう。
丼に添えられたレンゲで褐色の液体を掬う。濃厚な香りに少し驚きながら、ゆっくり口へ運んだ。
「…………」
熱い。
それから、猛烈に美味しい。
肉の旨味が舌の上に広がった。醤油の塩気と脂の甘味が混ざり合い、香辛料の香りが鼻へ抜けていく。濃い味付けなのに、ただ塩辛いわけじゃない。口の中に残る旨味が次の一口を要求してくる。
なんだ、これは。
もう一度、スープを飲んだ。
……美味しい。
なるほど。これは確かに、ただのヌードルとは違うらしい。
続いて箸を取る。麺を持ち上げると、湯気と一緒にスープの香りが立ち上った。思っていたより太く、少し縮れた麺には油が絡んでいる。
息を吹きかけ、口へ運んでみる。
「ん……!」
噛んだ瞬間、もちもちとした弾力が歯に伝わった。
小麦の香りがする。
しかも、麺そのものが美味しい。
今まで食べたことのあるヌードルは、乾燥させたものを湯で戻したり、鍋で煮込んだりしたものがほとんどだった。もちろん、それだって十分に美味しかった。寒い夜に食べる温かいヌードルがどれほどありがたいか、僕はよく知っている。
けれど、これは別物だ。
麺の弾力も、滑らかな舌触りも、何よりスープとの相性も。
噛む度に美味しさが増していく。
「…………」
もう一口。
それからスープ。
今度は野菜も一緒に。
シャキシャキとした食感が濃厚な味を上手く引き立てている。脂の多いスープだからこそ、この野菜がありがたい。
次は肉だ。
箸で持ち上げると、その重さに少し驚いた。厚切りの肉はよく煮込まれていて、口へ入れると驚くほど柔らかい。
「……っ!」
危うく声が出そうになった。
柔らかい。
それでいて、噛めば噛むほど肉の味が染み出してくる。
こんな肉を何枚も載せていいのだろうか。
僕が店主なら、少なくとも一枚は別料金にすると思う。
「……ふふっ」
思わず笑ってしまった。
美味しい。
本当に美味しい。
こんな料理があるなんて、今まで知らなかった。
「……お客さん?」
顔を上げると、いつの間にかセリカが近くに立っていた。
「どうかした?」
「いえ、その……」
彼女は少し言いにくそうに、僕の丼へ視線を向けた。
「そんなに美味しいですか?」
「うん」
即答した。
「凄く美味しい。今まで知らなかったのが勿体ないくらいだよ」
「そ、そうですか!」
セリカの表情がぱっと明るくなった。
「大将! このお客さん、うちのラーメン凄く美味しいって!」
「おう! ありがとよ!」
厨房から威勢のいい声が返ってきた。
僕は再びスープを飲む。
……それにしても、本当に美味しい。
これは困った。
今まで色々なものを食べてきたけれど、こういう料理があると知ってしまったら、これから食費が増えてしまいそうだ。
◇
食事を続けていると、店内が少し騒がしくなった。
「いらっしゃいませー! 二名様ですね! こちらへどうぞ!」
「セリカちゃん、いつもの二つ頼むよ!」
「はい! 大将、いつもの二つです!」
「おう、任せな!」
新しく入ってきた客は常連らしい。セリカと親しげに話しながら、席へ腰を下ろしていた。
「今日も学校帰りかい?」
「はい! でも明日はちょっと早めに上がらせてもらいますね。試験勉強しないといけないので」
「おや、試験かい。大変だねえ」
「そうなんですよ! もう、どうして数学ってあんなにややこしいんでしょうね!」
……数学。
僕はそっと視線を逸らした。
先日の小テストで苦戦した記憶が蘇ってくる。
どうして数学というものは、あんなに人を苦しめるのだろう。銃の弾道計算ならまだ理解できるのに、教科書に並んだ数字と記号は時々まったく意味のわからないものに見える。
今度ノドカに教えてもらおう。
「ねえ、そこのお客さん!」
「……僕?」
「そうです! さっきから随分と真剣に食べてますけど、どうですか? もう慣れました?」
セリカがカウンター越しに話しかけてきた。
「うん。今まで食べたヌードルの中では一番美味しい」
「だからラーメンですってば!」
「ああ、ごめん。ラーメンだったね」
「もう……」
彼女は呆れたように肩を落としたけれど、口元は笑っていた。
「ところで、お客さんはどこから来たんですか? この辺の人じゃないですよね?」
「レッドウィンターだよ」
「レッドウィンター!?」
驚いた拍子に猫の耳がぴんと立った。
「えっ、あんな遠くから!? わざわざうちのラーメンを食べに来たんですか!?」
「うん。最近、色々な学区で美味しいものを食べ歩いてるんだ」
「へえ……いいですね、それ!」
「楽しいよ。色々な人にも会えるし」
「……羨ましいなぁ」
小さく呟いたセリカが、ふと我に返ったように咳払いした。
「ま、まあ、私はバイトで忙しいから、そんなことしてる暇ないんですけどね!」
「学校もあるんだろう? 大変だね」
「そうですよ! 私、まだ中学三年生ですし!」
「そうなんだ。同じくらいの歳かと思ってた」
「えっ?」
「僕は十五歳。レッドウィンターの一年生だよ」
「じゃあ一つ上なんですね。……あっ、私は黒見セリカです!」
「アルチョム。よろしく、セリカ」
「アルチョムさんですね! こちらこそ!」
そう言ってから、彼女は僕の食べかけの丼へ目を落とした。
「あれ? もうそんなに食べたんですか?」
「美味しいからね」
「ふふん! 当然です! うちの大将が作るラーメンは絶品ですから!」
自分が作ったわけでもないのに、随分と誇らしげだった。
それだけ、この店が好きなのだろう。
良いことだと思う。
「そういえば、セリカはどうしてここで働いてるんだい?」
「え?」
「いや、随分と楽しそうだから。仕事が好きなのかなって」
「そ、それは……」
彼女は少しだけ言葉に詰まった。
「べ、別に! お金が必要だから働いてるだけです!」
「そっか」
「そうですよ! お金はいくらあっても困りませんから!」
「それは確かに」
少なくとも、食べたいものを我慢しなくて済む。
トリニティのケーキを思い出して、僕は深く頷いた。
「僕ももう少し貯金しようかな」
「アルチョムさんもお金に困ってるんですか?」
「困ってるというほどじゃないけど、食べたいものが増えてね」
「……それ、貯金する理由としてはちょっと微妙じゃないですか?」
「そうかな?」
「食べ歩いてたら、余計にお金が減るじゃないですか!」
「確かに」
言われてみれば、その通りだ。
セリカは呆れた顔をした。
「もう……。ちゃんと計画的に使わないと駄目ですよ?」
「気を付けるよ」
「本当ですかぁ?」
「少なくとも、今日のヌードルは値段以上の価値があると思う」
「ラーメン!」
「ああ、ラーメン」
今度こそ覚えた。
多分。
「はははっ! セリカちゃん、お前さんも随分と面白い客に捕まったな!」
「大将まで笑わないでください!」
厨房から聞こえてきた笑い声に、セリカは頬を膨らませた。
その様子を見て、僕も笑ってしまった。
◇
最後の一口を食べ終えた。
丼にはまだ少しスープが残っている。名残惜しいけれど、これを全部飲んでしまったら流石に塩分の摂りすぎだろう。
……いや、待て。
ここまで美味しいスープを残していいのだろうか。
僕はしばらく丼を見つめた。
スープは何も言わない。
当然だ。
結局、レンゲでもう一口飲んだ。
「ごちそうさま」
「はい! ありがとうございました!」
セリカが空になった丼を下げに来る。
「どうでした? 初めてのラーメンは!」
「最高だったよ。特にスープが美味しかった。麺も肉も野菜も、全部よく合ってる」
「えへへ、ありがとうございます!」
「それと、少し聞きたいんだけど」
「はい?」
「このヌードル……いや、ラーメンって、他にも色々な種類があるの?」
「もちろんですよ!」
セリカは待ってましたとばかりに胸を張った。
「醤油ラーメンに味噌ラーメン、塩ラーメン、とんこつラーメン! 他にも魚介系とか、辛いラーメンとか、つけ麺なんかもありますよ!」
「……そんなに?」
「まだまだあります! それにお店によって全然味が違いますからね!」
驚いた。
同じ麺料理なのに、そこまで種類があるのか。
「例えばスープの材料だけでも全然違いますし、麺の太さや硬さもお店ごとに特徴があるんです。あっ、そうそう! ラーメンだけじゃなくて、餃子やチャーハンと一緒に食べるのもおすすめですよ!」
「餃子とチャーハン……」
知らない料理の名前が次々と出てくる。
これは、どうやら思っていたより奥の深い世界らしい。
「……セリカ」
「はい?」
「僕は、今まで随分と勿体ないことをしていたみたいだ」
「え?」
「こんなに美味しい料理があるのに、今まで一度も食べたことがなかったなんて」
セリカが目を丸くした。
それから、堪えきれなくなったらしい。
「ぷっ……あはははっ!」
盛大に笑われた。
「そ、そんな大袈裟な! ラーメンくらいで!」
「いや、本当にそう思ってるんだけど」
「あははっ! もう、アルチョムさんって面白い人ですね!」
笑いながら目元を拭うセリカ。
随分と笑われてしまったけれど、僕としては大真面目だった。
前世では、食事というものは生き延びるための手段であることが多かった。美味しい料理を楽しむ余裕がなかったわけじゃない。アンナと一緒に食べた食事も、仲間たちと囲んだ食卓も、僕にとって大切なものだ。
けれど、今の世界には僕が知らない料理が数え切れないほど存在している。
しかも、それを食べるために命を懸ける必要はない。
必要なのは時間と、お金と、少しばかりの好奇心だ。
……お金については、できるだけ節約したいところだけれど。
「そうだ。セリカ、一つお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「次に来た時、何を頼めばいいか教えてくれないかな?」
「えっ? また来てくれるんですか?」
「もちろん。まだ食べてない料理があるからね」
セリカは嬉しそうに微笑んだ。
「それなら、次は餃子も一緒に頼んでみてください! うちの餃子、ラーメンに負けないくらい美味しいんですよ!」
「餃子か。覚えておくよ」
「あっ、でも頼みすぎには気を付けてくださいね? さっき貯金するって言ってたばかりなんですから!」
「……手厳しいな」
「当たり前です!」
店主がまた笑った。
「セリカちゃん、お前さん、まるで姉ちゃんみたいだな!」
「もう! 大将まで!」
セリカの尻尾がぱたぱたと揺れている。
僕は財布から代金を取り出し、会計を済ませた。
「ごちそうさま、大将。本当に美味しかったよ」
「おう! またいつでも来な!」
「うん。セリカもありがとう」
「はい! またのお越しをお待ちしてます!」
扉を開ける。
相変わらず、外は暑かった。
ただ、店に入る前より随分と気分が良い。
お腹もいっぱいだし、財布への被害も少なかった。
素晴らしい。
今回の食べ歩きは大成功だろう。
◇
駅へ戻る途中、僕はスマートフォンを取り出した。
せっかくだから、今回の食事について誰かに話したかった。
連絡先を開き、最初に目に入ったのはジュンコの名前だった。
そういえば、彼女も食べることが好きだったな。
僕はメッセージを打ち込んだ。
『今日、アビドスの柴関ラーメンに行ってきたよ』
少し考えて、もう一文付け加える。
『初めてラーメンを食べたけど、凄く美味しかった』
送信。
しばらくすると、返事が届いた。
『えっ!? アビドスの柴関ラーメン!?』
『行ったことない場所!』
『っていうか、初めてだったの!?』
『ラーメン食べたことなかったの!?』
随分と驚いている。
『うん。今までヌードルしか食べたことがなかったから』
『ヌードル!? いや麺料理だけど!』
……セリカと似たような反応だ。
どうやら、ラーメンをヌードルと呼ぶのはあまり一般的ではないらしい。
『ねえアルチョム! 今度一緒にラーメン食べに行かない!?』
『私、美味しいお店いくつか知ってるんだ!』
それは嬉しい誘いだった。
『ぜひ。楽しみにしてるよ』
『やった! じゃあ今度予定合わせようね!』
返事を送ってスマートフォンをしまう。
ジュンコと一緒なら、また美味しいものが食べられそうだ。もっとも、彼女は何かと不運に見舞われることが多いので、今度は無事に食事を終えられることを願うばかりだけれど。
ふと、今日食べたラーメンの味を思い出した。
濃厚なスープ。
もちもちとした麺。
柔らかい肉に、たっぷりの野菜。
あれほどの料理を、あんな手頃な値段で食べられるなんて。
キヴォトスという世界は、本当に驚くことばかりだ。
「……また食べたいな」
思わず呟いた。
今度は餃子も頼んでみよう。
それから、他の店のラーメンも食べてみたい。醤油や味噌、とんこつ。セリカが教えてくれた名前を一つずつ思い出す。
知らない料理が、まだまだたくさんある。
そう考えると、自然と足取りが軽くなった。
帰りの列車まで少し時間がある。駅前で冷たい飲み物でも買おうか。
……いや。
せっかくだから、少し周囲を歩いてみよう。
こんなに暑い場所まで来ることは、そう何度もないのだから。
そうして僕は、砂埃の舞うアビドスの街を歩き始めた。
今日の収穫は、最高に美味しいヌードルと、少々口うるさいけれど親切な可愛い猫耳の女の子との出会い。
それから、僕の中で一つの決意が固まった。
柴関ラーメンの常連になろう。毎週自由登校の日にでも。
……もちろん、財布と相談しながら。
───ヌードルと言えば、僕はアメリカと日本のイメージがあるのだが、サムはヌードルを食べた事はあるのだろうか…きっと柴関ラーメンを気にいるだろうな