一般通過偽クェス・パラヤ 作:未完紙
何か長い夢を見ていた気がします。けれど、それが何かは覚えていません。私の耳に、声が聞こえています。
「血圧90。心拍数120。バイタルやや安定しました。」
「実験を続けて」
「……よろしいのですか? まだ生命の危険がありますよ。ナナイ研究員。数も減ってきておりますし、強化人間を実験で浪費するべきではありません」
「そうか。分かった。実験を中止しよう」
なにかエグい会話をしてますね! 周囲を見渡し、手足を動かそうとしますが、私の身体は上手く動きません。ははーん。これは、拘束されてるやつですね。そして、私は実験体っぽいですね。
ふう。無事に拘束から解放されました。色々情報収集をして分かったことがあります。
まず、ここは強化人間を作る施設です。ニュータイプ研究所と言うそうです。そして私は、そこで強化されている被験体39番でした。
特に語ることはありません。私はモルモット生活を送っております。
「被検体39番、調子はどうだ?」
「強いて言うなら普通です。マスターは、私の育成計画をどう考えていますか?」
「そうだな。連邦兵を一人でも多く殺せる強さを身に着けて欲しいな。強化人間には、1人で戦場を変えられるポテンシャルが有る。そう、俺は信じているんだ」
キラキラと瞳を輝かせるマスターさん。言っていることはすごく邪悪です。
この世界はどうも戦争をしているらしいです。連邦政府や連邦軍は悪者です。正義のジオン公国軍は、それを倒そうとしたのですが、力及ばす負けたそうです。
そして、ネオ・ジオンは、ジオン公国の意思を継ぎ、連邦軍と戦っています。私は、そんなネオ・ジオンで実験を受けている強化人間の1人です。
私の髪の色って緑なんですよね。そしてこの顔立ち、どこかで、見たような……
ボロボロの手鏡に自分の顔を映します。この手鏡はこの子の記憶によるとお母さんの形見です。私の前世は、日本人の中年オタクでした。しかし、どうもこの子の精神と混ざって、ぐちゃぐちゃになったようです。
鏡のなかには、短く切り揃えられた緑の綺麗な髪と、同じ色の瞳をした少女が映っています。そう、私です。というか初音ミクじゃないですか!? これ!! 髪の毛が緑色ですし!!
前世の私は、初音ミクが好きでした。正確には今も好きです。これは、初音ミクロールプレイをするべきなのでは? ええ、今決めました! 私は初音ミクのロールプレイをします!
「マスター、私はどこの戦場に行くんですか?」
「んー、被検体39番は宇宙で戦う方が良いな。そもそも、サーティーナインなんて長ったらしいな。よし、お前はティーナだ」
「それはあまり良くありません。ミクを希望します。日本語で
「お前がそれが良いならそうしよう。よーしミク。今日も敵モビルスーツをぶっ殺す練習だ!!」
「はい! マスター!」
強化人間にはマスターという存在がいます。強化人間は精神的に不安定です。マスターに依存させることにより強化人間の精神を安定させているそうです。
強化人間ライフのQOLはマスターの人格や態度に大きく影響されます。幸い、私のマスターは非常にマトモでした。前時代的な殴ったりするようなこともしなければ、性的なことも子どもの私にしません。楽器を調律するように、私の性能を引き出してくれました。
その甲斐があって、私は製品である強化人間としての基準をクリアしました。そして、ニュータイプ研究所から、ネオ・ジオン軍の実戦部隊へと送られていきます。
シャア・アズナブルさんが、これから地球連邦政府に戦争を仕掛けるそうです。
「こんなガキが俺と同じ強化人間だと?」
「はい。私は強化人間です。強化人間としてのサイコミュ適性や運用能力を満たしています」
「チッ、まだ子どもじゃないか。胸糞悪い。アクシズからの研究所連中、ロクな奴らじゃないな」
ギュネイ・ガス先輩は、私が子どもであることに同情的です。そして、馴れ合うつもりは無いようです。悲しいですが、仕方ありません。
シャア総帥が戦争をはじめました。私は別働隊に組み込まれ、囮と撹乱として前線に向かいます。
私の機体はNZ-222。通称サイコ・ドーガです。ギュネイ・ガス先輩はヤクト・ドーガという機動性の高い機体に乗っています。私もアレが良かったです。
NZ-222の後継はαアジールと言うらしいです。NZ-222は乗り手がおらず余っていたらしく、私の愛機となっています。
さて、初陣といきましょう。機体色はミントグリーンに塗装しました。ミクさんらしさを出していきます。
マスターはニュータイプ研究所の研究員なので戦場には居ません。なので、私自身が冷静に判断する必要があります。
「行ってください。ファンネルたち」
私の想いに応えたファンネルたちが、空間を支配します。縦横無尽に漂うファンネルたちが、敵のモビルスーツの武器や手足を破壊していきます。
人殺し? しませんけど。それはミクさんらしく無いですし、私は連邦軍にそこまで恨みはありませんから。
その後も、ネオ・ジオン軍の一員として戦場で活躍したのですが、シャア総帥はアムロという人と相討ちになり、行方不明になってしまいました。
なんかアクシズが光って良い感じで終わりそうでしたが、そうはなりませんでした。
連邦軍からすると、私たちネオ・ジオン軍は地球に小惑星を落とそうとした悪い奴らです。とことん追い詰めて撃滅しようと考えていそうです。事実、しつこく追ってきています。
私のNZ-222は大きいので目立ちます。なので、敵がどんどんやってくるわけです。そして、味方もどんどんこちらを頼ってきます。というか、敵を擦り付けて来ています。
不殺という縛りでやっていたのですが、エネルギーがキレました。NZ-222も無敵ではないのです。エネルギーは有限でした。
「よう。デカブツ。よくも散々やってくれたな。エネルギー切れか?? 引導を渡してやるよ」
少なくなったファンネルを掻い潜って、突入してきたジェガンが、殺意を籠めてビーム・サーベルをこちらに向けます。
間一髪で防ぎました。しかし、もはやこれまでです。降伏しましょう。私は子どもですし敵を殺してません……出来るなら助けてほしいです。
「チッ、まだやるか!」
「……もはやこれまでです。私は降伏します。えっと、南京条約に基づいた捕虜協定をお願いします…?」
「女? いや、ガキか…? チッ、分かったよ。
ケネスさんは、とても良い人でした。部下を殺さなかったのが良かったのかもしれません。日頃の行いが良かったのです。
「ミクと言ったな。お前、クェス・パラヤに改名する気はあるか?」
「…は?」
「お前はクェス・パラヤだ。アデナウアー・パラヤ参謀次長の娘のクェス・パラヤ。分かったな?」
「は、はい。分かりました。マスター」
「よし、良い子だ」
なんでもクェス・パラヤは、ネオ・ジオン軍に攫われたそう。それから、ネオ・ジオンのモビルアーマーを乗りこなして、連邦軍を攻撃していたらしいです。アクティブ過ぎますね……
「髪の色が緑色で年齢も同程度。そして、ネオ・ジオンのモビルアーマーにも乗っていた。うん、お前はクェス・パラヤだな」
「はい。私はクェス・パラヤです」
ケネスさんが良い笑顔を浮かべたので、私も真面目な顔でそう答えます。
「あの、マスター、血液型とかは大丈夫なんでしょうか?」
「それは、大丈夫だ。一致していなければ金を積んで誤魔化す」
金で誤魔化すことが出来るなんて、連邦政府も連邦軍も腐りきっています。やはり、ジオンの方が正義です。シャア総帥のアクシズを落とすというのは正しかったのでは…?
幸い、血液型は一致しました。無事に私は背乗りを果たし、公式にクェス・パラヤとなりました。
あれよあれよという間に、私は連邦軍に入り、ケネス大尉の部下になりました。不思議です。それからは、ケネス大尉の実験に付き合わされる日々が続きました。
私は、ただの強化人間であってニュータイプじゃないんですけど。