一般通過偽クェス・パラヤ 作:未完紙
「クェス……クェスぅぅ……クェス……」
キンバレー部隊の駐屯している空港で、ハサウェイ・ノアは、錯乱し泣きじゃくっていた。
「よしよし」
「……クェス。生きていてくれたんだね。クェス」
「よ、よしよし……」
偽クェスがハサウェイの頭を撫でる。彼女は笑顔を浮かべているが、よく見なくても頬が引きつっているのが丸わかりだった。
「ギギ。任せる」
「えっ!?」
偽クェスは、ギギにキラーパスを放った。偽クェスからしたら背乗りした本物クェスの知り合いらしいので、関わりたくないのだ。享年13歳の本物クェスにだって、仲の良い友人や恋人がいたとしてもおかしくないのである。
「クェス! 完全にあなたの責任よ!!」
「マジで知らない。ハサウェイくんとは初対面だよ。なんでこんなことになってるの……?」
「ハサウェイのせいで死んでしまったクェス・パラヤが生きてるからでしょ…?? 話していて頭が痛くなりそう」
偽クェスは、クェス・パラヤ(本物)が死んだ経緯を全く把握していなかった。
「何の話だが全く分からない。私は本物のクェス・パラヤだから。背乗りとかロンダリングとかしてないし、汚いお金は使ってないんだけど」
「それって自白?」
「こちとら、今をときめくケネス・スレッグ大佐の部下なんですけどぉ? そこのところを理解して発言してくれますぅ?」
偽クェスは、田舎のヤンキーのような脅しをギギにした。
「あいったぁ。何をするんですかケネス大佐!?」
「一般人を脅すな。馬鹿なのか? 暇なんだったらガンダムでも磨いておけ」
「はーい」
偽クェスは、ケネスの言葉通り格納庫に向かっていった。この場に残されたのは泣きじゃくるハサウェイと唖然とするギギ。それからケネスである。
「ちょっと大佐。ハサウェイをどうするの?」
「ブライト・ノアは知り合いでね。ハサウェイくんのことは連絡しておいた。しばらく病院でゆっくりしておけば落ち着くだろう」
「呆れた。あなたって酷い人なのね」
ギギは、ケネスから離れハサウェイの傍に向かった。振られたケネスは、肩をすくめた。ケネス・スレッグという男はモテる。しかし、それは彼の肩書に女が惹かれているだけであって、ケネスという男が真にモテているわけではない。
ケネスは、偽クェスの保護者をやっていた。そのため、偽クェスは実はケネスの娘であるとまことしやかに囁かれていた。ケネス隊はスペースノイドぶっ殺し部隊として有名であった。というのも
コブ付きの極右軍人として有名になったケネスは、結果として婚期を逃した。戦場に愛され、戦果を挙げたがそれだけだった。
「ギギ、お前はクェスと同じスペシャルなんじゃないか? 俺はお前が欲しい。そんな泣き崩れている青二才なんぞ放っておいて、俺のモノにならないか?」
「……ハサウェイはマフティーなのよ」
――クェス クェス クェス
何やら小さく呟いている惨めなハサウェイ。ギギ・アンダルシアは彼をマフティーだと言った。
「マフティーのリーダーがハサウェイ・ノア。確かに筋は通る。泣いてるコレがマフティーだったら、俺の前任のキンバレーは相当な無能だったんじゃないか?」
「シャアの反乱から第一線で活躍してきたケネス隊と比べれば、誰だってそうなるわ」
ギギは、一目見た時にはハサウェイに惹かれた。しかし、クェスとしか鳴かなくなったハサウェイには全く未練はなかった。ギギの直感は、コレがマフティーだと言っているが、真実だとしたら非常に興醒めだ。
「ハサウェイがマフティーだって言うんなら、サイコマシーンと繋げてみるか。クェスのガンダムならサイコミュを積んでいる。マフティーが特別ならサイコフレームが光るかもしれないぞ」
ハサウェイは、参考人としてケネスとその部下、そしてギギと共に空港の格納庫へと向かった。足取りは不確かで今にも倒れそうだった。
「RX-94Rだ。ウチの売りのガンダムだな」
ケネス隊の抱える量産型νガンダム改は、偽クェス・パラヤの専用機である。RX-94を偽クェス特化に改造した機体だ。
ケネスは技術者である。世間ではゴリゴリの右翼軍人と捉えられるが彼の本分はそうではない。ケネスは優秀なメカマンであり、そんな彼が手を入れたRX-94Rは現役バリバリで通用する機体だ。
「……ッガンダム。嫌だ! やめてくれ! アムロ! 僕は、なんてことを……ぅぁ、ああああああああああ!!!!」
ガンダムを見たハサウェイが突如発狂した。その場にいた全員が異様な様子に距離を取った。
ガンダムの整備をしていた偽クェスが、ハサウェイに近づいた。
「ハサウェイ。全部教えて。あなたとクェスのこと、シャアの反乱で何があったか」
偽クェスに他意があったわけではない。彼女は事情が知りたかっただけだ。剥がれかかっている化けの皮を、なんとか引っ剥がされないように補強しようと目論んだだけである。
しかし、ハサウェイは、自分のせいで死んだ初恋の少女の幻影と、アムロ・レイのガンダムが自分を追い詰めているように感じた。
「教えて。ハサウェイ」
「……君を止めたかったんだ。僕はクェスを止めたかった。だから、モビルスーツで飛び出して……それで君は死んだ。僕は、君の死に怒ってチェーンを殺した。そして、マフティーになった。これは僕への罰なんだろう? そうなんだろう? クェス?」
偽クェスは、クェス・パラヤ(本物)の死に、目の前の男が関わっているということを、ようやく把握した。偽クェスの灰色の脳細胞が高速回転する。
「私ね、色々あって過去の記憶はないし強化人間だったけど、連邦政府に救われたんだ。だから、マフティーのテロ行為は良くないと思うの。マフティーが殺した人の全員が本当に悪人だったって言える? ハサウェイが殺したチェーンみたいな人もいたんじゃない?」
「ちっ、違う。連邦政府は腐敗していて、テロリズムに縋らないと人の革新は出来ないんだ。クェス! どうしてそんな目で僕を見るんだ! だったら教えてくれよ! この仕組みを正す方法を…!」
ハサウェイの目は完全にイッちゃってる系だなぁ、と偽クェスは感じた。チェーンって何? バイクとか自転車のチェーン? 人名? だとしたら誰? などと考えていたが、それっぽく偽クェスは喋った。
「難しいこと言ってるけど、やってることは人殺しでしょ? 連邦政府は良くないけど、連邦政府が無くなったら、ハサウェイが王様にでもなるの? そんなに連邦政府が憎いなら、地球に小惑星でも落としたら?」
「黙れよッ! 偽物が! 僕はクェスを…! はは。何で戦ってるんだっけ??」
偽クェスは、目の前でグチグチ言っているハサウェイを無視して、ハサウェイ王国の妄想をしていた。ハサウェイ王国。楽しそうだ。税は安いほうが良いな。ハサウェイとハイウェイは言葉の響きが似ている。などとくだらないことを考えていた。
「連邦政府は構造的に間違っている。だから、その分厚い構造を解体するにはテロリズムしかないんだ。血を流さなければ連邦政府の改革は出来ない。僕がやるしかないんだ……!」
ケネスが、偽クェスに目配せする。クェスは、それに応じハサウェイを拘束した。
「自白した理由はよく分からんが、ハサウェイ。お前がマフティーってことで良いんだな? うちのガンダムにはサイコフレームが使われてる。サイコフレームってのはサイコミュを増幅するんだ。増幅されたサイコミュは、人を簡単に廃人にすることが出来る」
「まさか…僕に…」
「ハサウェイくん。俺はブライトさんに世話になっているから、あの人に迷惑を掛けたくないんだ。だから、まぁ、悪く思わないでくれよ」
ニュータイプ用のパイロットスーツは一種の拘束具である。ハサウェイはそれを着込まされ、各種神経をRX-94Rに繋がれていた。
「自白剤よりもガンダムの方が効くってもっぱらの評判なんだぜ」
ケネスは、外部モニタシステムを立ち上げ、操作をはじめた。ハサウェイはマフティーの情報を全て吐き出すだろう。利用価値の無くなったハサウェイがどうなるかは、ケネスの良心次第である。