剣姫に弟がいるのは間違っているだろうか 作:覚醒悟飯はかっこいい
「ティオナ、ティオネ、前衛を維持! ベートは右翼の崩れを補強しろ! アイズはそのまま中央を突破しろ!」
ダンジョンの深層にフィンさんの鋭い声が響く。
ダンジョン49階層。第一級冒険者にとっても命がけとなるこの地獄の底で、僕たちロキ・ファミリアの遠征軍は激しい戦闘を繰り広げていた。咆哮を上げて迫り来るのは、強靭な肉体を持つ醜悪な怪物の大群――『フォモール』だ。
「ハァァァッ!」
フィンさんの指示と同時に、最前線でひときわ激しい風が吹き荒れる。
姉さん――アイズ・ヴァレンシュタインだ。全身に風を纏った姉さんは、目にも留まらぬ神速の剣技で、フォモールの巨体を次々と一刀両断にしていく。ティオナさんやベートさんたち第一級冒険者の先輩たちも、その背中に続くようにモンスターを葬り去り津波のように迫りくるフォモールの大群を食い止めていた。
一方、僕のいる位置は、前線から一歩下がった『本陣』――指揮を執るフィンさんや、魔力を練り上げるリヴェリアさんのすぐ傍だった。遠征軍の中で最も強固に守られたその場所で、僕はロングソードを引き抜き、全身に風の付与魔法を展開して身構えていた。
「ガアアァァッ!」
前衛の防衛線をすり抜け、一匹のフォモールが本陣へと強行突破を図ってきた。
フォモールの太い腕が、僕を目がけて振り下ろされる。
「ハァァァッ!」
僕は風の推力を利用して鋭く踏み込み、ロングソードの刃をフォモールの胸元へと叩きつけた。
ギチィッ! と、硬い手応えが腕に伝わる。風の付与魔法がある分、普通のLv.4の冒険者よりは攻撃力が高い自信はある。僕の放った一撃はフォモールの強靭な皮膚をしっかりと切り裂き、その巨体をぐらりと怯ませた。
だけど、深層のモンスターはこれでも倒しきれない。フォモールはさらに激昂して腕を振り上げてくる。すかさず次の一撃を繰り出そうとした――その時。
「どきやがれ、ライス!」
前線から一瞬で引き返してきたベートさんの強烈な蹴撃が、僕の斬撃で怯んでいたフォモールの脳天を文字通り『粉砕』する。バギィッ、と硬い音が響き、怪物は魔石を残して灰へと変わった。
「チッ、本陣でぬくぬく守られてるくせによぉ! なんで今ので仕留めきれねえんだ、お前は!」
ベートさんはすぐに前線の姉さんたちの元へと戻りながら、吐き捨てるように僕に吠えた。
僕だって、付与魔法のおかげで、並のLv.4の前衛よりは高い攻撃力を出しているつもりだ。だけど、やっぱりベートさん達第一級冒険者には、僕の攻撃はどうしても軽く見えてしまうのだろう、特に普段から姉さんが戦う姿をすぐ近くで見続けている人たちには。
それにしても、フォモールの数はあまりにも多すぎる。前方全てを埋め尽くす勢いの大群に、前線のティオナさんたちも「数が多い!」と苛立ちの声を上げる。その時、僕のすぐ傍でフィンさんの鋭い大声が飛んだ。
「――前衛、下がれ! リヴェリアの射線をあけろ!」
その指示に姉さん達は一斉にフォモールの大群から距離をとると同時にリヴェリアさんの魔法が完成する。
「【スルトの剣--我が名はアールヴ】!」
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
噴き出す巨大な炎の柱はフォモールの群れを、その巨体ごと、一瞬で焼き尽くした。さっきまであれほどみんなを手こずらせた大群が、たった一撃で、文字通り全滅させられていた。
「すごい……」
僕はただ、その圧倒的な光景に息を呑むことしかできなかった。
戦いが終わり、最前線から真っ先に僕の元へと駆け戻ってきたのは、息を弾ませた姉さんだった。レイピアを収めながら、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「ライス、怪我はない? 怖くなかった?」
「うん、大丈夫だよ、姉さん。姉さんの風、後ろから見てたすごかったよ」
「ん……ライスが無事なら、それでいい」
姉さんは僕の姿に怪我がないかを確認すると、ホッとしたように小さく笑みを浮かべた。リヴェリアさんもいつも通りの厳格な佇まいのまま歩み寄り、微笑みながら僕の頭へ小さく手を置いた。
「お前もよくやった。行くぞ、ライス」
「はい、リヴェリアさん」
◇◇◇
ダンジョン50階層。モンスターが一切産まれない、深層における現状唯一の『安全階層(セーフティポイント)』。
そこで、僕たちロキ・ファミリアは休息を取っていた。
「ふぅ……さすがに疲れたねえ、ライス君!」
「はい、ティオナさん。でも、無事に着いてよかったです」
携帯食料のスープが入った木皿を配りながら、僕はティオナさんたちの前に腰を下ろした。
周囲では、ティオネさんがフィンさんの姿を探してキョロキョロしていたり、レフィーアさんも…姉さんを探してキョロキョロしている。
「それにしてもよー」
スープをスプーンで掬いながら、ベートさんが忌々しげに僕を睨みつけた。
「さっきの49階層の配置よ。何でお前が当然のように本陣のフィンやリヴェリアのすぐ隣に配置されてんだ? アイズたちが前線であんだけ体張って戦ってんのによ、前衛のお前をあんな安全な場所に置くなんて、普通ならサポーターか魔導士部隊の護衛だろ。お前が怪我しねえように、幹部共が全員で囲んで守ってるようにしか見えねえんだよ」
「え……? それは……」
言われてみれば、確かにそうだった。進軍中、僕は常に一番安全な本陣に置かれていたし、少しでも危険が近づきそうになると、フィンさんからの指示がすごく的確に飛んできた。
僕はただ、自分が最年少の11歳だから、まだ未熟だから心配されているのだと思っていたけれど。
「ベート、言い過ぎだよ。ライス君のあの風の突撃、凄かったじゃない。普通のLv.4よりずっと強いよ」
「ハッ、攻撃力がちょっと高かろうが、最後のツメが甘くて仕留めきれなきゃ意味がねえんだよ。なぁティオネ、お前もそう思うだろ?」
話を振られたティオネさんは、フィンさんを探すのをやめて、少しだけ複雑そうな表情で僕を見た。
「……まぁ、団長があそこまで誰かの配置に細かくこだわるのは、珍しいわね。ライス、あんた本当にただのちょっと強いLv.4なの?」
「え、あ、はい……普通のLv.4です……たぶん」
ティオネさんの探るような視線に、僕は曖昧に頷くことしかできなかった。
みんなが僕に向ける、純粋な疑問の視線。それが少しだけ居心地悪くて、僕は俯いてスープを口に運んだ。僕だって、どうして自分がここまでフィンさんたちに気遣われているのか、本当の理由は分かっていない。
「――ライス。ここにいた」
不意に、背後から透き通るような声がした。
振り返ると、姉さんが自分の分の携帯食料を手に、僕の隣へとちょこんと腰を下ろしてきた。
「姉さん、お疲れ様」
「ん……ライスもお疲れ様。さっきの戦い、格好よかった。ライスの風、やっぱり世界で一番――」
姉さんがいつものように僕の頭を撫でながら、過剰に褒めようとする。
「こら、アイズ。ライスをあまり甘やかすな。それでは本人のためにならんと言っているだろう」
瞬間、リヴェリアさんの凛とした涼やかな声が響いた。
「甘やかしてない、本当のことを言ってるだけ」
姉さんがムッとしながらリヴェリアさんに反論する。
中央のテントから歩いてきたリヴェリアさんは姉さんの言葉をまるで聞こえていないかのように華麗に無視し、僕たちのスープに目をやる。
「しっかり食べて、早く体を休めなろ。ライス、お前もだ」
「はい、リヴェリアさん」
「チッ、お小言ババアのお出ましだ。俺は寝るわ」
ベートさんが大げさに肩をすくめてテントへと消えていき、ティオナさんが「あはは、ベートってば態度わるー」と笑い声を上げる。ティオネさんもそれを見てため息をつき、レフィーアさんは姉さんにどう話しかけようかそわそわしていた時に現れたリヴェリアさんの姿に慌てて背筋を伸ばしていた。
作者はダンまちはアニメと二次創作でしか知らないから、設定おかしいかもしれないです。
最初に言っとけって話なんですけどね、なのでおかしなところがあると教えてくれると嬉しいです。