剣姫に弟がいるのは間違っているだろうか 作:覚醒悟飯はかっこいい
深層50階層、ロキ・ファミリアの中央にある最も大きなテントの中で、団長フィン・ディムナは、今後の遠征の計画について考えていた。
テントの布が持ち上がり、副団長リヴェリア・リヨス・アールヴ、そして筋骨隆々の頑強な体躯を揺らしたガレス・ランドロックの二人が入ってくる。リヴェリアの手には、先ほどまでライスたちに配っていたものと同じ、携帯食料のスープがあった。
「フィン。少し、いいか」
「ああ、二人とも。見回りご苦労様。みんなの様子はどうだい?」
フィンは視線を上げ、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。しかし、ガレスはいつも通りだが、リヴェリアの表情はいつも以上に硬い。
「……先ほど、アイズたち休んでいる横を通った。ベートやティオネたちが、ライスの配置について口にしていたぞ。なぜLv.4の前衛のライスが、常に本陣の最も安全な場所で私たちに囲まれて守られているのか、な」
リヴェリアはスープの器を机に置き、静かに息を吐く。
「ベートたちの疑問は当然じゃな。第二級冒険者として十分な実力がありながら、まるで腫れ物のように最前線から遠ざけられ、常にわしらの目の届く本陣に置かれとる。その不自然さに、あの子たちも、ライス自身も不信に思うのは当然じゃ」
「……そうだね。彼らの言っていることは至極真っ当だ。責める気にはなれないよ」
フィンは困ったように苦笑した。
しかし、ライスの『特別扱い』には、ファミリア内でもごく一部の者だけが知っている、ある理由があるのだ。
フィンは静かに目を閉じ、7年前の暗黒期、闇派閥の最大規模のテロ『死の七日間』が収束してすぐの苦い記憶を脳裏に蘇らせた。
◇◇◇
それは、オラリオが闇派閥と血で血を洗う抗争の渦中にあった、最悪の時代。
闇派閥によるオラリオ大攻勢――世に言う『死の七日間』を、街の冒険者たちが総力を挙げてようやく鎮圧したてすぐのことだった。
当時、僕たちロキ・ファミリアの主力メンバーは、壊滅した闇派閥の残党狩りのために、最低限、館を守り切れるだけの人員を残してファミリア総出で黄昏の館を空けて街へ出撃していた。
その時だ事件が起きたのは、ファミリアの主力たちがこぞって出払っていたその隙を狙い、何処から聞きつけたのか闇派閥の残党たちが、ロキ・ファミリアの『最大の弱点』であるライスを誘拐せんと、黄昏の館を急襲したのだ。
もちろん、いくらフィンたち主力が居なくとも自分たちのいない間黄昏の館を守り通せると判断した精鋭たちだ、闇派閥の残党ごときに後れを取るほど弱くはない、事実襲撃してきた闇派閥のほとんどをその場で討ち取った。
だが、闇派閥の残党の狂信者たちの執念は凄まじかった。混戦の中、一瞬の隙を突かれ、当時わずか4歳だったライスは連れ去られてしまったのだ。
「ライスが、攫われた……っ!?」
残党狩りの任務から館に帰還し、その事実を聞かされた当時9歳だった姉のアイズは、足元が崩れ去るような絶望と、その身を焼き焦がす怒りのまま、僕たちの静止の声を無視し、館を飛び出していった。僕たちも即座に後を追ったが、大抗争で崩れた建物と人混みに紛れて、アイズを見失ってしまう。
ファミリアの総力を挙げ、オラリオ中を探し回っていた、その時だった。
「――っ!? なんだ、この魔力は……っ!?」
探索中、隣を走っていたリヴェリアが、戦慄した様子で足を止めた。
それは、リヴェリアをも驚愕させるほどの、濃密な魔力の波動。それが、一帯の空気を激しく震わせるほどのプレッシャーとなってオラリオ中に吹き抜けたのだ。
その直後、魔力を感知した方角から、激しい爆発音が轟いた。
僕たちは放っておくこともできず、爆心地であるダイダロス通りへと急行した。
そこで目にしたのは、にわかには信じがたい光景だった。
ダイダロス通りの一角が、激しい爆風によって更地のように吹き飛んでいたのだ。その中心地、途轍もない威力で地面事吹き飛ばされたクレーターの中で、体中に無数の傷を負いながらも、眠る幼いライスを必死に抱きしめていたのは、ボロボロになったアイズだった。周囲には、吹き飛ばされた闇派閥の男たちが無残に転がっている。
事態の異常さに、同じく爆音を聞きつけて向かってきていた『ガネーシャ・ファミリア』や『アストレア・ファミリア』の精鋭たちがどよめいている。
僕は、傷ついたアイズとライスを庇うように一歩前に出ると、鋭い眼光で周囲を牽制した。
「すまないが、この場は僕たちロキ・ファミリアに任せてほしい。……身内の不始末だ」
そのただならぬ気迫に押され、他ファミリアが手を引くと同時に、僕たちは二人を抱え、急ぎ黄昏の館へと連れ帰った。
館の奥の私室。リヴェリアが必死に回復魔法を施し、アイズの傷が癒えた頃。ロキ、リヴェリア、ガレス、そして僕が集まる中で何があったのかを問い詰めると、アイズは涙を流しながら、掠れた声であの場所で何が起きたかを語ってくれた。
アイズは館を飛び出した直後、ライスを抱えて逃走する闇派閥の残党たちを奇跡的に見つけ出していたらしい。しかし、わずか4歳の弟を人質に取られていたアイズは、剣を抜くことすらできず、残党の男たちに一方的に甚振られ、激しい暴行を受けてしまった。
アイズが殴られ、血を流すその悲惨な音に、気を失っていたライスが目を覚ました。
ライスは泣きながら、「お姉ちゃんをいじめないで」と声を振り絞って懇願した。だが、男たちは嗤いながらそれを拒否し、ライスを嘲笑うように、アイズを甚振る手ををさらに強めていき、ついには剣を抜きそれをアイズに振り下ろそうとした。
その瞬間だった。
「お姉ちゃんを……いじめるなあああああああッ!!」
ついに我慢の限界に達したライスから、莫大な魔力が体からあふれ出しその身を拘束していた闇派閥の男を吹き飛ばしたのだ。男を吹き飛ばしたライスはアイズに駆け寄り抱きしめ、残りの闇派閥の男達を睨み付ける。
「お前たちなんか……消えちゃえええええええッ!!」
ライスを中心に噴き出した凄まじい魔力と暴風は、周囲にいた闇派閥の男たちはダイダロス通りの建物ごと、まるで枯れ葉のように吹き飛ばしたのだという。
アイズはライスに抱きしめられていたためか無傷だったが、その後凄まじい魔力と暴風を噴き出した反動か、ライスは再び深い眠りに落ちてしまったのだ。
◇◇◇
「結局、あの後目を覚ましたライスは、あの時の記憶をすべて失ってしまっていたんだよね。」
「あぁ……だが、それでよかったのだろう。自身が人質に取られていたせいで姉が闇派閥に甚振られる記憶など忘れてしまったほうがいい」
フィンは静かに目を開け、机を見つめた。
「でもそれは、ライスが自身の力を自覚し、コントロールする機会を失ったということだ」
「分かっている、だからこそあの後まだ早いと自重していた恩恵をライスに刻み、適当な口実であの魔力をコントロールする術を身に着けさせようとしたのだ」
「まあ、恩恵を刻んだ後何をどうやってもあの時の魔力を引き出すことはできなかったんだけどね。……でも、あの時感じたライスの魔力は、今でも覚えているよ、あの力は危険だ。あの時ライスの力はアイズを傷つけることはなかった、だけど次もそうなる確証はない」
「あやつの優しさは本物じゃ。それだけに、一度枷が外れた時の反動が恐ろしいのも事実。わしらがあやつを守るのは、親心であると同時に、最悪をおこさんための防壁でもあるんじゃな」
フィンは真剣な目で今はアイズたちを体を休めているだろうライスの持つ力が周りを傷つける可能性を語り、ガレスが重々しく頷き、リヴェリアは何も言わず、ただ悲痛そうに目を伏せた。
「あの子には、普通の心優しい少年として生きてほしい。戦いなどない、穏やかな生活をおくってほしい」
それはリヴェリアのみならず事情を知る者すべての心情だった。
「それでも、だよリヴェリア。このままライスが力のコントロールが出来なければ、その力はライスが大切に思っている人たちを傷つけるかもしれない。そうなれば、優しいあの子は自分自身を責めずにはいられないだろう。それは、ライスにとって自身が傷つくことよりも辛いことのはずだ」
「分かっている、誰よりも戦いを嫌うあの子が私たちが止めてもダンジョンに潜るのは、ファミリアの仲間が命がけでダンジョンに潜っている間、自分だけ危険な場所から遠ざけられ、平穏に生きていくのを良しとしなかったからだ」
「そうだ、ライスに力のことを説明していない上、アイズが7歳からダンジョンに潜っていたことを知っていたライスを止めることは出来ない。だからこそ、せめてライスの力が暴走しないように出来るだけ危険から遠ざけ、万が一暴走しそうになった時に、力ずくで止めるために僕たちの近くにおいてるんだ」
正直とっととライスの覚醒シーン書きたいけど、まだまだ先になりそうなんですよね~。
なんで、過去回想でライスの怒りによる覚醒(小)シーンを書くことで、自分の気持ちを誤魔化していくスタイル!!