誕生秘話 アソビ★まわり隊!   作:ソッチ

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第10話 届かなかった一歩

〜熱千めら〜

 

「火の用心じゃ〜!」

 

わしは青い炎を小さく吐き出した。

 

目の前の少女――風真いろはは、刀を構えたままこちらを見ている。

 

「炎を使うのですか……!」

 

「うむ! じゃが、火の扱いには気をつけねばならぬ!」

 

炎が床や荷物に燃え移らないよう、わしはすぐに火を消した。

 

ここは倉庫の中じゃ。

 

周囲には機材も残っておる。むやみに火を広げるわけにはいかぬ。

 

「ならば、大人しく捕まってください」

 

「それは嫌じゃ!」

 

わしは首を横に振る。

 

せっかく栃木まで来たというのに、餃子を食べる前に捕まるなど御免じゃ。

 

「わしは帰って餃子を食べたいだけなのじゃ!」

 

「そのためにも、まずは事情を聞かせてください!」

 

「事情なら、わしも聞きたいくらいなのじゃ!」

 

いろはは静かに刀を構え直した。

 

その刀身が、倉庫の明かりを受けてきらりと光る。

 

「この刀は、ちゃき丸。私の相棒です」

 

「ちゃき丸……?」

 

「はい。あなたの炎に対しても、油断はしません」

 

「むむ……ずいぶんと立派な刀じゃのう」

 

わしは感心しながらも、青い炎を手元に灯した。

 

いろはが一歩踏み込む。

 

その瞬間、わしの目の前を刀の軌跡が走った。

 

「おおっ!?」

 

わしは思わず身体を引く。

 

速い。

 

それも、ただ速いだけではない。

 

刀の動きに無駄がなく、まるで舞うように滑らかじゃ。

 

「今のを避けましたか」

 

「いやいや、危ないところじゃったぞ!」

 

「まだ終わっていません!」

 

いろはは続けて動く。

 

ちゃき丸が空を切るたび、銀色の軌跡が目の前に描かれる。

 

わしは身体を翻しながら、その動きを避けていく。

 

「お主、なかなかやるのう!」

 

「ありがとうございます。ですが、まだまだです!」

 

いろはの表情は真剣そのもの。

 

対するわしも、ただ逃げ回っているわけにはいかぬ。

 

「仕方ないのう……!」

 

わしは口元に青い炎を集めた。

 

そして、いろはから離れた空間へ、短く炎を吐き出す。

 

青い光が一瞬だけ広がる。

 

「っ!」

 

いろはが距離を取った。

 

炎はすぐに消え、周囲に燃え移った様子もない。

 

わしは床を確認する。

 

火の粉も残っておらぬ。

 

「ふう……これなら大丈夫じゃな」

 

「戦いながら、周囲の確認もしているのですね」

 

「当然じゃ! 火を扱う者として、そこは譲れぬ!」

 

いろははちゃき丸を構えたまま、わしを見つめる。

 

「その力、確かに危険ですが……あなた自身が扱い方を理解しているようですね」

 

「む? 褒めておるのか?」

 

「評価しただけです」

 

「そうかそうか! ならば、もう帰してくれてもよいのじゃぞ?」

 

「それはできません」

 

「むむむ……!」

 

やはり話は通じぬようじゃ。

 

いろはが再び踏み込む。

 

今度は先ほどよりも鋭い。

 

ちゃき丸の動きは、まるで水が流れるように途切れることなく続いていく。

 

わしは炎を使うタイミングを慎重に見極めながら、なんとかその場を離れようとする。

 

「わしは戦いたくないのじゃがなぁ!」

 

「私も、できれば穏便に済ませたいです!」

 

「ならば、道を開けてくれぬか!」

 

「それはできません!」

 

「頑固じゃのう!」

 

わしは一度大きく距離を取った。

 

そして、これまでよりも強い青い炎を口元に集める。

 

「これで、どうじゃ!」

 

短い炎が青い光となって広がった。

 

いろはは一瞬だけ目を見開く。

 

しかし、すぐにちゃき丸を構え直し、炎が収まるのを見極めて動いた。

 

「そこです!」

 

気づいたときには、いろはが目の前にいた。

 

ちゃき丸の柄が、わしの手元へと迫る。

 

「うわっ!」

 

炎を出すことに意識を向けすぎて、次の動きへの対応が遅れた。

 

手元の炎が消える。

 

そして、わしの身体は大きくよろめいた。

 

「これ以上は危険です。大人しくしてください」

 

「むぅ……!」

 

わしは悔しそうにいろはを見た。

 

力では負けておらぬはずじゃ。

 

しかし、相手はわしの動きをよく見ておった。

 

無理に炎を使えば周囲に被害が出る。

 

その制約まで見抜かれていたのじゃろう。

 

「……わかったのじゃ。もう無理はせぬ」

 

「ありがとうございます」

 

わしは小さく息を吐いた。

 

「しかし、餃子は食べさせてもらうぞ!」

 

「……それは、あとで相談しましょう」

 

〜鈴鳴つづり〜

 

「いや〜……まさかこんなことになるとは」

 

目の前にはナイフを構えたクロヱさん。

 

少し離れたところでは、ラプラスさんがこちらを眺めている。

 

装置は壊れた。

 

荷物もなくなった。

 

報酬の行方もわからない。

 

そして私は、依然として依頼主の組織に囲まれている。

 

「……これ、完全に赤字じゃないですかねぇ」

 

「余裕そうだねぇ?」

 

クロヱさんがこちらを見て笑う。

 

「いえいえ、そんなことないですよ。私としては、早く帰ってお仕事を終わらせたいだけですから」

 

「じゃあ、ここで捕まってもらおっか」

 

「それはちょっと困りますねぇ」

 

クロヱさんは軽い足取りで近づいてくる。

 

小柄な身体に、手元のナイフ。

 

その雰囲気はどこか気の抜けたものに見える。

 

しかし、目だけは違った。

 

こちらの動きを見逃さない、鋭い視線。

 

「……あんまり油断しない方がいいよ?」

 

「それはこちらの台詞ですねぇ」

 

クロヱさんがふっと姿勢を低くした。

 

次の瞬間、その姿が視界から消える。

 

「おっと!」

 

私は反射的に横へ跳んだ。

 

直後、先ほどまで私がいた場所をナイフの刃が通り過ぎる。

 

「わぁ……! 危ないですねぇ!」

 

「今のを避けるんだ」

 

クロヱさんは少し離れた場所に立っていた。

 

いつの間に移動したのか、目で追いきれなかった。

 

「びっくりしましたよ。急にいなくなるんですもん」

 

「ふふっ。沙花叉、こういうの得意なんだよね」

 

クロヱさんは再び姿勢を低くする。

 

今度は正面から来るとは限らない。

 

私は相手の姿を見失わないよう、周囲に注意を向けた。

 

しかし、クロヱさんの動きは予想以上に素早かった。

 

視界の端に影が揺れる。

 

次の瞬間には、反対側からナイフが迫っていた。

 

私は大きく跳び退く。

 

「おおっと!」

 

「逃がさないよ」

 

クロヱさんは追いすがるように動く。

 

その姿は、まるで影が床を滑っているかのようだった。

 

「いや〜、追いかけっこは得意なんですけどねぇ!」

 

「じゃあ、もっと付き合ってもらおっかな」

 

「できれば遠慮したいですねぇ」

 

私は周囲の様子を確認する。

 

クロヱさんは、こちらが気を取られた瞬間を狙ってくる。

 

正面から力をぶつけるのではなく、こちらの隙を突く。

 

まさに暗殺者のような戦い方だ。

 

「……なるほど。そういう感じですか」

 

私は小さく呟いた。

 

クロヱさんが再び動く。

 

今度は、私はその場から大きく跳び上がった。

 

倉庫の設備を利用しながら、相手との距離を取る。

 

「私、こう見えても運び屋ですからねぇ。足場の悪い場所には慣れているんですよ」

 

「へぇ……面白いね」

 

私は周囲の様子を見ながら、クロヱさんの動きを探る。

 

そして、彼女が次に姿を現した瞬間、思い切って反撃に出た。

 

「今です!」

 

私は大きく跳び、相手の動きをかわす。

 

クロヱさんの視線が一瞬だけこちらを追った。

 

その隙に、私は近くにあった大きな布を引き寄せる。

 

ふわりと広がった布が、クロヱさんの視界を遮った。

 

「わっ!?」

 

私はその間に距離を詰める。

 

「これでどうですか!」

 

しかし、手応えはなかった。

 

布の向こうから、クロヱさんの姿が消えていた。

 

「……え?」

 

「残念。そっちは囮だよ」

 

背後から声がした。

 

振り向くよりも早く、ナイフが私の手元に迫る。

 

私はとっさに身を引いたが、足元がもつれて体勢を崩した。

 

「しまっ……!」

 

そのまま床へ倒れ込む。

 

起き上がろうとしたところで、クロヱさんが目の前に立っていた。

 

「はい、ここまで」

 

「うわぁ……。完全に読まれてましたねぇ」

 

「最初の動きはよかったよ。でも、最後に焦っちゃったね」

 

クロヱさんはナイフを下ろした。

 

私はしばらく天井を見つめたあと、ゆっくりと上半身を起こす。

 

「いや〜、参りました。まさかあそこまで先を読まれるとは」

 

「沙花叉、こういうの慣れてるからね」

 

「ええ、十分伝わりましたよ……」

 

〜鈴鳴つづり〜

 

私は立ち上がろうとしたが、すぐにクロヱさんに制止された。

 

もう一度動けば、また同じ結果になるだろう。

 

少し離れた場所では、めらさんもいろはさんに動きを止められていた。

 

「めらさんも……」

 

「むぅ……すまぬのう。わしも負けてしまったのじゃ」

 

「いえいえ、私もですから」

 

私は苦笑いを浮かべた。

 

これで四人全員が敗北したことになる。

 

キョーコさんとそぴあさんも、ルイさんとこよりさんに押さえられている。

 

holoXの四人は、どの戦いでも大きく崩れることがなかった。

 

こちらの能力を見極め、状況に応じて対応してくる。

 

一方の私たちは、それぞれの力を発揮することはできても、相手の経験を上回ることはできなかった。

 

「わっはっは!」

 

倉庫の奥から、ラプラスさんの笑い声が響いた。

 

「見事である! ルイ、いろは、クロヱ、こより! よくやった!」

 

ラプラスさんは、戦いを終えた四人を見渡す。

 

「そして、つづりら4人。貴様らの才能、確かに見せてもらったぞ!」

 

「……それはどうも」

 

私は床に座ったまま答えた。

 

「ですが、私たちはまだあなたたちの仲間になるとは言っていませんよ」

 

「うむ! 当然だ!」

 

ラプラスさんは大きく頷いた。

 

「今すぐ返事を求めるつもりはない。だが、貴様らがただ者ではないことは、これで十分にわかった!」

 

「わしは、ただ餃子を食べたいだけなのじゃが……」

 

めらさんがぼそりと呟く。

 

「わっはっは! それもまたよい!」

 

ラプラスさんは笑い続けていた。

 

私は倉庫の床に散らばった装置の破片へ目を向ける。

 

あれだけ大きな騒動を起こした装置は、もう跡形もない。

 

仕事も失敗。

 

報酬も未確定。

 

そして、私たちは全員捕まってしまった。

 

「……はぁ。どうしましょうかねぇ」

 

私は小さく息を吐いた。

 

しかし、これで全てが終わったわけではない。

 

装置が壊れた今、ラプラスさんたちは次に何をするつもりなのだろう。

 

そして、私たち四人はどうなってしまうのか。

 

まだ、何もわからないままだった。

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