〜鈴鳴つづり〜
「いや〜、まさか警察まで来るとは思いませんでしたねぇ」
建設途中の建物。
私の目の前には、光線銃を構えた宙科そぴあさん。そして、入口から元気よく歩いてくる警察官――百灯キョーコさん。
どうやら、ずいぶんと面倒なことになってしまったらしい。
「えーっと! まずはそこのスーツケースを持っているお姉さん!」
キョーコさんが、こちらに向かって指を差す。
「はい、私ですか?」
「そうそう! その荷物について、ちょーっとお話を聞かせてもらいたいんですけど!」
「申し訳ありません。大切なお届け物なので、お話しできません!」
「おおっ! きっぱり断られちゃったZE★」
「それじゃあ、私からも質問!」
今度はそぴあさんが声を上げた。
「そのスーツケースから出ている信号について、何か知ってる?」
「さあ? 私は運ぶように頼まれただけですので」
「むむむ……やっぱり中身を確認しないと!」
二人とも、どうやら荷物を渡すつもりはないらしい。
これは困った。
五千万円のお仕事を、ここで失敗するわけにはいかないのだ。
「……仕方ありませんねぇ」
私はそっとスーツケースの持ち手を握った。
「お二人とも、少しだけ失礼します!」
次の瞬間、私は床を蹴った。
「わっ! 逃げた!」
そぴあさんの声が響く。
「ちょっとちょっとー! 待ってくださいよー!」
キョーコさんもすぐに追いかけてくる。
もちろん、ただ走って逃げるだけではない。
私は建物の中に組まれた足場を利用し、軽やかに上へと跳び上がった。
背後から光が走る。
「わわっ!」
そぴあさんの光線銃から放たれた光が、私のいた場所を通り過ぎた。
「おおっ! 危ない危ない!」
「今のを避けるんだ!?」
そぴあさんが驚いた声を上げる。
「まだまだですよっ!」
私は足場を蹴り、反対側へと飛び移った。
しかし、そぴあさんも負けてはいない。
ホバーブーツが音を立てて起動し、彼女の身体がふわりと浮かび上がる。
「だったら、こっちも追いかけちゃうよ!」
空中から迫ってくるそぴあさん。
その動きは軽く、私が移動する先を予測しているようにも見えた。
「うーん、なかなかやりますねぇ!」
私は近くにあった資材の陰へと身を移す。
その直後、キョーコさんの声が響いた。
「はいはーい! そっちばかり見てると、こっちがお留守ですよー!」
「おっと!」
振り返ると、キョーコさんがこちらへ迫ってきていた。
手には警察官らしい装備。動きには迷いがない。
先ほどまでの軽い調子はそのままなのに、距離を詰める動きだけは驚くほど無駄がなかった。
「いや〜、逃げ足が速いですねぇ! でも、そろそろ捕まってもらいますよ!」
「それはちょっと困りますねぇ!」
私は身体をひねり、キョーコさんの手をかわす。
そのまま大きく跳び上がり、彼女の頭上を越えていった。
「おおっ! すごいジャンプ力! これはなかなか手強い!」
「ありがとうございますっ!」
「褒めてる場合じゃないんですけどね!」
キョーコさんは笑いながら、すぐにこちらへ向き直った。
三人の距離が、再び開く。
私はスーツケースを抱え直した。
……このままでは、いつまで経っても終わらない。
それなら。
「ここは一度、退散させていただきますねっ!」
〜宙科そぴあ〜
「待って待って! その荷物だけでも置いていってよ!」
私はホバーブーツを加速させ、つづりさんの後を追った。
あのスーツケースから発せられる信号は、間違いなく私が追っていたものだ。
それなのに、肝心の中身を確かめることができない。
「うう〜! 気になる! ものすごく気になる!」
「そぴあさん! そっちに行きましたよー!」
キョーコさんの声が聞こえる。
「分かってるよー!」
私はレーダーを確認しながら、つづりさんの位置を追い続けた。
だが、彼女の動きは予想以上に不規則だった。
足場を飛び越え、資材の間を抜け、こちらの視界から何度も姿を消す。
ただ身軽なだけではない。
周囲の状況を瞬時に把握し、自分が動きやすい場所を選んでいる。
「なるほど……! あの身のこなし、ただ者じゃないね!」
「感心してる場合じゃないですよー!」
キョーコさんが追いついてくる。
「分かってるってば!」
私は再びスーツケースの信号を追った。
この荷物の正体を突き止める。
それが、今の私にとって何より大切なことだった。
〜百灯キョーコ〜
「いや〜、元気なお二人ですねぇ!」
私は二人を追いながら、思わず感心していた。
片方は空中を飛び回る科学者さん。
もう片方は、身軽な運び屋さん。
どちらもなかなかの実力者だ。
そして、どうやら二人とも、あの黒いスーツケースを巡って譲る気がないらしい。
「うーん……これはちょっと、事情を聞くだけじゃ済まなさそうですなぁ!」
私は装備を確認し、逃げるつづりさんの姿を追った。
警察官として、怪しい荷物を放っておくわけにはいかない。
とはいえ、周囲にはまだ人がいる。
できるだけ被害を出さず、早めに確保したいところだ。
「よーし! ここは私が一肌脱いでやるZE★」
私は二人の後を追い、建物の外へと飛び出した。
〜鈴鳴つづり〜
「はぁ……はぁ……」
ようやく建設現場を抜けた。
後ろからは、まだ二人の気配がする。
「いや〜、さすがに三人相手は大変ですねぇ……」
私はスーツケースを抱え直した。
できれば、このまま目的地まで逃げ切りたい。
しかし、そぴあさんの追跡能力も、キョーコさんの身体能力も侮れない。
少しでも距離を稼がなければ。
そう考えた、そのとき。
「見つけましたよー!」
キョーコさんの声が、すぐ後ろから聞こえた。
「ええっ!? もう!?」
私は振り返る。
キョーコさんがこちらに向けて銃を構えていた。
「そろそろ観念してくださいね!」
「うーん……それは困りました!」
キョーコさんの手元が動く。
乾いた音が、周囲に響いた。
私はとっさに身をかわした。
しかし、その弾は私には当たらなかった。
代わりに――
「わっ!?」
スーツケースに衝撃が走った。
持ち手から手が離れ、黒いケースが宙へと跳ね上がる。
「えっ、ちょっ……!」
しまった。
荷物が!
私は慌てて手を伸ばす。
けれど、スーツケースは私の手の届かない方向へ飛んでいった。
その先には、ひとりの少女が歩いていた。
〜熱千めら〜
「ふむふむ……栃木というところは、なかなか賑やかな場所なのじゃなぁ」
わしは、観光案内の書かれたスマートフォンを眺めながら、のんびりと歩いておった。
目的はもちろん、餃子じゃ。
この地には、たいそう美味な餃子があると聞いた。
これはぜひとも食べてみたい。
「餃子、餃子なのじゃ〜♪」
鼻歌を歌いながら歩いていると、ふと、何かが視界の端を横切った。
「む?」
黒い箱のようなものが、こちらへ飛んでくる。
おお、危ない。
わしは反射的に両手を伸ばした。
ぽすん。
「……おお?」
見事に受け止めてしまった。
目の前にあるのは、大きな黒いスーツケース。
ずいぶんと立派な荷物じゃ。
「なんじゃなんじゃ? 空から荷物が降ってくるとは、珍しいこともあるものじゃのう」
わしが首をかしげていると、少し離れた場所から声が聞こえた。
「えええええっ!? そ、それ私の荷物ですー!!」
見ると、こちらに向かって走ってくる少女がおる。
その後ろには、光る靴を履いた少女と、警察官らしき少女も見えた。
「……ふむ?」
わしは手元のスーツケースを見つめた。
そして、再び向こうの三人を見る。
「これは……どういうことなのじゃ?」
栃木に来て早々、どうやら妙なものを拾ってしまったらしい。
「えーっと……お主ら、何か困りごとかの?」
わしは、ひとまず笑顔で尋ねてみることにした。
――こうして、四人の運命は思いもよらぬ形で交わることとなった。鈴鳴つづり〜
「いや〜、まさか警察まで来るとは思いませんでしたねぇ」
建設途中の建物。
私の目の前には、光線銃を構えた宙科そぴあさん。そして、入口から元気よく歩いてくる警察官――百灯キョーコさん。
どうやら、ずいぶんと面倒なことになってしまったらしい。
「えーっと! まずはそこのスーツケースを持っているお姉さん!」
キョーコさんが、こちらに向かって指を差す。
「はい、私ですか?」
「そうそう! その荷物について、ちょーっとお話を聞かせてもらいたいんですけど!」
「申し訳ありません。大切なお届け物なので、お話しできません!」
「おおっ! きっぱり断られちゃったZE★」
「それじゃあ、私からも質問!」
今度はそぴあさんが声を上げた。
「そのスーツケースから出ている信号について、何か知ってる?」
「さあ? 私は運ぶように頼まれただけですので」
「むむむ……やっぱり中身を確認しないと!」
二人とも、どうやら荷物を渡すつもりはないらしい。
これは困った。
五千万円のお仕事を、ここで失敗するわけにはいかないのだ。
「……仕方ありませんねぇ」
私はそっとスーツケースの持ち手を握った。
「お二人とも、少しだけ失礼します!」
次の瞬間、私は床を蹴った。
「わっ! 逃げた!」
そぴあさんの声が響く。
「ちょっとちょっとー! 待ってくださいよー!」
キョーコさんもすぐに追いかけてくる。
もちろん、ただ走って逃げるだけではない。
私は建物の中に組まれた足場を利用し、軽やかに上へと跳び上がった。
背後から光が走る。
「わわっ!」
そぴあさんの光線銃から放たれた光が、私のいた場所を通り過ぎた。
「おおっ! 危ない危ない!」
「今のを避けるんだ!?」
そぴあさんが驚いた声を上げる。
「まだまだですよっ!」
私は足場を蹴り、反対側へと飛び移った。
しかし、そぴあさんも負けてはいない。
ホバーブーツが音を立てて起動し、彼女の身体がふわりと浮かび上がる。
「だったら、こっちも追いかけちゃうよ!」
空中から迫ってくるそぴあさん。
その動きは軽く、私が移動する先を予測しているようにも見えた。
「うーん、なかなかやりますねぇ!」
私は近くにあった資材の陰へと身を移す。
その直後、キョーコさんの声が響いた。
「はいはーい! そっちばかり見てると、こっちがお留守ですよー!」
「おっと!」
振り返ると、キョーコさんがこちらへ迫ってきていた。
手には警察官らしい装備。動きには迷いがない。
先ほどまでの軽い調子はそのままなのに、距離を詰める動きだけは驚くほど無駄がなかった。
「いや〜、逃げ足が速いですねぇ! でも、そろそろ捕まってもらいますよ!」
「それはちょっと困りますねぇ!」
私は身体をひねり、キョーコさんの手をかわす。
そのまま大きく跳び上がり、彼女の頭上を越えていった。
「おおっ! すごいジャンプ力! これはなかなか手強い!」
「ありがとうございますっ!」
「褒めてる場合じゃないんですけどね!」
キョーコさんは笑いながら、すぐにこちらへ向き直った。
三人の距離が、再び開く。
私はスーツケースを抱え直した。
……このままでは、いつまで経っても終わらない。
それなら。
「ここは一度、退散させていただきますねっ!」
### 〜宙科そぴあ〜
「待って待って! その荷物だけでも置いていってよ!」
私はホバーブーツを加速させ、つづりさんの後を追った。
あのスーツケースから発せられる信号は、間違いなく私が追っていたものだ。
それなのに、肝心の中身を確かめることができない。
「うう〜! 気になる! ものすごく気になる!」
「そぴあさん! そっちに行きましたよー!」
キョーコさんの声が聞こえる。
「分かってるよー!」
私はレーダーを確認しながら、つづりさんの位置を追い続けた。
だが、彼女の動きは予想以上に不規則だった。
足場を飛び越え、資材の間を抜け、こちらの視界から何度も姿を消す。
ただ身軽なだけではない。
周囲の状況を瞬時に把握し、自分が動きやすい場所を選んでいる。
「なるほど……! あの身のこなし、ただ者じゃないね!」
「感心してる場合じゃないですよー!」
キョーコさんが追いついてくる。
「分かってるってば!」
私は再びスーツケースの信号を追った。
この荷物の正体を突き止める。
それが、今の私にとって何より大切なことだった。
### 〜百灯キョーコ〜
「いや〜、元気なお二人ですねぇ!」
私は二人を追いながら、思わず感心していた。
片方は空中を飛び回る科学者さん。
もう片方は、身軽な運び屋さん。
どちらもなかなかの実力者だ。
そして、どうやら二人とも、あの黒いスーツケースを巡って譲る気がないらしい。
「うーん……これはちょっと、事情を聞くだけじゃ済まなさそうですなぁ!」
私は装備を確認し、逃げるつづりさんの姿を追った。
警察官として、怪しい荷物を放っておくわけにはいかない。
とはいえ、周囲にはまだ人がいる。
できるだけ被害を出さず、早めに確保したいところだ。
「よーし! ここは私が一肌脱いでやるZE★」
私は二人の後を追い、建物の外へと飛び出した。
### 〜鈴鳴つづり〜
「はぁ……はぁ……」
ようやく建設現場を抜けた。
後ろからは、まだ二人の気配がする。
「いや〜、さすがに二人同時は大変ですねぇ……」
私はスーツケースを抱え直した。
できれば、このまま目的地まで逃げ切りたい。
しかし、そぴあさんの追跡能力も、キョーコさんの身体能力も侮れない。
少しでも距離を稼がなければ。
そう考えた、そのとき。
「見つけましたよー!」
キョーコさんの声が、すぐ後ろから聞こえた。
「ええっ!? もう!?」
私は振り返る。
キョーコさんがこちらに向けて銃を構えていた。
「そろそろ観念してくださいね!」
「うーん……それは困りました!」
キョーコさんの手元が動く。
乾いた音が、周囲に響いた。
私はとっさに身をかわした。
しかし、その弾は私には当たらなかった。
代わりに――
「わっ!?」
スーツケースに衝撃が走った。
持ち手から手が離れ、黒いケースが宙へと跳ね上がる。
「えっ、ちょっ……!」
しまった。
荷物が!
私は慌てて手を伸ばす。
けれど、スーツケースは私の手の届かない方向へ飛んでいった。
その先には、ひとりの少女が歩いていた。
### 〜熱千めら〜
「ふむふむ……栃木というところは、なかなか賑やかな場所なのじゃなぁ」
わしは、観光案内の書かれたスマートフォンを眺めながら、のんびりと歩いておった。
目的はもちろん、餃子じゃ。
この地には、たいそう美味な餃子があると聞いた。
これはぜひとも食べてみたい。
「餃子、餃子なのじゃ〜♪」
鼻歌を歌いながら歩いていると、ふと、何かが視界の端を横切った。
「む?」
黒い箱のようなものが、こちらへ飛んでくる。
おお、危ない。
わしは反射的に両手を伸ばした。
ぽすん。
「……おお?」
見事に受け止めてしまった。
目の前にあるのは、大きな黒いスーツケース。
ずいぶんと立派な荷物じゃ。
「なんじゃなんじゃ? 空から荷物が降ってくるとは、珍しいこともあるものじゃのう」
わしが首をかしげていると、少し離れた場所から声が聞こえた。
「えええええっ!? そ、それ私の荷物ですー!!」
見ると、こちらに向かって走ってくる少女がおる。
その後ろには、光る靴を履いた少女と、警察官らしき少女も見えた。
「……ふむ?」
わしは手元のスーツケースを見つめた。
そして、再び向こうの三人を見る。
「これは……どういうことなのじゃ?」
栃木に来て早々、どうやら妙なものを拾ってしまったらしい。
「えーっと……お主ら、何か困りごとかの?」
わしは、ひとまず笑顔で尋ねてみることにした。
――こうして、四人の運命は思いもよらぬ形で交わることとなった。