〜鈴鳴つづり〜
「……えーっと、これはどういう状況なんでしょうねぇ」
目の前の黒いスーツケースが、青い光を放ちながら小刻みに震えている。
先ほどまでとは明らかに様子が違う。
中に何が入っているのかは知らない。けれど、依頼された荷物である以上、私にとっては無事に届けることが最優先だ。
「とにかく、これは私が預かります!」
私はキョーコさんの手元にあったスーツケースへ手を伸ばした。
「はいっ! そう簡単には渡せませんよ!」
キョーコさんが素早く反応する。
「ちょっと待って! その前に信号を確認させて!」
そぴあさんも近づいてくる。
「ええい! わしはもう帰りたいのじゃ!」
めらさんまで声を上げた。
……うーん。
やっぱり、話し合いで解決するのは難しそうですねぇ。
「それでは、失礼しまーす!」
私は一気に駆け出した。
「待ってくださーい!」
背後からキョーコさんの声が響く。
スーツケースを抱え、私は街の奥へと走った。
目指す場所は決まっている。
依頼人から指定された、受け渡し場所。
そこまで荷物を運べば、今回のお仕事は完了だ。
もちろん、後ろの三人を連れていくつもりはない。
……まあ、簡単には振り切れそうにありませんけどね!
〜百灯キョーコ〜
「おおっと! また逃げましたね!」
私はすぐに追跡を始めた。
あの運び屋さん、ただ走っているだけではない。
こちらの動きを確認しながら、時折進路を変えている。
「いや〜、なかなか手強いですなぁ!」
私は速度を上げる。
すると、上空からそぴあさんの声が聞こえた。
「キョーコさん! 上から追うよ!」
「了解です! 私は地上から行きますね!」
「待つのじゃー! わしを置いていくでない!」
めらさんも後ろから追ってきている。
どうやら、全員が同じ方向へ向かうことになったらしい。
「よーし! ここからが本番だZE★」
私は前方を見据えた。
〜鈴鳴つづり〜
「うーん……思ったより早いですねぇ」
後ろを振り返ると、キョーコさんがかなりの速度で迫ってきていた。
上空にはそぴあさんの姿もある。
めらさんは少し遅れているものの、青い炎を使えば距離を詰めてくるかもしれない。
このままでは、受け渡し場所に着く前に捕まってしまう。
私は道の先に目を向けた。
ちょうど道路脇に、工事中の建物が見える。
「よいしょっと!」
私は大きく跳び上がり、建物の足場を越えて反対側へ着地した。
「えっ!? そっちですか!」
キョーコさんが進路を変える。
その隙に、私は建物の裏手へ回り込んだ。
しかし、頭上から光が走る。
「そこだよ!」
そぴあさんの光線が、私の進路を遮るように通り過ぎた。
「わわっ! 危ないですねぇ!」
私は足を止め、別の道へと飛び込む。
「逃がさないよ!」
そぴあさんが追ってくる。
どうやら、空からの追跡を振り切るのは難しそうだ。
ならば――。
私はスーツケースを抱え直し、さらに先へ進んだ。
目的地までは、もう少し。
〜熱千めら〜
「はぁ……はぁ……。まったく、何なのじゃあの者たちは!」
わしは三人の後を追っておった。
そもそも、わしは餃子を食べに来ただけなのじゃ。
それなのに、なぜこんなにも走らされておるのか。
「もう、わしは帰るぞ!」
そう言って立ち止まろうとしたとき、前方から青い光が反射した。
……いや、違う。
あれは、わしの炎ではない。
スーツケースが放っている光じゃ。
「また光っておるのか……?」
わしは足を止め、遠くを走る三人の姿を見た。
どうやら、あの黒い箱はただの荷物ではないらしい。
「うーむ……。ますます面倒なことになってきたのう」
そう呟きながらも、わしは再び三人の後を追った。
〜鈴鳴つづり〜
「そろそろですねぇ……」
私は道の先に見えてきた建物を確認した。
依頼人から指定された受け渡し場所。
人通りの少ない、街外れの倉庫だった。
ここまで来れば、あとは荷物を渡すだけ。
「よしっ!」
私は速度を上げた。
しかし、背後からキョーコさんが追いついてくる。
「はいっ! そこまでです!」
「うわっ、もう来ましたか!」
キョーコさんが私の前に立ちはだかる。
「そのスーツケース、確認させてもらいますよ!」
「困りましたねぇ……。お仕事の途中なんですけど」
「それは分かっています! でも、こちらにも譲れない事情があるんです!」
キョーコさんが構える。
私はスーツケースを抱えたまま、少しだけ距離を取った。
そこへ、そぴあさんも追いついてくる。
「やっと追いついた! その荷物、反応がどんどん強くなってるよ!」
「だからこそ、警察で確認する必要があるんです!」
「いや、私が調べないと!」
「うーん……」
私は二人を見比べた。
このままでは、いつまで経っても受け渡しができない。
けれど、ここで足止めされるわけにもいかない。
「申し訳ありませんが、ここは通させてもらいますねっ!」
私は大きく跳び上がった。
二人の頭上を越え、倉庫の敷地へと飛び込む。
「待ってくださーい!」
二人の声が背後から聞こえた。
もう少し。
あと少しで、届けられる。
そのときだった。
倉庫の奥から、誰かの声が聞こえた。
「……遅かったな」
私は着地した場所から、ゆっくりと顔を上げた。
そこには、こちらを待っている人物の姿があった。
「ご依頼の品をお届けに来ましたよー!」
私はスーツケースを抱え直し、相手に向き直った。
これで、ようやく仕事が終わる。
そう思ったのだが――。
「よくやった鈴鳴つづり」
まだまだ終わりそうにないらしい。