〜鈴鳴つづり〜
「……遅かったな」
倉庫の奥から、少女の声が聞こえた。
私はスーツケースを抱え直し、声のした方へ目を向ける。
暗がりの向こうに、人影が見えた。
「ご依頼の品をお届けに来ましたよー!」
ようやく仕事が終わる。
そう思って、私は一歩踏み出そうとした。
そのときだった。
「そこまでです」
倉庫の奥から、別の声が響いた。
次の瞬間、複数の人影が一斉に動き出す。
「えっ……?」
私が状況を理解するよりも早く、目の前の光景が変わった。
〜百灯キョーコ〜
「おっと! 新しいお客さんですか?」
私は声のした方へ振り返ろうとした。
しかし、その動きは途中で止まった。
背後から飛んできた矢が、私のすぐ足元に突き刺さったからだ。
「動かないでくださいね」
落ち着いた女性の声。
視線を向けると、弓を構えた桃色の髪の女性が立っていた。
「おおっ、弓ですか! これはまた珍しい!」
「感心している場合ですか?」
「いや〜、つい気になっちゃいまして!」
女性は表情を崩さない。
こちらが動けば、次はどこに矢が飛んでくるか分からない。
「私は鷹嶺ルイ。今は大人しくしていてください」
「なるほどなるほど。鷹嶺さんですね!」
「……ずいぶん余裕がありますね」
「こういうときこそ笑顔ですから!」
私は笑顔を崩さず、ルイさんの様子をうかがった。
どうやら、簡単には通してくれそうにない。
〜熱千めら〜
「な、なんじゃ!? 今度は何なのじゃ!」
わしが声を上げた直後、目の前に刀の刃が現れた。
「そこから先へは行かせません」
刀を構えた少女が、静かに告げる。
緑を基調とした服装に、腰にはもう一本の刀。
その立ち姿には、迷いがなかった。
「わ、わしは別に戦いに来たわけではないぞ! ただ帰りたいだけなのじゃ!」
「でしたら、その場でじっとしていてください」
「むむむ……」
わしは思わず両手を上げた。
炎を使えば、この場を離れることはできるかもしれぬ。
しかし、倉庫の中で火を使うわけにはいかん。周囲に燃え移ってしまえば大変なことになる。
「……まったく、面倒なことになったのう」
「風真いろはです。抵抗しないでくださいね」
少女――風真いろはは、刀を下ろさなかった。
〜鈴鳴つづり〜
「ええと……そちらの方々は?」
私が周囲を見渡そうとしたとき、すぐ横から声がした。
「あなたが運び屋さん?」
振り向こうとしたところで、首元に冷たい感触が近づく。
小柄な少女が、ナイフをこちらに向けていた。
「スーツケース、渡してくれる?」
「うーん……それはちょっと困りますねぇ」
「そっか。じゃあ、動かないでね」
少女の声は軽い。
けれど、ナイフを向ける手には一切の迷いがなかった。
「沙花叉クロヱ。よろしくね」
「これはご丁寧にどうも。鈴鳴つづりです」
「名前を聞いてる場合じゃないと思うけどなぁ」
「それもそうですねぇ」
私はスーツケースを抱えたまま、動きを止めた。
依頼品を渡すわけにはいかない。
しかし、ここで無理に動けば、荷物を傷つけてしまうかもしれない。
どうしたものか。
〜宙科そぴあ〜
「ちょっと待って! あなたたちは一体――」
私は目の前の人物に問いかけようとした。
そのとき、光が走った。
「それ以上、近づかないで」
光線銃を構えた少女が、こちらを見ている。
ピンク色の髪に、白衣。
見覚えのない人物だが、その手にある装備は興味深い。
「光線銃……? それ、どんな原理で動いているの?」
「質問に答える必要はないよ」
「ええっ!? そこは教えてくれてもいいじゃない!」
「今は黙っていて」
少女は光線銃を下ろさない。
「博衣こより。あなたの持っている機材も、あとで確認させてもらうね」
「私の機材まで!? それは困ります!」
私は相手の武器を観察しながら、状況を整理した。
弓、刀、ナイフ、そして光線銃。
突然現れた四人は、それぞれ私たちの動きを封じている。
偶然の集まりとは思えない。
この倉庫に、最初から待ち構えていたのだろうか。
〜ラプラス・ダークネス〜
四人の動きが止まったことを確認すると、倉庫の奥から小さな人影がゆっくりと姿を現した。
黒と紫を基調とした衣装。
そして、頭から伸びる大きな角。
その姿を見たルイたち四人が、一斉にそちらへ向き直る。
「総帥!」
ルイが声を上げた。
「うむ。ご苦労であった、貴様ら」
「お待ちしておりました、総帥」
「わっはっは! そう畏まるな、ルイよ!」
少女は満足げに笑うと、足止めされた四人へ視線を向けた。
「さて、ようやく顔を合わせることができたな」
「……あなたは?」
キョーコさんが尋ねる。
少女は一歩前へ出て、両手を広げた。
「吾輩こそは、秘密結社holoXの総帥! ラプラス・ダークネスである!」
その声が、倉庫全体に響き渡った。
「そして、鈴鳴つづり。よくぞ吾輩の依頼を果たしてくれた!」
「……えっ?」
私は思わず目を見開いた。
「まさか……依頼人って、あなたなんですか?」
「その通り! 吾輩が貴様に仕事を依頼した張本人だ!」
「いや〜、まさかこんなところでお会いするとは思いませんでしたねぇ……」
「わっはっは! 驚いたか?」
ラプラスは得意げに笑った。
「さて、せっかく全員揃ったのだ。貴様らには、吾輩たちの壮大なる計画を教えてやろう!」
〜ラプラス・ダークネス〜
「まずは、そのスーツケースについてだ」
ラプラスは、つづりが抱える黒いスーツケースを指差した。
「それはただの荷物ではない。吾輩たちholoXが開発した、特別な装置である!」
「特別な装置……?」
そぴあが反応する。
「そうだ! この装置には、人の持つ才能を探知する機能が備わっている。中でも、ホロライブにふさわしい才能を持つ者を見つけ出し、その情報を吾輩たちholoXへと送信するのだ!」
「才能を探知して、情報を送る……?」
こよりが口を開く。
「そういうこと! さらに、この装置にはもう一つの機能がある!」
ラプラスは、スーツケースへ視線を戻した。
「探知した才能の持ち主に働きかけ、ホロライブへと導く機能だ。本人がまだ自分の才能に気づいていなくとも、その可能性を見つけ出し、進むべき場所へと誘導する!」
「つまり……この箱が、私たちをここへ集めたということですか?」
つづりが尋ねる。
「その通り!」
ラプラスは大きく頷いた。
「貴様ら四人は、偶然ここに集まったわけではない!」
その言葉に、倉庫の空気が変わった。
「鈴鳴つづり。どんな場所へも荷物を届ける運び屋としての能力。状況を見極め、周囲を利用する判断力も持ち合わせている」
「百灯キョーコ。人を笑顔にしようとする行動力と、困難にも臆さず飛び込む度胸。警察としての経験もまた、貴重な才能だ」
「宙科そぴあ。未知のものを追い求める探究心と、科学への深い知識。誰も知らない可能性を見つけ出す力を持っている」
「そして、熱千めら。長い時を生きてきた経験と、青い炎を自在に扱う特異な能力。何より、その力を慎重に扱おうとする心もな」
「な、なんじゃと……?」
めらが驚いたように声を漏らす。
ラプラスは、四人それぞれを見渡した。
「貴様らは皆、ホロライブにふさわしい才能の持ち主なのだ!」
「私たちを……ホロライブに?」
キョーコが呟く。
「そうだ! 吾輩たちholoXの目的は、ホロライブに所属するにふさわしい新人を確保すること!」
ラプラスは、まるでその場のすべてを掌握しているかのように胸を張った。
「この装置は、才能ある者を見つけ出すために作られた。そして、貴様ら四人はその装置に選ばれたのだ!」
「なるほど……だから、あの信号が……」
そぴあは、これまで追い続けてきた反応の意味を理解し始めていた。
「そう。あなたが追っていた信号も、この装置が発していたものだよ」
こよりが補足する。
「装置が才能を探知するたびに情報を送信していたんだ。あなたのレーダーが反応したのも、その影響だと思う」
「じゃあ、私が運んでいたのは……」
つづりは腕の中のスーツケースを見つめた。
自分が何を運んでいるのかも知らず、ただ依頼を果たすためにここまで来た。
その道中で、三人と出会ったことさえも。
「わっはっは! すべては吾輩たちの計画のうち! 貴様らがここへ集まったことも、決して偶然ではない!」
ラプラスは高らかに笑った。
「さあ、貴様ら! 吾輩たちholoXとともに、新たな可能性を切り開くのだ!」
その言葉に、四人はそれぞれ違った反応を見せる。
「いや〜、私はまだお仕事の途中なんですけどねぇ……」
つづりは困ったようにスーツケースを抱え直す。
「うーん、警察としては見過ごせない話ですね!」
キョーコは、ルイの弓を警戒したまま答えた。
「私は装置の仕組みをもっと調べたい! でも、あなたたちの言うことをそのまま信じるわけにはいかないよ!」
そぴあはこよりを見据える。
「わしは餃子を食べに来ただけなのじゃが……」
めらは深いため息をついた。
四人の反応を見ても、ラプラスは動じなかった。
「わっはっは! 今すぐ答えを出せとは言わん!」
そして、ゆっくりと右手を掲げる。
「だが覚えておけ。貴様らには、まだ自分でも知らぬ可能性が眠っている。それを見つけ出し、世界へ示す機会を与えてやるのが、この吾輩――ラプラス・ダークネスなのだ!」
その姿は、まさしく秘密結社の総帥そのものだった。
しかし、次の瞬間。
「……ところで総帥。装置の反応が、先ほどから異常な数値を示しています」
こよりの声が響いた。
ラプラスはスーツケースへ視線を向ける。
黒いケースの隙間から、青白い光が漏れ始めていた。
「む……?」
「情報の送信量が増え続けています。このままだと、装置が通常の探知範囲を超えてしまうかも……!」
倉庫全体に低い振動が広がる。
ラプラスは、先ほどまでの余裕を崩さないまま、口元を吊り上げた。
「わっはっは……面白い。どうやら、吾輩たちの想定を超える才能が集まったようだな」
その視線の先には、スーツケースを抱えたつづりたち四人がいた。
彼女たちの才能を見つけ出した装置は、今まさに、何か新たな反応を示そうとしていた。