〜百灯キョーコ〜
「それじゃあ、始めましょうか!」
私は目の前の女性に向かって声をかけた。
桃色の髪に、落ち着いた雰囲気。そして、その背中には大きな翼が広がっている。
「……随分と余裕そうですね」
「そりゃあ、困っている人を助けるのが警察のお仕事ですから!」
「ここに困っている人はいません」
「えっ、そうなんですか? でも、困ってるかどうかは話してみないとわからないですよね!」
「話すつもりはありません」
ルイさんの翼が大きく広がった。
次の瞬間、彼女の身体がふわりと宙へ浮かぶ。
「おおっ! 飛んだ!」
私は思わず声を上げた。
ルイさんは倉庫の梁よりも高い位置まで上昇すると、手にした弓を構える。
「上から狙うんですね!」
「ええ。あなたの動きはよく見えていますよ」
弦が鳴る。
放たれた矢が、私のすぐ横を通り過ぎた。
「おっと!」
矢は背後の壁に突き刺さる。
その正確さに、思わず感心してしまった。
「すごいですね! 狙いが正確!」
「褒めている場合ですか?」
「だって、本当にすごいんですもん!」
私は笑顔のまま、相手の動きを見上げる。
ルイさんは翼を操りながら、倉庫内を自在に移動していた。
高い位置からこちらの動きを見定め、必要な場所へ矢を放つ。
一方の私は、警棒を構えて動き続ける。
矢が飛ぶたびに身体をかわし、少しずつ距離を詰めていった。
「なかなか近づかせてくれませんね!」
「近づけるつもりはありませんから」
「それなら、こっちから行きますよ!」
私は大きく踏み込んだ。
ルイさんの翼が羽ばたき、彼女の身体がさらに高く舞い上がる。
そのまま弓を引き絞った。
「まだまだですよ!」
矢が放たれる。
私は身をひねってかわしたが、続けて飛んできた矢が進もうとしていた場所を塞いだ。
「えっ!?」
思わず足を止める。
その一瞬を、ルイさんは見逃さなかった。
翼を翻し、空中から位置を変える。
「そこまでです」
「わっ!」
気づいたときには、私の警棒は手元から弾かれていた。
さらに、ルイさんの矢がすぐそばに構えられる。
「……あれ?」
私は目を瞬かせた。
「いつの間に……?」
「あなたの動きは素早い。ですが、動きに迷いが出る瞬間があります」
ルイさんは静かに告げる。
「その隙を見逃すほど、私は甘くありません」
「なるほど……。これは一本取られちゃいましたね!」
私は笑顔を崩さなかった。
けれど、これ以上動けば、今度こそ身動きが取れなくなる。
「参りました!」
「ご理解いただけて何よりです」
ルイさんは弓を下ろさず、私の動きを警戒したまま着地した。
「でも、まだ終わったわけじゃありませんよ!」
「……そうですね。あなたの仲間もいますから」
ルイさんの視線が、倉庫の反対側へ向く。
そこでは、もう一つの戦いが続いていた。
### 〜宙科そぴあ〜
「うわぁ……! 装置が壊れちゃったのは残念だけど、これはこれで大発見だよ!」
私は目の前の少女を見つめた。
白衣を着た彼女は、こちらの装備を興味深そうに眺めている。
「その機械、少し見せてもらえませんか?」
「もちろん、渡すわけにはいきません!」
「えーっ! ちょっとだけでも?」
「駄目です!」
こよりさんは背中へ手を回した。
「それじゃあ、これならどうですか!」
彼女が取り出したのは、小さな箱だった。
ぱかん、と箱が開く。
次の瞬間、そこから小さな機械が飛び出した。
「わっ!?」
機械は空中で展開し、くるくると回転しながら光を放つ。
私は慌てて浮遊ブーツを作動させ、床から離れた。
「な、何それ!? どういう仕組み!?」
「ふっふっふ! こより特製の発明品です!」
「すごい! もっと見せて!」
「戦闘中ですから!」
こよりさんは楽しそうに笑いながら、次々と別の道具を取り出した。
小さな球体が床を転がり、突然煙を噴き出す。
別の装置は、倉庫の隅で甲高い音を鳴らしながら動き回った。
さらに、折り畳まれていた小型の機械が展開し、こちらへ向かってくる。
「ちょっと待って! 次から次へと何が出てくるの!?」
「それがこよりの発明品です!」
「本当にびっくり箱みたい!」
私は浮遊ブーツで高さを変えながら、次々と現れる発明品を避けていく。
こちらも光線銃を構え、機械の動きを止めようとする。
一つ、また一つと発明品をかわし、私はこよりさんとの距離を詰めた。
「今度はこっちの番だよ!」
光が走る。
こよりさんは驚いたように身を引いた。
「おっとっと!」
「やった!」
私は手応えを感じた。
しかし、こよりさんの表情にはまだ余裕があった。
「ふふっ。そこまで来ると思っていました!」
「えっ?」
足元で小さな電子音が鳴った。
次の瞬間、床に置かれていた別の発明品が動き出す。
私は慌てて浮遊ブーツを作動させたが、体勢を立て直すのが間に合わなかった。
「しまっ……!」
視界が揺れる。
体勢を崩した私の手から、光線銃が離れた。
「これで終わりです!」
こよりさんが距離を詰め、私の動きを止める。
「うぅ……! まさか、あんなところにまで仕掛けがあったなんて!」
「発明品は、いつどこから出てくるかわからない。それがこよりのびっくり箱です!」
「悔しいけど、面白い仕組みだね……!」
私は苦笑いを浮かべた。
興味は尽きない。
けれど、今はもう身動きが取れなかった。
〜百灯キョーコ〜
「そぴあさん!」
私は思わず声を上げた。
そぴあさんも、こよりさんに動きを封じられている。
これで、私たち二人は敗北したことになる。
「キョーコさん、そちらも終わったんですか?」
「いや〜、なかなか手強い相手でした!」
「こちらもです……。あの発明品、すごく気になります」
「ふふっ、気になるのはわかりますけど、今は大人しくしていてくださいね!」
こよりさんが笑顔で言った。
「わかりました……」
そぴあさんは残念そうに答えた。
私も警棒を拾うことはせず、その場で動きを止めた。
ルイさんは弓を構えたまま、こよりさんの隣に立つ。
二人とも、ほとんど息を乱していない。
「これが経験の差、ということですかねぇ……」
私は小さく呟いた。
「そうかもしれませんね」
ルイさんが答えた。
そのとき、倉庫の奥から笑い声が響いた。
「わっはっは! 見事である!」
ラプラスさんだった。
彼女は腕を組み、満足げにこちらを眺めている。
「ルイもこよりも、よくやった! さて、残る二人はどうなるかな?」
ラプラスさんの視線が、倉庫の別の場所へ向いた。
そこでは、まだ二つの戦いが続いていた。
私たちが敗れたことで、残された二人にかかる負担はさらに大きくなった。
「めらさん……つづりさん……」
そぴあさんが心配そうに呟く。
私も二人の姿を見つめた。
まだ、諦めるわけにはいかない。
そう思っていた。