一匹狼とかなれるわけないじゃん、ムリムリ!(※やっぱりムリだった⁉︎) 作:陰陽キャ
例の落下事件から数日後の放課後、教室にてとある人物と駄弁っている、一匹狼ことこの私、大神桜花には……、最近になって一つの些細な悩みができた。
将来の悩み? それともありきたりな恋の悩み? いやいや、そういうんじゃなくてさ。もっと些細な──言うなれば、
つっても、多分みんなが思うような悩みってわけでもなくて。誰かと喧嘩したとかちょっと気まずいとか、そういうんでもなくて。
「──というわけで、王塚さんを友達として満足させたいんですけど、大神さんはこういうときどうすればいいと思いますか?」
「…………あのさあ、れな子」
「は、はい。なんでございましょうか……」
「なんでよりにもよって、私にその話振った?」
「え? だってわたしたち、友達……じゃないですか、へへ」
──懐かれた‼︎
というのもれな子のやつ、どうやら私のことを『意外と話しやすい人』のカテゴリに分類しやがったらしい。
私、これでも一匹狼やらせてもらってるんだが。やらせてもらってるんだが! ……これ、マジで言ってんだけど!
……まあ理由は分かるよ。ここ数日、ていうか屋上から落下して死にかけてからのれな子は、同じく落下した真唯との距離感が……、なんかこう、近くない? って感じだから。
おおかた、屋上から木に落下したところで、二人でナイショの話でもしたんだろう。結果として
……ナイショ話っていうか、むしろ誰にも言えない話なんだけどさ、この場合。というか、あの王塚真唯とその友達が一緒に屋上から落ちました──とか、言えるワケないだろが。バカ。
一緒の学校で生活してると忘れがちだけど、真唯ってば泣く子も黙るスーパーモデルなわけで。それに対して私たちは黙ってる子も泣かせる一般人なわけだ。
そんな真唯と(恐らくは)仲良くなってしまったのだろうれな子は、どうせ『わたしじゃ釣り合ってないですし……』みたいなことを考えてるに決まってるのだ。私には人を見る目があるので、それくらいは看破できちゃうんだぜ。いやマジで。
だからまあ、今こうして懐かれているのは……、真唯が無自覚で放っているスーパースターオーラから避難しているってことなんだろうな。そこで紫陽花じゃなく私を選んだってのは謎だけど。
……相談乗るとか、マジでムリなんだけどなぁ。だって、聞いたことあるか? クラスメイトの相談に乗る一匹狼。変だろ、それ。
「……はぁ。れな子、まず最初に言っておくと。私はお前と友達になったつもりはない」
「ええっ⁉︎ そ、そんなあ! だってあのとき、あんなに大きな声で──」
「知らないね、そんなの。少なくとも私にはそんなことを言った記憶はないし。夢でも見てたんじゃないの? 白昼夢ってヤツだ」
「うーん……。そ、それじゃあ……、それこそ紫陽花さんとかのことは、どう思ってるんです?」
「は? 紫陽花は友達とかじゃなくて幼馴染だけど……。えっと、いやマジで、なんでここで急に紫陽花の話を……?」
「あ、いやエト、はは……。なんでもないです……」
……いきなり変なこと言うやつだな、れな子。
いや、ホントになんでここで紫陽花の話が出てきたんだ……?
繰り返しになるが、私は一匹狼なんだってば。友達とかそういうの作っちゃったら、胸張って一匹狼とか言えなくなるでしょうが。
まあでも、一匹狼たる私といえど、頼られたんなら人の話くらいは聞いてやるほかないわけで。私は机に頬杖をついたまま、れな子に話の続きを促した。
「んで? どーして真唯を友達として満足させようって発想に至ったワケ? その辺り聞かないことには、私だってなんも言えないっての」
「えっ? ああ……、話は聞いてくれるんだ……」
「クラスメイトの相談くらい乗るって。一匹狼目指してるとはいえ、そりゃそんくらいするから──いやまあ、我ながら変だとは思うけどさ」
「わたしとしてはてっきり『人の話は聞かない、人間強度が下がるから』とか、そういうことを言われるのかと覚悟してましたけど」
「それはただ単に、人の話を聞かないやつなだけじゃん……。いきなり面白いこと言うなよ、れな子。危うく笑い死ぬかと思ったじゃん」
「そこまで面白がられるようなこと言いましたっけ⁉︎」
危ない危ない、危うく爆笑するところだった。人間強度……人間強度って! 聞いたことない言葉すぎたけど、妙にしっくりくるのがツボにハマりかけた。
意外かもしれないが、私のツボはだいぶ変なところにあるんだからな。あんま妙なこと言ってると笑い死ぬぞ、私は。
「ちなみに大神さんは、どうしていきなり相談に乗ってくれる気になったんですか?」
「んー? いやだって、それこそ紫陽花はずっとそうしてたし。だからそういうもんなんでしょ?」
「あ〜……、なるほどなるほど、どうりで……。納得いきました」
んー……、なーんかさっきからずっと反応が変なんだよなぁ。私、そこまで
なんだろう、やっぱ敬語か? 敬語で話しかけられてるのがよくないのか? 多分だけどれな子、ホントはタメ口で話すタイプだろうに、敬語で話しかけられてるのが問題なのかもな。
だったらば話は早い。私は嘘とか誤魔化しとか、そういうのは大っ嫌いだから、単刀直入に言わせてもらうとしよう。
「ところでれな子さぁ、どーしてずっと敬語なワケよ? 別に、普通に話してくれて全然いいけど」
「えっ……いや、でも」
「でももだってもナシ。私が落ち着かないから、できればタメ口で話してほしいってこと」
「そ、そうですか? じゃ、じゃあ遠慮なく……へへ、なんだかんだと言いつつも、やっぱりわたしのこと、友達として認めてくれたんだね、大神さん!」
「いやそれは違うけど」
「そんなあ……」
だからぁ、友達とか作らないようにしてるんだって。
友達百人作るとか、そういうのは小学生の頃にきっぱり諦めたの。
じゃあどうして今の私が、クインテットの連中とつるんでるのかって話になるかもしれないけど。それだって別に、紫陽花に連行されてつるんでるだけだし。マジで言ってるかんね。
私の幼馴染は世話焼きがすぎるぞ。
……まあそういうとこが、紫陽花の持つ、数百億あるいいところのうちの一つなんだけどさ。一緒にいると荒んだ心が癒されるんだよね。流石は呼吸する天国。ちなみに、この呼び方してるの私だけ。
閑話休題──使い方これで合ってるっけ?
まあいいや。ともかく私は、れな子に対してあれこれアドバイスするべく、思考をあちこちに巡らせた。
「……れな子、私ってば一匹狼じゃんか」
「…………」
「じゃんか?」
「圧がすごい……。ま、まあそうです──そうだ、ね?」
「だろ? んで気づいちゃったんだけどさ、私、友達を満足させる方法とか全然知らないわ。友達いたこととかないし」
「あー、まあ言われてみれば……それは確かに、そう……かも?」
「そうそう。んー、いいねえいいねえ。お前も私との付き合い方がわかってきたみたいじゃんかよ、れな子。そういう歯に衣着せない物言い、嫌いじゃないぜ」
「そ、そう……? でも確かに、こういう飾らない会話って気が楽だよね、ちょっと……ううん、結構わかるかも」
へにょりと笑いながらそんなことを言うれな子。そうかそうか、わかってくれるか! それがわかるんだったらどうして私に話しかけてきたんだ⁉︎ そこだけずっと謎なんだけど。
まあいい……、よくはないけど、話が進まないからまあいいってことにしておく。相談に乗るとは決めたものの、考えれば考えるほど、やっぱりこれって私じゃなくて紫陽花にするべき相談じゃないか?
「その辺り、どう考えて私を選んだん? ぶっちゃけ意味不明……てか理解不能だけど」
「……その。これで紫陽花さんに『れなちゃん、確かにそういうの苦手そうだもんねw』とか言われたら、立ち直れないなあと──」
「はぁ⁉︎ 紫陽花がんなこと言うワケないだろが!」
「それはそう! それはそうだけど! でも大神さんも想像してみてよ、大好きな人に嫌なこと言われる悪夢を! そしたら絶対わかるって!」
「は、は、はぁぁぁぁぁあ⁉︎⁉︎ だぁれが! 誰が誰を大好きだと⁉︎ 私は別に紫陽花のことなんか好きでもなんでもないんだが! 向こうがおせっかい焼いてるだけだが! あとそもそも私、一匹狼なんだが⁉︎」
「語るに落ちてる!」
「か、勘違いしないでよねっ! 別に紫陽花のことなんか好きでもなんでもないんだからねっ!」
「キャラも崩れてる⁉︎」
なんだとテメェ表出ろ! もしくは裏来い! そんなんだかられな子はずっとれな子なんだよ反省しろこのバカ‼︎
──とかなんとか、二人でぎゃーすか馬鹿騒ぎしていたところで。突如として動作を停止するれな子。視線は私の背後に向いていた。どうやら、後ろに誰かがいるらしい。
そして、背後の人物が、一言。
「桜歌ちゃん、れなちゃんとなんのお話してるの?」
瞬間──
これまでの人生で幾度となく聞いてきた、心安らぐ、天使のような声色。その持ち主を、まさか私が間違えるはずもなかった。
壊れたロボットでももう少しスムーズに動くだろって感じで、おっかなびっくり振り向く私。やはりというかなんというか……、今更説明するまでもないだろうけど、そこには。
私の幼馴染。
瀬名紫陽花が、
「いやえっとその、れな子と……あの、好きな──花! 好きな花の話してたんだよ〜あはは〜……」
「そうなんだ……。だから、お花の方の紫陽花のお話してたの?」
「そうそう! だけどほら、私ってば一匹狼で売ってるから、好きな花の話とか恥ずかしいじゃんかよこのヤローって感じで……」
「あのね、桜歌ちゃん」
「……は、はい。なんでしょうか」
「その……、ぅ……
唇をつんと尖らせて、頬を少しだけ朱に染めながら──まるで子供が拗ねたみたいに、その一言を放った紫陽花。その様子を見た私が取る行動は、一つしかなかった。
それ、すなわち。
「ごめんなさい嘘つきました大好きだから嫌わないでぇ……」
「だい……⁉︎ ん……もうっ。そんなことしたら汚れちゃうからしないの。それから、嘘もついちゃダメだよ? 桜歌ちゃん、嘘は嫌いなんでしょ?」
地面に額を付けた私を半ば無理やり立ち上がらせながら、紫陽花はそんなことを聞いてきた。そりゃあもちろん! 嘘とか大っ嫌いっすよ、マジであり得ないわ嘘とか! さっきまでの自分をなかったことにして、私はこくこく頷いた。
……背後のれな子が、信じられないものを見ているかのような視線を突き刺してきているのをひしひしと感じる。なんだよ、文句あんのか。紫陽花に嫌われたらいよいよ人生終わりなんだからな。
「……というか紫陽花、どうしてまだ学校にいるのさ。今日なんか約束してたっけ……?」
「うーん……。しては、ないんだけどね? ほら、うちのチビたち二人がまた桜歌ちゃんに会いたがってて。だから、今日……うちに来ない? って聞こうと思ってたの」
「ん、
実は紫陽花には二人の弟がいる。
小三の方が広樹で小一の方が桔平。私はやたらと懐かれてるが、なんであんなに懐かれてるのかはわからん。いや、ホントになんでなんだろうか。
というわけで、さっきまで暇だった私の予定は一瞬で埋まり尽くした。これ以降の私は瀬名家に尽くすマシーンである。普段から世話になってますんで。
れな子には申し訳ないけど……、でも私の優先順位において、紫陽花を上回るものは存在しないのだ。だから一言、謝罪を述べようとして。
「──
「……えっ?」
「そっか、家に呼べば……! 桜歌さん、この恩はいつか必ず返すから! ホントにありがとう、それじゃ、また明日!」
「あ、そう……? き、気をつけて帰れよ……」
しかしどうやら、れな子はれな子で、今の会話からなんらかのヒントを見つけたらしく。帰宅部にインターハイがあれば優勝は固いだろうってくらい、嬉しそうに帰宅していった。
……なんだか調子が狂うなあ。ここ最近、私の一匹狼指数が右肩下がりじゃないか? それも全部、元をただせば──お前のせいなんだけどな、紫陽花。
「……れなちゃん。敬語、外れてたね。もー、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「ん? うん、私が『敬語やめて普通に話せ』って言ったからね。それから、別に仲良くなってはいないから」
「ふーん? 桜歌ちゃん、嘘ついてないよね?」
「ついてないついてない。いやマジで。それより! ……紫陽花ん
「うんっ、そうしよっか! あ、せっかくだしご飯も食べていっちゃう? お母さんたちもきっと喜ぶよ」
「んー……、まあその辺はおいおい考えよっかな。とりあえずスーパー寄らせて、お菓子とか買ってきたいし」
そうして私は紫陽花の手を取り、軽やかな足取りで教室を後にした。ふっふふ〜ん、鼻歌でも歌いたい気分だぜ。
目的地は、紫陽花の家!
今から楽しみでしょうがないぜ、いやマジで。
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