一匹狼とかなれるわけないじゃん、ムリムリ!(※やっぱりムリだった⁉︎) 作:陰陽キャ
放課後──夕暮れの河川敷にて。
一匹狼ことこの私、大神桜歌は、クインテットの中枢メンバーにして芦ケ谷の妹……、小柳香穂に果し状を突きつけられた結果、そんなところに連行される羽目になった。
いやあいい夕暮れだな本当に……、とかそんな現実逃避を繰り返しながら、ここまで従順な態度で香穂の背中についてきた私だったけど、しかしいよいよそうも言ってられない事態になってきたらしい。
しかし現在の私には、ぶっちゃけ
昼休みの時間、私が女子に声をかけたとき。
周りのやつらは『大神さんがさぁ……小柳さんがさぁ……』みたいな、なんだか妙なことを言ってたっしょ? 十中八九、あのヘンな話が香穂の耳にも入っちまったんでしょうね。
「──と、私としてはそう思ってるわけなんだけど。……合ってるっしょ? てかむしろ、そうじゃなかったらマジで意味わからんし」
「モチのロンってやつですにゃあ、オーちゃん? てゆーかあたしがわざわざオーちゃんのこと呼び出す理由なんて、そんくらいしかないっすよ!」
けらけら笑いながらそんなことを言う香穂。ひとまず私の推測は間違ってなかったらしい。これで私の勘違いだったら恥ずかしすぎて顔から火ぃ吹き出るとこだった。
もし仮にそうなったときは川に飛び込んで鎮火しようと思ってたから、そうならなくてよかった〜。胸を撫で下ろす私。
……いやあ、でも安心するにはまだ早いんだよな。
ていうか、むしろここからが本番って感じ。勝って兜の緒を締めよってこういうことだよね──あれ、違うっけ? そもそも私、何にも勝ってなくね? まあいいや。
うーん、
そう考えつつ辺りを見渡すと、少し離れたところに
近づいてひょいっと拾い上げ、左手に持った棒……木の枝を軽く振り回してみる。軽さといい持ちやすさといい、これ以上ないね。確認を終えた私は元の位置へと戻り、香穂と向き合った。
突如として小走りで木の枝を取りに行った私に対し、怪訝な表情を隠そうともしない香穂。おいおいお前そりゃないぜ。私だって結構な覚悟を決めてからここに来たってのに、そんなふうにしらばっくれられちゃあ。
「んじゃまあ、やろうか」
「……? えと、ゴメンねオーちゃん。あたし、何が何だか分かってないんだけど、ぶっちゃけ」
「え、なんでさ? ここ河川敷っしょ?」
「んまぁそうだねぇ」
「で、タイマンでこうして呼び出されてんじゃん?」
「……それも、そうだネ? えっ、えっ? でもでも、だからってどーしてそれが木の枝振り回す理由になってんのさ」
「もう、しらばっくれんなよー。昼間に私が迂闊なこと言ったせいで広まった、例の変な噂について話したいんだろ?」
「そ、それはそうなんすけど! 木の枝……木の枝⁉︎ 話すだけなのになんで木の枝が出てくんのって話でしょ! その辺り説明してもらえないことにゃあ、香穂ちゃん納得できませんて!」
「いや、だって……果たし状渡されたんだから、
「なんじゃそりゃあ⁉︎ なにがどーしてそんな挙句に陥っちゃってんのさ⁉︎」
……あれ? この感じは、もしかしてもしかすると──私、なにか勘違いしちまってます?
いやでも、果たし状だぞ? この令和の世に、あんなご立派な筆文字で、どでかく『果たし状‼︎』って書いてあったのに。
ひとまず木の枝を地面にぶっ刺す私。……よくよく考えたら、なんでこんなとこにちょうどよくいい感じの木の枝があるんだ。周りに木なんてないだろが。シンプルに危ないだろが、バカ。
「……ひとまず、落ち着いて話し合いましょうや。話せばわかる」
「うす。早とちりしてすんませんっした、いやマジで」
どうやら冷や汗をかいているらしい香穂に対して、私はそんな謝罪を寄越しながら頭を下げた。
……でも、これだけは言わせてもらうかんな。
「流石に果たし状はややこしいだろが……」
「っす。あたしちゃん、ごめんなさいでした」
こんなふざけた謝罪でもサマになるんだから、ホントに香穂って凄いよなあ。私がこんなことやったら、まず間違いなく紫陽花は次の日の弁当にトマトを入れてくる。
とかなんとか場違いなことを考えつつ、私たち二人は話し合うことにした。いやあ、やっぱ時代は会話っすよ。好きなんだよなー、会話。
果し合いとかあり得んから。
これ、マジで言ってんだけど。
* * *
そんなこんなで、河川敷に来てからおおよそ三十分。
私と香穂は、その辺で拾った手頃な石ころを、川に向かってぶん投げていた。
まあ、早い話が──
……夕日を浴びながらクラスメイトとこんなことしてんの、あまりにもテンプレすぎるし、いくらなんでも
「……オーちゃん、東京行くんだって?」
「そんなとこまでテンプレなぞらなくていいから」
「向こうに行っても、あたしたちのこと忘れんなよ!」
「そもそもここが東京だからな?」
「あいつのこと、絶対幸せにしてやれよ!」
「私にはそんな約束をしたやつはいないっての」
「
「マジで誰だ、そいつは。私にそんな名前の知り合いはいないし──ってお前もしかして、紫陽花の名前ヒントにしてる?」
「はいオーちゃん大正解! ちなみに向日葵の通称は『大悪魔』で、好きな人には意地悪したくなるタイプ。オーちゃんだけは『息も絶え絶えの無限地獄』って呼んでたよねぇ」
逆紫陽花じゃねえか。
つーかなんだ『息も絶え絶えの無限地獄』って。……あっ、地獄だから息絶えてるってこと? ははーん……。
なんでこんなしょうもないおふざけのためだけに、存在しない人物を捏造して、そのうえちょっと凝ってる言葉遊びまでしてるんだ、香穂。
……はい、流石におふざけおしまい。このままだとマジで日が暮れる。つーかぶっちゃけ、無限にふざけ続けられちゃうから、ワンチャンこのまま明日の朝日を拝む羽目になる。
気持ちを切り替えるついでに、ひゅぱっと平たい石を投げる私──おっ、対岸まで届いたわ、やりぃ。ちょっとずつ勘を取り戻してきたかな。小さい頃、ずっとやってたもんなあ。
「……で、どーするよ、あの噂。なーんで私と香穂がカップラーメンにされてんだか」
「それを言うならカップルだにゃあ……えっ、なんでいきなりそんな雑なボケかましてんのさ」
「ごめんて」
ぐだぐだ、だるだるーん。
私と香穂の間には、そんな擬音が似合いそうなくらい、完全に緩みきった空気感が流れていた。
はあ〜〜……、まったくもうさ、変な噂とか流さないでほしいよね。私は一匹狼であって、そして香穂はみんなの妹であって、決してサーカス小屋の見せもんじゃないのだ。
いやまあ、確かに私も香穂も同じグループに属しているし、大変不本意ながら顔も広い。学校でも有名人っちゃ有名人だ。それは真唯と一緒にいて目立ってたのも関係してるだろう。
「……マジで、どうするよ明日から。明日学校行って、朝っぱらから『大神さんと香穂ちゃんって付き合ってたんだね……』って紫陽花に言われるの、ムリなんだけど」
「オオカミさん、ちょいと耳貸して欲しいんですがね。それがなんと、ここだけの話──」
「おっ、なにさなにさ。秘策があるってんなら聞かせてもらおうじゃないの──」
ちょちょいと人差し指だけで私を呼び寄せながら、いわゆる小悪魔的スマイルを浮かべている香穂。いいねえいいねえ、悪巧みは大好きだぜ。こちとら一匹狼なもんで。
こそこそ、ひそひそ。耳にかかる息がちょっとこそばゆかったけど、我慢我慢。私の耳がすこぶる弱いことを悟られたら、恥ずかしいからね。
そうすることおよそ十秒。
香穂の顔が私の耳から離れていき──そして私は、なんとか一言絞り出すのが精一杯だった。
「…………それ、マジで言ってんの……?」
「これ、マジで言ってんだけど?」
やるしか、ないのか?
やるしかないよなあ……今から憂鬱な気分だ。
いやまあ、確かに香穂の案を実行に移せば、一撃で噂がどうこうとか言ってらんなくなるけどさ……。
はあ。
口裏合わせるとか、マジでムリなんだけど……。
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