一匹狼とかなれるわけないじゃん、ムリムリ!(※やっぱりムリだった⁉︎) 作:陰陽キャ
のっけからあれこれ言ってもしょうがないので、まどろっこしい前置きはナシで行かせてもらう。河川敷での果し合い未遂から一日経って、現在の私は既に登校を終えていた。
理由は単純。香穂の言うところの『秘策』をさっさと実行に移すためである。ぶっちゃけ本当に……、本っ当に恥ずかしいが! 私のためにも、やるしかないのならやるだけだ。香穂の考えを気にする暇とかなかったし。いやマジで。
薄情だと思う? なにせ私、一匹狼なもんで。
今更になって『これも巻き込んでしまった香穂のため……!』とか、そんな乙女チックなおためごかしを抜かすつもりはない。いやマジで。
……しかし、徹頭徹尾が私のための『秘策』だったとはいえ、多分だけど香穂にとってもなにかしらのメリットがあるんだろう。
ぶっちゃけまったくわからんけども、あの香穂が『絶対これでいける! 太鼓判!』とまで言うくらいだから、まあ信じてみようと思う。
てなわけで、一匹狼ことこの私、大神桜歌は──朝っぱらから紫陽花にべったりくっついています。
「あぁぁぁあ〜、やっぱ紫陽花と一緒にいると落ち着くわ〜……」
「……えっと、桜歌ちゃん? その、なにか嫌なことでもあったの……?」
「んー、まああったっちゃあったよ、ヤなこと。だからこうして紫陽花に甘えることにしたってワケ。でもまあ、紫陽花がヤだったらやめる」
「べ、別に嫌ではないよ……? でも少し、こう、ちょっとだけね? ちょっとだけ、恥ずかしい、かもなーって……」
そう言った紫陽花の耳は、確かに真っ赤に染まっている。それを見た私の顔も、多分少しだけ赤かったはずだ。くそぅ、めちゃんこ恥ずかしいぞコレ!
……とまあ、つまりはそんな感じなワケだ。
香穂の言う秘策っつーのは、つまり。
私が紫陽花といちゃついてるところを学校の連中に見せつけてやることだ。
これ、マジで言ってんだけど。……ホントに! ホントにマジだから!
だからつまりさ。
こうすることによって、『実は大神さんと香穂ちゃんって付き合ってて──』みたいな、根も葉もないどころか火のないところから煙が立ってるみたいな、ワケわからん状況を脱せるって寸法よ。
しかし、しかししかししかし。
この『秘策』を押し通すにあたって、いくつか疑問を覚えるやつもいるだろう。ってか昨日の私がそうだった。その辺りは流石にちゃんと考えてますとも。
疑問その一。
結論。
敵(同じ学校の生徒に使う言葉じゃなさすぎだけど)を騙すには、まず味方から騙さなければいけない。香穂は身振り手振りを駆使しつつ、そう語った。
疑問その二。
結論。
その辺はあたしがうまいこと誤魔化しとくから心配ナシ! 心配ナイナイちゃん! 香穂は水切りに大失敗して小石を川にドボンと水没させつつ、そう語った。
疑問その三。
結論。
香穂はあえて聞いてくるようなことはしなかったけど……、とにかく、私は別に構わない。あくまでも、私と紫陽花は親友だから、距離感が近いってだけなのだ。
香穂のおかげで、紫陽花の方に変な噂が立つことはない。ただ私の方には、まず間違いなく変な噂が立つだろう。多少とはいえね。
香穂もこう言ってた。『この秘策のせいで、派閥が活性化しちゃうだろうけど……それでもいい?』って。いちいち気にせんわそんなの。てか派閥ってなんだ。私の知らない言語を使うな。
閑話休題、閑話休題。
この言葉を使うのにもそろそろ飽きてきたな。
さて。さっき『変な噂が立つ』って言いはしたものの、しかし一度立ち止まって、ちょっとよく考えてみてほしい。私ってば、このご時世にマジで『一匹狼』を自称している変なやつなんだぜ。
今更になって変な噂が一つや二つ増えたところで、事実上ノーダメージ。それに、相手が紫陽花だっていうのは──なんていうか、逆に、嬉しいかもだし。
とかなんとか、そんなふうにゴチャゴチャ色々と考えながら。紫陽花に後ろから抱きついているような姿勢を取っていた私は、白魚のようにたおやかで儚げな紫陽花の指に手を伸ばした。
「はあ。昔から思ってたけど、紫陽花の手ってホントに綺麗よね。いやもちろん、紫陽花に綺麗じゃないとことかないんだけど。羨ましいなあ」
「えー? そんなふうに褒めたって──じゃなくて! もうっ、また私のことからかって遊んでるんでしょ? そういうの、よくないってば」
「いや? これ、マジで言ってんだけど。ホントに羨ましいと思ってるし、ホントに綺麗だと思ってる。初めて会ったときから、ずっと」
「っ……⁉︎ お、桜歌ちゃん……⁉︎」
手を取って指を絡めてみると、紫陽花は面白いくらいに──じゃなくて、申し訳なるくらいに顔を朱に染め上げてしまった。ホントにごめん、紫陽花。
ちなみに余談だが、紫陽花の手よりも私の手の方が大きい。というか身長も私の方が大きい。人としての器は私の方が小さいだろうけど。
そんな感じであれこれ考えつつ、紫陽花に向かっていいなあいいなあと繰り返していたところで──教室に香穂が入ってきた。途端に(ほんの少しだけ)ざわめき立つ一部のクラスメイトたち。
……いや本当に、どうして私がいわゆる『学校中の注目の的!』みたいなポジションに置かれそうになっているんだ。納得がいかない。そこまでの魅力は私にはないだろが。どいつもこいつも、ホントにバカ。
はあ。まあいい。
とりあえず私は、計画通りに動くだけだ。
「おはよー、アーちゃん、オーちゃん! ……えっ、お二人さん、どうして今日はまたそんなにべったりなん?」
「ぅ……お、おはよう、香穂ちゃん! えっとね、桜歌ちゃん、なんか嫌なことがあったみたいでね……?」
「その通り。てか香穂、ぶっちゃけた話さ、私らって確かに仲はいーけど──
開幕からぶちかます私。学校中でざわざわされるのとかマジで勘弁願いたいから、こういうのは即即即座に解消するに限る。
ぶっちゃけアドリブ気味な急発進だったけど、しかしそこは芦ケ谷の妹こと小柳香穂。私とは違い生粋の陽キャである彼女は、やはりいつもの通りに速攻で話を合わせてきた。
「そりゃそーっすよ! だってあたしとオーちゃんですぜ? いやぁそりゃあムリってもんだろがい! 困っちゃうにゃあ、も〜」
「マジそれ。つーかまあ、そもそも私には紫陽花さえいれば十分だし? 私は紫陽花のための一匹狼なんだよ、覚えとけな」
「それはもう一匹狼じゃないと思うけどにゃあ」
「じゃあなんだってのさ。言うてみい」
「いや普通に、飼い犬」
「…………まあ、それもアリか?」
「なーんちゃって──って、オーちゃん? おーい……、あダメだこれ、マジでアリだと思ってる顔してんだけど⁉︎」
当然ながら演技である。いやマジで、マジで演技だから。いやホントに。ホントだって。いやマジで。これ、マジで言ってんだけど。マジで演技なんだけど。いやだからマジだって。ホントホント、ホントに演技だっての。いやマジで。マジだっつーの。ホントにマジだって言ってんだろが、バカ。しつこい。
……てな感じで、その後もぐたぐだと際限なくふざけ続けること一分と少々。私はその間も、紫陽花の手をむにむにと揉み続けていたわけだけど。
ついに紫陽花が唇をつんととんがらせつつ、わかりやすくそっぽを向いてみせた。……ちなみに、これは計画にない。ど、どうしよう……⁉︎
「あ〜……、その、紫陽花? えと、もしかして怒った……? その、ホントにからかうとか、そういうつもりじゃなくてね──」
「……怒ってないもん」
──『
えっ『もん』て! いや紫陽花それは流石にかわいすぎるって、マジでよくないよそういうの‼︎
ちらと香穂の方を見ると──あっこれは多分同じ感想抱いてますわ、お前も同志ですね、これからよろしく頼むぜ。
……いやでも、
んー、流石に細かいところまでは察せないなあ……。
じゃなくて、今は香穂のことより紫陽花だ。
私の優先順位は紫陽花がぶっちぎりで一番なのである。
「いやマジで、本気で嫌だったら言ってね? 私、紫陽花に……その、嫌われたくないし」
「……えっと、その、ごめんね? ホントに、嫌とかそういうのじゃないんだよ? でも、なんていうか──」
「ははーん? さてはアーちゃん、
「──…………たぶん……」
「…………えっ?」
あれ?
なんかこう……、うーん。
思ってたのとは違う方に着地しそうになってないか?
えっと……あれ、あれれ。ちょっとこう、話が違うんじゃないスかね、香穂さんや。ここにきてアドリブとか、マジでムリなんだけど?
てか、その。紫陽花も紫陽花で、反応変だし……えっ? つまり紫陽花は、私が香穂と気の抜けた会話をしてたのが、羨ましかったからあんなふうに頬を膨らませてたってこと?
あ、そう。じゃあつまり、こういうことか。
紫陽花は親友である私が、自分を放って香穂と仲睦まじく、自分の知らない話題で盛り上がっていたことに、
──
あの紫陽花が⁉︎ 私のせいで嫉妬だと⁉︎⁉︎
「……ぅ、ぉあっ──」
「えっ、えっ⁉︎ 桜歌ちゃん、大丈夫⁉︎」
「いやこれはダメそう! アーちゃんちょっと手伝って、オーちゃん保健室まで運ぶから──」
あっ、ダメだこれ朝っぱらから興奮しすぎたわ。
最後にそんなことを考えながら、私は意識を手放した。
……今度マジで謝ろう。
いっつも弁当作ってもらってるし、私も作って渡してみるか。
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