登校班が異世界の冒険者へ 作:匿名希望
そして、さらに時は流れた。
幾億の星が巡り、地上でいくつもの大帝国が生まれ、そして砂塵の彼方へと消え去っていった。
人間の歴史は書き換えられ、かつて彼女たちがいた「地球」という星の記憶すら、もはや宇宙の彼方の遥かなる神話、あるいは空想の童話の断片としてすら残っていない。
迷宮の最深部――もはや「階層」という概念すら崩壊し、次元の境目が曖昧になった世界の果て。
その無限の闇のただなかで、かつての小学生たちは、今日も変わらぬ少女の姿のまま、小さな焚き火を囲んでいた。
「ねえ」
銀色の尻尾を退屈そうに揺らしながら、ムギがぽつりと言った。
「私たちが最後に地上から新米の冒険者を見たのって、もう何万年前だっけ?」さあね、とリリアーネが冷ややかに、しかしどこか懐かしむような目を細める。
「少なくとも、私たちが『神話の女神』として祀られていた文明すら、とっくの昔に滅び去ったわよ。
いまやこの迷宮の最深部にいるのは、宇宙で私たちだけでしょ」
「ならさ」
ドラガがガハハと豪快に笑い、その身の丈ほどある斧を地面に軽くコツンと突いた。
「誰も私たちの伝説なんて語り継ぎやしないし、神様気取りをする必要もゼロってわけだ」
「うん」
レンが優しく微笑み、聖光の粒子を夜空――ではなく、どこまでも広がる迷宮の天井の闇へとふわりと飛ばした。
「私たちは、ただの私たちだね」
ミナは片眼鏡を外し、もはや使い古してボロボロになった――だが決して壊れないポーターの帳簿をそっと閉じ、静かに頷いた。
「ええ。記憶がどう改変されていようと、私たちの黒歴史がどれほど鮮烈に残っていようと、今日まで歩んできた足取りだけは本物です」
誰も老いない。誰も死なない。
肉体は永遠の全盛期のままで、宇宙の果てのような迷宮の底に縛り付けられている。
家族の温もりも、普通の幸せも、あの日の教室のチャイムの音も、すべては遥か昔の波に洗われて消え去った。
けれど、クロエは立ち上がり、腰の短剣の柄にそっと手を触れた。
彼女の三白眼は、一千年前と変わらず、いや、それ以上に鮮烈な輝きを宿して仲間たちを見渡した。
「……だな」
クロエは小さく息を吐き、悪戯っぽく口元を緩めた。
「神話の英雄でも、不老不死の守護女神でもない。
中身が全員、給食の牛乳を鼻から出した黒歴史を抱えたままの、どうしようもなく痛い元・小学生の集まりってことが分かってるなら、それで十分だ」
外見は最強の女冒険者パーティ。
中身は、果てしない時間を迷い続ける、最高に厄介で愛おしい腐れ縁。
「行くぞ、お前たち」
クロエの低く、しかし圧倒的な響きを持つ号令に合わせ、リリアーネが弓を構え、レンが聖光を灯し、ムギが電撃を走らせ、ドラガが斧を担ぎ、ミナが荷車の引き綱をしっかりと握り締める。
終わりなど最初からなかった。
目的すら、いつの間にか忘れていた。
それでも、歪んだ記憶と剥き出しの黒歴史をその身に背負ったまま、彼女たちは終わりのない宇宙と迷宮の境界線を越えて、まだ誰も見たことのない次の闇へと、軽やかな足取りで歩みを進めていく。
――私たちの冒険に、終点なんて最初からないのだから。