Fairy Tail: Odd Elf Out 作:匿名の遅筆
X777 フィオーレ王国 マグノリア 東の森
鬱蒼とした森の中、木々の葉を叩く雨音と蛙の鳴き声が響く。
桜色の髪を持つ少年は座り込み、雨に打たれていた。
「風邪ひくよ、ナツ。ギルドのみんなも心配してる」
フリーレンは大きな葉を傘代わりにナツに差し出す。
「ねーちゃん、イグニールはなんで俺を置いてったのかな…」
雨の激しさが増し、ナツの頬を水滴がとめどなく流れ落ちる。
「ねーちゃんは居なくなったりしないよな?」
「ナツ…」
それに対する答えをフリーレンはまだ出せずにいた。
「今のナツを置いていったら、誰が面倒を見るのかな?」
「な!もう九九だって言えるようになったんだぞ!馬鹿にすんな!」
ナツが勢いよく立ち上がる。
「泥だらけになった服の洗濯、部屋の片づけ、食事に滅竜魔法の修行…他に何があったかな」
「ウググ!ねーちゃんだって、朝寝坊するし、この前金遣いが荒いってマスターに怒られてたじゃんか!片付けが出来るようになったのも最近だろ!」
「フフン、それでもナツよりかは成長しているからね」
顔をしかめ、何か言い返そうとするナツを見て、フリーレンは安心した。
「ナツ、帰ろっか」
「おう!どっちが早くギルドに着くか勝負だ!」
ナツが炎で勢いをつけ走り出す。フリーレンもその背中を追いかける。
元の世界に帰るすべは、また今度考えよう。
この世界にやってきて、もう400年と少し。
終わりの見えない旅路が続いていた。
X784 フィオーレ王国 マグノリア フェアリーテイル
東の大陸イシュガルの永世中立国フィオーレ王国。
その東方の街マグノリアにはかつて、いや後々に至るまで数々の伝説を生み出したギルドがある。
その名はフェアリーテイル。
「ようこそフェアリーテイルへ!」
ナツとハッピーが高らかに歓迎してくれる。
アタシの名前はルーシィ。17歳の星霊魔導士よ!
ナツとハッピーに案内されてやって来たのはフェアリーテイル。
ハルジオンでは、偽サラマンダーに騙されたり、王国軍に追われたり散々だったけど、
憧れのギルドに入れることになったアタシの気分は最高潮!
「ただいまー!!」
バゴォン!
ナツが挨拶と共にドアを豪快に蹴破る。
扉を越えると雑踏と喧騒が絶え間なく響く世界が待っていた。
外からは聞こえなかったのに…防音魔法でも使ってるのかしら?
「ナツー、また派手にやらかしたなァ。ハルジオンの…」
言い終わる前に、ナツの蹴りがその男の顔面に突き刺さる。
「オラァ!!」
「なんでー!?」
男は椅子ごと吹き飛び、机や食器を巻き込んで倒れた。
「クロフ!サラマンダーの情報、嘘じゃねーか!」
「なこと知るかよ!俺は小耳に挟んだ情報を教えただけだろうが!」
「ンだと!?」
「やんのかコラァ!」
ナツとクロフの喧嘩を合図にギルド内が一層騒がしくなる。
もう滅茶苦茶、最初の内装は面影も残っていない。
入ってまだ1分も経ってないんですけど?
「ナツが帰ってきたって!?この間のケリつけるぞ!」
グレイ・フルバスター!なんでパンツ一丁!?
「グレイ、服。はぁ、ここの男どもは品がなくて嫌だわー」
カナ・アルベローナだ!その大樽の酒、一気飲みするの…?
「昼間っからピーピーギャーギャー、ガキじゃあるまいし。漢なら拳で語れ!」
エルフマン・ストラウス、週サラの通り暑苦しい!
「やれやれ、騒々しい奴らだ……混ざってくるね~」
彼氏にしたい魔導士上位ランカーのロキ!
有名な魔導士がいっぱい!
まともな人が一人もいないけど…
「アタシ、本当にフェアリーテイルに来たんだ…!」
「あら~新人さん?」
後ろを振り向くと、そこには週刊ソーサラーでグラビアを飾るあのミラジェーンさんが!
本物は写真で見るより素敵!キャー!
「あのあの、アタシ、ナツの紹介で来たルーシィです!週サラ見ました!ミラジェーンさんのファンなんです!」
「ありがとう、ミラでいいわよ。…あれ、あんまり乗り気じゃなかったのよね。ふふ、ばれてないといいんだけど」
乗り気じゃないのにあの美貌…ミラさんすごい…
アタシが呆けていると、隣から声をかけられる。
「新しく人が入るのは3年ぶりだね」
いつからそこにいたのか、アタシのそばには白い少女がいた。
プラチナブロンドのツインテール、陶器みたいに白い肌、エメラルドグリーンの瞳。
おとぎ話から抜け出てきたみたいな顔立ちに、思わず見とれかける。
でも一番目を引いたのは、その耳だった。すらっと尖って伸びた、長い耳。
妖精の尻尾に、まさか本物の妖精…?
「ナツが迷惑かけたよね。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「え!いえいえ、ナツには危ないところを助けてもらったし、あのままナツが来なかったら、どうなってたか…」
ハルジオンでの騒動を思い出し、思わず背筋が凍る。
「温かい飲み物入れてくるわね」
ミラさんはカウンターの奥に消え、少女とアタシが残される。
「自己紹介がまだだったね。私はフリーレン、ナツの姉だよ」
「ナツの!?」
衝撃の事実に、さっきまでの頭のもやもやが一気に晴れる。
「血は繋がってないから、姉代わりだけどね」
「あ、なるほど…」
あのナツの姉がこんな小さい女の子…てかアタシより年上なんだ…
いったい何歳なんだろう?
「アタシはルーシィ(ピギャ
初めての挨拶が横から吹っ飛んできた露出魔に邪魔される。てかパンツすら履いてない!
「お嬢さん、よかったらパンツ貸してくれないか?」
「貸すか!」
「やれやれ、デリカシーのないやつは困るよね」
「漢ォォォ!」
「邪魔だっての!」
グレイ、ロキ、エルフマン、ナツ、取っ替え引っ替えアタシの近くで喧嘩を始める。
ミラさんとフリーレンさんは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいる。喧嘩、止めなくて良いのかな。
「あーうっさい、落ち着いて酒も飲めないじゃないの。あんたらいい加減にしなさいよ」
カナが魔法を構えたのをきっかけにギルドメンバーは次々に自らの魔法を構え始める。
「魔法で喧嘩!?」
とっさに抱え上げたハッピーを、盾のように前に構える。
「アイ!」
「アイじゃなーい」
これ意味ないよね。誰か助けて~!
「そこまでじゃ…やめんか、バカタレ!」
突如現れた巨人の一喝でギルドメンバーの一切の動きが止まる。
「でかーーーーーっ!」
「あら、いらしたんですかマスター」
「登場が遅いよ、マスター」
何てことないようにミラさんとフリーレンさんが巨人に呼びかける。
「マスター!?」
アタシはフェアリーテイルのマスターと対面していることに気づいた。
マスターって巨人だったの?
「だーっはっはっはっは!!みんなしてビビりやがって!この勝負は俺の勝(ぐちゃ
勝ちどきを上げたナツはあっけなく巨人に踏みつぶされた。
「む?新入りかね」
巨人の興味がアタシに移る。怖い怖い怖い!
「は…はい…」
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
巨人はどんどん縮んでいき、最後にはアタシよりも小さなおじさんが現れた。
「よろしくネ」
「ちっさ!ていうかマスターって」
「このおじさんがフェアリーテイルのマスター、マカロフ・ドレアー。さっきの巨人はマカロフが魔法で変身した姿だよ」
フリーレンさんが隣に来て説明してくれる。
「とう!」
マスターは軽快な身のこなしで高く飛び上がり、2階の欄干に頭をぶつける。
「新入りの前だからって格好つけなくてもいいのに…」
フリーレンさんが言う。
意外と愉快なおじさんなのかもしれない。ちょっとだけ安心した。
マスターは欄干にぶら下がったまま、よじ登る。
「まーたやってくれたのう貴様等。見よ、魔法評議院から送られてきたこの書類の量を。ぜーんぶ苦情ばかりじゃ!」
マスターは欄干の上に立ち、分厚い紙束を掲げる。
あれが全部苦情!? 魔導士ギルドを束ねてる機関からあんなに来るなんて…
「貴様等ァ…ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ…」
早々にフェアリーテイルの危機を感じる。
「じゃが…評議員などクソくらえじゃ!」
マスターは紙束に火をつけて放り、ナツがそれに食らいつく。
灰が舞う中、ギルドの皆がマスターを見上げる。
「よいか!魔法は奇跡の力なんかではない」
「我々の内にある『気』の流れと自然界に流れる『気』の波長が合わさり、初めて具現化されるのじゃ」
「上から覗いてる目ン玉気にしてたら魔道は進めん」
「評議員のバカどもを恐れるな。自分の信じた道を進めェい!」
「それがフェアリーテイルの魔導士じゃ!」
マスターの言葉が空間の隅々にまで響き渡る。
一度の静寂ののち、マスターの演説を聞き届けたギルドメンバーの大歓声が上がる。
うおおおおおおおおおおお!
メンバーは握り拳に人差し指と親指を立て、手の甲を外側に向け天を指す。
「これってなんのサインですか?」
「『離れていてもお前を見守っている』って意味のフェアリーテイルのサインだよ」
見守っている…。
誰に向けるでもなくサインを掲げる、ここではない場所に居る人が見てくれている気がして。
「新入りを歓迎して今日は宴じゃ!」
「「「「「宴だー!」」」」」
「そんな、アタシのために!」
マスターの演説もそうだが、ギルドの心意気がアタシを温かく包んでくれる。
「ここじゃ毎日が宴だけどな。昨日はカナの通算2日目の禁酒を祝って宴をしたな、一昨日は何だっけか」
「禁酒1日目祝いじゃなかった?」
「あれ、禁酒してるか?」
カウンターの向こうで、まさにそのカナが新しい樽の栓を景気よく抜いていた。
一気に冷めていく感動を、アタシは黙って飲み込む。
「ルーシィはギルドマークどこに入れる?」
「右手の甲にお願いします!」
ミラさんが魔導具を使ってアタシの手にフェアリーテイルのギルドマークを刻んでくれる。
これでアタシ、本当にフェアリーテイルの一員になれたんだ!
「おかえりナツ」
「おう、ねーちゃんただいま!」
フリーレンさんとナツ、本当に姉弟なんだ。
気兼ねなく挨拶をしている様子を見て、納得がいった。
「そういえば、ナツ」
「なんだよねーちゃん」
「この前の始末書、書いた?」
「ぁ」
フリーレンさんの指摘に、か細い声がナツの喉から漏れる。
書いてなかったのね…
「…図書室に行くよナツ」
「嫌だぁぁぁぁ、せめてメシを食ってから!」
「それで忘れて、後で私に泣きつくまでがセオリーでしょ。今回のも含めてさっさと終わらせるよ」
ナツは襟首を掴まれズルズルとフリーレンさんに連行されていく。
「グレイ!俺を助けろ!」
「ザマァねーなぁ、ナツ!」
笑い転げるグレイの前に、マスターは数枚の紙を突き出す。
「何を笑っとるんじゃグレイ。ほれ、お主の分の始末書じゃ」
「嘘だろじーさん!さっき燃やしてくれたんじゃ!?」
「ありゃただの苦情じゃ、始末書は別にある」
バサァ!
さっき燃やした書類の倍の量の紙束が現れる。
「グレイ…街を素っ裸で歩き、干してある下着を盗んで逃走」
何やってんのこの変態は!
「いや…だって裸じゃマズイだろ」
「まずは裸になるなよ」
エルフマンが的確にツッコむ。
「エルフマンもじゃ、要人護衛任務中に要人に暴行」
「『男は学歴よ』なんて言うからつい…」
マスターはため息をつき次の内容を読み上げる。
「僕は女の子達と魔道の探求に行ってくるよ」
「待たんかいロキ。評議員レイジ老師の孫娘に手を出したじゃろ」
「『気』の流れが合っちゃってね、具現化したのさ」
やかましいわ
「後はカナ、アルザック、レビィ、クロフ、リーダス、ウォーレン、ビスカ、etc.」
「ほとんど全員じゃねーか」
フェアリーテイルの凄さと酷さが変わりばんこに来て頭の中がパンクしそう。
「ルーシィも書いとく?」
「アタシもやらかすって言いたいのかしら、ネコちゃん?」
「ハルジオンの港はナツが壊す前に、ルーシィのお魚が起こした津波で半分ぐらい壊れてたよね?」
アタシは全力で明後日の方向を向いた。
「…ナンノコトカシラ」
「あ、誤魔化した」
知らぬ存ぜぬを突き通さなければ、アタシの第一印象が終わる!
「よぅルビー、もうお前はフェアリーテイルの仲間だ。仲間同士助け合わなきゃな?」
ナツがあくどい笑顔で肩を組んでくる。てか、アタシはルーシィよ!
「そんなに難しくないし、今回は練習と思ってやってみたら?」
そんなぁ、ミラさんにまで知られてる~
「んじゃ半分頼むルーシィ」
ナツから10枚程度の紙が渡される。多くない?
「なになに、チューリィ村の時計台破壊、フリージアの教会全焼、ルピナス城一部損壊…って、アタシが壊したのは港だけでしょ!」
アタシの声は思った以上に響いていたらしく、近くのギルドメンバーがざわざわと顔を寄せ合う。
「おいおい、あの新入り港を破壊したんだとよ…」
「やるな、あの新入り」
「期待の新入りだ!」
終わった…アタシの第一印象…
「頼む!ルイージ!」
「ルーシィよ!」
「俺のも頼むぜ、ルーシィ」
「アンタは服を着なさい、この変態!」
「新入りの初めての仕事じゃな。題して始末書を仕上げろ」
「そのままですね。ところでマスター、これ評議院から送られてきた弁償金の額です」
ミラさんが一枚の紙をマスターに差し出す。
「……」
受け取った紙を見てマスターの顔は真っ青になった。
アタシの初仕事、どうしてこんなことに…
「誰でもいつかは通る道だよ。私も手伝うから早く終わらせよ?」
「フリーレンさん!」
「フリーレンでいいよ」
天使だ!天使がここにいる!
感極まったアタシはフリーレンに抱き着く。
この後みんなはフリーレンの監督の下、始末書を仕上げ、夜通し宴で騒いだ。
色々あった初日だったけど、アタシこのギルド好きになれそう!
フェアリーテイル 屋上
フリーレンはカンテラの下で本を読んでいた。
『END』
禍々しい装丁のそれは、夜の暗闇の中でも歪な存在感を放っていた。