Fairy Tail: Odd Elf Out 作:匿名の遅筆
累計700万部突破! 『始末書の書き方』シリーズ
『ネコでも書ける! 始末書の書き方』著:メイビス・ヴァーミリオン
『始末書のすゝめ』著:プレヒト・ゲイボルグ
『始末書と我がはんせい』著:マカロフ・ドレアー
新刊『反省してます。たぶん。―その始末書、もっと楽に書けるよ』
著:フリーレン・ドラグニル 編:ルーシィ・ハートフィリア
フィオーレ王国 マグノリア ナツたちの家
窓から差し込む薄明りに刺激され、目を覚ます。
上半身を起こし、しばらくボーっとする。
鳥のさえずりと朝の肌寒さが意識を覚醒させていく。
時刻は朝の6時。布団のぬくもりを求める体を頭で無理やり動かし、冷えた床に降り立つ。
洗面台に向かうがてら、ナツとハッピーのベッドを見る。ベッドには蹴とばされた布団だけが残されていた。
家の中が静かということは、二人は既に出かけているのだろう。
ナツが私より先に起きているなんて珍しい。ちょっと前までは、私が起こすまで起きない子だったのに。
イグニールと私でナツに魔法を教えていた頃は言葉も字も覚えようとしない、手の掛かる子だった。日に日に大きくなり、手が掛からなくなるナツの成長は誇らしいが、少し寂しい気持ちもある。
布団を整えながら、私はありし日を思い返していた。
身支度と軽い朝食を済ませ、ギルドへ向かう。
開店準備をする店、仕事へ向かう人々、行き交う荷馬車で、早朝にもかかわらず街道沿いは賑やかだ。
商人たちによると、西の大陸のアルバレス帝国とフィオーレ王国の緊張状態が落ち着き、物価が徐々に戻りつつあるらしい。
万年お金に悩まされている身としてはありがたい話だ。ただ、戦争になれば、帝国の目的を考えると、フェアリーテイルが巻き込まれることは必至だろう。だが今はそんな事に付き合っている時間はない。
私は今後のことを考えながら、フェアリーテイルの扉を開いた。
「おはようナブ、ワカバ。あれ、ナツとハッピーは?」
ギルドを見渡すも2人の姿は見えない。
「ようフリーレン。ナツならマカオを助けにハコベ山に行っちまったよ」
「マカオだって、無理な仕事を選ぶほど、ボケてねェだろうに」
そう言うワカバは、らしくもなくパイプにタバコを詰めすぎてる。
「そっか…」
他人の仕事に乱入するってことは、ナツにもよほど思うところがあったんだろう。
バーカウンターの席に座り、ミラにコーヒーを注文する。
「若い者は分からんもんじゃのう、フリーレン」
カウンターに座っていたマカロフがしみじみと呟く。
「おはようマカロフ。顔どうしたの?」
腫れた頬をさすりながら、マカロフが顔をしかめる。
「マスターと呼ばんかい。顔は転んじまってな」
苦笑いのまま、マカロフはジョッキを呷った。
「ギルドの外ではちゃんと呼ぶよ。こっちの方が呼びやすいからね。マカロフは若くないんだから気をつけなよ」
「お主もな、と言いたいが、まだまだ若いんだっけか」
ヒトとエルフでは生きる時間が違う。
この世界に来てもそれは変わらず、見送って来た人たちは数知れない。
「万年生きるらしいよ、実感ないけど。今1800年くらいだから、ヒトで言うなら大体14歳…かな?」
「若いのォー」
「フフン、年の功も私の方が上だからね。もっと敬ってくれてもいいんだよ?」
胸を張ってみせる私に、マカロフが呆れたように鼻を鳴らす。
マカロフがジョッキ片手に、カウンター隅の木箱をちらりと見やった。
「ギルドのツケで魔導書を買わないなら敬っても良いんだがの…今月入って何冊目じゃ、フリーレン」
マカロフは痛いところを突いてくる。指摘されることが多いが、こればかりは治らなかった。
いや、治そうとするのが間違いだったのかも知れない。
開けてない宝箱と同じで、知らない魔導書には、えもいわれぬ魅力があるのだ。買わずにいられようか、いやいられない。
「マカロフ、それは必要経費だよ」
私は断言する。マカロフはその返答を聞いて苦悶の表情を浮かべていた。
「………………………まぁ、ええわい」
(諦めたー!?あのマスターが悩んだ末、諦めたぞ!)
聞き耳を立てていたギルドメンバーが、ぎょっとした顔でこちらを見ていた。
マカロフは酒を一口飲み、喉を潤してから、再度口を開いた。
「フリーレン、今回の指名依頼を渡しておく」
10数枚の紙が手渡される。
「多いね」
「ほとんどが魔法評議院からの依頼じゃな。本当はこんな使いっ走りのような仕事させたくないんだがの」
依頼書の内容はあちこちの黒魔術に由来する魔道具の封印に綻びが生まれているため、その再封印、または破壊。
この世界では禁忌とされる魔法を十把一絡げに黒魔術と呼んでおり、その性質が十分に理解されていない。この依頼書は起爆寸前の爆弾を止めてこいと言っているに等しい内容だった。
評議院は今頃、管理責任を誰に押し付けるかで揉めているんだろうね。
「舐めやがって…」
マカロフの持つジョッキが軋む。
「気にしないでマカロフ。好きでやってることだから」
黒魔術の研究は今の私の第一目標だ。しかし、フィオーレ王国では基本的に黒魔術の研究は禁止されている。
今回の依頼は実質公的機関の公認が得られたようなものだ、この機会を逃す手はない。封印するにしろ、破壊するにしろ、私の好きにやらせてもらう。
私はまだ見ぬ魔法への期待に内心小躍りしながら、ミラが淹れてくれたコーヒーを飲む。
ビターな香りと次第に活気付くギルドの熱気に流されて、朝は過ぎていった。
フィオーレ王国 ハコベ山へ向かう馬車の中
揺れる馬車の中、アタシは前のめりに身を乗り出した。
「でね!アタシ今度ミラさんの家に遊びに行くことになったの~♡」
「下着とか盗んじゃダメだよ」
「盗むかー!」
今更のように、ナツが座席の上で首をかしげる。
「てかなんでルーシィがいるんだ?」
父親のマカオを心配するロメオ君のためにマカオを探しに行ったナツを追いかけて、アタシはナツとハッピーと共にハコベ山へ向かう馬車に乗っていた。
「何よ、なんか文句ある?」
「そりゃあ、もう、いろいろと…」
「アイ」
「だって、せっかくだから、何かフェアリーテイルの役に立つことをしたいなぁ~なんて」
乗り掛かった舟だ、ここで下りる理由はない。無事マカオさんを連れて帰ってくれば、フェアリーテイル内でのアタシの序列が上がるはず!
ナツの様子がちょっと心配だったのもミリグラムぐらいある。
「それにしても、あんた本当に乗り物ダメなのね」
ナツは座席に横たわり、息を荒く、顔を青くしていた。ハルジオンの船上でもそうだったが、乗り物が大の苦手らしい。
「フリーレンも乗り物が苦手なの?」
姉弟なら同じ癖とかあるのだろうかと、ふと気になったアタシはハッピーに聞いてみる。
「乗り物が苦手なのはギルドの中でもナツだけだよ。ナツの乗り物酔いは滅竜魔導士の特性だから仕方がないってフリーレンが言ってた」
「へー、不便な魔法ね。治せないの?」
「滅竜魔法は太古の魔法。ナツはイグニールに教えてもらったけど、その継承の方法や仕組みについて、現代に殆ど伝わってないんだ。それは滅竜魔法を作った国が滅んじゃったからなんだって」
「それじゃあ治し方も分からないわね」
倒れ伏すナツを見る。じゃあナツは、機関車の長旅、ディナークルーズ、飛行船にも乗れないということなのね。
「なんか…いろいろかわいそう…」
アタシは思わずナツの頭を撫でた。
「馬鹿にされてる気がするぞ(ウプッ
気の所為よ。
「それでね、滅竜魔法の一番怖いところは、力を使い続けると段々とドラゴンになっちゃうことなんだ。乗り物酔いするのも、滅竜魔導士のドラゴンの感覚と人間の感覚がずれちゃうからなんだって」
「えぇ!今まで結構使ってたけど大丈夫なの!?」
とんでもない事実を唐突に告げられたアタシは、思わずナツを見る。
「フリーレンが定期的にナツに自分の魔力を流して、ドラゴンの力を中和しているから大丈夫だよ」
「なんだ~対処法はあるのね、びっくりした~」
ハッピーの目が、心なしかいたずらっぽく光る。
「面白いのがね、その魔力を流す方法なんだ、プッ、ククク」
「ハッピー、思い出したくないから言うな」
ハッピーはなぜか笑いをこらえ、ナツは青い顔をさらにしかめて返答する。
いったいどんな方法なんだろう?
そんな話を続けていると馬車が止まる。
「止まった!」
ナツは勢いよく跳ね起きる。
「す…すみません…これ以上は馬車じゃ進めませんわ」
御者が申し訳なさそうに言う。
馬車のドアを開けると、そこは肌を刺す冷たい風が吹きつける銀世界だった。
ナツはさっさと馬車を降り、雪の中を進んでいく。アタシは震える体を両手で抱きしめながら、それに何とかついて行く。
来る前に聞きそびれていたマカオさんが請け負った仕事は、凶悪モンスター『バルカン』の討伐。
馬車は帰っちゃうし、寒いし、危険だし、やっぱり来るんじゃなかった~
…30分後
「マカオー!!!いるかー!!!」
ナツが声を張り上げマカオを呼んでいる。しばらく歩き回り探したが、まだ見つからない。
アタシはというと、星霊の鍵で呼び出した時計座のホロロギウムの中に入り寒さと危険から難を逃れていた。
ホロロギウムは床置きの振り子時計の形をした星霊で、中に入って身を守る事が出来る。外にアタシの声が届かないが、そこはかとなく温かく、寒さも防げる。
ホロロギウムが中で喋るアタシの代役をしてくれる。
「「寒すぎ、少し休ませて」と申しております…」
「そんな薄着してっからだろ」
「「アンタも似たようなもんじゃない!」と申しております…」
ナツが再度声を張り上げる。
「マカオー!バルカンにやられてしまったのかー!!」
声は吹雪の中に埋もれていく。しかし、ナツの声が届いたのか遠くから雪を踏みしめる音が段々と近づいてくる。
次の瞬間、ナツは体をそらし、後ろに飛びのく。落ちてきた巨体を紙一重のところでナツは避ける。
現れたのは雪よりも白い毛並みの大きな猿。
「バルカン!」
「ウホッ、人間の女の匂いがする!」
バルカンは鼻息を荒くし、周囲の匂いを嗅いでいた。狙いは完全にアタシ、捕まった後に何をされるか考えたくもない。
「喋れんのか!火竜の鉄拳!」
間髪入れずに放たれたナツの炎を纏う拳がバルカンの鳩尾に突き刺さる。
バルカンは吹き飛び、立木に叩きつけられる。
そのままバルカンはピクリとも動かなくなった。
ナツはバルカンの首を掴み、前後に激しく振る。
「オイ!サル!マカオはどこだ!」
「「ナツ、そのサルもう気絶してるって」と申しております…」
「やべ、やりすぎた。マカオの居場所を聞き出そうとしたのによ…」
気絶したバルカンが急に輝きだし、ナツが身構える。
「な…何だ、何だ!?」
ボゥゥン
煙と共に現れたのはさっきの御者のおじさんだった。
「バルカンにテイクオーバーされてたんだ!」
「「テイクオーバー?」と申しております…」
ハッピーが簡単に説明してくれる。
「体を乗っ取る魔法だよ。そうか、バルカンは人間をテイクオーバーすることで生きつなぐモンスターだったんだ」
「てことは、マカオも…」
吹雪が激しくなり、視界が白く染まっていく。さっきの馬車は引き返してすぐに襲われたらしく、近くで脱輪していた。御者を馬車の中に置き、再び吹雪の中へ戻る。
早くマカオさんを見つけないと。怪我をして動けないのか、バルカンにテイクオーバーされたのか、どちらにせよ時間が余りないことは確かだった。
ドドドドドドドドド
足の裏から伝わる地響きが、だんだん大きくなっていく。
雪原の向こう、白煙の中に次々と影が立ち上がる。1つ、2つ…ざっと数えただけでも20は超えていた。
真っ白な毛並みが、薄明りの中でぬらりと光る。
仲間がやられたことと、アタシの匂いを嗅ぎつけたことで、バルカン達はかなり興奮していた。
「ウホッ!仲間をやったのはお前か、男!」
「ウホッ!女の匂いだ!」
「ウホッ!オデ女大好き!」
唾液混じりの息が、白くいくつも吐き出される。
ポゥン
間の悪いことに、ホロロギウムが時間切れで消えてしまい、アタシは雪の中に投げ出された。
冷たさより先に、二十対の目に見つめられている感覚が全身を凍らせる。
「ナツ!逃げるわよ!」
「ダメだ!あの中にマカオがいる、匂いでわかる」
ナツはそう言うが、ハッピーは戦えないし、実質2人でこの数を相手にするのは無謀が過ぎる。
1匹のバルカンが、その剛腕を上からナツに向けて叩きつける。正面から受け止めたナツは腰を沈め衝撃を受け流す。
「ウホッ!男、お前の女、寄越せウホッ!」
「お前らこそ、とっととマカオを返せ!火竜の咆哮!」
ナツは受け止めた姿勢のまま、ハルジオンの時の比じゃない業火を放つ。
バルカンはナツの火炎放射を身軽に避ける。しかし、業火はバルカンたちの足元の雪原を薙ぎ払い、茶色い大地を露出させる。
「あぶねー、気を抜くと黒焦げにしちまう。手加減が難しいな」
「すごい…ナツ1人でどうにかなっちゃうかも」
「アイ!フリーレンに鍛えられてるからね、ナツはいくらバルカンが来ようと負けないよ!」
バルカン達は一斉にナツにとびかかり、雪を使った目くらましと野性味あふれる連携で縦横無尽に飛び回りながら、突きと蹴りを叩き込んでいく。
「「「「「ウホホーイ!男いらん!女好き!男いらん!女好き!」」」」」
鈍い音が何度も響く。
それでもナツは殴られるたびに歯を食いしばるだけで、握った拳を動かそうとしない。
「なんで反撃しないの!?」
「どれがマカオをテイクオーバーしたバルカンか分からないからだよ。ナツなら匂いでわかるけど、今は他のバルカンと匂いが混ざっちゃってるからね。本気を出せば一撃で終わる。けれど本気を出せば、殴られるのはマカオの身体だよ」
マカオを取り戻すためには、バルカンに必要以上のダメージを与えてはいけない。だが、動きの素早いバルカンの中から的確に一体を適度なダメージで攻撃し気絶させることは不可能に近い。
「つまり、ナツが匂いをかぎ分ける時間を作ればいいわけね!」
アタシは腰の鍵束から鍵を取り、1番パワーのある星霊を呼び出す。
「開け!金牛宮の扉、タウロス!」
地面を突き破り、巨大な斧を背負った筋骨隆々のミノタウロスが現れる。
「MOOOOOOー!!!!!」
「ウシだー!」
ただ一つ欠点を挙げるとすれば非常にスケベである。
「ルーシィさん、相変わらずナイスバディですなぁ~MO素敵です!」
「それはいいから、タウロス!バルカンを蹴散らして!」
アタシの命令を聞いたタウロスは斧を構え、ナツを襲うバルカンの群れに突っ込んで行く。
「OKルーシィさん!MOOOOO!!!!」
「なんだ!?新手のモンスターか?」
「ナツ!アタシの星霊がバルカンの相手をする!その間にマカオさんをテイクオーバーしたバルカンを見つけ出して!」
「サンキュー、ルーシィ!」
ナツは立ち止まり嗅覚を研ぎ澄ませる。ナツの周囲ではタウロスがバルカンを周囲に近づけないようにしている。
なるべくバルカンに傷を与えないように斧の腹を向けて攻撃しているせいか、身のこなしが素早いバルカンにはなかなか攻撃が当たらないことがもどかしい。
「見つけた!」
ナツの目の色が変わる。
拳を握り、迷いのない足取りで1匹のバルカンの元へ一直線に駆け抜ける。
「人の親父の身体、勝手に使いやがって」
低く尖った声だった。
握りこんだ拳が震えている。
ナツは力を殺し、バルカンの顎の一点だけを正確に打ち抜いた。鈍い音とともに、巨体が雪に沈む。
鬼気迫る顔をしたナツが体中から炎をたぎらせ、バルカンの群れへ向かっていく。
「あとは手加減なしでいいな?逃げねーと後悔するぞ、お前ら」
「ちょ、ナツ、アタシたちもいるんですけど!?」
今のナツにはアタシの叫びなんぞ聞こえていないようで…
アタシは咄嗟にタウロスに命令して、マカオをテイクオーバーしたバルカンを群れの外に引きずり出す。
ナツは両手の炎を合わせ巨大な火球を作り出す。込められた魔力量は、これまでの技の比ではないことが分かる。
「お前らに殴られ続けてムシャクシャしてんだ…火竜の煌炎!」
投げつけられた火球が、バルカンの群れの中心で弾けた。手加減という発想が抜け落ちている一撃が世界を白く塗りつぶし、一拍遅れて、熱風がバルカンだけでなく周囲の雪や木々、アタシたちを容赦なく吹き飛ばした。
「いやぁぁぁ、せっかく助けてあげたのに!!」
「ナツ~やりすぎだよ~」
「MO…駄目っぽいですな…」
しばらくして…
アタシたちは雪の中からマカオをテイクオーバーしたバルカンを助け出し、たたき起こす。
ナツがバルカンの胸倉を掴んだ。その手は、まだ小刻みに震えている。
「早く魔法を解け…もっかいぶっ飛ばすぞコラ」
ナツが肩で息をするたびに、白い息が獣のように濃く立ち上がっていた。
目元の肌が鱗みたいになってる…あれがドラゴンに近づくってことなのかしら。
アタシが次に瞬きした時には、ナツのそれはもう消えていた。
「ウヒー!」
バルカンがテイクオーバーを解くと、坊主頭の無精ひげを生やしたおじさんが現れた。
その体は傷だらけで、テイクオーバーされる前に相当激しく戦ったことが分かる。持ってきた応急セットで処置はしたものの、目を覚まさない。
「マカオ!死ぬんじゃねェぞ!ロメオが待ってんだ、目を開けろ!」
ナツの呼びかけが聞こえたのか、マカオが目を覚ます。
「うぅぅ、ナツ?」
「マカオ!」
マカオは意識が回復してきたのか、ポツリポツリとこれまでの経緯を話し始める。
「情けねぇ、19匹は倒したんだ…20匹目にテイクオーバーされちまった…ムカつくぜ!畜生、これじゃロメオに合わす顔が…」
「んなことねーよ、そんだけ倒しゃ上等だ!」
あのバルカンの大群を1人で相手取って19匹も倒したことにアタシは驚愕した。やっぱりフェアリーテイルってすごい…かなわないなぁ…
ナツは仰向けになったマカオの手を握り助け起こす。
「帰ろーぜ、ロメオのところによ」
フィオーレ王国 マグノリア フェアリーテイル
「ただいまー!」
バゴォン!
ナツがギルドの扉を蹴破り帰還を告げる。
「ナツゥ!テメェ普通にドア開けられねぇのか!」
「ダハハ!わりぃわりぃ」
上機嫌な様子を見ると仕事は上手くいったようだ。
「マカオの野郎どうだったよ?」
ワカバが、いの一番にナツに尋ねる。
ナツが得意げに胸を張る。
「マカオはバルカン19匹ぶちのめして帰ってきたぜ!ちょっと怪我してたけどな、今ポーリュシカのばっちゃんの所に行ってる」
まだ拭いきれない疲労を滲ませながら、ルーシィはその隣で付け加えた。
「ちょっとと言うか、だいぶだったけどね。応急処置のお陰で大事には至らないみたいです」
ナツとルーシィの報告を聞いてギルド内の空気が弛緩するのを感じる。
「そんじゃ、俺はマカオの野郎をおちょくってくるとするか」
「俺も俺も!」「私も!」
ギルドメンバーはぞろぞろとギルドを出ていった。
そんなに大勢でポーリュシカの所に行ったら、人間嫌いの彼女にコテンパンにされるのが目に見えているのに、それが分かっていても行くのがフェアリーテイルらしい。
ミラがカウンターに頬杖をつきながらつぶやく。
「みんな、なんだかんだで心配していたのよね」
「ワシも後で見舞いに行ってやるとするかの」
マカロフも安心した様子で、酒を飲み干す。
「ナツ、お見舞いの品、何持ってく?」
「さっきの牛とか良いんじゃね」
「食べる気か!」
ナツはルーシィの星霊を手土産にしようと画策するも、すかさずルーシィが拒絶する。
星霊魔法か…最近はなかなか使い手に出会えないため研究が進んでない分野だ。今度ゆっくり見せて貰おう。
「お見舞いも良いけどナツ、今日は何の日か忘れてないよね」
「え?」
にこやかな笑みのまま、私はナツとの距離をゆっくり詰める。
「定期健診、今からするよ」
瞬時に、ナツが腰を引き、戦闘の構えをとる。
「待ってくれねーちゃん。俺はどこも悪くない」
「悪い悪くないに関わらずやるから、定期健診なんだよ。早くこっちに来て。…パープルフレア」
私の手から紫の炎が立ち上り、蛇のようにしなりながらナツの腕に纏わりつく。
「へっ、こんなもん…苦ぇ!何だこの炎!」
炎に喰らい付いたナツは、炎を味わい、思わずえずく。
「炎の『質』を変えるんだよナツ。魔法は自由なんだ、味も、粘りも、伸びも変えられる。手を伸ばすイメージならこんな風に」
ナツが喰らい付いた部分から、炎が顔全体に広がり包み込む。ナツは顔の炎を消そうともがく。
「いくよナツ。すぐ終わるから」
私は伸縮性のある紫の炎を引っ張り、ナツを引きずる。
「もがぁぁ!」
「なんか…この光景、この前も見た気がする。ナツがドラゴンにならないための健診なんでしょ、大人しく受けときなさいよ」
ルーシィも健診の理由は知っているようだ、ハッピーが話したのかな。
本当の理由はちょっと違うんだけどね。
「なんで、あんなに嫌がってるのかしら?」
「それはねルーシィ。自分の魔力を送るには相手の体に触れなきゃいけない。さらに効率よく送るなら、体内に直接繋がっている部分に触れなきゃいけない。ここで問題です!」
ハッピーが唐突に出題する。
「体の中に通じる穴はたくさんあるけど、中でも大きい穴はどこでしょう?ちなみに2つあるよ」
「えーと、1つは口でしょ?もう一つは…お尻……まさか!?そんなことするの?し、姉弟の仲で!?」
ルーシィは良からぬ光景を想像し、顔を赤らめる。
「ルーシィ、何を想像してるの?お尻にビームを撃つんだよ?」
「もっとひどいわ!」
ハッピーが説明した通り、魔力を多く送るには体の内部に通じる穴を介すことが効果的だ。直接触れるのは私も嫌だ。結果、肛門に濃縮した魔力を穿つことになった。
ナツは顔にまとわりついた炎を食い破る。
「なんでケツなんだよ!時間かかってもいいから、口とか背中から送ってくれ!」
口はダメだ、送った魔力をナツがすぐに使ってしまう。
「それだと丸二日かかる。肛門からなら30秒で済むよ」
「二日かかってもいい!ケツは嫌だ!」
ナツは床を這って逃げ出そうとするが、紫の炎に足首を絡めとられ、あっけなく引き戻される。
「明日は忙しいから無理、交渉の余地はないよ。大人しくしてね、ナツ」
「やめろー!」
私はナツの襟首を掴んで医務室に引きずり込む。
バタンッ
医務室の扉の奥にフリーレンとナツは消える。
「アァァァァァァァァァァァァ!」
次の瞬間、言葉にならない叫び声が響いた。
マスターが自分の尻に触れながら、堪えるように呟く。
「惨いのぅ…」
「ルーシィはさっき何を想像したの?」
アタシは明後日の方向に目を逸らしながら、ハッピーの問いに答える。
「あれよりはマシなこと」
「でもイケないことよね~」
ミラさんも似たようなことを想像したらしい。
数十秒後、医務室から出てきたナツはふらつきながら、そのままぶっ倒れた。フリーレンは倒れたナツを背負う。
「今日は帰るね、マスター。明日の朝一で出発するから、依頼の処理よろしくね、ミラ。ルーシィも今日はお疲れ様」
グロッキーなナツの姿にアタシは軽くひきながら、挨拶をかわす。
「お、お疲れ様です。お大事に…」
ハッピーが心配そうにナツを覗き込み、声をかける。
「ナツぅ。お魚いる?」
「今は何も口にしたくねぇ…」
「今日は頑張ったね、ナツ。夕飯はナツの好物を作ってあげるよ」
ぐったりしていたナツの口元が、ほんの少しだけ緩む。
「…………あい」
「オイラもいい!?お魚!」
ダルすぎてハッピーみたいになってしまったナツと元気に飛び回るハッピー、ナツを背負ったフリーレン。
アタシは夕焼けに消えていくおかしな2人と1匹を見送った。
フィオーレ王国 マグノリア ナツたちの家
「食った、食った~もう食べらんね~///」
「お魚美味しかった~///」
ナツもハッピーも、満足してもらえたようで良かった。
「ナツ、ハッピー、明日から私いないから。家の戸締りしっかりしてね」
「ねーちゃん仕事か?」
ナツと2人で食べ終わった食器を洗いながら話す。
「指名依頼がいくつか入ってね。一週間ぐらいいないかも」
ハッピーがびしっと敬礼して見せる。
「アイ!了解であります、フリーレン料理長!お魚の警備は任せてくださいであります」
「こっちは心配しなくていいぜ」
ナツとハッピーは快く送り出してくれる。出来た弟で助かる。
食事も終わり、ナツとハッピーは寝る準備をする。
リビングではフリーレンが机に向かい物書きをしている様子がうかがえる。時計の針が進む音とペンが紙の上を走る音だけが、静まり返った家の中に響く。
「なぁハッピー」
「どうしたのナツ?」
ベッドに寝転がったナツがハッピーに話しかける。
「俺、明日からもっと早く起きて特訓しようと思う」
「急にどうしたの、ナツ。ナツはグレイと喧嘩したり、エルフマンと殴り合ったり、マスターに潰されたりでいつも特訓してるようなもんじゃない?」
寝転がっていたナツが、天井を睨むように起き上がる。
「もっとだ。もっと力を付けて、フリーレンを、ねーちゃんを追い越せるぐらいにならないと。そうしないとねーちゃん、あのままどっかに行っちまう気がするんだ」
布団の上で、ナツの拳がぎゅっと握られていた。
「………」
戦いでもないのに珍しく真剣に考えるナツの横顔をハッピーは眺める。
ハッピーは自分が生まれる前の話、ナツとフリーレンがどうして姉弟になったのか詳しく知らない。イグニールが居なくなった後、フリーレンが面倒をみてくれたことをナツから聞いただけだ。
ただ、なんとなくハッピーは2人の関係がそれだけで説明できるほど浅いものじゃないことを感じていた。
ナツが焦る理由もそこにあるんじゃないかとハッピーは物思いにふける。
「ナツが特訓するなら、オイラも付き合うよ」
「ありがとな、ハッピー。2人で強くなってねーちゃんを驚かしてやろーぜ」
2人の密約が布団の中で交わされた。
フリーレンの魔法収集
フリーレンは魔導書からだけでなく、自分の知らない魔法を使っている人を見かけたら、頼んで教えてもらおうとする。誰でも教えてくれるわけではなく、教えてもらえなかった日は、顔をシワシワにしてしょんぼりする。