Fairy Tail: Odd Elf Out   作:匿名の遅筆

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鎧の魔導士 / VS.エバルー公爵

フィオーレ王国 シロツメの街へ向かう馬車の中

 

馬車が街道の凸凹に合わせて小刻みに揺れている。

 

車窓からかすかに漏れる鳥の鳴き声に耳をやりながら、膝に横たえた杖の上に、今月買ったばかりの魔導書を広げる。

 

出かける前に愛用のクッションを持ってきたことは正解だった。こんなに堅い馬車の座席に1時間も座っていたら、今頃お尻の皮が剥けていただろう。

 

翼(エーラ)を使えばすぐに着く。けれど、空の上には出会いがない。新しい魔法を手に入れるためには多少の苦労が必要だ。

 

でも次回からは、もう少しお金を積んで、いい馬車に乗ろう…

 

現在、私がこなしている指名依頼は、各地に散らばる黒魔術由来の魔道具の封印、あるいは破壊。

 

目的地はシロツメの街。そこでエバルー公爵が、目当ての魔道具『暗黒剣』と『呪歌ララバイ』の封印を管理している。

 

魔道具の封印場所はフィオーレ王国の機密事項であり、国内の権限者以外は知り得ない。

 

魔法評議院は大陸中の魔導士を束ねる自治組織とはいえ、一国の政治にまで口出しできるほどの力はない。

 

少なくとも、この国では、王国政府の方に分がある。

 

その結果、事前に王国側へ開示を申請し、許可が下りるのを待って、ようやく公爵から話が聞ける、という手順を踏む必要がある。

 

ややこしいし、面倒くさい。

 

本を閉じ、メモに書き記した魔道具の詳細を読み返す。小刻みな振動のせいで、字面が少し追いにくい。

 

『暗黒剣』:触れたものを腐敗させる黒い剣。製作者、製作年、ともに不明。黒魔導士ゼレフを信奉する教団が所持していたものを魔法評議院が押収し封印。

 

『呪歌(ララバイ)』:笛の先についた三つ目の髑髏が特徴的。音を聞いたものをすべて呪殺する笛。元々効果の小さい黒魔術の道具だった笛を黒魔導士ゼレフが強力な呪殺の道具に変えたと言われている。

 

危険な魔道具、厄介な権利関係。

 

他の魔導士が受けたがらず、私に依頼が回ってきた理由が分かる。

 

メモをしまい、窓の外を流れる並木を眺めながら、今何をしているのか分からない彼に思いをはせた。

 


 

フィオーレ王国 マグノリア フェアリーテイル

 

時刻は昼前。

 

長期の依頼から帰還したもの、これから依頼に行くもの、昼飯時まで暇をつぶすもの、ギルドに一番人が集まる時間帯。

 

アタシは今月の家賃を稼ぐために、リクエストボードの前で依頼を吟味していた。

 

「『魔法の腕輪探し』、『呪われた杖の魔法解除』、『占星術で恋占い希望』、『火山の悪魔退治』…うーん」

 

多種多様な依頼書がボードに張り出されているが、報酬金が高くて、アタシにも出来そうな依頼となると、全く見つからない。

 

戦闘は苦手だし、力仕事はこのしなやかで美しい体には似合わないわよね~なんて冗談を言ってる場合じゃない。

 

今月は家賃の支払いが厳しいから是が非でも仕事を見つけないと!

 

アタシはいつもリクエストボードの前にいるナブに声をかける。

 

「ねぇナブ、報酬金額が高くて楽な仕事の依頼書の見つけ方教えて?」

 

「そんなのあったら教えねーよ。この前のエバルー屋敷の1冊200万J(ジェニー)の仕事はどうしたんだよ、実入りはいいだろ?」

 

ナブに痛いところを突かれる。

 

先日、アタシとナツ、ハッピーはエバルー公爵の屋敷から本を1冊盗み出して破棄する仕事を請け負った。

 

大好きな作家ケム・ザレオンの未発表作を読めたし、ケム・ザレオンが息子のカービィ・メロンさんに残した特別な魔法を解き明かすこともできたから気持ち的には大満足。

 

ただ、メイドの恰好をさせられたり、エバルー公爵がケム・ザレオンを脅した上で監禁し、無理やり本を書かせる最低な奴だったりで散々だった。

 

本を盗み出すこと自体は達成したんだけど、本は破棄しなかったから…

 

「依頼主のカービィさんはくれるって言ってたのに、ナツが報酬蹴っちゃって素寒貧よ。お金を稼ぎ続けないと生活が回らなーい」

 

「魔導士ってのはそんなもんさ。ルーシィもフェアリーテイルに慣れてきたな」

 

そんなこんなで、なかなか仕事が決まらず、リクエストボードで立ち往生しているとミラさんが声をかけてくれた。

 

「ゆっくり選んでね。依頼書だけじゃ良く分からない仕事内容も多いから。そういうのを見極めるのも魔導士に必要なスキルよ」

 

「ミラさん!」

 

このギルドに入ってから、ミラさんには色々なことを教えてもらって、お世話になりっぱなしだ。

 

「それと、気に入った仕事があったら私に言ってね。今はマスターが定例会でいないから」

 

「定例会?」

 

「地方のギルドマスターたちが集まって定例報告をする会よ。評議院とはまた違うんだけど…口より書いた方が分かりやすいわね。リーダス、光筆貸してくれる?」

 

「ウィ」

 

ミラさんはリーダスから借りた魔法アイテム光筆で空中に図を描いてくれる。

 

ミラさんが描いてくれた図を眺めながら、アタシは話を頭の中で整理してみる。

 

一番上にいるのは、評議員と呼ばれる十人。各国政府とも直接繋がりを持つ、魔法界の最高権力者たちなんだそうだ。

 

魔法界の秩序を守るのが仕事で、罪を犯した魔導士を裁く権限まで持っているらしい。

 

国家とも渡り合える組織なんて、想像していたよりずっと大きな話ね。

 

その下に並ぶのが、各地のギルドマスターたち。

 

評議院の決定を各ギルドへ伝えたり、ギルド同士の連絡を取り持ったり、ギルドメンバーをまとめたりするのが仕事だという。マスター同士が顔を合わせる定例会もその仕事の一環らしい。

 

「知らなかったなぁー。ギルド同士に繋がりがあったなんて」

 

図を見ながらうなずくアタシに、ミラさんはにこりと笑った。

 

ギルドは自分たちを中心にして活動しているものかと思っていたが、組織的に動く社会だったことに感心する。

 

「ギルド同士の連携は大切なのよ。これを疎かにしていると…」

 

「黒い奴等が来るぞぉ~」

 

「ヒィ!」

 

ナツが後ろから脅かしてきたせいで、思わず声を上げてしまった。

 

「ナツ!脅かさないでよ!」

 

「でもね、黒い奴等は本当にいるのよ」

 

ミラさんが図に新たに描き加える。

 

「闇ギルド、評議院に認可されていないギルドのこと。時には犯罪にも手を染める悪質な連中よ」

 

「へ、へぇ~」

 

そんな物騒な話を聞かされると、この賑やかなギルドがどこか別世界のように思えてくる。

 

場の雰囲気などどこ吹く風でナツが笑いながら話す。

 

「つーか、早く仕事選べよ」

 

「なんでアンタにそんなこと言われなくちゃなんないわけ?」

 

「だって俺たちチームだろ?」

 

「前はオイラたち勝手に決めちゃってたからね。今度はルーシィの番」

 

ナツとハッピーはそんなことを言っているが、エバルー屋敷の一件でアタシは懲りた。

 

ナツたちに付き合っていたら、まともに仕事なんかこなせない。

 

それに、チームなんて言っているけどエバルー公爵が好みそうな金髪の女だったら誰でも誘っていたってことに腹が立つ。

 

「冗談、チームなんて解消に決まってるでしょう。あんた達金髪の女だったら誰で良かったんでしょーが」

 

「何言ってんだ…その通りだ」

 

「ほらー!!!!」

 

ナツが笑顔で言う。

 

「でもルーシィを選んだんだ。いい奴だから」

 

……裏表のない笑顔でそういう事を言われると、恥ずかしいような、心がむずがゆいような気持ちになる。

 

アタシは下がっていた口角が自然と上がりそうになるのを、唇を柔らかく噛み、押しとどめる。

 

話を聞いていたのかグレイが声をかけてくる。

 

「なぁーに、無理にチームなんか決めなくても、すぐに嫌ってほど誘いが来るさ」

 

そんな凄い活躍をしたつもりはないんだけど…

 

「傭兵ギルドの南の狼の二人とゴリラみてーな女やっつけたんだろ。すげーや実際」

 

「そ…それ全部ナツ」

 

「テメェかこのヤロォ!」

 

「文句あっかおぉ!?」

 

グレイとナツがメンチを切り合い、小突き合いから殴り合いが始まる。

 

今の会話で喧嘩する要素あった?

 

呆れていると、ギルドの扉が勢いよく開かれる。

 

「大変だぁー!!」

 

そこにはロキがいた。

 

「エルザが帰ってきた!」

 

「「「「「なにぃー!」」」」」

 

ロキの一言でギルド全体が騒然とした雰囲気に変わる。

 

ズシン…ズシン…

 

床を揺らす振動とともに現れたのは、軽く2mは超える巨大な角を肩に担いだ、真紅の髪の女性だった。

 

整った、気品のある美貌の持ち主。

 

ズドッ!

 

彼女は担いでいた角を降ろす。

 

「今戻った、マスターはおられるか?」

 

「お帰りエルザ。マスターは定例会よ」

 

その一声だけで、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る。ミラさんはにこやかに接するが、他のメンバーはにわかに背筋を伸ばす。

 

「エルザさん…そのバカでかい角、なんすか?」

 

「討伐した魔物の角だ。地元の者が土産にと飾りを施してくれてな…迷惑か?」

 

「いえ滅相もない!」

 

鋭い目でギルド中を見渡した彼女は、数人の名を挙げて短く釘を刺した。飲み方、態度、仕事ぶり。それだけで、ギルド全体がやけに行儀よくなる。

 

「ちょっと口うるさいけど、ちゃんとした人みたい」

 

「アイ、それがエルザです」

 

彼女の視線がふと、気まずげに肩を組んでいるナツとグレイに向いた。

 

さっきまで喧嘩してたのに、いつの間に肩を組んだんだろう…

 

「そこにいたか、ナツ、グレイ」

 

「や、やぁエルザ…オレたち今日も仲良くやってるぜぃ」

 

「あ゛い」

 

「そうか、親友なら時には喧嘩もするだろう…しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」

 

「あ…いや親友って訳じゃ…」

 

「あ゛い」

 

ナツはビビりすぎて、さっきから『あ゛い』しか言えてない。

 

「こんなナツ見たことない…」

 

「ナツは昔エルザに喧嘩を挑んでボコボコにされちゃったのよ」

 

ミラさんが小声で教えてくれる。

 

ギルドメンバーから聞く限り、殆どのメンバーがエルザにボコボコにされていることが分かった。

 

「ナツ、グレイ、お前たちに頼みたいことがある」

 

エルザの声のトーンが変わった。

 

「仕事先で少々厄介な話を耳にした。本来ならマスターの判断を仰ぐところなんだが、早期解決が望ましいと私は判断した。力を貸してほしい」

 

ギルド内がまたざわつく。

 

「どういう事?」

 

「あのエルザが誰かを誘うとこなんか初めて見たぞ!」

 

「こんなデケェ角を持つ怪物を倒す女だぞ…」

 

一体何があるんだろう。

 

「出発は明日だ。準備をしておけ」

 

「あ、いや、ちょ」

 

「行くなんて言ったかよ!」

 

「詳しくは明日話す」

 

ナツとグレイは勝手に決められたことに抗議をするが、エルザはそんなもの聞かず帰ってしまった。

 

「今まで想像したこともなかったけど、これってフェアリーテイル最強のチームかも…」

 

ミラさんの口から語られるドリームチームの可能性。

 

そんな3人がこれから何に立ち向かうのかアタシには想像できなかった。

 


 

フィオーレ王国 シロツメの街

 

昼を過ぎたころ、ようやくシロツメの街へたどり着く。

 

腹ごしらえに近くのレストランで食事をとっていると町民の雑談が耳に入る。

 

「おい聞いたか、エバルー様の屋敷に賊が侵入したらしい」

 

「あぁ、なんでもフェアリーテイルの魔導士が派手に暴れたって話だ」

 

この話を聞いたらエルザが怒るだろうな。

 

問題を起こしたギルドの魔導士が、問題の被害者に会いに行く。私は今回の依頼が順調には行きそうもない予兆を感じていた。

 

「でもよ、正直俺はスカッとしたぜ」

 

「バカっ、めったなことを言うなよ。エバルー様の耳に入ったらどうするつもりだ?」

 

「カービィさんの件で、さすがに爵位は剥奪されるだろうよ。いつまで封建主義気取ってんだってみんな思ってたからな。いい気味だ」

 

エバルー公爵は町民に相当嫌われていたらしい。性格に難がある貴族や権力者は数えきれないほど見てきたが、膝元の町民にここまで嫌われるのは珍しい。真偽は定かではないが、自分をよく見せようともせず、権力を振りかざして暴れまわっていたことが町民の口からうかがえる。

 

レストランの窓側にいた町民が外を指さす。

 

「おい、あれ見ろよ。王国軍だぜ」

 

「あっちは評議院の強行検束部隊ルーンナイトだ」

 

「恐らくエバルーが魔導士だから検束部隊が来たんだろうが…」

 

「こりゃあ、エバルー家はあのボンクラ公爵の代で終わりだな」

 

土ぼこりを巻き上げながら王国軍と検束部隊が公爵邸へ向けて駆けていく。

 

会計を済ませた私は、地面に残された轍(わだち)をたどりながら公爵邸へ向かった。

 

 

 

私が公爵邸に辿り着いたころには、すでに王国軍と検束部隊が屋敷を包囲している最中だった。

 

「エバルー公爵、速やかに出てきなさい。いるのは分かっている!」

 

「貴様には国家大権の僭称(せんしょう)の容疑がかかっている。我々は国王様の勅命により裁判が行われる明後日まで貴様を拘束するよう仰せつかった!」

 

「我々フィオーレ王国軍と強行検束部隊ルーンナイトは屋敷を包囲した、逃げられないぞ!」

 

私がどうしたものかと頭を悩ませていると検束部隊の1人が話しかけてきた。

 

「お嬢ちゃん、ここは危ないから離れていてね」

 

さわやかな笑顔が特徴的な小柄な金髪の少年。

 

「エバルー公爵に用事があってね。捕まえる前に彼に話を聞きたい」

 

笑顔を崩さず、少年の目に疑義の念が宿るのを感じた。

 

「お嬢さん、名前は?」

 

私は袖を捲り、右肩のマークを見せる。

 

「フェアリーテイルのフリーレン。評議院の依頼でエバルー公爵に魔道具の封印場所を聞きに来た」

 

彼からの疑いは晴れたようで、変わらぬ笑顔で自己紹介をした。

 

「こんなに美しい人が噂に名高いフリーレン様だったなんて。僕はルーンナイトのイヴ・ティルムです、よろしく」

 

「よろしくイヴ、でも様はやめてね。出来れば拘束する前にエバルー公爵から話を聞きたいんだけど…」

 

「あちゃー、ダブルブッキングですね。エバルー公爵は速やかに拘束せよが国王のお達しだから、話が聞けるのは早くて明後日の裁判の後になると思います」

 

明後日…ここで時間を無駄にしたくない、多少強引でも聞かせてもらうしかないか…

 

「すぐ済むから、話を…」

 

「フェアリーテイルだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

突然、地中から1人の男が飛び出してくる。

 

「貴様貴様貴様等のせいで我輩は!」

 

ひどく興奮しているようだが、この男がエバルー公爵だろうか。その風体はとても公爵と呼べる気品はなく、ひどくやつれた顔にボロボロの服、つるりとした頭だけが光を放っていた。

 

イヴが私の前に出る。

 

「エバルー公爵だな!国王の命により、貴様を拘束する!」

 

「ふざけるな!拘束されるべきなのは我輩ではない!そこのフェアリーテイルのコソ泥だ!」

 

コソ泥…あぁうちのメンバーが何か盗んだんだろうな。町の人たちの口ぶりを聞く限り、同情には値しないようだけど。

 

エバルー公爵が再び地中に潜る。

 

「土潜(ダイバー)か!」

 

「拘束魔法を放て!穴から出てきたところを叩くんだ!」

 

エバルーは王国軍と検束部隊の包囲網を縦横無尽に駆け巡り中々捕まらない。イヴが私を庇うように半歩前へ出て、周囲の王国兵、ルーンナイトたちはエバルーを探して右往左往していた。慌ただしく動き回る足音を他人事のように聞きながら、私は状況の変化を見守っていた。

 

「ぬぅおぉぉぉっ!開け!彫刻具座の扉!カエルム!」

 

「星霊魔法!?」

 

光と共に金属質な球体が現れる。

 

「カエルム!馬鹿どもを撃って撃って撃ちまくれぇ!」

 

エバルーの命令によりカエルムの形状が砲台に変化し、砲台の銃口に光が宿る。

 

「マズい!検束部隊は防御魔法を展開、王国軍を守れ!」

 

カエルムの砲口がうなりを上げ、白い光線が幾筋も奔った。

 

着弾。着弾。着弾。

 

地面が次々と抉れ、土煙が視界を覆う。魔法から身を守るすべを持たない王国軍は光の雨の中動けず、検束部隊は彼らを庇うだけで精一杯だった。

 

「エバルー!貴様も貴族の末席に名を連ねるものなら、潔く身を引け!これ以上その名を汚すな!」

 

光線の雨の中でエバルーはただ1人狂ったように笑っていた。

 

「ボヨヨヨヨヨヨ!我輩は偉大なのだ!それが分からぬ馬鹿どもは皆死ねぃ!」

 

破れかぶれだね。

 

私の前に立っていたイヴが右手を構える。

 

「仕方がない!フリーレンさんは少し離れて!ホワイトフューリー!」

 

冷気と氷のつぶてがエバルーに向けて放たれるが、エバルーは地中に潜って避ける。

 

「またかっ!いい加減にするんだ、エバルー!」

 

「私がやる」

 

私はイヴの前に出て杖を構える。杖を頼る機会はもうめっきり減ったけれど、これだけは今でも手放せずにいる。

 

土の中を這いまわる魔力の揺らぎは、隠れているつもりでも丸見えだ。

 

エバルーの潜った位置に七つの魔法陣が音もなく浮かび上がる。

 

「天照漆式(あまてらすななしき)魔法陣」

 

刹那、閃光とともに魔法陣が爆発を起こし、抉られた地面からエバルーが打ち上げられる。

 

「のわぁぁぁぁ!?」

 

すかさずイヴが魔法を唱える。

 

「ホワイトロック!」

 

エバルーは体を雪で拘束され、雪だるまのようになり地面を転がった。

 

「こんなもの我輩の土潜(ダイバー)で!」

 

再度ダイバーを発動し、エバルーは逃走を図る。

 

何度目の逃走だろう、数えるのも馬鹿らしくなってきた。

 

エバルーは雪塊が重くて潜りきれず、雪玉のまま藻掻いていた。

 

私はゆっくりエバルーに歩み寄る。

 

指先にともした種火が、瞬く間に拳を覆う紅蓮の炎へと育つ。

 

イヴが叫ぶ。

 

「もう終わりだ、悪あがきはよせ!」

 

「終わり?ボヨヨヨヨ!我輩は終わらぬ!我輩は偉いのだ!王よりも偉…」

 

鼓膜を叩く炸裂音。私の拳がエバルーの顔面に深くめり込む。衝撃はエバルーを拘束していた雪塊を砕き、彼を吹き飛ばす。

 

「ふーっ、イグニール直伝、火竜の鉄拳・擬(モドキ)」

 

「グボォア!」

 

吹き飛んだエバルーは何度かバウンドした後倒れ伏し、王国軍と検束部隊に拘束される。

 

「割って入っちゃってごめんね。少しやりすぎたかも」

 

「少しって…」

 

イヴは白目を剥いて気絶しているエバルーと私を見比べる。

 

「もしかして、僕らの魔法、最初から要らなかったんじゃ…」

 

「そんな事ない、皆で頑張ったからだよ」

 

イヴは乾いた笑いを漏らした。

 

「フリーレンさんは意外と武闘派なんですね」

 

「ギルドの魔導士は何でもこなせないといけないからね」

 

出来れば穏便に済ませたかったんだけどね。

 

「なるほど。そっかーギルドかぁ」

 

イヴはギルドに興味があるのか感慨深そうに呟いた。

 

検束部隊の1人が私たちの方へ来る。

 

「イヴ隊長!エバルーの拘束、完了しました!」

 

「分かった。フリーレンさん、この度のご協力感謝します。面会の手続きはこちらで進めておきますので、また後日…」

 

私はイヴを無視してエバルーの元へ向かう。気絶しているエバルーを引っ叩いて起こす。

 

「フリーレンさん!?なにを…」

 

私の突然の行動に周囲がざわめくが無視する。

 

「エバルー、魔道具の封印場所はどこ?」

 

「ボヨヨヨヨヨ!貴様には何も教えてやらんわ、ここまで来て何も得られぬとはさぞ悔しかろう!」

 

憎たらしい笑顔でエバルーは私を嘲る。

 

私は立てた人差し指と中指をくっつけて自らの頭へ向ける。

 

「そう…この方法は好きじゃないから使いたくなかったんだけど。もう一度聞くよ、魔道具の封印場所はどこ?」

 

「そんなもん、我輩には分からんな~」

 

「オニバスとクヌギに移した…領地外か…行くとこまで行ったね、エバルー」

 

「自らの責務を放棄したというのか!エバルー公爵なんということを!」

 

「し、知らん!我輩は何も言っておらん!」

 

相手の心が読める魔法『念話(テレパシー)』の前では隠し事をしても無駄だ。しかし、聞きたくないことも聞こえるから私にとっては多用したくない魔法でもある。

 

この魔法を教えてくれたギルドメンバーのウォーレンはそこらへんうまい具合に調節しているみたいだけど。

 

周りの誰かが私の容姿に下卑た感想を向けている声も聞こえている、何を食べたらそんな考え方が……やばぁ。

 

気持ち悪くなってきた私は念話(テレパシー)を使うのをやめる。

 

「じゃあ私は行くね」

 

「フリーレンさん、ありがとうございましたー!」

 

手を振り私を見送るイヴに手を振り返し、逃げるようにその場を立ち去った。

 

目指すはオニバスとクヌギ。

 

エバルーが無茶な移動のさせ方をしていた場合、封印が解けている可能性もある。今は、研究だ何だと言える状況じゃないことは確かだ。

 

「翼(エーラ)!」

 

私の背中に大きな翼が現れる。翼を大きくはためかせ、天高く飛び上がる。

 

私ははやる気持ちに任せて、オニバスに向けて加速した。

 

 




『火竜の鉄拳・擬(モドキ)』

フリーレンの必殺技の一つ

フリーレンはイグニールに滅竜魔法を教えてもらおうとしたが教えてもらえず、三日三晩駄々をこねた結果、音を上げたイグニールがやり方だけ教えてくれた。オリジナルのように火は食べられないし、滅竜の属性もないが、フリーレンの技術と膨大な魔力によりイグニールの一撃に負けるとも劣らない威力になった。なおこの駄々こね作戦はナツに咎められ、これ以降やっていない。
エバルーにはしっかり手加減した。
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