『お前も太陽から聞いているだろう、駅前一等地のホテルに行って皮下を捕らえてこい。任務が終わったなら暇なはずだ』
任務が終わったとほぼ同時に凶一郎さんから連絡が来た。あ、違法賭博会場の破壊&主催者の捕獲任務ね。
辛三も電車に乗って向かってるらしい。今フリーなのが僕と辛三だから行って来いって。
・・・辛三って人混み苦手だったよね? 大丈夫かなー。
電車に乗り込む。隣の車両には見覚えのある緑髪が。
移動してみたらやっぱり辛三。
「そっちもこの電車で移動してたんだ。やっほー」
「あ、夕雅・・・」
一瞬でホッとしたような表情になる。やっぱり怖かったんだね。
「辛三もホテルの潜入任務だよね?」
「うん。夕雅もだよね。兄ちゃんから連絡があった」
「人使いが荒いこと」
「まあ、あれが兄ちゃんだし・・・」
到着。ちょっと道に迷ったことはナイショ。
「確かここのホテルだよね」
「内部状況は確認できるか?」
「問題ないよ」
イヤホンを外す。うん、うるさいし頭痛い。
水の音、皿が割れる音、子供が走る音、猫の鳴き声、エレベーターの稼働音と到着音、空調の稼働音、・・・ヘリの音?・・・それと、小さいけど確かに上の方で壁が崩れた音がした。
「辛三、もしかしたらすでに戦闘中かもしれない。先に行ってる」
「わかった。俺も後で追いつく」
エレベーター・・・いや、階段のほうが速いね。全速力で駆け上がる(流桜も使用)と、結構早く最上階に着いた。
「ここだね」
ドアを開けると、異常に筋肉が膨れ上がった体格の男が太陽の首を絞めているところだった。なかなかまずい状況っぽい。
「太陽!」
「あに、き・・・」
「・・・仲間かしら。まあ、処分するだけね」
太陽を放り出し、そのままこっちに歩いてきた。
咲け。――
「・・・なかなかね。でも、そんなの通用しないわ」
「え、無傷?」
いやまあ見た目からして普通じゃないことはわかりきってたけど、それでも一切怯まないのは異常でしょ。いや、怯まないどころか片手だけで受け止められたんだけど。
そんな感じで驚いてると、一瞬で距離を詰めた相手が殴りかかろうとして来ていた。
反応がおく――
「ごっ!!?」
腹を殴られた。一応枝垂を間に挟めたけど、吹き飛ばされて壁に衝突する。ヒビ入ったかも。
「ぐふっ・・・なんですかその力。人間じゃないでしょう」
「あなたも大概よ。今の私が殴って普通に会話できるなんて、夜桜でもない限りありえないわ」
「たしかに夜桜家の一員ですけど、普通の人間ですよ」
人より耳が良いだけの普通の人間です。
立ち上がって、改めて枝垂を構える。
「・・・じゃ、続けましょうか」
「あなたタフね。そういうの嫌いじゃないわよ」
そうですか。そっちから言われても煽りにしか聞こえませんけど。
「まあ、私に傷はついてないけどね」
嫌味ですか?
狂い咲け。――
「あなたの技はさっき効かなかったはずよ・・・あら」
気にせず肉体を切り裂いていく。相手は血まみれ・・・と言いたいところだけど、浅い傷しか無かったからもう塞がってるね。再生能力も人外レベルか。
「・・・これも全然効果ない感じですか」
「効いてはいるわよ」
「一瞬で傷が消えてるじゃないですか。どうせ今の出血じゃ足りないのは明確ですし」
僕からすれば無傷に等しいんです。・・・今の僕には過剰なレベルの敵。
守ってもガードごと吹き飛ばされるのがオチだ。切っても再生される。・・・なら、毒しかないか。
流れろ。――
続けて――
麻痺毒、筋肉弛緩薬、神経毒、出血毒・・・。内蔵した全部をあの人にぶつける。
「煙たいわね」
結局これも効果ないっぽい・・・一応致死量のはずなんだけど。筋肉、再生力、耐毒性のすべてが異常なレベル。・・・まるで
辛三に一応伝えておこうか。
『一応連絡。筋力、再生力、耐毒性のすべてが異常なほどに高い。下手すれば七悪くんに匹敵するかも。何かしらのドーピング薬を服用した可能性が大』
『了解。もう少し耐えてくれ』
とりあえず通信はした。後は耐え抜く。
「・・・でも、僕じゃ難しいんだよねぇ」
「もう手は尽きた感じかしら。なら死になさい。一撃で沈めてあげるわ」
そのままこっちに来た。動きも馬鹿みたいに速い。筋力が上がってるからそりゃそうか。
「兄貴ぃ!」
流石に最後まで抵抗させてもらうよ。
防げ。――
でも枝垂が逆に弾かれてしまう始末。固さも上がってるぽいね。
全くと行っていいほど動きは止まらず、僕は後ろへ殴り飛ばされた。そのままドアにぶつかる。
「っ、だあ・・・」
下手したら骨折したかもしれなかったけど、幸運だった。ドアの方に吹き飛ばされたおかげで、衝撃が減ってくれた。いやまあ体は痛いんだけどさ。
その時、床からゴミ箱が来た。そして大量の銃火器が登場する。
大量の弾幕が相手を襲い、そのまま辛三が中から出てくる。大量の武器と一緒に。
そのまま弾幕が敵に向かった。結局今の一瞬で何発打ち込んだの。
「遅れてごめん、太陽、夕雅」
「ありがとう、辛三」
めっちゃ体は痛いけどなんとか生きてる。
「金級スパイ、夜桜辛三。可愛い相手じゃない」
・・・辛三の弾幕でもほぼ無傷って。なんなのその耐久力は。
「夕雅と太陽の通信から聞こえた。なるほど確かに再生機構は七悪みたいだ」
えげつない弾幕で相手を追い詰めている感じに見えるけど、おそらくあんまり効いてないんだよね。
とか考えてたら、太陽が投げ飛ばされた。
「えっ!?」
「ちょ、辛三!?」
直後にパラシュートが開く。
「敵の増援もありうる。俺と夕雅で凌ぐから、太陽は家に戻って・・・っ!」
相手が辛三に襲いかかった。さっきの弾幕でもやっぱり全然ダメージなしか。
「さすがは夜桜ね。この体と張り合うなんて。でも、私の歯に仕込んだスイッチを押せば、このホテルを一般客ごと吹き飛ばせるとしたら?」
「「・・・!」」
相手が歯を食いしばったら負け。そういうことじゃん。
「私に歯を食いしばらせないため、あなた達ができること・・・わかるわね?」
辛三が腕から手を離す。僕も枝垂を下げた。
「そう。あなた達が耐えれば良いの」
殴られ続けて10分。僕もかなり殴られてるけど、辛三が僕の3倍は殴られてる。それでも倒れないなんて、味方ながらどんな耐久力してるんだろ。
まあそれよりもこの状況を打破しないといけないんだけどさ。
「あなたたち、呆れるぐらいにタフね。でも手出しできない以上は耐えてもムダだし、大人しく死んだら?」
「弟たちを残して死ぬのは嫌ですね。守れてすらいませんし」
「死ぬのは怖いから嫌だ。それに、別に耐えてるわけじゃない。ただ待ってるだけなんだ」
「・・・待ってる・・・?」
その時、下から銃声が。太陽がテロリストに扮してお客さんたちを逃がしてる。
「夕雅、今のうちだ」
「了解」
吹き飛べ。――
「・・・こんなハリボテで夜桜の力を名乗るのは家族への侮辱だ。撤回してもらうぞ」
「フフ・・・そのハリボテにすらとどめを刺せないようじゃ・・・」
その時辛三が巨大な武器を取り出した。・・・そんな重そうな武器持ってよくあんなに動けてたね。
「夜桜式電気銃大型零号機『春雷』。複雑な作りと反動の強さから、家族で唯一俺だけが打てる」
「フフ、たしかに威力は凄そう。だけどそんな隙だらけの切り札じゃ簡単に避けられ・・・っ!?」
相手の足元が爆発。立つのも不安定になって動きづらくなった。
「起爆装置とカメラをハッキングした。お前の敗因は俺と対峙したことじゃない。俺の弟を見逃したことだ」
「・・・参ったわね」
そして閃光が発射。いや閃光どころじゃなかった。雷。
「フフ・・・いい男たちね。シビレたわ」
そのまま耐えられずに床に倒れる。
「・・・ああ、怖かったあ〜」
「お疲れ様ー、辛三」
太陽に連絡を入れておこうか。
『敵は無力化。今から辛三とそっちに向かうね』
『了解』
「太陽に連絡入れたし、さっさと合流しよう」
下を歩いていると、太陽が立ってた。
「あ、いたいた」
「兄貴!辛三兄さん!」
「お客さんたちの避難ありがと。助かったよ」
「太陽ならきっと援護してくれると思ったんだ!ありがとな・・・っ!?」
その時、とあることに気づいた。
「・・・太陽、
「え?」
太陽の服が血まみれ。なんで今立ってられるのかわからないくらいの出血。いつそんな怪我を?
そのまま身体が傷に気づいたかのように、ゆっくりと床に倒れていこうとする。辛三がすかさずキャッチしてくれた。
「太陽!しっかり!」
「太陽!」
・・・まず応急処置をまずしないと。傷が多いしこのままじゃ死んじゃう。
「すぐに応急処置。辛三、輸血はある? 針と糸、止血剤は持ってる」
こんな傷ができるなんて予想してなかったから持ってきてなかった。持ってきとけばよかった。
「夕雅!これ!」
持ってたか。ありがとう辛三。
「僕は右半身を縫う。辛三は左をお願い」
「わかった・・・って速!?」
「傷が多い。さっさと縫わないと出血で命に関わるよ」
七悪くんに縫い方教えてもらっててほんとに良かった。そうじゃなかったらどうなってたことか。
「臓器を中心に数十か所撃ち抜かれてる。峠は超えた感じだけど、兄ちゃんたちの応急処置がなかったら今頃助かってなかった」
「太陽・・・」
六美ちゃんが太陽の手を握ってる。峠は超えたから大丈夫だと思いたいけど・・・
「当分意識は戻らないし、絶対安静で・・・」キュッキュキュキュ
その後ろで凶一郎さんが太陽の酸素マスクと顔に落書きしてる。うん、流石にキレた。結構本気で花吹雪。
肉塊が完成。
「痛いな〜二刃に夕雅。ちょっと場を和ませようとしただけだろ〜?」
「「時と場所を考えな(てください)」」
「ここが病室だから手加減したんだ。ありがたく思え」
「七悪くん、
「はーい。ということで、家族以外面会謝絶です」
「長男なのに?」
肉ミンチになった凶一郎さんが部屋の外に放り出された。
「治るのに時間はかかるだろうけど、後遺症とかは残らない見込みだよ。僕達が普段使ってる薬なら早く目が覚めるかもしれないけど、不安だからね」
「夜桜の血だからこそってこと?」
「そうそう。結構劇薬もあるからね。まあそれは最終手段だし、いらないか『ホーホケキョ!』あれ?」
「え、時報? でも時間が違うし・・・バグっちゃった? 四怨、直せる?」
「違う、侵入警報だ。この時計は時報の他にも侵入者の数を検知して知らせる警報でもある。10人以下だと『カラス』、100人以下だと『ニワトリ』。で、今回みたいな『ウグイス』の時は・・・1000人以上だ」
「てか、何気にウグイスが鳴いたの何年ぶりだ? ニワトリとかは前にもあったけどさ」
「まあ、侵入者には変わりない。さっさと撃退するよ。そこで凶一郎も聞いてるんだろ? さっさと準備しな。六美はここに待機だね」
「四怨、外の状況はどんな感じ?」
「夕雅たちが戦ったのに似てるやつばっかだな。ほぼ確でタンポポの仕業だろうな」
「了解」
「じゃ、さっさと撃退しに行くよ」
外に出ると、禍々しい体の人ばっかり。とか思ってたら、ゴリアテが巨大化した。・・・ナニソレ。
「はえ?」
「ん、夕雅は見るの初めてだったか? ウチのゴリアテは巨大化できるんだ」
「・・・本当に犬?」
「一応犬だ。ばあちゃんたちの時からウチにいたとしても、今の姿よりもデカくなれるとしても、車の運転もできるとしても、ちゃんと犬だ」
いや車の運転て。全く知らない情報出てきた。
「人外エピソード・・・いや今回だと
「ウチで暮らしてる時点で今更だろ」
「それもそっか」
「無駄話もほどほどにしな。・・・侵入者に警告するよ。今、うちには怪我人がいるんだ。お引き取り願おうか」
「オイ二刃さっき本気で殴ったろ奥歯グラグラするんだけど」
自業自得です凶一郎さん。
暴れろ。――
「うげあっ!」
「・・・テメェ!」
「予想してたけど、やっぱり耐久力が上がってるか」
沈んでくれたのはたったの1人。全員この前の人みたいに耐久力が上昇してるっぽいね。
「なるほど、夕雅と辛三が言ってた通りしぶといね。普通あたしに投げられたら1日は目覚めないのに」
「僕の麻酔も効かないよ!」
「弾をいくらブチ込んでもビクともしねぇッ」
皆も苦戦してる感じ。・・・厄介すぎるでしょこの人たち。
「いくらタフでも雑魚は雑魚だよ。白兵戦は人生と同じ!全身あるのみ!」
「それ1万回くらい聞いたわー」
「結局ゴリ押し戦法なんですね・・・」
まあそれが一番楽なんでしょうけど。
そのまま5分くらい膠着状態。
ドォン
「何の音!?」
屋敷の方を見ると、壁が崩れてゴリアテの尻尾が横たわってるのが見えた。
「ゴリアテ!?」
「一体何が・・・」ザザザ ザー
イヤホンから通信音が。四怨かな。
『『冬ごもり』起動』
四怨じゃなかった。というかこの声誰? 男声だけど聞いたことない。
そう思っているうちに、一瞬でこの前みたいな壁が現れる。内部と遮断された。
「今の声は・・・!」
「四怨、誰か知ってる声?」
「あ、・・・夕雅はまだ知らなくていい」
・・・『まだ』ってのが気になるけど、一旦は忘れよう。まずはこの人たちをどうにかしてからだね。
「とりあえず、あたしは通信を復旧する。嫌五たちはどうにかしのぎ続けてくれ」
「「「「了解」」」」
さーて、何分ぐらい持ちこたえられるかな。
「だーもう硬ってぇなこいつら!姉ちゃんが投げても兄ちゃんの爆撃でも止まらねえなんてどんだけだよ!」
「あと3分耐えろ嫌五!そしたら通信が復旧する!」
いつの間にかガラスで作られたシェルターに四怨が入ってた。ヘルメットも被ってる。防弾、防刃性だから安心。・・・だと思う。
「僕もサポートするから、とりあえず耐え切ろ」
「へーい」
『ぃよっしゃあや〜っと繋がったぜコノヤロチクショーめ!!そっちは無事か!?』
あ、復旧したか。3分経ってない気もするけどね。
『大昔に使われてた緊急ホットラインを再構築したんだ!』
通信も問題ないっぽいね。あとはこの人たちを撃退するだけか。もう準備は始めてる。
『よし、とりあえず冬ごもりは解除せずに待機してろ!つーわけだ姉ちゃん!』
『ああ、了解。さて、
「「「『『はーい』』」」」
辛三が地面の下に超巨大なゴミ袋を用意して、僕と七悪くん、そして嫌五で中心に誘導する。あとはそのまま全員をくるんで二刃さんに投げ捨ててもらうって感じの作戦だって。
『夕雅と嫌五、そっちはどうだ?』
「ほいよ、こっちは順調でーす」
「確か1000人くらいだったっけ? たぶん誘導できてるよ」
「夜桜当主だ捕まえろォ!」
「8000万もいるぜェ!一網打尽のチャンスだァ!」
六美ちゃんに変装した嫌五を僕が運びながら逃げ回ってる。七悪くんがゴミ袋の中心で待機してるから、そこまで走って行く。よし到着。
というかスルーしかけたけど人をお金で呼ぶのやめません?
「っしゃ袋のネズミだァ!もう逃げられねえぜェ!?」
「きゃー怖い助けて七悪ー(棒)」
もうちょっと演技しなさい。いやまあいいけどさ。
「兄ちゃんたち、しっかり捕まっててね」
嫌五が七悪くんの腕にしがみついた。
「じゃ、夕雅お兄ちゃんお願い」
「はーい」
吹け。――夜吹雪《よふぶき》。
七悪くんのパンチを僕の風で増強する。すると・・・
「よいしょっ」
「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」
穴ができ、さっきの人たちは全員落下。すごい威力だよね。元々小さい空間は作ってあったけどこの広さはなかった。
相当な攻撃力だよね七悪くんって。
「おひょー、すげー光景」
「なっ、落とし穴!?」
「逃げてる人は・・・いなさそうだね。辛三、準備できたからやっちゃって」
『了解』
そのままクレーンで袋が閉じられ、でっかいボールができた。内部からは銃声とかが聞こえてるけど、傷1つついてない。
「銃とかでも傷つかないんだ。すごい硬いね」
「爆弾とか捨てることもあるしな。丈夫じゃねーとまずいことになんだよ。・・・お、姉ちゃんも準備できたか」
「さあ、くるよ!」
思いっきりゴミ袋が投げ飛ばされた。どういう技術なんですか二刃さん。
「これやると肩こりが酷いんだ。二度と来るんじゃないよ」
まいっか、さよならー。
ガシャンガシャンガシャンガシャン
そして冬ごもりが解除。
「皆!」
屋敷内から太陽と六美ちゃんが登場。
「2人とも無事で良かったー」
「太陽が守ってくれたのよ」
「たいよおおおおおおお!」
思いっきり辛三が太陽に抱きついた。・・・あれ? 普通は太陽押し倒されると思うんだけど。
「ごべんよ゙俺のぜい゙でえ゙え゙ええええ!」
「いや、兄さんのせいじゃ・・・うっ、鼻水・・・」
まあそれは後で考えるとして。辛三ー、ちょっと泣き止もうかー?
「でも、どういうこと? あんなに重症だったのに・・・」
「後でゆっくり話すね」
「りょーかい。・・・ん?」
二刃さんが森の方を見てた。
「どうかしました? 二刃さん」
「・・・いや、なんでもないよ」
ざっくりまとめるとこんな感じ。
敵が侵入→電源消された→当主の血を太陽に注入→太陽が覚醒→敵を撃退
「・・・って感じで、太陽も私たちと同じ体になったの」
「当主の血ってそんな効果があるんだ」
「一生に一度きりだけどね。それに相手の状態も関係してるらしく、健康な状態だとダメなんだって。瀕死の状態じゃないと体が耐えきれないそう」
「なるほどね。でもこれで僕が1番弱くなっちゃった感じかなー」
「いや、正直に言うが夕雅は異常だぞ。あたしたちから見てもだ。夜桜の血が入ってるわけでもないのにあたしたちについて来れてる。普通ありえねーことなんだよ」
「下手すりゃ小学校の頃のあたしといい勝負ができるかもしれないね。それぐらいにはあんたは強いんだ」
「辛三兄ちゃんじゃないけど体力もあるし。体術だけで見れば僕じゃ勝てなくなっちゃてるんだし。二刃姉ちゃんの特訓についていけるなんて嫌五兄ちゃんでも無理なんだよ?」
「というか今の太陽と夕雅が戦っても夕雅が勝つんじゃねーの? 夕雅に太陽が勝つビジョンが見えねぇ」
「そんなに実感はないんだけどね・・・。まあ、太陽も今回で・・・太陽?」
太陽の体が小刻みに揺れてる。何かの異常が・・・?
「ガ、ア・・・」
「太陽?」
その時、太陽が暴れ出した。
「ガアアアア!!」
「危ない!」
とりあえず地面に押さえつけるけど、全然止まる気配がない。というか馬鹿みたいに力が強い。
「どうして急に・・・!?」
「六美ちゃんは退避!数人で六美ちゃんの安全確保!残りは止めるの手伝って!」
すぐそこに凶一郎さんが戻ってきてるけど、あの人に任せたら太陽が死ぬ気がするから絶対ナシ。
「「「「「了解!」」」」」
「ガアアアア!!」
「太陽兄ちゃんしっかり!」
「いやー、皆無事で何よりだ。さあ屋敷に戻ってお茶でもしようか!」
どこをどう見たら無事と言えるんですか凶一郎さん?
「すごい力だっ・・・!なんで太陽が!?」
「さっき六美姉ちゃんの血を摂取したって言ってたけど・・・もしかしてソメイニンの過活性が・・・!?」
「正解だ、七悪。ソメイニンは全身の細胞を『覚醒』させ、筋力や知覚力を激増させる。だが『覚醒』の調節はとても難しく、しばしば過剰な情報に心身が耐えきれず暴走状態になる」
「だからこうなってるんですか・・・!」
あーもう全然止められない!というかヒビ入ってるところが折れそう!
「懐かしいな。小さい頃はうちの兄弟も時おり暴走が・・・」
「ウガアッ!!」
「おっとっ!?」
僕の腕が払い除けられた。その直後に太陽が鋼蜘蛛で固定される。それさっき来たときからしてくれたら楽だったんですけどねー。
「まあ、調節の習得は追々学んでいけ。まずは応急処置だ」
四怨がさっきシェルター内で使ってたヘルメットが被せられた。
「ありゃ? あたしのヘッドホン。いつの間に」
あヘッドホンだったのね。ゴツいからヘルメットだと勝手に思ってた。
「六美、血の投与時も暴走があっただろう。どうやって抑えた?」
「えっ、えっと・・・とにかく夢中で呼びかけたら収まって」
「なるほどな。今回は六美の美声だったが、近しい者の声や体臭といったように、暴走状態でも優先される知覚がある。そこを重点的に攻めることで処理能力をショートさせ、沈静化させることが可能だ。ということで六美、一曲よろしくな」
凶一郎さんが六美ちゃんにマイクを渡した。どっから出したんです?
「「「「「なっ・・・!?」」」」」
あれ皆めっちゃ驚いてる。
「待ちな凶一郎!他にいくらでもやり方が・・・!」
「いやこれしか方法はない。全ては太陽のため」
いつの間にか法被を来てペンライトを持ってる。アイドルの舞台を楽しむ人たちみたいな姿。
「100パーあんたが聞きたいだけだろ!!」
「いやー、久々に六美の天使の歌声が聞けるなんて♡お兄ちゃん楽しみ♡」
「ふざけんな六美は歌が好きじゃないんだ!太陽を盾に無理強いなんて・・・!」
「ううん、いいの二刃お姉ちゃん。太陽のためだもん・・・!」
そう言って六美ちゃんがマイクを構える。どんな歌なんだろ。
「夕雅は耳を塞げ!」
え? 横を見ると全員耳を塞いでる。
「いいからさっさと耳を塞げ!お前が聞くとイヤホンありでも命に関わる!」
「えどういうこと!?」
そう言いながらも耳は塞ぐ。その直後に、人間から出せるとは到底思えないほどの不協和音が聞こえてきた。マイク必要だった?
そして同時に太陽が気絶する。・・・六美ちゃんって超絶音痴なんだ。
「久々に聞いたけどやっぱり凄まじい・・・」
「天国見えた」
「あれ人間が出していい音? 太陽大丈夫?」
皆フラフラしてる。まあそりゃあの・・・なんていうか・・・その・・・これまでに聞いたことがない音だったからしょうがないか。
というかイヤホン貫通しないでよ。これ辛三と四怨の特製で音を97%カットするやつなんだけど。
「大丈夫息はしてるよ。太陽兄ちゃんの暴走が解けてる!」
「まさに天使の子守唄・・・!母さんの美声を思い出すなァ・・・!」
「そういえば母さんも超絶音痴だったねぇ・・・」
すぐそこで六美ちゃんが落ち込んでる。というかお母さん似なんだね六美ちゃんって。まあ顔立ちは確かに似てた。
「ま、まあ人は誰しも練習すれば上達するから・・・」
「ぼ、僕は六美姉ちゃんのお歌好きだよ!」
「ありがとう2人とも、慰めなくていいよ・・・」
練習しても無理なものは無理かもしれないけどね。
というか僕練習しても上手くならないものあるし。絵とか。
「・・・どうした、六美。顔色悪いぞ・・・?」
「あ、太陽起きた」
「よかった〜!」
皆太陽に抱き寄ってる。
「えっ、な、何かあったのか? 戦い終わった後のこと何も覚えてなくて・・・」
「何かはあったけど気にしなくていいよ」
「あっでもなんか世界が終わるような音が聞こえた気が・・・?」
「ゆっ夢!夢だよ!」
それが『何か』なんだけどね。すーごい音痴でございました。本音を言うなら二度と聞きたくない。
ま、結果的に全員無事で良かった。
・・・そういえば殺香ちゃん見てないけどどこ行ってるんだろ。
裏設定12
音楽は嫌いではないがオーケストラは音を楽しむより先に爆音を耐えないといけないため苦手。