「農園の監視、ですか」
「そうだ。近頃夜間に果物が盗まれる事件がそこ周辺で多発している。野生動物なのか、人間なのかの判断をしてくれという依頼が来た。もし人間だったら捕まえてくれとも言われている」
これスパイの仕事だっけ? ちょっと疑問に思う所あるんだけど。・・・ま、いいか。
「あー、まあ、はい。頑張ってきますね」
・・・帰ってきたら寝ることにしようかな。
「こんばんはー。ここ辺りの監視をしに来ました朝野です」
「おやおや、ありがとうねぇ。最近よく果物が無くなってるのよぉ。犯人を捕まえてくれると嬉しいわぁ」
「了解です。できる限りやらせていただきますね」
よし、まずはどこに隠れてようかな。
待機し続けておよそ4時間。ついに変化が訪れた。
ザッ,ザッ
小さいけど確かな足音。間違いなく人間の音だ。
ちょっと離れているから視認できる位置まで近づく。夜に活動している農家の人の可能性もあるため、まだ捕まえない。
視認できた。・・・目出し帽におそらく果物を入れるための物であろう袋。うん。多分これ黒だね。ちょっと話しかけてみよう。
「あれ、こんな時間にどうしたんです?」
「ぴっ!?」
僕の声に驚いたのか、変な声を出して僕の方を向いた。
「だ、誰だ!?」
「監視員です。農家の人に依頼されましてね。泥棒を捕まえに来ました」
「い、いや俺は何もしていないぞ!今日の分の見回りをしていただけだ!」
あ、そう来たか。・・・嘘、ついてみるか。
「残念ながら、監視カメラにちゃんと写ってたんですよ。5日ほど前に設置した新しいものですがね。あなたがそこのぶどうを盗んでいるところがはっきりと」
その言葉を聞いた男は何か安堵したような雰囲気になる。
「・・・う、嘘に決まってる!売ったのは2週間前だ!」
「ええ、嘘ですよ。・・・でも、あなた今売ったと言いましたね?」
「げっ!・・・ちぃっ!捕まってたまるかよ!」
「逃がしませんよ」
地面に落ちてた石を拾って投げつける。あ、首にクリーンヒット。起きてるかな?
倒れ込んだ男に近づいて、顔を持ち上げる。
「ねえ、なんでこんなことしてるんです?」
「ひっ!? ゆ、許してくれ!出来心だったんだ!頼む!」
「なんでこんなことしてるんです?」
「え? い、いやだから出来心で・・・」
「僕はなんでこんなことしてるのかって聞いてるんです。嘘はどーでもいいんですよ。早く答えないと痛い目にあいますよ」
そう言って指を眼球スレスレまで近づける。
「ひっ!?」
「早く答えてくださいよ、ねえ。どうせお金儲けのためなんでしょうが」
何も答えない。
「普通に働けばいいのに、なんでここを狙ったんですか?」
「ら、楽に金が欲しかったから・・・」
「へえ。じゃあ、なんで宝くじを買うとかにしないんです? アレも待っていたらお金が入ってきますよ。・・・当たればの話ですがね」
「そ、それは・・・」
「まあ、一定の確率で損するから、というのが大きな問題です。・・・ああ、聞き忘れてましたね。楽に金が欲しかったから、と言ってましたが、なんでここだったんですか? 近くにもいくつかありますよね?」
「・・・」
「まあ、わかってますよ。ここ以外の近くの農園は若い人手がいたり、侵入対策をしっかりしているところですからね。ここが一番楽だったんでしょう」
「・・・」
「何も言わないので正解だと仮定して話しますね。・・・もし何か同情できるような理由があって盗んでいたのなら、農家の人に事情を話してそのまま逃がしてあげるのも、まあ一つの手かなと考えていたんですが・・・」
「えっ!?」
一瞬で顔色が明るくなった。全然反省してないねこの人。
「反省の色が見えないようなのでそれはしません。逆に二度とこんな事ができないよう警察に届けます」
「そ、それは!」
「頼みごとは聞きませんよ」
後悔しているような素振りは一切見えなかった。多分出所したらまた繰り返すんだろうな。・・・普通に警察に渡せばいいかと思ってたけど、やめた。仏山さんにしよ。
「仏山さーん、いますかー?」
「いるぞー」
そんな声がして奥から出てきた。
「お、今回は夕雅か。・・・そのイモムシみたいなやつか?」
『今回は』って・・・警察から直々の依頼だったってこと?
「そうです。反省の色が見えないようなので、うっかり骨を折っちゃったり内臓がなくなっちゃったりしても問題ないと思います。『最近肝臓とかは結構高額ですよ』」
指文字の暗号で伝えておく。
「お、そうか。じゃあ、後はやっとく」
「ムグーー!ムーーーーーー!!」
「お願いしますね。では、また」
「おう」
帰ってから寝る時間あるかな。・・・まあ寝ても疲れ取れないしいいや。寝なかったら見ないから。
・・・もう5時か。まだ皆は起きてなさそう。いつも起きてる凶一郎さんは除いて。
「何しようかな・・・枝垂の練習でもしよ」
(訓練や練習の描写とか全然上手く書けてた気がしないのでこっちではもう全部飛ばします。一応pixivの方は軽めの練習描写が書いてあります)
数日後。
太陽にかかっている懸賞金が1000万を突破したらしい。
「おー。とうとうあいつも1000万突破か」
「ま、上がるペースはいい感じじゃね? 六美はそれの何十倍もあるけど」
ふえー。何がいい感じのペースなのかよくわからないけど、業界では太陽が有名になってきたってことかな?
「どんどん命とか狙われて死にかけたりするかもなー」
前言撤回。家族を狙う人は許さない。
「ま、大丈夫だろ。意外と頑丈なとこあるし」
また数日後。
最近の日課の枝垂の練習が終わり、室内に入った。
・・・大画面に知らない人がいる。誰あの人。
「誰? その人」
「あ、兄貴。こいつのこと?」
「そうそうその人その人。誰ー? 太陽の知り合い?」
「いや、六美のストーカー」
『六美ちゃん、僕と子ども作ろ♡』
「えい」ズボッ
コンセント抜いた。
『ふははは残念だったな!このテレビが充電内臓なのは把握済みなのだ!』
「この人社会的に殺すにはどうすればいいかな?」
「残念ながらそいつ『ぽぽっぽ店舗』の社長なんだ。多分情報規制されて意味ないと思う」
・・・『ぽぽっぽ店舗』?
「なにそれ。どっかのペットショップ?」
「え、夕雅お兄ちゃん知らないの? よくCMやってるおもちゃ屋なんだけど」
「うん。全然興味なかった」
「そもそも兄貴そんなにテレビ見る方じゃないからな」
「ま、それはそれとして。・・・こいつ以外にも私を狙うやつはいっぱいいるし、話題にする必要もないと思ってたの。・・・というか気色悪いから極力話題にしたくなくて・・・」
『見たまえ!子ども服も作ってあるのだ!』
うん。たしかに気色悪い。
そう思ってたら、太陽が六美ちゃんの方を抱き寄せた。
「いや、こういうやつにははっきり言ったほうが良い。六美が嫌がってるんだ。二度と近づくな」
おー。なかなかかっこいいよ太陽。
『フフ・・・そうか・・・』
諦めるのかな?
『てめェこそ気安く僕の六美に触るんじゃねえええ゙え゙え゙!ハゲコラーー!』
全然違った。凄い豹変。あと太陽はハゲてないよ。僕みたいにフサフサだから。
『クソ庶民の分際で
『社長!?』
あ、部下の人かな。
『ご乱心だ、取り押さえろ!』
『ん゙あ゙あ゙あ゙あ゙ブッ殺してええええええ!!』
「豹変すごいねー」
「ホント変なやつばっかり寄ってくるな・・・」
「うん、たまに自分で自分がかわいそうになる」
えーと、凶一郎さんにこの社長。・・・・うん。たしかに変な人。
『懸賞金なんかじゃ生ぬるい・・・僕と六美と世界平和の敵め・・・直々につぶしてやる!』
あの懸賞金もこの人が出してたんかい。
『今夜僕がいるぽぽっぽ店舗本店に一人で来い!決闘だ!』
「何っだそれ!?」
『ただしお客様の迷惑にならないように9時以降に来い!』
「なぜかそこは律儀!」
変なとこしっかりしてるんだね。
『万が一断られたら・・・街中にミサイルの雨降らしちゃおっかな〜』
もうめちゃくちゃだよこの人。世界平和はどこ行ったのさ。あとポチっと。
「ふざけるのもいい加減にして!どうして関係ない人たちまで巻き込むの!?」
『いいかい六美ちゃん。僕は日頃沢山人を救ってるから多少殺しても許されるんだ』
「もうコイツほんっと嫌!」
よし、録音完了。今度いいタイミングでどこかのテレビに持っていこ。週刊誌もありかな?
まあスパイ一家の前で迂闊な発言をした方が悪い。
「大丈夫だ六美。このフザけた野郎は俺が止める・・・!」
ガチャ
誰かが帰ってきて六美ちゃんが玄関に走っていった。多分太陽だね。
「おかえりー。傷大丈夫? 服に真っ赤な所あるけど」
「あ、兄貴か。一応応急処置はしたから問題ない」
「ダーメ。七悪くんの部屋行くよ。縫ってもらおう」
「えっ、いや大丈夫・・・」
「睡眠薬打つから痛くないよ。それじゃおやすみー」プスッ
そのまま一瞬で意識がなくなった。いや即効性凄いね。
「六美ちゃんも今日は早く寝たらー? 最近疲れてるだろうし、明日の朝ご飯も僕がしておくからさー」
「え、いやでもそんなに迷惑かけちゃ・・・」
「いいっていいってー。たまには義兄として良いところ見せさせてよ」
「・・・なら、お言葉に甘えるね。ありがとう」
「はーい。おやすみー」
そして太陽は縫ってもらった。なぜか凶一郎さんも縫う側にいた。
翌日の朝ご飯は結構好評だった。良かった良かった。
でも一つめんどくさい点が。
『おはようムツミン♡ オラ底辺再戦だゴルァ!』
この人結構しつこい。
「うぜえ・・・」
「おい、夕雅」
「あれ、どうしました? 凶一郎さん」
「あの馬鹿が六美の高校に入学した。気持ち悪いことに入学の条件として、俺に『太陽との対決で握手券をくれ』と要求してきてな。もちろんストーカーにくれてやる気は一切ないが、それでもムカつくからな」
想像以上の気持ち悪さ。まさか高校にまで入学するだなんて。
「は、はあ。で、それで?」
「
「・・・了解です。ところで太陽が勝って
「その時は捨てとけば良い。どうせ部下が回収して病院に運ぶだろう」
「じゃ、そうしますね」
そして学校。まさか僕が言ってたことが当たるなんてね。
太陽凄いって褒めたいけど、侵入者って言われそうだからやめる。
あと、ちょうどいいからアレしてこよう。
後日病院で。
「クソッ・・・すぐにシューズを改良してリベンジだ!」
「それが・・・例の不具合で自主回収中で・・・。あと会社の株価も暴落中で・・・」
「なっ・・・」
あらら、残念だったね。・・・ま、僕が情報流したんだけどね。ちょっと編集した動画を。
「残念残念。社会的に終わっちゃいましたね」
「・・・誰だ!」
「反応遅いんじゃないですか? まあ、ちょっとこの人と話したいので護衛の皆さんは眠っててください」
即効性の麻痺毒で無力化ー。
「ぐっ!」
「ウギィ!」
「あぺにん・・・」
なんか最後の人変じゃない?
「・・・お、お前はあの底辺野郎の!」
「夕雅です。覚えなくていいですよ」
「どうやってここに!」
「お見舞いの品を持ってきたと言ったら許可されました。このりんごです」
「め、面会謝絶にしておくべきだったか・・・」
「もう遅いですよ。・・・あ、先に言っておきますと、株価の暴落の原因は僕です」
「なっ!? 貴様ぁ!」
「この前の映像を録画して、ちょこっと編集してから世間に流したんですよね。そしたらみるみるうちに広がって。今ではあなた、大規模テロを企んでいた世界的犯罪者ってことになってますよ? ただあなたは欲しいものを手に入れたかっただけなのに、どうしてそこまで行っちゃったんでしょうね?」
「ひ、卑怯な手を使いやがって・・・」
「卑怯? 太陽との勝負であなたは道具を使っていたじゃないですか。先に卑怯な手を使ったのはそっちですから何か言う権利はありませんよ」
「ぐ、そのことをなぜ・・・」
「一応高校を見てたからです。もしかしたらあなたが勝ったとき、凶一郎さんの襲撃対策ルートを通って逃げるかもと言われてたので。僕の対策はしてなかったから結局無駄でしたね。・・・あと、これ注射しますね」
「そ、それは・・・?」
「細胞を活性化させて治癒力を向上させる薬です。普通なら一本で十分すぎるほど効果が得られますが、サービスで3本打ってあげます。3本も打っちゃうと活性化し過ぎて逆に治りが遅くなるかもしれませんが、これは僕の
「や、やめろ!やめてくれ!もう六美ちゃんには近づかないから!」
「聞きませーん。はいぷすっと」
「ぎゃーっ!」
「もう一回」
「ぬわーっ!」
「ラストー」
「いやーんっ!」
最後だけおかしい。何さっきの「いやーんっ」て。
「じゃ、また来るかもしれません。その時はもう一回3本持ってきますねー」
「二度とくるなあああ!」
よし、一件落着。
裏設定6
最優先事項は家族に関すること。
家族に危害を加える=夕雅の敵。
この思考が原因で後々悩む。