ほとんど夕雅視点ですので介入しない話はほとんど飛ばしてます。なので原作未履修の人は全然内容がわからないと思います。
まあ未履修の人はいないでしょうけど。
「兄貴、行ってくる」
「あ、太陽。いってらっしゃーーボヘッ!?」
ボールが顔面に飛んできた。
あのー、二刃さん? せめて太陽への挨拶ぐらいちゃんとさせてくださいよ。
「ホラ、よそ見すんじゃないよ。意識を向け続けな」
「そんなこと言ったってこの密度は鬼畜過ぎませんか!?」
「何を言ってるんだい。守りを教えてほしいと頼み込んできたのはそっちだろう? これぐらいしのいでみな」
「ンギャー!」
銃弾から守る用の技を持ってないからアイデアを二刃さんに貰いに来た。
その結果がボールの弾幕をしのぎ続けることだった。
二刃さんによると、「銃弾より遅いボールを避け続けることから始めようか」ってことらしい。けど、数が多すぎて避けられない。毎秒6球って何。
あと、枝垂でボールを斬るのはダメって縛りもつけられてる。
あの後に二刃さんが見本を見せてくれたけど、正直言ってまず今の僕にはムリ。
ということで合気の習得から始まった。花輪のときにちょっとだけ習得したてホヤホヤの合気を使ってたけど、二刃さんから見たらミジンコレベルだったそう。
僕は微生物ですか。
・・・枝垂を自分の体の一部だと認識しろ。辛三の攻撃を受け流せ。二刃さんの攻撃を5分間しのぎ続けろ。うん、僕死ぬかも。
一個目に言われたのが七悪くんの攻撃を受け流せ、だった。で、その次が枝垂で受け流せ(七悪くんに傷はつけずに)。
まだそれくらいならできるかなと思ってたんだよ。実際6日でできるようになった。
七悪くんの攻撃は威力は高いけど、そんなに早くなかったからどうすれば受け流せるかってのは結構わかりやすかった。たぶんそういうところも見越して最初の相手が七悪くんだったんだろうけど。
でも、その次がさっきの辛三の攻撃をしのげという課題だった。
受け流せなくて腕が潰れました。七悪くんありがとう。
「はっきり言うと、あんたに合気の才能はそんなにない。七悪の攻撃を受け流せたのはがあんたの要領が良いだけだ。それでも続けるかい?」
そんなことを二刃さんに言われた。正直、自分でもそれは薄々感じてた。
僕の避け方受け流し方が二刃さんと全く違うって。
二刃さんは片手だけですべて受け流すけど、僕だと全身(良くて両腕)を使わないとしのげない。
・・・でも、返答は決まってる。
「続けますよ。これくらいの理不尽に勝てなくて誰が僕を認めるんですか」
すると、二刃さんが微笑みを浮かべた。
「その言葉を待ってたよ。じゃ、イチから特訓してみようか」
「はい」
その後1年以上、地獄の訓練に疲れ果てるどころかボコボコになる僕がいた。
まあなんとなく今の時点でも予想できてた未来だけど。
あと、いつの間にか太陽が露出狂になってた。お兄ちゃんは悲しいよ、太陽がそんな性癖を隠し持ってたなんて。お父さんたちにどう説明しよう。
・・・あっ、やば。
「待って兄貴!それ誤解だから!」
「大丈夫、私太陽のどんな趣味も受け入れるから・・・」
「だから誤解だーっ!!」
なおこの時の太陽は翠さんのストーカーだったそう。
そしてまた数日後。
「「いってきます」」
「あれ? 2人でデート? でもその大荷物なんなの?」
六美ちゃんと太陽が一緒に出かけようとしてた。デートか聞いてみた。
「いや、違う。なんか六美がどっか行くのに付き添ってほしいらしく」
「夕雅、早く来な。今日の訓練を始めるよ」
「あ、了解です。じゃ、行ってらっしゃい2人とも。楽しんでね」
「いってきまーす」
そして、太陽が女装した。
僕が何か言う前に「これは任務の一環だから!趣味じゃないから!」って否定された。
もうちょっとイジらせてくれてもいいじゃーん。
「えー、政治家の潜入捜査? ヒナギクの方でどうにかできなかったの?」
「ヒナギクの存在は知られてるし警戒されてる。一般人出身の方がバレにくいんだとさ」
「あとちょうど黒百合党がこんな条件の求人を出しててね。夕雅お兄ちゃんも見て」
六美ちゃんが見せてくれた広告にはこんな感じの条件が書かれてた。
『黒百合党事務員 急募!
・女性
・黒髪ショート
・まつ毛ロング
・チーク強め
・目つき悪め』
「なんかやけに細かくない? っていうか女装の太陽ぴったりじゃん」
「だから女装するハメになったんだよ・・・。勘がいいから探し物をしてても近づいてくるし、面倒なくらいに隙がない」
「偶然って可能性は一応あるけどかなり低いね。・・・僕の勝手な推測だけど、その秘書の人達や黒百合さんって元スパイだったり?」
「・・・黒百合の方はどうか知らないけど、秘書はスパイだ。ヒナギクの情報によると、『赤青黄』って呼ばれてる政治工作を得意とする奴ららしい」
「あ、やっぱりそうなんだ。・・・ところで太陽、思ったことがあるんだけど良い?」
「え? いや、良いけど・・・。何?」
「資料とかは探すだけ無駄だと思うよ。たぶんだけど一切そんなのないから」
気づいたことは話しておこうか。
「え・・・!? いや、でもどうやって!?」
「よくニュースで黒百合党の映像って流れてるよね。演説のシーンとかさ。この前なんか太陽が新しく入ったときの映像もあったね。・・・ほら、今もテレビに流れてる」
「ああ、あの疲れたときのやつか・・・。で、それが?」
「いつ見てもあの人たちどこかで踊ってるんだよね。微妙にリズムがズレてたりしてるけど。・・・なんでだろうね。見てる人の印象に残るから? 話題になりやすい動きだから? ダンスが好きだから?・・・印象に残るというのはありそうだし、ダンスが好きだというのもありそうだけど、どっちかと言ったら重要なのは『音』なんだろうね」
「音?」
「ダンスには地面を蹴ったり手を叩いたりして音を出すパフォーマンスもある。音が暗号になってるよ。調べてみて。・・・モールス信号とか」
「モールス信号・・・!? まさかあいつら、常日頃から堂々と!?」
「計画を話してるんだと思うよ。テレビじゃ結構カットされてるからよくわからないけど。まあ独自の暗号の線もあるけど・・・明日から、黒百合党の人たちの音をよく聞いてきて。・・・10日後は、国際環境会議だよ」
そして翌日。
「兄貴の言ってたとおりだった。あいつらモールスで話し合ってる」
「あ、やっぱり?・・・で、何か言ってた?」
「爆破テロとか演説のタイミングだったり色々話してた。あと、環境会議のことも少し。会議場のどこかにに爆弾が設置してあるらしい。政敵が壇上に上がりだしたら爆破させる予定だと」
「やっぱりか。で、爆破テロってどこでするの? 妨害とか手伝うよ?」
「いや、ヒナギクのほうがそこんところはやってくれるらしい。兄貴は大丈夫だ」
「そう? なら良いんだけど」
そして、環境会議の日がやって来た。僕の手助けはいらないらしいから家で待機。さっきからニュースはこれ一色だ。
副総理が誘拐されて中継されてる。・・・黒百合さんが来た。
目隠しを剥がして『ごきげんよう』と話しかけた。
『なに、ちょっとした対談の席を設けたんだ。今頃メディアは大騒ぎだろう』
その言葉に副総理は何か言っていたけど、電波が悪いのかよく聞こえなかった。
そして、黒百合さんがアフロとサングラスを外す。
『黒顔・・・!?』
その顔に見覚えがあったのか、副総理はとある名前を口にした。
「・・・黒顔?」
「5、6年前に亡くなったはずのスパイだ」
「だあっ!? 四怨!? 急に背後から話しかけないでよ!」
イヤホン付けてなかったら気づけた。でも外してたらうるさいししょーがない。
「ソファから転げ落ちてやーんの」
・・・今度シュークリームでロシアンルーレットしよう。四怨がわさび入りになるように仕向けるけど。
『それでは対談を始めるが、黒百合党党首ではなく、子を殺された一人の父として話させてもらう』
・・・ああ、この人に、もしくはその関係者に家族を殺されたんだ。その復讐ってことか。
『私は今まで復讐として多くの政治家を陰で裁いてきた。・・・だが「全容」を知るお前だけは、白日の下、手を下したかった』
ちょっと前にあった法務大臣の事故死も、もしかしたらこの人の事件の一端だったのかも。まあ、僕の勘だけど。
『さあ、会見の時間だ。真実を語り社会的に死ぬか、告白を拒み生理的な死を選ぶか』
懐から取り出した銃を構えた。その先はもちろん副総理。まあ、返事は予想がつくけど。
『・・・フフ、真実か・・・。軽々しく真実を語るようでは、政治家失格だ』
・・・ああ、やっぱり言わないか。
『・・・だろうな。さらばだ』
その時、急に中継が切れた。たぶん太陽かヒナギクが止めたんだろうね。
2週間後、獄中で元副総理の白鷺氏が自殺したってニュースが広まった。
それとほぼ同時、昔の事件が引っ張り出されてた。とある父子家庭で爆発が起き、父親と娘が爆死したってニュースが。これが黒百合さんの事件だったのかは知らないけど、ネットではこれなんじゃないかって騒いでる。
・・・まあ、僕にはそんなに関係ないか。
そのまた数日後。メイドさんがやってきた。数日前に六美ちゃんから聞いてる。
「切崎殺香です!得意なことは掃除です!」
「わー、君がこの前六美ちゃんが言ってた人? よろしくねー」
「よろしくお願いします!夕雅様!」
『様』呼びされるのって結構ムズムズするんだね。いや別に嫌ってわけじゃないから良いんだけどさ。とりあえず罠の場所とか種類、それと部屋の配置とか教えてあげてって言われたしやっていこう。
「じゃ、トラップの場所教えるからついて来てね」
そして部屋と罠の配置を色々教えてたんだけど、一つわかったことが。
殺香ちゃん、僕より耐毒性高い。あのエアコンの毒ガスを思いっきり吸い込んでたけど平然としてた。今の僕だとちょっとフラフラするのに。
まあ、僕より年季があるスパイなんだからそりゃ当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
コンコン
「二刃さん、います?」
『夕雅? 何か用かい?』
「殺香ちゃんの部屋ってどうすればいいですかね?」
『ああ、そのことかい。ちょっとそっちに行く。そこで待ってな』
ガチャ
「案内するよ。付いて来な」
あ、もう決まってたんだ。全然知らなかった。
「「ただいまー」」
あ、太陽と六美ちゃんが帰ってきた。殺香ちゃんが早速玄関に向かっていった。
「ということで、今日からこの夜桜家に努めます、メイドの殺香です!得意なのは掃除です!よろしくお願いします!」
「夜桜伝統のメイド正装、とても似合ってるわ」
「ありがとうございます六美様!」
何その太陽の『叫び』みたいな顔は。
「私スパイですから暗殺技術はもちろん、潜入任務などのため家事全般は心得があります。今後は愛する六美様のために家事をこなしつつ、愛する太陽様の耐暗殺能力を高めるべく定期的に暗殺します」
「えええええええええええ!?」
さっきまで見事な紅茶を淹れてたとは思えない右手の動き。ギリギリ太陽は避けてたね。髪はちょいちょい落ちてるけど。
「いいのか六美!?いくら殺香でも他のスパイを家に置くなんて・・・」
「まあ、殺香だしいいかなって。せっかく善意で提案してくれてるし邪険にはしづらいしね・・・」
「俺はその善意に殺されかけてるけども!?」
うーん、太陽には頑張れとしか言いようがない。
「・・・とりあえず、夕飯作ってくるね。頑張ってねー。太陽ー」
「後でお手伝いに行きます!」
「兄貴の薄情者ぉぉおお!」
聞こえなかったふり聞こえなかったふり。僕耳が良いから絶対聞こえてるって気づいてるだろうけどね。イヤホンごしだろうと。
「良いですか太陽様。殺し屋は『一撃必殺』。弱点を的確に突き、反撃の余地を与えません。例えば魚ならエラの裏、人間で言う頸動脈ですね」
そう言って包丁を魚に振り下ろした。
「ここを死守せねば
一瞬で血抜きした結果、太陽の顔にびちゃっと魚の血が。目大丈夫?
「殺香血抜き上手ー」
「後は頭部にもご用心を」
一瞬でさっきの包丁が太陽に向かっていった。刺さってないね。ギリギリセーフ。
「六美様、夕雅様。身はさばきました」
「ありがとう。煮付けとムニエルにしましょ」
「それなら僕は煮付けを。2人はムニエルとスープをお願い。サラダとご飯はさっき用意しておいたよ。デザートに桃のゼリー作ったから皆で食べよう?」
「では私はスープに取り掛からせていただきます。六美様はムニエルを」
「わかったわ」
夕食も終わってお風呂に入ってる。
「大丈夫? 太陽。殺香ちゃんに襲われまくってたけど」
「大丈夫じゃないよ・・・・。なんかどっと疲れた」
「・・・ま、お疲れ様かな? 流石にここまでは侵入しないだろうし」ガチャ
「甘いですわ二人共!」
居たの!? っていうか湯船から出る勢い強すぎない?
「無防備な風呂場こそ油断大敵!」
カメラで太陽を撮りまくってる。僕タオル腰に巻いててよかった。
「連射をやめろ!!・・・つーか、俺、裸・・・」
「今更恥じらう必要はありません!
「どちらだよ!?」
・・・ちょっと面倒なことになりそうだから逃げよう。すたこらさっさー。
やっぱり面倒なことになったんだ。全裸の太陽が物騒な武器を持った凶一郎さんに追いかけられてる。股間はギリギリ手で隠してるね。
「まて太陽♡」
「助けて兄貴いい!六美いい!」
「!?」
「六美ちゃんは気にしなくていいよ。殺香ちゃんが暴走した結果だから。後で止めておくね」
ちょっとその後話を聞いたら、殺香ちゃんが感電してたっぽい。
あ、そうだ。・・・辛三に頼んでみよう。ちょっとヒントになった。
「辛三ー、今大丈夫ー?」
ガチャ
「あれ、夕雅? 何かあった?」
「枝垂の改良お願いできないかな。太陽が使ってる『八重』みたいに電気を放出する機構とか組み込めない?」
「それぐらいだったらすぐ出来そう。明日には渡せると思う」
「ありがとね。じゃ、よろしく。・・・あ、そうそう。さっき辛三は言う前に食べ終わっちゃったけど、冷蔵庫に桃のゼリー冷やしてあるから。食べていいよ」
「わかった」
そして深夜1時。今日の朝用に塩鮭用意してた。
「出来たよ、夕雅」
「ん、ありがと。どういう感じになったの?」
「小さいレバーをセットしたよ。これを起こしたら放電モードになる。倒した状態だと蓄電モード。充電方法は日常で発生した静電気を貯めるようにしたから。でも気をつけてね。放電モードだと溜めた電気を全放出する勢いで放電するから。一応コンセントからでも充電できるようケーブルも作ったよ」
「ああ、わかりやすくてありがたいし充電方法も楽だね。放電時は気をつけるよ」
よーし、早速思ったことをやってみよう。
※これから夕雅は複数の技を使用していきますが、それらの訓練風景はカットさせてください。一応ざっくりとした説明が書いてある『枝垂の設定』を公開します。
「任務疲れた・・・」
「あ、太陽おかえり。ちょっと寝る?」
「そうする・・・」
そう言ってすぐにソファにダイブした。
疲れが取れるように紅茶淹れておこうかな。凶一郎さんが好きな紅茶が一番疲れに効くって六美ちゃんに聞いたけど・・・あれ?
「あ、凶一郎兄ちゃんが好きな紅茶今切らしてるの」
「あれ、そうなんだ。2週間前には結構残ってたと思うんだけど」
まあ、ないならないでしょうがない。今回はハーブティーにしておこうか。あとさっき作ったマカロンも置いておこう。
太陽の近くの机に置いたとき、太陽のスマホから着信通知が鳴った。
「『カオル』さん? 誰だろ・・・?」
「太陽、電話だよ。出れる?」
「むにゃ・・・? 六美・・・?」
「カオルって人から・・・」
すぐにスマホを回収して通知を消してる。なんかすごい慌ててるね?
「太陽? それ切っちゃって大丈夫な連絡?」
「な、なんでもない兄貴。さーてシャワーでも浴びてくるかなー」
逃げたね。動きがギクシャクしてるけど。っていうかそれより。
「いや、いくら気になってても弟のプライベートは詮索しないようにしてるけどさ。マカロン食べていったら? ハーブティーも淹れてあるよ」
すぐに戻ってきた。回収してまた去った。・・・背後から呼吸音がするんだけど。
「浮気の予感・・・」
「ひゃあっ」
「殺香ちゃんか。どうしたの?」
「私もまさかと思ってました・・・。最近しきりに携帯を見るのも、急に朝帰りが増えたのも、全て任務ゆえだと・・・!」
「えー、考えすぎじゃない? 太陽は浮気なんてしないでしょ」
「しかし先日、ついに見つけてしまったのです。太陽様のお部屋に・・・太陽様以外の髪がいくつも・・・!!」
黒・・・僕。ピンク・・・四怨。黄・・・嫌五。白・・・二刃さん。緑・・・辛三。
「「
「六美様という方がいながらどうして・・・!」
「お茶淹れてあげるから落ち着いて」
任務が終わって喫茶『ヒナギク』に行った。時々翠さんと会うけど、店の雰囲気がいいからよく行ってるんだよね。新しい紅茶とか入荷してないかなって思ってたんだけど・・・
「あれ、太陽。マスターと何の話してるの?」
「・・・え、兄貴!? なんでここに!?」
「いや僕ここの常連だし」
「おや、夕雅様。ようこそいらっしゃいました。本日はどのように?」
「新しい銘柄とか入荷されてないかなと思いまして。ところで太陽はなぜここに? あと何を話してるんです?」
「それは太陽様の口からお聞きになるのが一番でしょう。太陽様、そろそろ夕雅様には話してもよいのでは? 話しにくいところは私も話しますので」
「・・・そうですね。・・・えーっと、この前から凶一郎兄さんの好きな紅茶切らしてただろ?」
「ああ、あれ・・・なんだっけ? 名前。ダークナントカだったような」
「ダークスイート」
「あ、それだそれだ。そのダークスイートが?」
「いや、いつも世話になってるし、贈り物としてちょうどいいだろうなって・・・。でも凶一郎兄さんは俺のこと嫌いだろ? だからこっそり補充しようって思って」
「ああ、そういうこと? でもそれってマスターたちが協力する必要あったの?」
「ダークスイートの原材料は『ダークフロスト』という木の葉です。ですが、その木の実は麻薬の原材料にもなってしまう。そのため、国内市場での入手はまずできないのです」
「なので植物の扱いが得意な祖父と、ある程度流通に知識がある私が協力することになったのです」
「あ、そうなんですか。だからもみじさんがいるんですね。・・・太陽、僕には言ってくれても良かったんじゃない?」
「いや、兄貴と六美ってよく一緒に夕飯作ってるだろ? その時にぽろっと言っちゃうかもしれないって思ってさ」
「あ、心配な点を減らしたかっただけ?」
「そういうこと。六美のことを四六時中監視してるから、六美にそのことを知られたらまず凶一郎兄さんには伝わる。だから六美にも知られるわけにはいかなかったんだ」
「そういうことでございます。そして本日ここに入手できましたので、受け渡しの日時を決める予定だったというわけです」
「だからここに太陽がいたんですね。・・・ああ、そういえばマスターって
「・・・バレたくなかったからとはいえ、黙っててごめん、兄貴」
「いいよいいよー。浮気じゃなかっただけ安心安心」
「・・・浮気って?」
「いや、殺香ちゃんが考えすぎてただけだったんだけどね。太陽がこの前みたいにびしょびしょになって帰ってきたり、圏外での活動が多いのは浮気相手との逢引をバレたくないからだー、って」
「・・・そんな勘違いされてたのか。今度弁明しないとな」
「僕からも言っておくよ。それはただの誤解だったって。じゃ、僕は先に帰ってるねー」
「ああ、じゃあまた家で」
「ただいまー」
「おかえりなさいませ夕雅様」
「今ってお風呂空いてるかな? ちょっと汗を流したくて」
「今でしたら空いていたはずですわ。ごゆっくりどうぞ」
ふー、さっぱりした。
リビングに戻ってくると、魂が抜けた顔をしてる六美ちゃんがいた。帰ってきてたんだ。
あと、めちゃくちゃ物騒な武器を持った凶一郎さんがドアの前で待ち構えてた。
ついさっき太陽の声も聞こえたし、タイミング的に帰ってきた太陽に襲いかかろうとしてるね。
・・・ちょっとそれはだめでしょう。
飛べ。――
ガキッ
放電はしてないから威力は全然ない。真っすぐ飛んでいってあの武器を吹き飛ばした。
その直後に太陽が部屋に入ってくる。
「ただいまー。・・・え?」
「夕雅お兄ちゃん!?」
「・・・おい、夕雅。貴様なんのつもりだ?」
「それはこっちのセリフです。なに太陽を殺そうとしてるんです?」
「浮気をしたやつに慈悲などいらないだろう。即処分が最適だ」
「・・・ああ、そのことですか? それただの誤解ですよ」
「「え?」」
六美ちゃんと殺香ちゃんが呆けたような顔をした。
「ちょうどいいですね。お客さんが来ましたよ」
「お邪魔します」
マスターともみじさんが来た。・・・あれ? 結局今日受け取ったの?
「私『ヒナギク』隊員の秋風もみじと申します。太陽様にお届け物で参りました」
「ヒナギク・・・!?」
「えっ・・・なんで来ちゃったんですか!? バレないよう後で頂きに伺う予定じゃ・・・」
あ、太陽からしても想定外なのね。
「いえ、むしろバラすべきかと思いまして。先程の面談中、六美様が思い詰めた表情で店を後にしたのを祖父が確認しました。あらぬ誤解が生じぬよう、打ち明けるべきとの結論になったのです」
「どうやら間に合ったようで良かったですな」
「薫おじいちゃんの言ったとおりだったね」
「カ・・・カオルおじいちゃん!?」
六美ちゃんが驚いてる。
「祖父の秋風薫です。可愛い名前でしょう。・・・先日より太陽様とやり取りを重ね、ようやくこちらの品をご用意できました」
それと同時にもみじさんがバッグからあの茶葉を取り出す。
「希少茶葉『ダークスイート』。凶一郎様御用達の一品になります」
「えっ・・・夕雅お兄ちゃんはこの事知ってたの!?」
「僕も今日偶然知ったんだよね。任務から帰るついでに喫茶『ヒナギク』に行ったら何かを相談してる太陽がいて。そこで説明してもらったんだ」
「すでに夕雅様には説明をしましたが、この『ダークスイート』の原材料である『ダークフロスト』の葉は茶葉になる一方、その実は麻薬の原料にもなります。それゆえ、国内市場では入手することが極めて困難です。太陽様がお世話になってる凶一郎様のために入手したいと翠殿にご相談されたところ、植物の扱いに長けた化学班の私と密輸取締班のもみじが協力することになりました」
「時には飛行機、時には船。なかなかルートが掴めなくて苦労してたんだってさ。時々濡れてたり圏外になってたのもそれが理由だよ」
「何より気を遣ったのは凶一郎様に悟られぬこと。『快く思わない自分からの贈り物なんて受け取ってもらえない』。だから手に入れたらこっそり補充するおつもりでした。凶一郎様は六美様を全力で監・・・見守っていらっしゃる。つまり六美様が知れば必ず気づかれるということ。太陽様からの話だと、兄である夕雅様と六美様はとよくご一緒に夕食を作っているそうで。夕雅様がこのことを知ってしまったとして、なにかのはずみで六美様にも伝わってしまう可能性を危惧されていたため、夕雅様にも打ち明けられなかったそうです。その心配は必要なくなったため、夕雅様には本日お伝えしましたが」
「ごめん、六美。余計な心配かけたみたいで・・・」
「ううん。全然いいの。信じてたから」
まだまだ新婚のはず・・・だよね? 熟年夫婦の貫禄がある気がするんだけど。
「疑ってごめんなさい太陽様あああ!」
「殺香!? し、心配かけてごめんな・・・」
これで一件落着かな。・・・何か横から凶一郎さんの変な声が。
「・・・フフ。フフフフフフフフフフフフフフフ・・・ぷぇ」
鋼蜘蛛で顔を締め付けながら笑ってる。そのまま倒れた。ぷぇって何。
「お兄ちゃん!? ・・・思いがけない太陽の善意を受け止めきれなかったのね・・・」
「・・・ちょうどいいし、それでお茶にしよっか。マスターともみじさんも一緒にどうです?」
「ありがたく頂きましょう」
「ぷぇ」
この紅茶美味しい。凶一郎さんが気に入るのも頷けるね。あ、出したプリンは好評だったよ。
「というか夕雅お兄ちゃんってヒナギク行ってたのね」
「常連でーす。コーヒーの質が高くてね。あと情報収集とか」
翌日の夜。
「デザート作ったよー。今日は初めての試み、ロシアンルーレットね」
デザート用のシュークリームを作った。
皆は至福、四怨は悶絶。ちょっと入れすぎちゃったかな?
「夕雅っ、おまっ・・・!これ、い、すぎ・・・!」
「きつかったら鼻から息を吸って口から吐くといいよ」
「スー、ハー・・・入れ過ぎ!クリーム部分全部わさびじゃねえか!」
わー、すっごい涙目。
「ドローンとか赤外線で中身確認してから取ればよかったのに。それだったら嫌五とかにまわったかもよ?」
「ああクッソその方法があった!」
「気づいてなかったんかい」
たまにポンコツ。
「とりあえず口直しにバナナでもどうぞ」
意外と面白いしまたやろうかな。嫌五の反応とか見てみたいし。
あでもこれっきりにしようかな。
裏設定8
内心と本心が食い違うと吐き気を催してしまう体質。