.hack//Error 〜死神は世界を嘲笑す〜   作:あるま☆

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少女は死神に助けを乞う

一週間...

俺が眠っている間、経過した無駄な時間。

病室から出ることもベッドから起き上がることすら許されなかった。

とは言ったものの自分の弱った体では動くことすらままならなかった。

どうにか退院できるレベルにまで回復したが、まだ弱々しい。

今もリハビリのために歩き回ってる最中だ。

まあ、この病院は人の行き来が激しいから人が少ない夜にしか歩けないけどさ。

俺の担当医からも許可をもらえた。

 

「だいぶ歩けるようになったわね」

「岬さん。忙しいのに毎日来なくても大丈夫だよ」

「何言ってんの!あなたが眠ってる間どれだけ心配したか!!動いてるあなたを見て安心させて欲しいのよ」

 

俺の横でリハビリを見守っているスーツ姿の若い女性は《海馬 岬》俺の義母だ。

中学生の頃、癌で母さんが死んだ。その一年後に再婚したのが彼女。

まあ、その数か月後に父さんも交通事故で逝っちまった。今は岬さんと二人で暮らしている。

正直、義母さんと言うより姉さんの方が合ってる。

 

「そういえば...杏は元気ですか?」

 

その言葉に一瞬、岬さんの顔が曇った。

 

「ええ、杏ちゃんなら元気よ」

 

髪をくるくると指で遊びながら言った。

俺はその動作が何を意味するか知っている。

 

「岬さん。嘘つかないでください」

「う、嘘なんて...」

「その癖...嘘をつく時にかならず髪を弄りますよね?」

 

だてに数年共に暮らしていない。

ジッと彼女を睨むように見つめる。その視線に絶えれなかった岬さんは観念した。

 

「秋...落ち着いて聞いてね......」

 

 

△▼△

 

 

海馬 秋は走っていた。

後ろからの制止の声も聞かず病院の廊下を人の間をくぐり抜けるようにひた走る。

その向かう先にいる彼女に会うために......

 

(嘘だ...嘘だ...)

 

彼の心の声はずっとある現実を否定していた。

自分の義母である海馬 岬に言われた荘司 杏の現状を...

胸に痛みを感じても走る足を止めず、彼女のいる病室へと向かった。

 

『秋...落ち着いて聞いてね......杏ちゃんはね。この病院に入院してて今だ目を覚ましていないらしいの...』

 

そのことを聞いた俺は彼女のいる病院に走った。

運動ができない俺がこんなに走れるとは思わなかった。てか、正直苦しい。

過呼吸気味になりながらも杏がいる病室が見えた。

だが、なぜか病室の扉が開いたままで閉められていない。嫌な予感を感じた俺はさらに速度を上げ病室に入る。

病室は夜のせいで暗く。よく見えないが、ベッドの上にいる者とその横で立ち尽くしている者のシルエットはわかる。

入り口の近くある電気のスイッチを入れた。部屋に明かりが灯り、ベッドで眠る痩せ細った杏とそばで立っている杏の父親だった。

 

「おまえ...なぜここにいる?」

「......おまえには関係ない」

 

こいつは異常だ。

どこか普通じゃない。しかもあいつが触れている機械はなんだ?ベッドの上で寝てる杏と繋がってるようだが...まさか...!

 

「何する気だ!!」

「関係ないと言ってるだろう」

 

杏に繋がれた生命維持装置のコンセントを掴み引き抜いた。

生体情報モニタの音が激しくなる。

 

「何してんだてめぇ!!」

「だまれ。これは私達親が子をどうしようと勝手だろう?」

「おまえ...自分で何言ってるのかわかってんのか!おまえには親の資格なんてねえよ!!」

 

目の前のクソ野郎をぶん殴ってコンセントをもう一度刺さないと杏が......

奴に近づこうと足を一歩出すが体が動かせない。

胸が苦しイぃ......!頭が...酸素が体に回ってねぇ......!!

苦しく胸を抑えようとするが腕も動かせない。クソ野郎を睨む。

 

「ふん...そんな細くなった体で、ましてや肺の病気。こいつを助けることは無理だな」

 

あざ笑う男に俺は何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。

視線が徐々に下に向いて行く。

バキッ!

生々しい音が聞こえる。視線を上げると杏の父親が殴り飛ばされていた。

殴ったのは白衣を着た若い男だ。

 

「大丈夫かい?!」

 

そんな声が聞こえた気がするが暗く染まっていく意識では聞き取ることは出来なかった。

動かないはずの腕が無意識に杏のベッドに手を伸ばす。

途端にプツンと意識が切れた。

 

 

△▼△

 

 

目を開けると病室の天井が目に入る。

どうやら俺は、あの後運ばれたようだ。情けないな...

あのクソ野郎に一発も食らわせることも出来なかった。怒りよりも悔しさが大きい......

一人、天井を呆然と見つめていると病室の扉が開く。

そこに立っていたのは俺たちを助けてくれた若い医者だった。

 

「やぁ。目が覚めたんだね」

「あの...杏は?」

「ああ、荘司君なら大丈夫だ。目が覚めたわけではないけど......」

 

よかった...一先ず、生きているならいい。

それよりも、なぜ杏が入院している?意識を失っているんだ?

 

「先生。なんで杏は意識を?」

「荘司君はあるゲームをしていて意識を突然失ったらしい」

「まさか...そのゲームって《TheWorld》ですか?」

「そうだ。君も同じくそのゲームの途中で意識を失ったらしいね?」

 

杏もTheWorldをやっていた......

もしかして、杏のPCってあいつか!?

だったら辻褄も素性にも納得がいく。そして、杏を救う方法を知っているのは俺だってことだ。

 

「先生。俺を退院させてください」

「な、何言ってるんだ!!昨日の件で君の体はボロボロなんだよ?そんな状態の患者を簡単に退院させることはできない!」

「じゃあ、パソコンを使わせてください」

「そ、それならいいけど...一体何をするんだい?」

「《TheWorld》です」

 

どんなに苦しもうと俺は必ずあいつを...()を救う...!

 

△▼△

 

 

秘密の部屋で司は一人怯えていた。

数刻前に自分の体を襲った苦しみに怯えているのだ。死ぬほど苦しいそれは、心臓を掴まれて握り潰されそうな錯覚を与えた。

誰かに助けを呼ぼうとも誰一人の耳にはその声は届かない。彼女は一人、部屋で苦しみ続けた。

気づけば記憶にない者の名を呼び続けていた。記憶にいないのにずっと共に居てくれた彼の名を......

唐突に消えた苦しみの後、司は記憶を少し取り戻した。思い出したくもない現実の記憶を......

自分に理不尽な暴力を与える父親に怯える日々、行く価値もない学校、自分を哀れみの目で見る視線、逃げ出したい現実の記憶。

しかし、そんな彼女が壊れないでいれたのはたった一つの記憶。ただ一人心を開くことができた少年との思い出。

 

「また...会いたいよ...助けてよぉ......秋...!」

 

彼女の声は虚空に虚しく響いた......

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