.hack//Error 〜死神は世界を嘲笑す〜 作:あるま☆
俺は、あるフィールドに司と共に訪れている。
何故かと言うと、匿名でミニメールが届き、ここに来るように言われたからだ。最初は怪しんだが、内容が気になるものだった。
《あなた達に起こっている不可思議な異変、もしかしたら、解決できるかもしれない。気になるのなら、Δサーバー【霞みゆく 悲しみの 記憶】に来なさい》
この送り主は、俺たちの現状について理解しているようだ。信憑性は皆無だが、行く価値はある。理由は送って来た奴が、ログアウトをできなくした犯人かもしれないからだ。たぶん、こんなことをするやつは大抵は楽しんでいるはずだ。俺の経験上はそうゆう奴がたくさんいたしな。
それで、このエリアに来ているわけなんだが、一向に現れる気配がない。司を説得してまで、ここに来たって言うのに無駄骨かよ。しょうがない戻るか。
「帰るのはちょっと、早いんじゃないかしら?」
突如かけられた声に驚き、臨戦態勢を取るが、周りには俺ら以外にPCの姿はない。
しかし、空耳のはずはない、確かに聞こえた。司も聞こえていたようで、俺と同じく身構えている。
「そんなに構えなくてもいいわ。まあ、無理でしょうけど?」
「どこにいる?姿を見せろ!」
「それは、PC?それとも現実かしら?」
軽い冗談を言って、不敵に笑う謎の声。不気味に感じても仕方が無い。俺は、こいつが何かを知っていると、本能で確信した。司は戸惑っているのか、オロオロしている。かわいい・・・じゃなかった!とにかく落ち着かせないと。
「冗談はこのぐらいにして、単刀直入に聞くわ。あなた達、記憶が薄れていってないかしら?」
「!!・・・・なんでそれを?」
「やはり・・・今はどれぐらい覚えているの?」
「何をだ?」
「現実のことよ。自分の年齢は?体重と身長は?友達の顔と名前は?家族の顔は?出身地は?そして、あなたの名前は?」
なぜこいつは俺の身辺情報しか質問しないんだ?もっと、重要な記憶を忘れてないか聞かないのか?そんな、忘れるわけもない記憶、簡単に応えられるに決まってるだろ。
家族の顔、うっすらだが覚えている。友達は、やばい思い出せない。と言うか、俺って友達なんかいたっけ?出身地は・・・・思い出せない。体重と身長は、よし、覚えている。年齢も名前も!
「俺の年齢は十七だ。身長と体重は、それぞれ、169センチと58キロ。名前は・・・・・」
『エクサ』
「あ・・・れ・・・?」
「どうやら、あまり思い出せないようね。そちらの子に関しては、もうほとんど思い出せないんじゃないかしら?」
司はその言葉に顔を逸らした。どうやら、本当らしい。気づかなかった。そして、自分達のもっとも恐ろしい現状にも気づかなかった。記憶の消失。これが何を意味するか、どれだけ恐ろしいか、俺にだってわかる。
さっきみたいに、自分の現実の名前も思い出せず、PCの名前を言ってしまった。つまり、俺は、いや俺たちはネットのNPCみたいになったものだ。そして、恐ろしいのは、もう二度と、思い出せない大切なあいつの名も顔も思い出も無くなってしまった。俺は、もうどうすればいいのか、わからなくなってしまった。
「混乱しているところ悪いけど、その現状を止める術、もしかしたらだけど、あるかもしれない。可能性の話だけど、信じてもらって構わないわ」
「・・・・・わかった。信じよう。司もいいか?」
「・・・・・・・うん」
「ふふふ、聞いた通りの子ね。じゃあ、何かがわかったら連絡するわ。それまで、現実の記憶を一つでも覚えていなさい。では、また・・・・・」
そう言い残し、声は聞こえなくなった。声の主は「聞いた通りの子」と言っていたが、一体誰から俺のことを聞いたのだろうか。今は、気にしても無駄か。
「ねえ、エクサ・・・」
「ん?何か心配事か?」
「記憶の消失って、現実の時のだけなのかな・・・?」
考えもしなかった。確かに、記憶の消失は現実の記憶だけとは限らない。いつか、現実という存在も記憶から消えてしまえば、どうなってしまうのだろうか。もしかしたら、TheWorldの記憶すらも消えてしまうのではないか?
・・・・・・いや、それはないな。今回の犯人は、たぶん、俺たちを何処かで観察しているはずだ。観察対象が記憶のない、動く理由のないPCになってしまったら、面白くないだろう。俺だったら見る気も失せる。だから、TheWorldにいたという記憶は残すはずだ。
「例え、そうだったとしても・・・・・俺は絶対に司から離れない。お前が記憶を無くしても、そばにいる」
「・・・・・ストーカーみたい」
「な!?こっちは真剣に言ってるんだぞ!じゃあ、一緒にいない方がいいか!?」
「そんなことしたら、二度と起き上がれないように叩きのめす」
冗談とは一切思えない司の言葉に、背筋が凍った。一種のヤンデレか?デレを出させるのが苦労するな。
まあ、こいつなりの否定と思えばいいか。こいつ全然素直じゃないし、子供っぽいからな。仕方ないね。
「それよりも、連絡を待っている間どうするの?」
「じゃあ、TheWorldを普通に楽しむというわけで、クエストやるか」
「君ってバカなの?」
「はぁぁ!?」
こいつって、本当に容赦無く人をけなすよな。流石の俺もピキッときたよ?俺も負けずに言い返すが、すぐさまけなされる。それは、數十分も続いたというのは内緒である。
くだらない二人の口喧嘩を、遠くから覗くPC。さっきまで、エクサ達と話をしていたPC、名はヘルバ。ネットスラムの創設者と言われているが、真相は誰も知らない。
「緊張感のない子・・・・あなたの言ったとおりね?PKさん?」
ヘルバの背中にもたれかかるように、PKの楚良が立っていた。その顔は、不敵に微笑んでいる。
「でっしょぉ?エクサくんは、どんなことがあろうと動じないおバカさんだもん!」
「そうね。けど、そこが面白い・・・・でしょ?」
「さっすが!わかってるね!それじゃあ、ボクちんはここいらで、じゃあね!ばびゅん!」
楚良独特の効果音を残し、ログアウトした。楚良が去った後、ヘルバは一人、エクサを見つめていた。
司という子には特別な力が宿っているというのに、なぜあの子には、特別なものがないんだろうか?それとも、力ではなく、他に何か理由があるのか?今はまだわからない。
「けど、その方が面白いわ・・・・」
闇の女王は、一人不敵に笑う・・・・・