日曜日は、胃もたれしながらオークを狩り、夜にまた
なんと美のポイントが七十になっており、私のおめめはパッチリ二重になっていた。さらにさらに、顔全体が少し整って、ちょっとだけ可愛くなった。
そして、今日は月曜日――
「おはようございまーす!」
元気いっぱいに出社した。
「木村、何か変わってないか?」
「あれ? あいつ、あんな顔だっけ?」
みんなが私を見て驚いた顔をしているのは、明るくなったから……だけではない。あちこちから届く困惑の混じったヒソヒソ声や、二度見するような丸い目が、私の顔立ちの変化に対する戸惑いを物語っている。
まだ美人と呼ぶには時期尚早だが、中の下と自称してもいいくらいには綺麗になったはず。化粧も映えるようになったし、容姿のレベルが少なくとも十二は上がったのではなかろうか。ダンジョン美容クリニックには感謝してもしきれない。
自席に着いて仕事の準備を始める。在庫管理システムを確認すると、新規取引先になった雑貨店が登録されており、もう商品が届いていた。すでに三万円ほどの売り上げがあり、出だしは好調のようだ。嬉しくなってニンマリ笑う。
後でお礼の電話を入れておこう。
「さっすが木村さんですね。これ、朝礼で共有しましょうよ」
すると、松下さんが耳元で話しかけてきた。画面に集中していた私は、背後から忍び寄る彼女の存在に気付かず、びっくりして身体が跳ねる。
「わっ、松下さん。いやー、たまたま飛び込み先の店主が良い人だっただけで、次も上手くいくとは限りませんからね」
「木村さんは凄いって知ってますから、あたし。なんか雰囲気まで変わってますもんね。メイクの教室とか通ってるんですか? コツ、教えてほしいんですけど」
聞かれても困る。広告をクリックしたら異世界に行けるようになって、魔物食材を爆食いしていたらこうなった――なんて、言えない。
「最近スムージーを飲んで、コラーゲンを
「えー! 女優さんとか、インフルエンサーとか、みんなそう言ってますよね。やっぱり良いんだ、あれ!」
朝礼が始まった。今日の予定は、既存施設との打ち合わせが二件だけと軽め。新規取引先を獲得するためのアポを四件取ってある。
課長から何か言いたげな視線を感じた。どうせ、お前なんかには無理だとでも思っているのだろう。今に見ていろと奮い立つ。
席に戻る。
飛び込み営業なんて、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってくらいの成功率だ。でも、ギャンブルじゃない。説明を聞いてもらい、これなら売れると納得してくれたら、そこで契約が成立する。
門前払いされる店舗が多い中で、私と会ってくれる店主がいる――これが重要だ。では、その機会を与えてくれたことに感謝しつつ、全力で向き合う。営業って、一期一会なんだよね。
「木村さん木村さん。そういえば、ワンちゃん撮りました?」
そうだった。松下さんに見せてあげようと、シャマルの写真を何枚か保存しておいたの、忘れてた。スマホを立ち上げて画像フォルダを開く。まずは、お座り舌ペロイケメンから。
「うちのシャマルです」
「可愛いー! なんて犬種ですか?」
「えー……っと。雑種……かなぁ?」
「他のも見せてくださいよ~」
松下さんがスマホの画面をスライドさせると、スライムが飛び跳ねようとしていた。
――まずい、まずい、まずいーっ。写真撮ったの忘れてたーっ。
慌てて次の写真を表示させた。草原を楽しそうに駆け回るシャマルきゅん。はぁ、癒されるぅ。頼む、松下さんの記憶をすり替えておくれ!
「今の、何ですか?」
まあ、無理よね……。
「ほ、ほら、さっきも話したでしょ? ガーナで採れる天然のコラーゲン」
――なわけ!
口から出まかせも、ここまでくるとひどい。
「へー、ガーナってカカオだけじゃないんですね」
いけ……た?
ガーナってすごい。松下さん、騙してごめん。
すると、二人できゃっきゃうふふと話しているところに、課長がやって来た。親指でくいくいと自分の席を差している。
「松下くぅん、ちょっといいかなぁ?」
「あ、はい」
課長はいつも、用事があるときは、椅子に座ったまま呼びつける。この人が出向くのは、決まって松下さんのところだけ。セクハラだ……私は、目を光らせた。
松下さんが立ち上がる。歩き出そうとしたそのとき。わざとらしく彼女に肩をぶつけようとしながら、課長の手のひらがお尻を触ろうとしていた。
――させない!
私は、座った姿勢からカーペットを蹴る。ザシュッと音がした。一瞬で距離を詰め、ぶくぶく太った邪悪な腕を、スーツの上から掴む。そして、これでもかと握力を込めて、捻り上げた。
「あだだだだだ! いっだーーーい!」
課長が喧しい声で叫ぶ。骨がミシミシいっているのだから、当然だ。豚殺しの英雄をナメてもらっちゃ困る。
社員たちが、一斉にこちらを振り向いた。痛がる課長の横には、私みたいなか弱い女性社員だ。何をそんなに大騒ぎしているのかと、困惑したような視線が集まっている。
私は、微笑みを浮かべた。
「課長、ボタンが外れかかってますよ?」
腕を掴んだとき、袖のボタンを指で摘まんで引っ張り、今にも取れそうな状態にしておいた。上司の身だしなみに気を遣う、優しい部下を演じておく。
「あっだーーーい! 木村くぅん、離したまええぇ!」
「そんな、大袈裟な……」
これ以上やったら折れてしまう。お仕置きはこれくらいにしてやるか。手を離してあげた。
もう、負けない。私の目の黒いうちは、松下さんへのハラスメントを許さない。
仕事に戻りしばらくすると、松下さんが帰ってきた。私の方に椅子を寄せて耳打ちしてくる。
「さっきのって……」
「あのエロ親父、また松下さんの体を触ろうとしてましたよ」
「やっぱり、そうですよね。木村さん、ありがとうございます」
「次は、隕石でも落としてやりましょうかね」
私たちは、顔を見合わせて笑った。
*****
さて、営業開始。一件目は、私が担当する施設の中で最も売り上げが多いデパートだ。
会議室に案内され、中に入る。長机が二つくっつけてあり、奥に茶髪の男性が座っていた。フロアマネージャーの加藤さんだ。たしか、今年で三十二歳だと言っていた。まだ若いのに責任ある立場にいるなんて、よほど仕事ができるのだろう。
私は会釈した。
「本日もよろしくお願いします」
「どうも木村さん。どうぞ、座って座って」
促され、向かい合う形で席に着いた。
加藤さんには、大変お世話になっている。元々うちの商品は、雑貨コーナーの片隅に置かれていたのだが、どんどん販売エリアを広げてもらって、今では専用の店舗が作られている。
「相変わらず、すごい売り上げですね」
「木村さんがレイアウトとか教えてくれるから助かってますよ。追加でお願いしたい商品があって……」
先日、売れ行きが落ちてきたものは在庫限りにして、新しいデザインの同じような商品に一新しようという提案をした。その打ち合わせというわけだ。
このデパートでは新商品になるので、やはり目立たせたい。今ある商品をどこに移動させるか、どう設置したら映えるかなど、納得いくまで協議した。
「それでいきましょうか。楽しみですね!」
「はい、ありがとうございました。商品は二日後のお届けになりますので。気になることがあれば、また連絡してください」
「あー……仕事とは関係ない話なんですけど、木村さんて彼氏います?」
カレシ……って、何だっけ。突然すぎて思い出せない。ミヤビコンピューター(脳内)で検索してみよう。
彼氏 意味――恋人のこと。
ああ、恋人ね。なるほどなるほど。そんなの、私にいるはずないじゃない。
「できたことないですね……」
「おっ、今週の金曜日に合コンしません? こっちは、バイトの若い連中含めて五人くらい。木村さんとこ、女性社員多いんですよね? お友達とか誘ってもらってもオッケーなんで」
「ちょ、ちょっと確認してからまた連絡します」
「無理にとは言いませんけど、いい返事を待ってますね!」
私は、デパートを後にした。
合……コン……なんとも聞きなれない響き。大切なお客さんだし、なるべく協力してあげたい。でも、学生時代にいた友達は、たまに遊びに行く程度の関係だった。就職してから、しばらく連絡を取っていない。
私一人だけで参加して、「ほらみんな、せーので私を取り合いなさい!」なんてやったら、ドン引きされるだろう。どうせ目当ては私じゃない。
*****
外回り完了。会社に帰ってきた。今日の実績を日報にまとめていく。
新規は獲得できず。見込みなし三件、検討中一件といった感じ。迷ってくれた店主さんのところは、少し時間を空けてから再訪問するつもり。小さな店舗でも売り上げが期待できるってデータが提出できれば、契約してくれると思う。
あとは……合コンか。松下さんは、彼氏がいるのだろうか。気軽に話せるのが彼女しかいない。
「あのぉ、すみません松下さん」
「はいはい、どうしました木村さん」
「お客さんから、金曜日に合コンしないかって誘われたんですけど、参加って難しいですよね?」
「何をおっしゃいますか。木村さんのためなら、地獄だろうが合コンだろうが喜んで行きますよ。相手何人です?」
「五人みたいです」
相談してよかった。もし地獄に行くことがあれば、また松下さんを誘うとしよう。冗談だけど。
「へへっ、あとは
「ありがとうございます!」
さっそく、加藤さんにメールを送った。すぐにビックリマークがたくさん付いた返事がきたので、喜んでもらえたようだ。
ところで、合コンって何をすればいいのだろう……。