今日は仕事が上手くいった。
二件目に回ったデパートのマネージャーさんから、「木村さん暗くなっちゃって、話しにくかったんだよね。今のほうがいいよ」って言われた。歯に
新規も一件獲得できて、月の売り上げが二十万円程度増える見込みだ。ネット上で在庫管理ができるシステムがあるし、顔見せも近くに来たとき、時間があれば寄ってくれたらいいとのこと。業務量は増えるけど、こういうお客さんが五十件を超えたら、デパート並みの利益になるだろう。
ペットショップであれこれ買ってから帰宅。
「ただいまー」
玄関のドアを開くと、シャマルが尻尾をブンブン振り回しながら出迎えてくれた。
「なーに、お利口さん。私のこと待っててくれたのー!」
幸せすぎる瞬間だ。仕事の疲れなんて一瞬で吹き飛んでしまう。
中に入って荷物を置き、まずは室内をチェックする。
――水たまりなし! 異物なし!
トイレは我慢してくれたみたい。よかった、よかった。
私の後を付いてくるシャマルを抱きしめる。温かくて、ほっとする。全身を撫で回すと、嬉しそうに笑っていた。口角が上がったときのこのほっぺ。もちもちしていて、引っ張るとびよーんと伸びる。国宝にしてもいいくらいだ。
「シャマルきゅん、おみやげがあります」
不思議そうに眉を下げるシャマルに、買ってきた首輪を着ける。丈夫な革製で、赤色のものを選んだ。銀色の毛並みによく映えて似合っている。
「シャマルさんはモデルですか? それともファッションリーダー? クッッッッッッソ
首元に違和感があるのか、シャマルは後ろ足で首輪ごと掻いている。そのうち慣れてくれるだろう。
……そうだ、松下さんに写真を見せなきゃ。
カメラアプリを起動して、うちのイケメンを映す。
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【シャーマルヴォルフ】
レベル3
【ステータス】
体 13
魔 4
感 16
【スキル】
・威嚇
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「あれ、これって……」
スマホ画面の中で、シャマルの右上に吹き出しみたいなものが現れた。そこに書かれているのは、情報管理アプリと同じ内容だ。
このカメラを通すことで、モンスターの情報がわかるのだろうか。だとしたら便利だ。
マップアプリにも異世界の地図が表示されたし、既存のアプリにも何かしらのアップデートが入っているのかもしれない。
試しに撮影してみると、吹き出しのない画像がフォルダに保存されていた。お座りをして、舌を出しているシャマル。写真写りが抜群に良い。やはりモデル……とりあえず待ち受けにしておこう。
ついでにシャマルのステータスも更新しておいた。BPは同じく六だ。今後は、体と感に二対一で振り分けていくことにした。
「ご飯を食べたらダンジョンに行こうね」
今日は金曜日。みんなが夜の街で羽を伸ばす中、私は異世界へと飛び立つ。明日から休みだし、どんどん美のポイントを増やしていきたい。これからどう変わっていくのか、楽しみで仕方ない。
夕飯を簡単に済ませて、準備開始。
動きやすいジャージの上から革鎧を身に着ける。結構な運動量になりそうなので、リュックに水とスポーツ飲料を入れておく。邪魔にならないよう、髪をポニーテールに
メイスを担ぎ、転移アプリを起動して……レッツゴー!
*****
「わっ!」
転移した瞬間、思わず声が出た。
目の前でスライムが跳ねている。街からスタートするものだと勘違いしていたけど、どうやら転移先は前回帰還したポイントに設定されているようだ。
危なかった。この場所じゃなかったら、転移した瞬間に死んでいたかもしれない。次からは気を付けないと。
スマホを取り出し、スライムを映してみる。
――――――――――――――
【スライム】
レベル1
【ステータス】
体 2
魔 1
感 1
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うん、すごく弱い。
撮影してみると、飛び上がる直前の躍動感がある写真が保存された。私、モンスターフォトグラファーのセンスがあるかも。
……普通に撮れちゃったけど、大丈夫なのかなこれ。
「まあいっか。シャマル、どんどん狩っちゃって! 食材がドロップしたら教えてね?」
「ワンッ!」
シャマルが駆け出した。スライムに向かって一直線。ステータスが上がったおかげで、昨日よりも遙かに速い。敵の前で飛び上がり、前足を振り抜く。
「え……?」
小突いただけで倒してしまった。グロウの光が舞い散る中、シャマルはもう次の獲物に狙いを定めている。これならすぐに一掃できそうだ。
よし、私も行こう。
今日は時間に余裕があるし、可能な限り戦い続けたい。スキルは温存するべきだろう。今の私なら、ただぶん殴るだけで倒せるはず。
シャマルがいるのとは反対から攻める。油断しているスライムの背後から、ロングメイスを叩きつけた。
「そいっ!」
昨日は弾かれた一撃だったが、今日は違った。
威力は十分。金属球はスライムを押し潰し、確かに地面に触れた感触が手のひらを伝う。パンッと破裂音の後、光の粒子へと変わった。
ストレス発散が発動したときのような爽快感がないから少し残念。
次から次へと倒していく。ロングメイスがゴルフクラブくらい軽く感じる。
大部屋のスライムを狩り尽くしそうになったところで、スマホに通知音――クエストだ。
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スライムを卒業しよう!
達成条件 レベル5に到達
報酬 スライムの眼球
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……眼球?
塩揉みをして水で洗えば食べられるらしい。生でもいけるが、焼いた方が美味しいと書いてある。
レベルが四に上がっていたので、これが発生条件だったのかも。
残りのスライムを片付けて、次の大部屋へ。
道中、モンスターの姿は見当たらなかった。通路には出られない不思議な力でも働いているのだろうか。
さあ行くぞと袖を捲り、気合を入れて討伐開始。二つ目の部屋ではレベルが上がらなかったものの、三つ目の部屋でようやくクエストを達成した。
ステータスを調整してから、報酬を受け取るボタンを押す。
空中に出現した直径十五センチくらいの球体を両手で掴む。
……目が合った。
ヌルヌルしており、グロテスクだ。マグロの目玉を見たことがあるけど、スライムの眼球はそれよりもかなり大きい。体積を考えると重さは二キロくらいか。焼けば水分が飛んでくれるだろうけど、食べ応えがありそうだ。私を大食いの選手に育て上げるつもりなのかな?
とりあえず、シャマル用に持ってきていたビニール袋に詰めてリュックにしまっておく。
ここで、再びクエストが発生した。
両手を地面に擦りつけ、ペットボトルの水で洗い流す。この手でスマホには触りたくなかったからね。さて、確認してみよう。
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進むんだミヤビ!
達成条件 ポータルをくぐり、第二階層に辿り着く
報酬 始まりのネックレス
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マップアプリが勝手に開く。なんと、ダンジョンの地図まで表示してくれた。点線がこの先にある通路の奥へと続いている。
――進めと言われたら進みますけど、なぜ名指し?
妙に馴れ馴れしいクエストに首を傾げた。
すれ違いざまにスライムを倒しながら、ガイドに沿って走る。
突き当たりにポータルがあった。壁の中央で、青白い光が渦を巻いている。クエストに従い、くぐり抜けた。
「わあ!」
景色の変化に驚く。
そこには、広大な草原があった。空があった。雲が流れていた。吹き抜ける風が前髪を持ち上げ、額に滲んだ汗を
さっきまでの薄暗い通路とは大違いだ。胸一杯に空気を吸い込むと、ちゃんと青い香りがした。
――これ、本物?
黄色の花を摘んでみる。しかし、途端に光となって消えてしまう。新しい花が、元の場所に咲いていた。
ふと隣を見ると、悲痛な顔のシャマルが踏ん張っていた。これは失礼、トイレ中でしたか。どんなときでも、キミは絵になるんだね。……ウミガメかな?
ともあれ、クエストは完了した。報酬のネックレスは、始まりの腕輪と同じデザインだった。体のステータスが二ポイント増加するらしい。さっそく装備しておく。
遠くに村が見えた。
人が暮らしているのだろうか。それとも……。
「行ってみよっか」
「ワフッ!」
自然の中を走るのは気持ち良い。隣のシャマルも尻尾を躍らせて喜んでいる。弾む私のポニーテールもお揃いだ。
やがて、村の入口にたどり着いた。門は開け放たれている。ボロ布の服を着た村人たちが生活しているようだ。中に足を踏み入れたと同時――クエストが発生した。
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ゴブリンを倒せ!
達成条件 ゴブリン0/15の討伐
報酬 種なしカダルナザフス×2個
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へぇ、種なしのカダルナザフスもあるんだねぇ……なんて、とりあえず乗っておく。
名前からして果物か何かだろうか。詳細を調べようとしたそのとき――
「きゃあああああああ!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「ゴブリンが出たぞー!」
野太い声で男が叫ぶ。
村の奥から、人々が大慌てで逃げてくる。その背を追うのは、緑色の肌をした醜い化け物――あれがゴブリンか。人の形をしているのに、同じ人間とはとても思えない。二十匹以上いるだろう。奇声を上げながら村中に散らばっていく。
今すぐ助けに入りたい。でも、敵は初見だ。私まで殺されてしまっては元も子もない。まずは敵の情報を確認するためにカメラアプリを起動した。
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【ゴブリン】
レベル5
【ステータス】
体 15
魔 1
感 10
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私の体が二十二ポイントで、シャマルが二十七。ステータスだけならこちらが有利だ。一対一なら十分に勝ち目はあると思う。
問題は敵の数。囲まれたら、どうなるかわからない。この村には死角が多く、突然襲いかかってこられたら……。
「シャマル、よく聞いて。単独のゴブリンを見つけて私が戦う。あなたは周囲を警戒しながら、私が危ないときに威嚇を使うの。いい?」
「ワンッ!」
前を張るのはシャマルが適任なのだが、優れた聴覚と嗅覚、高い感の値を活かして、サポートしてもらう方が有効だと考えた。
村の中央には、入り口から続く大通りがある。まずは開けて戦いやすいこの場所で、見える範囲のゴブリンを片付けていこう。
私は敵を見据え、ロングメイスを握り直した。