ニビシティ、ニビシティジム。
ルシアはジムの扉に手をかけた。
初めてのジム戦。
ジムの中には広いバトルコート。
その中央に1人の男が座っていた。
扉が開く音に気づいた男が、ゆっくりと顔を上げる。
タケシ「挑戦者か?」
ルシア「はい!よろしくお願いします!」
ルシアの大きな声がジムに響く。
タケシはルシアに目を向けると、それから隣にいるヒコザルを見る。
そして楽しそうに笑った。
タケシは立ち上がる。
タケシ「うん、いい表情だ!」
タケシ「俺はジムリーダーのタケシ!」
タケシ「君の実力を見せてみろ!」
タケシは楽しそうに笑うと、バトルコートの自分の持ち場へ向かった。
ジムリーダー、タケシ。
挑戦者、ルシア。
記念すべき、初めてのジム戦が始まろうとしていた。
♢♢♢
審判「使用ポケモンは1体!それでは両者、ポケモンを!」
ルシアはゆっくりと目を閉じた。
そして、一度だけ大きく深呼吸する。
テレビの向こうで、何度も聞いてきた審判の声だった。
でも、今日は違う。
今から自分とヒコザルが戦う。
その実感が少しずつ湧いてくる。
ルシアはもう一度息を吸った。
ルシア「お願い!ヒコザル!」
ヒコザルがルシアの前に降り立った。
小さな拳をぎゅっと握ると、正面にいるタケシをまっすぐに見つめた。
ルシアは決めていた。
初めてのジム戦は、この子と。
ずっと一緒にいた相棒。
ヒコザルと勝つ。
タケシ「出てこい!イワーク!」
タケシが放ったボールが弾けた。
光の中から巨大なイワークが姿を現し、タケシの隣に並んだ。
タケシ「駆け出しのトレーナーにこのイワークが倒せるか!?」
イワークがその声に呼応するように、大きく咆哮した。
ルシアとヒコザルは、目の前のイワークを見上げた。
……大きい。
思っていたよりも、ずっと。
正直、少し怖かった。
でも、勝ちたい。
戦いたい。
その気持ちの方がずっと強かった。
ルシア「勝とうね!ヒコザル!」
ヒコザルはルシアを見上げると、力強く頷いた。
タケシはそんな2人の姿を見て、口元を緩めた。
このイワークを見て怖気づく様子はない。
なかなか骨のあるトレーナーだ。
審判「それでは、バトルスタート!」
審判の声がジム全体に響き渡った。
ルシア「ヒコザル!かえんぐるま!」
ヒコザルが赤い炎を纏う。
そのまま地面を蹴り、イワークへ向かってまっすぐ突っ込んでいく。
タケシは何も言わない。
ただ迫ってくるヒコザルを見つめていた。
炎を纏った体が、イワークに炸裂する。
赤い炎が岩の巨体を包み込んだ。
しかし、イワークは動かない。
ヒコザルが地面に着地する。
ルシア「……え。」
……効いてない?
ヒコザルのかえんぐるまが?
ヒコザルもイワークを見つめていた。
タケシ「俺のポケモンたちは我慢強いぞ!」
イワークは防御が高い。
正面から攻撃したところで簡単には崩れない。
だからこそ工夫して戦ってみろ。
突破口はある。
ジムリーダーは挑戦者の実力を試す立場だった。
本気で相手を倒しにいくわけではない。
タケシはルシアの姿を見ながら楽しそうに笑っていた。
タケシ「イワーク!いわおとし!」
巨大な岩がヒコザルの頭の上に浮かび上がる。
ルシア「避けて!」
ヒコザルはすぐに走り出す。
そして、落ちてくる岩から体を逸らした。
巨大な岩が地面に激突する。
ギリギリだった。
ヒコザルはなんとか避け切った。
ルシアはぎゅっと拳を握る。
……全然うまくいかない。
セナのバトルも、他のトレーナーのバトルも、たくさん見てきた。
でも、見るのとやるのは全然違う。
実際に戦ってみると、全然思っていたようにはいかなかった。
でも、勝ちたい。
ルシア「ヒコザル!ひのこ!」
ヒコザルが口を開き、小さな炎を吐き出した。
タケシ「ほう。」
タケシはヒコザルをじっと見つめた。
イワークは防御が高い。
ただ、特殊攻撃なら通用する。
今の彼女とヒコザルならそれが一番いいだろう。
なかなかいいトレーナーだ。
タケシはルシアの判断を見ながら、口元を緩めた。
イワークが苦しそうに顔を顰めた。
ルシア「効いてる!」
ヒコザルも嬉しそうに拳を握る。
ルシア「さらにひのこ!」
タケシ「たいあたり!」
ヒコザルがもう一度口を開き、火の粉を吐き出した。
イワークは巨体に力を込めると、一気にヒコザルとの距離を詰めていく。
炎がその体を捉える。
それでも止まらなかった。
イワークの巨体が、そのままヒコザルに迫る。
そして、まともに捉えた。
タケシ「いけ!」
ルシア「ヒコザル!」
ヒコザルは咄嗟に両腕を前へ突き出した。
イワークの巨体を受け止めながら、吹き飛ばされないように全身に力を込める。
小さな体が押し込まれる。
それでも必死に踏ん張っていた。
その時だった。
♢♢♢
ヒコザルの体が、突然光に包まれた。
ルシアは固まったまま、目の前のヒコザルを見つめる。
光の中で、ヒコザルは歯を食いしばる。
これから、ルシアと一緒にセナに勝つ。
いっぱいバトルをする。
きっと、負けちゃうことだってある。
それくらいヒコザルだってわかっている。
でも、今日はルシアとの初めてのジム戦。
ムックルもいる。
ピカチュウだっている。
それでもルシアは自分を選んでくれた。
だから勝ちたい。
ルシアと一緒に勝ちたい。
ルシアを笑顔にしたい。
光の中で、ヒコザルの体が大きくなっていく。
腕が伸び、長く発達していく。
そして光が弾けた。
モウカザルだった。
ルシアの瞳が揺れた。
モウカザルは、イワークの巨体を片手で受け止める。
そして、空いたもう片方の拳を振るった。
グロウパンチ。
固く握りしめた拳がイワークを捉える。
その巨体を押し返した。
♢♢♢
イワークが勢いよく吹き飛ばされた。
ゆっくりと巨体を起こす。
タケシ「……ほう。」
タケシはルシアとモウカザルを見つめた。
あのトレーナーは自分なりに頭を使ってイワークを攻略しようとしていた。
そしてヒコザルも限界を超えてモウカザルへと進化した。
トレーナーもポケモンもそれぞれがベストを尽くそうとしている。
まだまだ粗い。
バトルの基礎だって、十分にできていない。
でも、それでいい。
タケシ「イワーク!いわおとし!」
再び、モウカザルの頭上に巨大な岩が浮かび上がる。
ルシアはぎゅっと拳を握った。
さっきは逃げた。
でも、今なら。
ルシア「モウカザル!グロウパンチ!」
モウカザルが拳を握った。
頭上から降ってくる岩に向かって、拳を振り抜く。
直撃するはずだった巨大な岩が、粉々に砕け散った。
グロウパンチの副次効果。
モウカザルの攻撃力が跳ね上がる。
ルシア「今!」
モウカザルが強く地面を踏み込んだ。
ルシア「かえんぐるま!」
モウカザルの体が赤い炎に包まれた。
さっきよりもずっと強く燃えている。
そのままイワークへ向かって突っ込んでいく。
タケシは小さく笑った。
今はそれでいい。
無鉄砲で、それでいて強い。
まだ若いトレーナーだ。
これから壁にぶち当たることだってあるだろう。
その時は、また乗り越えればいい。
今は合格だ。
……ルシアか。
覚えておこう。
炎を纏ったモウカザルがイワークの巨体を捉える。
イワークが勢いよく吹き飛ばされる。
そのままジムの壁に激突する。
イワークはゆっくりと体を起こそうとした。
巨体に力を込める。
それでも立ち上がれなかった。
審判「イワーク、戦闘不能!」
審判「よって勝者、挑戦者ルシア!」
審判の声がジムに響き渡った。
ほとんど同時にルシアが駆け出した。
モウカザルの背中に勢いよく飛びつく。
そうせずにはいられなかった。
そうしたかった。
初めての勝利。
その喜びを2人で分かち合いたかった。
ルシア「モウカザル!」
ルシア「勝った!勝ったよ!」
ルシアはモウカザルに抱きついたまま、満面の笑みを浮かべていた。
モウカザルも振り向くと、少し照れくさそうに笑った。
タケシは満足そうにその姿を見つめていた。
そして、ゆっくりと2人に歩み寄る。
タケシ「……ルシア。」
ルシアが顔を上げた。
タケシは手にしていたバッジを、ルシアの前に差し出した。
タケシ「グレーバッジだ。」
ルシアは両手を伸ばし、大切そうに受け取った。
初めてのジムバッジ。
その小さなバッジが、ルシアの手の中で光を放っていた。
隣のモウカザルも目を大きく見開き、バッジをじっと見つめている。
タケシ「……いいバトルだった。」
タケシ「ただ、まだまだ磨ける。」
タケシ「これから壁にぶつかることだってきっとある。だが、君たちなら乗り越えていけるだろう。」
タケシ「応援している。」
タケシはルシアに笑いかけた。
タケシなりの最大限の激励だった。
ルシア「ありがとうございます!」
ルシアは立ち上がると、タケシに向かって深く頭を下げた。
その横には、ボロボロになったモウカザルが立っていた。
初めてのジム戦を終えた2人。
ルシアはずっと笑顔を絶やさなかった。
モウカザルをボールに戻すと、ジムの出口へ向かう。
そして扉を開く。
タケシは満足そうにルシアの後ろ姿を見送っていた。
♢♢♢
ジムの扉を出たところで、ルシアはゆっくりと座り込んだ。
空を見上げ、大きく息を吐く。
勝った。
…でも。
今のバトル、本当なら私は負けていた。
ヒコザルの力をちゃんと発揮させてあげられなかった。
ヒコザルが頑張ってくれたからなんとか勝てただけ。
これじゃだめだ。
もっと勉強しないとだめだ。
私には私のできることがある。
それをちゃんとやらないと。
感情だけじゃ勝てない。
勢いだけじゃ勝てない。
ルシアは確かに勝った。
初めてのジム戦で、グレーバッジを手に入れた。
それでも同時にわかってしまった。
……このままじゃ次は負ける。
ルシアはジムの前に座り込んだまま、ぎゅっと拳を握った。
ヒコザルも、ムックルも戦ってくれる。
あの子たちには才能だってある。
だから、私があの子たちの力をちゃんと引き出せるように。
私も強くならないといけない。
♢♢♢
シンオウ地方、ポケモンリーグスタジアム。
実況「シンオウチャンピオン防衛戦! 新王者セナ選手が、チャンピオンとして初めての防衛戦に臨みます!」
実況の声がスタジアム中に響き渡った。
フィールドの中央では、セナと挑戦者が向かい合っている。
セナがシンオウチャンピオンに就任してから、初めての防衛戦。
セナは目の前の挑戦者を見つめた。
頭の上には、いつも通りチラチーノが乗っている。
チラーミィだった頃よりほんの少し重い。
セナの顔に自然と笑みが浮かんだ。
僕はチャンピオンになった。
ここにいれば挑戦者がやってくる。
そいつらを倒せば僕はもっと強くなれる。
強くなるための環境も、肩書きも、情報も、全部揃った。
僕が欲しかったものが全てここにある。
さぁ。
僕をもっと強くしてくれ。
追い詰めてくれ。
セナは笑みを浮かべたまま、モンスターボールを握った。
挑戦者がモンスターボールを投げた。
光の中からエンペルトが姿を現す。
セナもボールを放った。
セナの隣にルカリオが並んだ。
実況「挑戦者の先発はエンペルト!」
実況「対するセナ選手は、シロナ前チャンピオンのポケモン6匹をたった1匹で倒したルカリオです!」
審判「使用ポケモンは6体!それでは、バトルスタート!」
審判の声が響いた。
セナ「ルカリオ。しんそく。」
ルカリオが踏み込んだ。
一瞬でエンペルトとの距離を詰めると、鋭い蹴りを叩き込んだ。
実況「ルカリオが先制!エンペルトに強烈な一撃が入りました!」
挑戦者の瞳が大きくなった。
エンペルトは踏ん張りきれず、勢いよく吹き飛ばされた。
何度も地面を跳ね、そのままフィールドの壁に激突する。
そして、ゆっくりと崩れ落ちた。
セナ「……え。」
セナは一言だけ声を漏らした。
そのまま何も言えず、倒れたエンペルトを見つめていた。
審判「……エンペルト、戦闘不能。」
実況「なんと一撃! セナ選手のルカリオ、エンペルトを一撃で戦闘不能に追い込みました!」
実況の声がスタジアムに響き渡った。
観客席から大きな歓声が上がる。
10年間無敗を誇ったシロナを倒し、新たなシンオウチャンピオンとなったセナ。
そのパートナーであるルカリオが、たった一撃で挑戦者のエンペルトを沈めた。
観客たちからすれば、まさに英雄の凱旋だった。
ただ、セナにとっては違った。
目の前の現実を受け入れられない。
……今ので終わり?
……様子見の一撃で?
ルカリオは当然のように立っている。
セナは呆然としたまま、挑戦者を見つめていた。
挑戦者も同じだった。
目の前で起きたことを、まだ受け入れられていない。
それでもバトルは待ってくれない。
次に繰り出されたのは、エテボース。
セナは拳を握り直した。
そうだ。
今のは何かの間違いだ。
急所だ。
きっとそうだ。
相手だってここまで来たんだ。
そんなに弱いわけがない。
審判「バトル再開!」
挑戦者「エテボース!ねこだまし!」
セナ「はどうだん。」
セナは目を細めた。
……ねこだまし?
ルカリオの特性を知らないのか?
特性「せいしんりょく」。
ルカリオは怯まない。
エテボースが先制して攻撃を仕掛ける。
でもルカリオはそのまま距離を詰めた。
そして至近距離ではどうだんを放つ。
蒼い波動がエテボースを捉えた。
実況「またしても直撃!エテボースが倒れました!セナ選手のルカリオ、止まりません!」
エテボースは地面に倒れたまま、ぴくりとも動かなかった。
審判「エテボース、戦闘不能。」
セナ「……。」
……なんだよそれ。
ここまで来てそれかよ。
セナの目が潤んだ。
弱い。
弱すぎる。
セナは目元を擦った。
悪い夢だと思った。
何かの間違いであってほしかった。
でも、目は覚めてくれなかった。
これはどうしようもなく、現実だった。
♢♢♢
そこから先は覚えていない。
相手がどんなポケモンを出したのか。
どんな技を使ったのか。
一切覚えていない。
気づけば挑戦者の最後のポケモンが倒れていた。
審判「勝者、チャンピオンセナ!」
スタジアム中で歓声が爆発した。
実況「圧倒的な勝利!新王者セナ選手、初防衛に成功しました!シンオウチャンピオンとして見事な勝利を飾りました!」
セナは下を向いた。
……こんなの求めてない。
観客たちの羨望の眼差しも。
チャンピオンの称号も。
僕が欲しいのはこんなものじゃない。
僕が欲しいのはひとつだけ。
強くなれる環境。
もっと先に行ける実感。
それだけあればよかった。
セナはゆっくりと顔を上げた。
僕はこれでもシンオウチャンピオンだ。
チャンピオンらしく、敗者を讃えなければならない。
何か言葉をかけなければならない。
セナ「……いいバトルだったよ。」
セナ「……また挑戦して。」
振り絞るように、挑戦者へ声をかけた。
声が震えていた。
その言葉に、観客席からの歓声がさらに大きくなる。
挑戦者が僕を見て笑った。
どうしようもない気持ちが込み上げてきた。
……なんで笑うの?
負けたのになんで笑えるの?
笑えるほど、お前強くないよ。
でも、僕はチャンピオンだ。
顔に出すな。
口に出すな。
セナは踵を返す。
そしてゆっくりと出口へ向かって歩き出した。
初めてのチャンピオン防衛戦はセナの勝利で幕を閉じた。
♢♢♢
セナはチャンピオンルームに戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。
これからのこと。
防衛戦のこと。
もう何も考えたくなかった。
セナは勝った。
当然だった。
ルカリオの圧倒的な攻撃力。
セナの洗練された的確な指示。
おまけに2人にはリンクまである。
そもそも、シロナが異常だったのだ。
セナが現れるまで、10年間一度も敗北を許さなかった無敗の女王。
そんなシロナだからこそセナとルカリオをあそこまで追い詰めることができた。
同じことができるトレーナーなんてどこにでもいるわけがない。
ただ、セナ本人は気づいていなかった。
チャンピオンになれば強い挑戦者たちがやってくる。
自分を追い詰めてくれる。
もっと強くなれる。
そう期待していたのはセナだけだった。
そして勝手に落胆した。
セナはベッドから立ち上がることさえできなくなっていた。
@sinnoh_battle
セナ、初防衛戦で6タテ達成!!
@champion_fan
セナ最強!!
@lucario_master
ルカリオ強すぎる
誰も止められないじゃん
@sinnoh_pride
シンオウ最強時代来たな
@battle_watcher
セナのバトルって見てて気持ちいいんだよな
@world_battle
セナはレッドやダンデと戦ってほしい。
@poke_world_16
PWCって次いつだっけ?
@league_info
次は2021年じゃない?
@sinnoh_champion
次のPWC、セナが出るなら優勝もあるかもな
@battle_fan_21
楽しみだな