ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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15話 ルシアVSカスミ

ハナダシティ、ハナダジム前。

 

ルシア、モウカザル、ムックル、そしてピカチュウ。

 

4人は輪になって座り込んでいた。

 

今日は公開ジム戦。

 

ジム戦の様子を観客が見ることのできる形式だった。

 

ルシアVSカスミ。

 

試合開始まで、あと30分を切っている。

 

今回のバトルは2対2。

 

ルシアは3匹の仲間の中から試合に出る2匹を選ばなければならなかった。

 

ルシア「聞いてください。」

 

その声に、モウカザル、ムックル、ピカチュウが揃ってルシアへ顔を向けた。

 

ちゃんと伝わっているかはわからない。

 

それでも、ルシアは3匹の顔を順番に見つめた。

 

その表情は真剣だった。

 

♢♢♢

 

ジムリーダー、カスミ。

 

みずタイプのポケモンの使い手。

 

しかもカスミのエースはスターミー。

 

モウカザルのかえんぐるまもグロウパンチも効果はいまひとつだった。

 

ルシアは腕を組んで考え込む。

 

モウカザルを出さないなら、ピカチュウとムックルで戦うことになる。

 

ハナダシティに来るまでに野生のポケモンとは何度も戦った。

 

ピカチュウだって戦える。

 

それは、ちゃんとわかった。

 

でもジム戦となると話は別。

 

ルシアは目の前のピカチュウを見つめた。

 

するとピカチュウが小さな拳を突き出した。

 

その顔は強張っていた。

 

でも、戦いたい。

 

ルシアにはそう言っているように見えた。

 

ルシアはモウカザルへ視線を移す。

 

モウカザルも、もちろん戦いたそうにしていた。

 

そして、正直ルシアが一番信用しているのはモウカザルだった。

 

ニビシティでの活躍がどうしても忘れられない。

 

もしピンチになっても、モウカザルならなんとかしてくれる。

 

そんな気がしていた。

 

でも、ルシアにもわかっていた。

 

モウカザルだけが強くてもセナには勝てない。

 

それにまだバッジは1つ。

 

失うものだってない。

 

セナに勝つ。

 

そのためには、ムックルもピカチュウも、モウカザルと同じくらい強くならないといけない。

 

そこまで考えれば結論は出ていた。

 

ルシア「……ごめん、モウカザル。」

 

ルシア「今回は我慢して。」

 

モウカザルは俯いたまま、渋々頷いた。

 

ムックル、そしてピカチュウ。

 

今日はこの2匹でカスミを倒す。

 

♢♢♢

 

ハナダシティ、ハナダジム。

 

バトルコートでは、ルシアとカスミが向かい合っていた。

 

観客席には15人ほどの人々が集まっている。

 

シンオウ地方でのジム戦だったなら、おそらく会場が満員になるほどの観客が集まっていただろう。

 

でも、ここはカントー地方。

 

Stellaを知っている人も多くはなかった。

 

『ルシアって強いの?』

 

『まだ駆け出しか。』

 

『え、Stellaのルシア?』

 

『アイドルかぶれがカスミに勝てるの?』

 

観客席からそんな声が口々に漏れていた。

 

ルシアはまっすぐ前を向いた。

 

それでいい。

 

びっくりさせてやる。

 

絶対、勝つ。

 

♢♢♢

 

カスミはルシアを見ると、楽しそうに口を開いた。

 

カスミ「きみ!きみはポケモン育てる時、何かポリシーがある?」

 

ルシア「セナに勝つ!」

 

カスミ「……。」

 

カスミ「あのねぇ。それは目標。」

 

カスミ「あたしが言ってるのはポリシー!」

 

ルシアは黙ってしまった。

 

……ポリシー。

 

そんなこと考えたこともなかった。

 

そもそもポリシーを語れるほど、私はまだポケモンバトルを知らない。

 

カスミ「あたしのポリシーはね。」

 

カスミ「みずタイプポケモンで、攻めて攻めて攻めまくることよ!」

 

カスミはモンスターボールを握った。

 

ルシアも自分のボールを握りしめる。

 

相手が攻めまくるなら。

 

こっちだって、負けない。

 

カスミ「出てきて! コダック!」

 

カスミが放ったボールが開く。

 

光の中からコダックが姿を現した。

 

コダックはカスミの前に立つと、そのままじっとしていた。

 

ルシア「お願い!ムックル!」

 

ルシアもモンスターボールを放る。

 

飛び出したムックルは大きく翼を広げ、ルシアの前で羽ばたいた。

 

力強く翼を動かし、空中に浮かんでいる。

 

カスミ「……へぇ。」

 

カスミの口元が緩んだ。

 

強い。

 

一目見ただけでわかった。

 

審判「使用ポケモンは2体!それではバトルスタート!」

 

審判の声が響く。

 

観客たちの視線が一斉にバトルコートへ向いた。

 

ムックルとコダック、2匹が互いを睨み合う。

 

ルシアとカスミ。

 

2つ目のジムバッジをかけた公開ジム戦が始まった。

 

♢♢♢

 

カスミ「コダック!みずてっぽう!」

 

コダックが両腕を前に突き出した。

 

その正面から水流が放たれる。

 

そのまま、ムックルへ向かって一直線に迫った。

 

ルシアは拳を握る。

 

ここまで旅をしながら、ルシアだって勉強してきた。

 

タイプ相性、技の威力、ポケモンの適性。

 

でも全部を覚えることなんてできない。

 

だから決まりごとを作った。

 

タイプ一致の技は避ける。

 

不一致の技は受けてもいい。

 

明確にルールを決めることで自分たちの迷いを消す。

 

コダックはみずタイプ。

 

みずてっぽうもみずタイプ。

 

だから避ける。

 

ルシア「ムックル!避けて!」

 

ムックルは翼を傾け、空中で大きく旋回した。

 

迫ってきた水流がその横を通り抜ける。

 

ルシア「でんこうせっか!」

 

ムックルが一気に加速した。

 

そのままコダックとの距離を詰め、勢いよく体をぶつける。

 

コダックが吹き飛ばされ、地面を何度も跳ねた。

 

コダックは目を細めながら体を起こし、倒れずに体勢を立て直す。

 

観客たちの視線がムックルへ集まる。

 

先に攻撃を受けたのはカスミのコダックだった。

 

先ほどまでルシアの実力を疑っていた観客席の空気が明確に変わっていく。

 

カスミ「やるわね!」

 

カスミの声がバトルコートを駆け抜ける。

 

ルシア「ムックル!つばさでうつ!」

 

ムックルが翼を大きく広げると、コダックに狙いを定めた。

 

カスミ「サイケこうせん!」

 

コダックから紫色の光線が放たれ、ムックルへ向かって一直線に迫る。

 

ルシアは拳を握った。

 

ルシア「そのまま突っ込んで!」

 

カスミ「はぁ!?コダックのサイケ光線よ!?」

 

カスミが目を丸くした。

 

それでもムックルもルシアも迷わなかった。

 

わからない。

 

どうすればいいのかわからなくなって、動きが止まる。

 

それだけは嫌だった。

 

だから最初にルールを決める。

 

それだけでいい。

 

ムックルをサイケこうせんが捉えた。

 

それでも止まらない。

 

翼を広げたまま加速し、コダックへ突っ込んでいく。

 

そして、その体を撃ち抜いた。

 

コダックが勢いよく吹き飛ばされる。

 

何度か地面を跳ね、なんとか体を起こそうとした。

 

しかし、そのままゆっくりと前に倒れ込んだ。

 

審判「コダック、戦闘不能!」

 

審判のコールがバトルコートに響く。

 

観客たちは息を呑んだ。

 

さっきまでとは明らかに空気が違っていた。

 

駆け出しのトレーナー。

 

元アイドル。

 

観客たちがルシアについて知っていたのは、それくらいだった。

 

でも、今は違う。

 

カスミのコダックが目の前で倒された。

 

しかも、ルシアとムックルは真正面から攻撃を受けながら、そのまま押し切ってみせた。

 

1人の観客が、思わず身を乗り出す。

 

もっと見たい。

 

そんな期待が少しずつ観客席に広がっていた。

 

観客席、後方の目立たない席。

 

1人の青年が、静かにバトルコートを見つめていた。

 

視線の先には、ルシアとムックル。

 

2人は嬉しそうに触れ合っていた。

 

「……。」

 

青年は赤い帽子を深く被り直すとわずかに口元を緩めた。

 

♢♢♢

 

カスミ「……そのムックル、すごいわね。」

 

カスミ「……いや、あなたもすごい。」

 

ルシア「…え?」

 

ルシアが顔を上げた。

 

カスミ「いい挑戦者じゃない。」

 

カスミは楽しそうに笑った。

 

カスミ「行くわよ!スターミー!」

 

モンスターボールが開き、光が弾けた。

 

スターミーが姿を現し、カスミの前に並んだ。

 

観客たちの視線が、一斉に集まる。

 

カスミ「さっきみたいに上手くいかないわよ!」

 

カスミは腕を前に伸ばし、ルシアをまっすぐ見つめた。

 

ルシアは小さく息を吸い、呼吸を整えた。

 

目の前では、ムックルが力強く羽ばたいている。

 

ルシア「まだいける?」

 

ムックルは大きな声で鳴いた。

 

ルシア「OK!勝とう!ムックル!」

 

ムックルとスターミー。

 

2匹が向かい合った。

 

審判「バトル再開!」

 

ルシア「ムックル!でんこうせっか!」

 

ムックルが空中で大きく旋回した。

 

そして、一気に加速する。

 

カスミ「スターミー!ハイドロポンプ!」

 

スターミーのコアが光った。

 

その正面に激しい水流が集まっていく。

 

そして、ムックルを狙って撃ち出された。

 

ムックルには当たらない。

 

でも、ルシアは固まったまま動けなかった。

 

ムックルも大きく速度を落とした。

 

それでも、でんこうせっかはスターミーに届いた。

 

勢いを失った体当たりがスターミーを捉える。

 

しかしその体を押し込むには至らない。

 

ハイドロポンプ。

 

みずタイプの中でもトップクラスの威力を誇る技。

 

観客たちも黙ったままカスミとスターミーを見つめていた。

 

本来、ジムリーダーは挑戦者の実力を試す立場。

 

駆け出しのトレーナー。

 

しかも相手はムックル。

 

簡単に放たれるような技じゃない。

 

カスミ「……ごめんね。」

 

カスミ「あなた、強いから。」

 

カスミ「本気でやりたくなっちゃった。」

 

カスミがゆっくりと顔を上げた。

 

その顔には冷や汗が浮かぶ。

 

それでも、楽しそうに笑っていた。

 

♢♢♢

 

カスミ「次は当てるわよ!」

 

カスミ「スターミー!サイコキネシス!」

 

スターミーのコアが再び光った。

 

ルシア「避けて!ムックル!」

 

ムックルは一気にスピードを上げ、スターミーから距離を取っていく。

 

サイコキネシスの射程圏外。

 

なんとか攻撃を避けたものの、ルシアは歯を食いしばる。

 

ハイドロポンプ。

 

そしてサイコキネシス。

 

カスミは本気だった。

 

それくらいルシアにもわかる。

 

しかもこの攻撃範囲。

 

2つの技を避けようとし続ける限り、ムックルの攻撃は一生届かない。

 

ルシア「ムックル!でんこうせっか!」

 

ムックルは諦めていない。

 

それなら飛ぶしかない。

 

もっと高く飛んで。

 

もっと速く飛んで。

 

一撃でもスターミーにダメージを与える。

 

ムックルは空中でくるっと旋回すると、スターミーへ狙いを定めた。

 

ルシア「いけ!」

 

カスミ「ハイドロポンプ!」

 

カスミが拳を握った。

 

覇気のこもった声がフィールドを駆け抜ける。

 

ムックルが一気に加速した。

 

同時に、スターミーの正面から激しい水流が放たれる。

 

ムックルのでんこうせっか。

 

スターミーのハイドロポンプ。

 

2つの技が同時にお互いを捉えた。

 

スターミーが押し込まれる。

 

それでも倒れるには至らなかった。

 

苦しそうに体を支えながら、ゆっくりと姿勢を戻していく。

 

一方、ムックルは地面へ落ちていた。

 

もう飛べない。

 

翼を広げたまま、力なくフィールドに落ちる。

 

ルシアはその姿を見つめ続けていた。

 

審判「ムックル、戦闘不能!」

 

カスミが拳を握った。

 

観客席から大きな歓声が上がる。

 

カスミ「……ムックルよね?」

 

カスミ「……強すぎよ。」

 

カスミは苦しそうに笑うと、ゆっくりとルシアへ視線を向ける。

 

……やられた。

 

今の一撃は確実に後で効いてくる。

 

強い。

 

ムックルのくせに。

 

元アイドルのくせに。

 

……悔しい。

 

でも楽しい。

 

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