ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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17話 ルシアとグリーン

2018年10月。

 

カスミを倒した後もルシアは止まらなかった。

 

すでに4つのバッジを手に入れ、そのまま旅を続けていた。

 

旅を始めて4ヶ月。

 

約束の半年まであと2ヶ月。

 

ムックルもムクバードへと進化していた。

 

ペースは悪くない。

 

シオンタウン。

 

ルシアは腕にピカチュウを抱きかかえ、ポケモンタワーの前に立っていた。

 

ポケモンタワー。

 

亡くなったポケモンたちの魂を祀る場所。

 

建物の前に立つだけでも、どこか独特な空気が漂っていた。

 

ルシアは腕の中のピカチュウに目を落とすと、もう一度タワーを見上げた。

 

静かで、どこか近寄りがたい雰囲気。

 

その空気にのまれながらも、ルシアとピカチュウは吸い込まれるようにポケモンタワーへ足を踏み入れた。

 

塔の中も、静かだった。

 

小さな墓がいくつも並んでいる。

 

きのみやきずぐすりが供えられている。

 

ポケモンと人が一緒に笑っている写真もあった。

 

たくさんの思い出がそこに残されている。

 

墓の周りには、ゴースやゴースト、たくさんのポケモンたちが浮かんでいる。

 

普段なら、突然出会えば驚いて飛び上がってしまいそうなポケモンたち。

 

そんな彼らもこの場所では当たり前のように存在していた。

 

その時だった。

 

「おまえのポケモン、しんだのか?」

 

ルシア「……え?」

 

ルシアはゆっくりと振り向いた。

 

腕の中のピカチュウも、びくっと肩を震わせる。

 

まさか、話しかけられるとは思っていなかった。

 

ルシア「いや、私は」

 

そこまで言って、ルシアは固まった。

 

トキワシティジムリーダー。

 

グリーンだった。

 

トキワジムは後。

 

そう決めて、挑戦を後回しにした相手。

 

カントー最強のジムリーダー。

 

そのグリーンが、当たり前のように目の前に立っていた。

 

グリーン「お前、ルシアだろ。」

 

ルシアは固まったままだった。

 

グリーン「ユイのとこのアイドル。あいつから聞いたぜ。」

 

グリーンは楽しそうに笑う。

 

ルシアはまだ動けなかった。

 

……グリーンさんが私のことを知ってる?

 

ユイさんから聞いた?

 

ユイさんと知り合いなの?

 

何もわからなかった。

 

ルシア「……なんで私のこと。」

 

グリーン「セナに勝つんだろ。」

 

ルシア「……。」

 

グリーン「めちゃくちゃ有名だぜ?」

 

グリーン「……お前もな。」

 

グリーンは楽しそうに言葉を続けた。

 

グリーン「強くなったら来い。俺が試してやる。」

 

それだけ言うと、グリーンは片手をひらひらと振る。

 

そしてルシアを残してポケモンタワーの外へ消えた。

 

♢♢♢

 

ルシアはグリーンを見送った後も、ポケモンタワーの中を見て回っていた。

 

並んだ墓を眺めながら、ほんの少し胸が痛む。

 

ポケモンはどこか、病気とは無縁で、ずっと一緒にいられるものだと思っていた。

 

でも、現実は違った。

 

ポケモンだって、生き物だった。

 

病気にもなる。

 

死ぬことだってある。

 

ルシアは並んだ墓に目を向けた。

 

まだ、自分が経験したことのないポケモンとの別れ。

 

それは確かに目の前にあった。

 

ルシアとピカチュウは、ポケモンタワーの外へ出た。

 

心地よい外の空気が、2人を包み込む。

 

ルシアは小さく息を吸い、呼吸を整えた。

 

ジムリーダーは、もう4人倒した。

 

タケシ、カスミ、エリカ、ナツメ。

 

そして、次は。

 

カツラ、アンズ、マチス、そしてグリーン。

 

とりあえずのバッジ集めも、ようやく折り返し。

 

ルシア、モウカザル、ムクバード、ピカチュウ。

 

4人は次の街へ向かって歩き始めた。

 

♢♢♢

 

ユナ「……痩せた?」

 

ユナは洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめた。

 

ほんの少し、頬がこけた気がする。

 

試しに口角を上げてみる。

 

……うん。

 

いつも通り。

 

大丈夫。

 

この時は、確かにそう思った。

 

ルシアが旅に出てから、休む時間は減った。

 

ライブのレッスン。

 

取材。

 

モデル撮影。

 

ルシアがいない世界でも、私の時間は止まらない。

 

それでも、私は前を向き続けた。

 

ファンの人たちだって来てくれる。

 

Stellaを楽しみにしてくれている。

 

だから、止まれない。

 

ルシアがいなくて楽しくない。

 

そんなの、私の勝手だから。

 

Stellaを守ること。

 

それが、私の責任だから。

 

そばにいたシャワーズが、私の顔を覗き込んだ。

 

ユナ「大丈夫。」

 

私はシャワーズの頭を優しく撫でた。

 

そして、今日のスケジュールを確認する。

 

朝はコトブキシティでテレビ取材。

 

昼はヨスガシティでポケモンコンテストの審査員。

 

私は軽く身支度を整えると、小さく息を吐いた。

 

そして、外へ一歩目を踏み出した。

 

♢♢♢

 

ナギサシティ、cutie project事務所、社長室。

 

リン「……ライブを増やしてください。」

 

リンの声が、静かな社長室に落ちた。

 

ユイ「……。」

 

ユイはすぐには何も言えなかった。

 

ここ最近、Stellaのライブの数は明らかに減っていた。

 

Poketterでも、そのことは話題になっている。

 

『Stellaのライブ減ったよな』

 

『ルシアいないからきついんじゃない?』

 

『リンとユナは活躍してるし心配してないけど3人のライブが見たい』

 

そんな声が散見されていた。

 

リンはユイから目を逸らさなかった。

 

まっすぐにその顔を見つめ続けていた。

 

ユイにも考えがある。

 

ルシアは帰ってくる。

 

ハナダシティでのPoketubeの動画も確認した。

 

あの子は、ちゃんとポケモントレーナーになっていた。

 

それでも、半年で8個のバッジなんてそんなに上手くいくわけない。

 

どこかでそう思っていた。

 

そして、ルシアが帰ってきた時のことも考えていた。

 

その時、どうするのが一番いいのか。

 

リンとユナを埋もれさせない。

 

2人を世間から忘れさせない。

 

Stellaという枠の中だけじゃなく、外でも活躍させる。

 

そうすれば、ルシアがいない時間だって無駄にはならない。

 

ユイなりに考えた上での方針だった。

 

でも、リンの気持ちもわかる。

 

あの子がどれだけアイドルを愛しているのかも、知っている。

 

だからこそ、簡単には返事ができなかった。

 

ユイ「……ルシアが」

 

リン「またルシアですか。」

 

リンの口から、悔しそうな声が漏れた。

 

リン「私とユナだけじゃStellaに価値はないんですか。」

 

リン「……ルシアは帰って来ませんよ。」

 

リン「帰って来て欲しいとも思わない。」

 

ユイは黙ったまま、リンの言葉に耳を傾けていた。

 

できれば、リンの口からそんな言葉は聞きたくなかった。

 

リン「2人なら、終わりですか。」

 

ユイは何も言えなかった。

 

ここで、何か言葉を返していれば。

 

嘘でもよかった。

 

2人でもやっていける。

 

そう返していればよかった。

 

ユイは後になって、この沈黙を後悔することになる。

 

でも、今のユイには簡単に頷くことができなかった。

 

@poke_battle_21

ルシアのジム戦見た?

 

@sinnoh_trainer

見た

普通に強くなってた

 

@stella_fan08

ピカチュウ、モウカザル、ムクバードだったね

 

@grass_type_love

エリカ戦のムクバードすごかったんだけど話したい

見た人いない?

 

@battle_viewer

囃し立てるほどでもないんじゃない?

強いけど普通のトレーナーって感じ

 

@kanto_league

ドルオタの人にはすごく見えるんだろうけど、あれくらいは普通だよ

 

@trainer_watch

いや、4ヶ月であの成長速度はおかしいよ

 

@poke_fan_39

え、4ヶ月?それならすごいわ

 

@champion_rank

まあすごいんだけど、セナに挑めるかって言われたら無理でしょ

 

@battle_talk

そこそこのトレーナーで終わりそうな気はする

 

@stella_support

Stellaもちゃんと活動してるしユナもリンも元気そうだしいいんじゃない?

 

@idol_live_17

ユナ、前回のライブで見た時ちょっと痩せた気がするけどな

 

@stella_days

気のせいだろ

 

♢♢♢

 

カロス地方、ミアレ研究所。

 

プラターヌ博士はモニターに映し出されたネットニュースを眺めていた。

 

【シンオウニュース】

シンオウチャンピオンセナ、防衛戦20連勝を達成

 

プラターヌ「へぇ。」

 

プラターヌ博士はPoketubeを開くと、セナの試合映像を見直し始めた。

 

シロナ戦とそしてこれまでの防衛戦を順番に映像を再生していく。

 

圧倒的だった。

 

そして異質だった。

 

強い。

 

それなのにどこか怖い。

 

セナとルカリオの圧倒的な佇まいはプラターヌ博士の好奇心を刺激した。

 

博士はデスクの上に2つのメガストーンを並べる。

 

ルカリオナイト。

 

そして、ルカリオナイトZ。

 

プラターヌ博士はモニターへ視線を戻し、思考を巡らせた。

 

おそらく、彼はメガストーンを持っていない。

 

持っているなら使っているはずだ。

 

……彼に会ってみたい。

 

何を考えているのか。

 

ルカリオと、どうやって戦っているのか。

 

なぜあんなにも強いのか。

 

知りたい。

 

プラターヌ博士はゆっくりと口元を緩めた。

 

プラターヌ「ノエルくん。」

 

ノエル「はい?」

 

ノエルが顔を上げた。

 

その横では、デンリュウが解析中のメガストーンに手を伸ばしていた。

 

プラターヌ「シンオウリーグに連絡を頼む。」

 

プラターヌ「『新種のメガストーンに興味がないか?』そう伝えてもらって構わない。」

 

ノエル「……え?」

 

ルカリオナイトZ。

 

まだ、世間には出ていない新種のメガストーンだった。

 

プラターヌ「セナくんに直接連絡してくれ。」

 

ノエル「わかりました!」

 

ノエルは立ち上がると、慌ただしく研究室を出ていった。

 

プラターヌ「……。」

 

新種のメガストーン。

 

あれでセナくんと会えるなら安いものだ。

 

それに彼が本当に適性を持っているなら。

 

渡したっていい。

 

強いトレーナーと強いルカリオ。

 

あの2人がメガシンカZの力をどこまで引き出せるのか。

 

見届ける価値は、十分にある。

 

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