ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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19話 ルシアVSマチス

クチバシティ、クチバジム。

 

ルシアはジムの扉に手をかけると、ゆっくりと押し開く。

 

カントー地方でのジム巡りもいよいよ佳境。

 

今回挑むのは7つ目のジム。

 

扉の向こうには広いバトルコート。

 

その奥に大柄な男が立っていた。

 

クチバジムのジムリーダー、マチス。

 

ルシアがコートへ足を踏み入れると、マチスは大きく腕を広げた。

 

マチス「ヘーイ!ユーを待ってたヨ!」

 

突然響いた大声に、ルシアの肩がびくりと跳ねた。

 

ルシア「え!?」

 

驚いて顔を上げたルシアに、マチスは勢いよく話しかけてきた。

 

マチス「ユー、ピカチュウ使うネ!動画見たヨ!」

 

マチス「スピードは遅いけどパワーがあって強いネ!」

 

マチス「ミーのライチュウとバトルしよう!イイね!?」

 

マチスは楽しそうに笑いながら、ルシアを見つめていた。

 

ルシアは手元のモンスターボールへ視線を落とし、ぎゅっと握り締める。

 

そこまで言われたら引き下がれない。

 

ルシアもピカチュウも、これまでの旅で強くなってきた。

 

ルシアは顔を上げると、正面に立つマチスを見据える。

 

クチバジム、7つ目のジム戦。

 

ルシアとマチスの戦いが始まろうとしていた。

 

ルシア「出てきて!ピカチュウ!」

 

ルシアがモンスターボールを投げた。

 

光が弾ける。

 

ピカチュウがルシアの前に着地した。

 

そして、正面に立つマチスを見ると、一瞬だけルシアの方を振り返る。

 

それでも、小さな足でしっかりと地面を踏み締め、前を向いた。

 

マチス「ゴー!ライチュウ!」

 

マチスもボールを放った。

 

光の中から巨大なライチュウが姿を現し、ピカチュウの正面に着地する。

 

ピカチュウとライチュウが睨み合った。

 

マチスは後方からピカチュウを見つめると、ゆっくりと目を細める。

 

……イイね。

 

こんなピカチュウは見たことがないネ。

 

審判「使用ポケモンは1対1!」

 

審判「それでは、バトルスタート!」

 

マチス「ライチュウ!でんこうせっか!」

 

ライチュウが凄まじいスピードで一歩目を踏み込んだ。

 

一気に加速し、ピカチュウとの距離を詰める。

 

ルシア「ピカチュウ!アイアンテール!」

 

ピカチュウが尻尾をライチュウへ向けた。

 

鋼鉄のように硬くなった尻尾が、突進してきたライチュウと激しくぶつかり合う。

 

ピカチュウは小さな足で地面を踏み締め、ライチュウの勢いを受け止めた。

 

マチス「オウ……。」

 

ミーのライチュウに押し負けないパワー。

 

面白いネ。

 

ルシア「でんじほう!」

 

至近距離で強烈な電撃が炸裂した。

 

ライチュウは後方へ押し戻されながらも、踏ん張って体勢を立て直した。

 

ルシアは拳を握った。

 

カスミ戦で形にした、ピカチュウの戦い方。

 

ここまでのバトルで何度も試してきた。

 

ルシアとピカチュウ。

 

2人の戦い方として、すっかり身についている。

 

……いける。

 

通用する。

 

マチス「ライチュウ!かみなり!」

 

ライチュウが大きく咆哮した。

 

凄まじい雷撃が放たれ、ピカチュウへ一直線に迫る。

 

ピカチュウは避けきれない。

 

いや、避けようともしなかった。

 

ルシア「受けて!」

 

ピカチュウはその場で足を踏ん張り、ライチュウの雷撃を真正面から受け止めた。

 

全身を激しい電流が駆け抜ける。

 

それでも、ピカチュウは歯を食いしばり、当然のように立っていた。

 

マチス「崩れないネ!面白イ!」

 

ルシアも自然と口角が緩んだ。

 

ピカチュウは正面のライチュウを見据え、堂々と立っている。

 

ルシアは小さく息を吐いた。

 

セナに勝つ。

 

それが口だけじゃないと証明する。

 

そのために、やれることは全てやってきた。

 

タイプ相性は全部覚えた。

 

動画だってたくさん見た。

 

私たちに必要な戦い方も、技の使い方も勉強した。

 

ここで使う。

 

私とピカチュウの新技。

 

♢♢♢

 

ルシア「カウンターシールド!」

 

ピカチュウが両腕を地面につけた。

 

そのまま、ゆっくりと体を回転させ始める。

 

マチス「……オ?」

 

ライチュウも目を細めた。

 

動きが遅いピカチュウ。

 

そのはずだった。

 

しかし、ピカチュウは地面に腕をついたまま、少しずつ回転する速度を上げていく。

 

ブレイクダンスのような動きだった。

 

小さな体が、その場でどんどん加速していく。

 

ルシア「でんじほう!」

 

ピカチュウが回転しながら、でんじほうを撃ち始めた。

 

ルシアは拳を握った。

 

完成している。

 

最初はPoketubeで見た動きだった。

 

どこかの最強のピカチュウ使い。

 

名前は忘れた。

 

ポケモンマスター、そんな動画だった気がする。

 

回転しながら10まんボルトを放ち、敵の攻撃を弾き返す技だった。

 

私たちはそれをでんじほうでやる。

 

一撃の命中率は低い。

 

でも、撃ち続ければ必ず当たる。

 

ルシアとピカチュウ。

 

2人には弱点があった。

 

遠くの相手を捉えられない。

 

その弱点を、2人なりの方法で克服する術を身につけていた。

 

マチス「ライチュウ!」

 

マチスはライチュウへ視線を向けた。

 

ライチュウは歯を食いしばっていた。

 

簡単には動けない。

 

ライチュウはさっき、ピカチュウのでんじほうを至近距離から受けている。

 

その威力は身をもって知っていた。

 

そして今、そのでんじほうが四方八方に飛び交っている。

 

いつ電撃が飛んでくるかわからない。

 

簡単に踏み込めるわけがなかった。

 

マチスとルシアの視線がぶつかる。

 

ルシアは楽しそうに笑っていた。

 

マチス「……面白イ。」

 

駆け出しのトレーナー。

 

とんだ名前詐欺だった。

 

成長のスピードもこの破壊力も、もはや「駆け出し」と呼べるようなレベルではない。

 

ライチュウも目を細めた。

 

マチスもライチュウもわかっていた。

 

このまま動かなければどこかで電撃に捉えられる。

 

無理にでも攻撃を通すしかない。

 

かみなりは弾かれる。

 

だったら至近距離でフルパワーをぶつける。

 

それしかなかった。

 

マチス「ライチュウ!でんこうせっか!」

 

ライチュウが地面を蹴った。

 

飛び交う電撃を受けながら、まっすぐに突っ込んでいく。

 

マチスはライチュウから視線を外さなかった。

 

でんじほうを何発も受ける。

 

それでも前に進む。

 

ライチュウが回転するピカチュウの懐へ飛び込んだ瞬間。

 

バトルコートにルシアの声が響いた。

 

ルシア「はやてがえし!」

 

マチス「ナニ!?」

 

ピカチュウの右腕が、飛び込んできたライチュウを捉えた。

 

そのまま勢いよく押し込む。

 

はやてがえし。

 

相手の先制技を封じ、動きを止める技。

 

ライチュウはでんこうせっかの勢いを止められず、ピカチュウの一撃をまともに受けた。

 

マチスは天を仰いだ。

 

こんなピンポイントでしか役に立たない技を、仕込んでいた。

 

ピカチュウがゆっくりとライチュウへ歩き出す。

 

ライチュウは怯んで動けない。

 

ピカチュウはその正面に立った。

 

ルシア「アイアンテール!叩き潰して!」

 

ピカチュウがゆっくりと尻尾を構えた。

 

確実に当てるために。

 

そして一撃で仕留めるために。

 

ルシアの口角がゆっくりと歪む。

 

マチスはその笑顔を見てしまった。

 

……読み負けた。

 

試す立場だった。

 

そのはずなのに。

 

ミーたちは狩られる側に回ってしまった。

 

鋼鉄の尻尾がライチュウの脳天へ振り下ろされた。

 

ライチュウは立ち上がらなかった。

 

審判「……ライチュウ、戦闘不能!」

 

審判「よって勝者、挑戦者ルシア!」

 

ルシア「……よしっ!」

 

ルシアは拳を強く握った。

 

接近戦になれば、でんじほうとアイアンテールで打ち勝つ。

 

遠距離の敵にはカウンターシールド。

 

先制技に対してははやてがえし。

 

ようやく2人だけの戦い方が完成した気がした。

 

ピカチュウはゆっくりと駆け出し、ルシアの腕の中に収まった。

 

ルシアは嬉しそうにその頭を撫でる。

 

ピカチュウも嬉しそうに目を細めていた。

 

マチスは2人の姿を見つめながら、悔しそうに拳を握った。

 

向かい合って、わかった。

 

破壊力だけじゃない。

 

無鉄砲でもない。

 

ピカチュウの電撃に目を奪われて、本質が見えていなかっただけだ。

 

この少女、相当頭がいい。

 

ポケモンの強みを活かした上で、さらにその先へ進む力を持っている。

 

マチスはルシアの元へ歩き出した。

 

本来、1人の挑戦者に肩入れすることはない。

 

それでも少しだけ見たくなってしまった。

 

自分が託すことで、この少女がさらに強くなる未来を。

 

この少女とピカチュウが進む先を。

 

マチスはゆっくりとルシアの前まで歩み寄った。

 

マチス「オメデトウ!グレートだネ!そのピカチュウ!」

 

オレンジバッジを差し出す。

 

ルシアは頭を下げると、両手で受け取った。

 

マチス「……それとコレ。」

 

マチスはもう一度手を伸ばした。

 

手には2つの石が入った小箱。

 

ルシア「……これは。」

 

マチス「かみなりのいしだネ!ピカチュウがライチュウに進化するために必要になるネ!」

 

マチス「そしてもうひとつはライチュナイトY!ライチュウがメガシンカするために必要なメガストーンだヨ!」

 

ルシア「……もらっていいんですか!?」

 

ルシアの瞳が大きくなった。

 

マチス「ユーのピカチュウなら使いこなせるネ!」

 

マチスはそこで一度言葉を区切った。

 

マチス「……でも、ピカチュウとしても強いトレーナーはいるネ。ライチュウもピカチュウ、強くなるための答えがライチュウになることとは限らないヨ!それなポケモンの面白いところネ!」

 

マチス「使うべきだと思った時に使ってあげるといいヨ!」

 

そこまで言うと、マチスは楽しそうに笑った。

 

ピカチュウがゆっくりと、かみなりのいしに手を伸ばした。

 

ルシア「待って!」

 

ルシアは慌てて腕を高く上げ、ピカチュウを制した。

 

今、考えて使ってって言われた。

 

危なかった。

 

油断してたら、今進化していた。

 

ピカチュウの考えを否定するつもりはない。

 

でも、進化したら戻れない。

 

もう少し考えたかった。

 

ルシアはかみなりのいしを小箱に収めると、鞄の奥へ厳重にしまった。

 

ピカチュウの視線を感じる。

 

それでも、今は見ないことにした。

 

♢♢♢

 

ルシアはジムの外へ出た。

 

心地よい11月の風が、ルシアの前髪を揺らした。

 

バッジは7個。

 

間違いなく強くなっている。

 

もう、駆け出しのトレーナーなんて言わせない。

 

ユイさんに早く報告したい。

 

ユナにも会いたい。

 

リンはどうしてるかな。

 

ふとそんなことを考えた。

 

ルシア「……よし。」

 

ルシアは呼吸を整えると歩き始めた。

 

次の目的地は決まっている。

 

チャンピオンロード。

 

そこでポケモンたちを鍛える。

 

そして最強のジムリーダー、グリーンへ挑む。

 

そこまでやったらシンオウに帰る。

 

♢♢♢

 

ナギサシティ、ナギサジム。

 

デンジのレントラーが、ゆっくりと崩れ落ちた。

 

その正面には、ボロボロになったエルレイドが立っていた。

 

審判「レントラー、戦闘不能!」

 

審判「よって勝者、挑戦者イチゴ!」

 

イチゴ「……やったぞ!エルレイド!」

 

エルレイドはゆっくりと振り返り、イチゴへ顔を向けた。

 

イチゴ、20歳。

 

シンオウ地方、ハクタイシティ出身。

 

期待のルーキー。

 

イチゴだって天才だった。

 

旅を始めて約半年で、8個のバッジを集めきった。

 

ただ、同じ時代にはセナがいた。

 

セナという特異点。

 

彼と同じ時代に生まれてしまった。

 

だからここまであまり目立つこともなかった。

 

イチゴは拳を強く握る。

 

次は、ポケモンリーグ。

 

俺たちだってここまで来た。

 

苦しい戦いを乗り越えてきた。

 

セナさんに勝ちたい。

 

イチゴが見据えるのはシンオウの頂点。

 

チャンピオン、セナだった。

 

♢♢♢

 

ポケモンリーグ、チャンピオンルーム。

 

セナは椅子に座ったまま、ぼんやりと天井を眺めていた。

 

セナ「……おかしいだろ。」

 

防衛戦27連勝。

 

ここまで、ルカリオが倒れそうになったことは一度もない。

 

メガシンカまで手に入れた。

 

新しいポケモンも仲間になった。

 

強くなった。

 

…それなのに、相手が弱い。

 

チラチーノ、グライオン、リオル。

 

そして、新しく仲間になったバンギラスとグレンアルマ。

 

僕だけが強くなっている。

 

周りは弱いまま。

 

ルカリオに攻撃すら当てられない。

 

欲しいものは手に入れたはずだった。

 

強くなれる環境も。

 

その力を示せる対戦相手も。

 

全てが手に入ると思っていた。

 

それなのに僕は幸せじゃない。

 

こんなのおかしい。

 

セナはしばらく動かなかった。

 

思えばこの時からだった。

 

セナの心が少しずつ壊れていったのは。

 

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