ポケットモンスター 金星の星跡   作:セナ@ハーメルン

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21話 ルシアVSリノ 

2018年12月。

 

カントー地方、チャンピオンロード。

 

ルシアは洞窟の入り口に立っていた。

 

チャンピオンロード。

 

本来、カントーポケモンリーグに挑戦するトレーナーたちにとって最後の関門となる場所だった。

 

長い時間をかけて各地のジムを巡り、8個のバッジを集めたトレーナーたちが辿り着く、最後の試練。

 

しかし、ルシアの持つバッジは7個。

 

仲間のポケモンもまだ3体だけだった。

 

冒険を始めて約半年。

 

そもそもカントー地方のトレーナーですらない。

 

何もかもが異質だった。

 

それでも、ルシアは止まらなかった。

 

本気のグリーンに勝つ。

 

そのためにここで鍛える。

 

もっと強くなる。

 

ルシアは洞窟の奥へ視線を向けた。

 

そしてモウカザルたちとともに一歩を踏み出す。

 

洞窟の中へ足を踏み入れた瞬間、明らかに空気が変わった。

 

ルシアにも、一目でわかった。

 

野生のポケモンたちの強さも、気性の荒さも、これまで訪れた場所とはまるで違っていた。

 

ルシア「モウカザル!ムクバード!ピカチュウ!」

 

ルシアがモンスターボールを放った。

 

次々と光が弾け、3体のポケモンがルシアの前に並ぶ。

 

モウカザル、ムクバード、ピカチュウ。

 

3体は辺りを見回すと、それぞれ姿勢を低くした。

 

いつバトルが始まってもおかしくない。

 

そんな状況に備えながら、ルシアたち4人はゆっくりと洞窟の奥へ進み始めた。

 

最初に遭遇したのはゴローニャの群れだった。

 

正面から現れた6体の巨体が、ルシアたちの行く手を阻む。

 

ルシアは目を逸らさなかった。

 

迷ったら死ぬ。

 

ルシア「モウカザル!ドレインパンチ!」

 

ルシア「ムクバード!はがねのつばさ!」

 

ルシア「ピカチュウ!アイアンテール!」

 

3体が同時に動き出した。

 

モウカザルが地面を蹴り、正面のゴローニャへ拳を叩き込む。

 

ムクバードは翼を広げて飛び上がると、鋼鉄のように硬くなった翼で別のゴローニャを捉えた。

 

ピカチュウも小さな足で踏ん張り、迫る巨体へ尻尾を振り抜く。

 

3体の攻撃が、次々とゴローニャたちに炸裂した。

 

ルシアは拳を握った。

 

ここまで、一緒に歩いてきたポケモンたち。

 

そして、常にバトルと向き合ってきたルシア自身も、体も脳も、すっかりポケモントレーナーのそれになっていた。

 

技のタイプ相性も使える技も頭に入っている。

 

相手の特性だって一度戦えば忘れない。

 

もう、迷う時間はなかった。

 

相手を見れば、最適な技がすぐに頭に浮かぶ。

 

ゴローニャたちは次々と体勢を崩し、地面へ倒れていった。

 

ルシア「…。」

 

ルシアの才能は、確かに開花していた。

 

♢♢♢

 

ルシアたちは少しずつ洞窟の奥へ進んでいった。

 

ピカチュウも、モウカザルも、ムクバードも通用していた。

 

苦戦することはあっても倒されることはない。

 

受けたダメージを回復しながら、一歩ずつ前へ進んでいく。

 

道中ではたくさんのトレーナーとも戦った。

 

『なんでムクバード?シンオウのやつか?』

 

『進化すらしてないポケモンに負けた……。』

 

『ピカチュウなんだよあれ……。』

 

敗北したトレーナーたちが、口々にそんな言葉を漏らしていた。

 

当然だった。

 

ルシアは、他のトレーナーから見ても明らかに異質だった。

 

そして、洞窟の最奥部。

 

「……早かったじゃん。」

 

1つの人影が、ルシアに声をかけた。

 

♢♢♢

 

洞窟の最奥部。

 

ルシアはゆっくりと顔を上げた。

 

目線の先に容姿端麗な女性が立っていた。

 

見覚えはない。

 

水色の髪飾りが、鮮やかに光り輝いていた。

 

「……Stellaのルシアだよね?」

 

ルシア「……そうだけど。あなたは?」

 

女性は目を丸くすると、口を開いた。

 

「自己紹介、してなかったね。」

 

リノ「私リノ。カロス出身。よろしく。」

 

ルシア「……あ、よろしく。」

 

ルシアはゆっくりと言葉を返した。

 

チャンピオンロードに入ってから、初めてだった。

 

こうして自己紹介をされ、名前まで教えてもらったのは。

 

ルシアはもう一度、リノを見つめた。

 

その顔には、余裕のある笑みが浮かんでいる。

 

……この人、他の人とは違う。

 

リノはおもむろに髪飾りを外した。

 

リノ「……これ。」

 

ルシアはリノの髪飾りを見つめる。

 

リノ「私、Stellaのユナ推しだったんだよね。」

 

ルシア「……。」

 

リノ「旅しながらStellaの曲、聴いてたわけよ。私も。」

 

リノ「まぁ、あんまりルシアのこと責めたくないんだけどさ。」

 

リノ「ルシアのせいじゃない?ユナが倒れたの。」

 

ルシアは何も返せなかった。

 

見て見ぬふりをしていたものを、目の前に引っ張り出された気がした。

 

リノはモンスターボールを構えた。

 

リノ「バトルしようよ。」

 

リノ「私が勝ったらStellaに帰って復帰して。」

 

ルシア「……え。」

 

リノ「ま、私に負けるくらいなら、セナに勝つなんて絶対無理だし。」

 

リノ「やろうよ。1対1。」

 

♢♢♢

 

リノはルシアがモンスターボールを取り出す姿を見て、息を呑んだ。

 

半分は嘘だった。

 

私の推しは、ユナだけじゃない。

 

ルシアも大好きだった。

 

だから、見たかった。

 

ルシアが本当にセナに届くのか。

 

Stellaに戻ってほしいとか、別に思ってない。

 

苦しい中でも戦えるのか。

 

見たいのはそれだけ。

 

私のバッジは16個。

 

カントーとカロスのジムはすでに制覇している。

 

メガシンカだって扱える。

 

でも、そうじゃない。

 

……そんなのフェアじゃないよね。

 

私はルシアの覚悟が見たいだけ。

 

♢♢♢

 

ルシア「出てきて!ムクバード!」

 

ルシアがモンスターボールを放った。

 

光が弾け、ムクバードが姿を現す。

 

ルシアの前で大きく翼を広げると、力強く羽ばたきながら宙に浮かんだ。

 

リノ「頼むね。サーフゴー。」

 

リノのボールも開いた。

 

光の中からサーフゴーが姿を現す。

 

そして、リノの前に着地した。

 

ムクバードは翼を広げたまま正面のサーフゴーを見据える。

 

チャンピオンロード最奥部。

 

ムクバードVSサーフゴー。

 

静かに、1対1のバトルが始まろうとしていた。

 

♢♢♢

 

リノ「サーフゴー!10まんボルト!」

 

サーフゴーが腕を突き出した。

 

激しい電撃が放たれ、空中のムクバードへ一直線に迫る。

 

ルシア「ダブルウィング!」

 

ムクバードが大きく翼を広げた。

 

両翼から鋭い風の刃が生まれる。

 

そのまま迫り来る電撃へ向かって放たれる。

 

風の刃が電撃を捉えた。

 

激しくぶつかり合った末に電撃が弾けて消える。

 

ルシア「はがねのつばさ!」

 

ムクバードが一気に加速した。

 

鋼鉄のように硬くなった翼を広げ、サーフゴーとの距離を詰める。

 

そのまま翼を振り抜くと、サーフゴーの体を捉えた。

 

衝撃を受けたサーフゴーが後方へ押し出される。

 

リノ「……へぇ。」

 

リノは小さく声を漏らした。

 

ノーマルタイプは効果なし。

 

ひこうタイプは効果いまひとつ。

 

ムクバードにとっては戦いづらい相手のはず。

 

それなのに迷いがない。

 

電撃を迎撃し、そのままサーフゴーへ攻撃を叩き込んできた。

 

……ふーん、いいじゃん。

 

でも私も簡単に負けてあげるつもりはない。

 

リノは正面のムクバードを見つめた。

 

リノ「サーフゴー!ゴールドラッシュ!」

 

サーフゴーが拳を握った。

 

その正面に無数の金塊が溢れ出し、ムクバードへ向かって押し寄せる。

 

ルシア「ムクバード!飛んで!」

 

ムクバードは大きく翼を広げ、高く舞い上がった。

 

金塊の上を旋回しながら、正面のサーフゴーを見据える。

 

リノ「10まんボルト!」

 

その瞬間、金塊の隙間から激しい電撃が放たれた。

 

ルシア「……ッ!」

 

……やられた。

 

ゴールドラッシュ。

 

それ単体でも凄まじい威力を持つ技。

 

なのに陽動に使われた。

 

10まんボルトを隠すための囮にされた。

 

金塊の隙間を抜けた電撃が空中のムクバードを捉える。

 

ムクバードの体が大きく揺れる。

 

翼を広げたまま、ゆっくりと高度を失っていく。

 

そして、そのまま地面へ落下した。

 

♢♢♢

 

リノは地面に落ちたムクバードを見つめていた。

 

その時、一瞬だけ翼が動いた。

 

リノ「サーフゴー!」

 

サーフゴーは小さく頷くと、もう一度ムクバードへ視線を向ける。

 

ゴールドラッシュを使ったことで、サーフゴーの火力は下がっていた。

 

もしかしたら仕留めきれないかもしれない。

 

案の定だった。

 

ムクバードが翼を地面につき、ゆっくりと体を起こした。

 

リノはルシアへ視線を向けた。

 

そして、もう一度ムクバードを見ると、口元を緩めた。

 

……いじっぱりなところはトレーナーに似たのね。

 

♢♢♢

 

リノとサーフゴー。

 

2人の動きを見て、ルシアの脳裏に何かがよぎった。

 

……本当に通したい技を通すために、他の技を使う。

 

今まで、そんな技の使い方はしたことがなかった。

 

セナもやっていた。

 

確か、ルカリオとミロカロスのバトルだった気がする。

 

はどうだんを囮にして、しんそくを叩き込む動き。

 

あの時は、ただすごいと思って見ていた。

 

でも、今ならわかる。

 

もしかして、今の動き。

 

今の技の使い方。

 

……ワンランク上に行くための戦い方なの?

 

そこまで考えが至ると、ルシアは拳を強く握った。

 

試したい。

 

今、この瞬間に。

 

ルシアはムクバードへ祈るような視線を向けた。

 

……立って。

 

ここでリノ相手に試したい。

 

もう勝ち負けじゃなかった。

 

今、自分が辿り着いた仮説、その答えが欲しかった。

 

ムクバードがゆっくりと立ち上がった。

 

ルシア「ムクバード!」

 

ルシアの声に応えるように、ムクバードは苦しそうに翼を広げた。

 

電撃を受けた体を支えながら、もう一度サーフゴーを見据える。

 

ルシア「ムクバード。私を信じて飛んで。」

 

ムクバードが頷いた。

 

リノ「……。」

 

……なに?

 

なんか思いついた?

 

リノはルシアを見つめた。

 

……じゃあ見せてよ、ルシア。

 

ルシアの覚悟を私に見せて。

 

そして、『頑張って。』

 

心の底から私にそう言わせて。

 

サーフゴーとムクバードが、再び睨み合った。

 

ルシア「ムクバード!でんこうせっか!」

 

ムクバードが地面を蹴り、一気に加速した。

 

リノ「サーフゴー!10まんボルト!」

 

リノは拳を握った。

 

でんこうせっかは効果がない。

 

ゴーストタイプのサーフゴーなら攻撃はすり抜けるはず。

 

だから避けなくていい。

 

……避けなくていい?

 

まずい。

 

リノが気づいた時にはもう遅かった。

 

ムクバードが凄まじいスピードでサーフゴーへ突っ込んだ。

 

その体をすり抜け、一気に背後へ抜ける。

 

すり抜けた。

 

もうサーフゴーとムクバードの間に距離はなかった。

 

ルシア「ダブルウィング!」

 

ルシアの声が洞窟に響いた。

 

でんこうせっかで、一気に距離を詰める。

 

サーフゴーは避けない。

 

当たらないと思い込んでいる。

 

それでいい。

 

でんこうせっかは当たらなくていい。

 

本当に当てたいのは、その次。

 

ダブルウィングを至近距離で当てるための囮。

 

これが私なりの戦い方。

 

至近距離から放たれた風の刃が、サーフゴーの体を撃ち抜いた。

 

サーフゴーは地面を転がりながら、電撃を撃ち出す。

 

リノ「……決めて!サーフゴー!」

 

ルシア「ダブルウィング!」

 

ムクバードは迫り来る電撃を真正面から受け止めた。

 

全身を激しい電流が駆け抜ける。

 

それでも、止まらなかった。

 

翼を広げ、サーフゴーへ向かって突き進む。

 

リノはその姿を呆然と見つめた。

 

10まんボルト。

 

でんきタイプの技。

 

ムクバードには効果抜群のはずだった。

 

それなのに、止まらない。

 

ルシアもムクバードも迷わない。

 

ムクバードがさらに距離を詰めた。

 

その足が、サーフゴーを捉える。

 

サーフゴーが歯を食いしばった。

 

リノ「サーフゴー!フルパワー!」

 

ルシア「ムクバード!押し切って!」

 

ムクバードは電撃の中で歯を食いしばる。

 

全身に力を込め、サーフゴーを押し込もうとする。

 

その時だった。

 

♢♢♢

 

ムクバードの体を、白い光が包み込む。

 

ルシアの瞳が揺れた。

 

進化だった。

 

光の中で、ムクバードの体が少しずつ大きくなっていく。

 

頭のトサカは伸びるとより鋭く尖っていく。

 

サーフゴーの電撃を受けながらも、変化は止まらなかった。

 

リノは呆然とその姿を見つめていた。

 

ルシアの戦い方が変わった。

 

そして今、その変化に呼応するようにムクバードが進化している。

 

何か、見えない力が働いたような気がした。

 

やがて、白い光が弾けた。

 

そこにいたのはムクホークだった。

 

進化したばかりの体でサーフゴーの電撃を受けながら、なおも相手を押し込もうとしていた。

 

ルシア「……ムクホーク。」

 

ムクホークはルシアの声を背に受けた。

 

サーフゴーを押さえ込む足に、さらに力を込めた。

 

ムクホークの足に炎が燃え上がった。

 

ルシアはムクホークを見つめ続けていた。

 

今、目の前で起きている変化に、頭がついていかなかった。

 

ブレイズキック。

 

ムクホークに進化して、初めて使えるようになった技。

 

そして、はがねタイプのサーフゴーには効果抜群。

 

リノ「…サーフゴー!」

 

サーフゴーも危機を察知すると腕に力を込める。

 

しかし、もう遅い。

 

ムクホークがサーフゴーを押さえ込んでいた足に、さらに力を込めた。

 

燃え盛る炎がサーフゴーの体を包み込む。

 

次の瞬間、強烈な蹴りが炸裂した。

 

ムクホークのブレイズキックがサーフゴーを勢いよく吹き飛ばした。

 

♢♢♢

 

サーフゴーが地面を何度も跳ねた。

 

それでも、ゆっくりと体を起こす。

 

リノ「……え?……は?」

 

リノはそれ以上、言葉を紡げなかった。

 

視線が泳ぐ。

 

……なにそれ。

 

私、何か間違った?

 

リノは自分の行動を思い返す。

 

ルシアに会いたかった。

 

覚悟を確かめたかった。

 

だからユナを引き合いに出してバトルを申し込んだ。

 

サーフゴーで追い詰めた。

 

指示だって的確だったはず。

 

私のバッジは16個。

 

メガシンカだって使える。

 

……私が負ける?

 

……おかしくない?

 

まだ半年でしょ?

 

てか進化するのも、狙ったかのようにブレイズキックを覚えるのも、全部おかしい。

 

リノはルシアを見つめた。

 

もう試すとかじゃない。

 

ルシアを倒さないと私が納得できない。

 

♢♢♢

 

ルシアの前に、ムクホークが降り立った。

 

ルシア「ムクホーク!」

 

ムクホークはルシアの方を振り向くと、嬉しそうに笑った。

 

その体は傷だらけだった。

 

さっきまでに受けたダメージがなくなったわけではない。

 

それでも、まだ戦える。

 

ルシアは顔を上げると目の前のリノを見つめた。

 

どんなジムリーダーよりも強い。

 

多分、私がこれまでバトルした相手の中で、一番強い。

 

だからこの人に勝ちたい。

 

負けられない。

 

ルシアはスマートフォンを取り出すとムクホークの技を調べた。

 

新しい技が使える。

 

ダブルウィングも別の技へと強化されていた。

 

……勝てる。

 

ルシアは拳を強く握った。

 

視線の先にはムクホークとサーフゴー。

 

そして、リノ。

 

バトルはここからだった。

 

 

 

 

 

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