ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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22話 ルシアとレッド 前編

ルシア「ムクホーク!ブレイズキック!」

 

ムクホークが大きく咆哮した。

 

その足に炎が纏わりつく。

 

力強く、美しい炎が燃え上がった。

 

リノ「サーフゴー!10まんボルト!」

 

リノの声が洞窟に響いた。

 

サーフゴーが拳を握り、電撃を集め始める。

 

リノの額から汗が流れ落ちた。

 

私は間違っていない。

 

そう思っていた。

 

でも違う。

 

本質はそこじゃない。

 

私自身がルシアを舐めていた。

 

アイドルだったから。

 

トレーナーとしてのルシアをちゃんと見ていなかった。

 

だから自分でメガシンカを縛った。

 

追い込まれるとも考えず、雑にゴールドラッシュを使った。

 

1対1だからサーフゴーを下げられない。

 

火力が落ちたサーフゴーのまま戦わないといけない。

 

多分、どこかで油断していた。

 

私がルシアに負けるわけがない。

 

そう思っていたから、今、苦しくなっている。

 

このまま負けるなんて、そんな無様なことできない。

 

リノ「発射!」

 

サーフゴーの拳から、激しい電撃が放たれた。

 

洞窟の空間を切り裂くように、電撃がムクホークへ向かって駆け抜けていく。

 

ルシア「ムクホーク!」

 

ルシアの声に応えるように、ムクホークもまっすぐに飛び立った。

 

左足に力を込める。

 

正面から迫る電撃がムクホークの体を捉えた。

 

それでも止まらなかった。

 

翼を大きく広げる。

 

そして電撃を受けながらも一直線に突き進む。

 

ルシアは拳を強く握った。

 

ムクホークも歯を食いしばっていた。

 

今、ルシア自身にできることはない。

 

ただ、ムクホークを見つめることしかできなかった。

 

ムクホークがさらに距離を詰めた。

 

そして、炎を纏った左足がサーフゴーの体を掴む。

 

炎が激しく揺らめく。

 

ムクホークは電撃を受けながらも、掴んだ足に力を込める。

 

もう止まらない。

 

燃え盛るブレイズキックがサーフゴーを捉えた。

 

サーフゴーの足が宙に浮いた。

 

リノ「サーフゴー!10まんボルト!」

 

リノの声が震えた。

 

あと一撃。

 

あと一撃入れれば、ムクホークは落ちる。

 

サーフゴーは地面を跳ねながら、電撃を放った。

 

火力も、スピードも落ちている。

 

それでも、満身創痍のムクホークにとどめを刺すには十分だった。

 

放たれた電撃がムクホークを捉える。

 

そのまま、サーフゴーとムクホークが同時に洞窟の壁へ激突した。

 

2体とも限界だった。

 

リノは小さく息を吐いた。

 

♢♢♢

 

サーフゴーとムクホークは洞窟の壁にもたれかかったまま動かなかった。

 

リノ「……終わり。」

 

ルシア「……え?」

 

リノ「これ以上は無理でしょ。お互い。」

 

ルシアはもう一度、2体の姿を見つめた。

 

サーフゴーもムクホークも傷だらけだった。

 

これ以上、戦える状態じゃない。

 

審判もいない野良バトル。

 

幕引きは自分たちで決めるしかなかった。

 

リノはルシアへ視線を移す。

 

……理解してしまった。

 

ルシアなりにここまで本気で戦ってきた。

 

そして、ポケモンたちと一緒に乗り越えてきた。

 

そして、ルシアには才能がある。

 

ムクバードのでんこうせっかから、ダブルウィングへつなげた動きだってそう。

 

多分、私の技の使い方を真似して自分なりに作り替えた。

 

あと少し運がルシアに向いていたら、私は負けていた。

 

セナに勝つ。

 

それは無理だと思う。

 

でも見たいとも思う。

 

ルシアが強くなってセナに食らいつく姿を。

 

リノは小さく笑みをこぼした。

 

ユナのことは何一つ解決していない。

 

それでもルシアが。

 

私がユナと同じくらい好きだった画面の向こうの憧れが、私と同じ世界を見ている。

 

それが嬉しかった。

 

だから自然と笑みがこぼれてしまった。

 

リノは踵を返すと、チャンピオンロードの出口へ向かって一歩踏み出した。

 

リノ「またね。ルシア。」

 

ルシア「……え?」

 

ルシアから驚いたような声が漏れた。

 

リノは一度足を止め、小さく息を吐く。

 

……私はつくづく面倒なオタクだと思う。

 

ユナの件を持ち出して、ルシアを刺激して。

 

バトルまでして、満足して。

 

そして最後には、ルシアが強くなるその一瞬に、自分もいたい。

 

そんなことを思ってしまっている。

 

少しだけ、自分が嫌いになる。

 

でも、仕方ない。

 

面倒くさいのがオタクの性だから。

 

リノ「……カロス地方、ミアレ研究所。」

 

ルシア「……。」

 

リノ「『強いトレーナーが訪ねると思います』って口利きしてあげる。」

 

ルシア「……リノ。」

 

リノ「セナ倒すなら使うでしょ。メガシンカ。」

 

リノ「……勝ちなよ。ユナのためにも。」

 

それだけ言うと、リノは振り向かなかった。

 

乱れた髪を、左耳にかける。

 

その姿を目で追っていたルシアの瞳が、大きくなった。

 

リノの左耳には、メガストーンをあしらった赤いイヤリングが輝いている。

 

鮮やかな赤い光が、ルシアの視界に飛び込んできた。

 

ルシア「ありがとう!」

 

リノは手をひらひら振るとそのまま洞窟の出口に消えた。

 

♢♢♢

 

ルシアはゆっくりと立ち上がると、ムクホークの元へ歩み寄った。

 

ムクホークは傷だらけの体を壁に預けたまま、苦しそうに笑った。

 

ルシアはその前にしゃがみ、ゆっくりと視線を合わせた。

 

ルシア「……ムクホーク、お疲れ様。」

 

そう言うと、進化して赤く鋭くなった頭のトサカを、優しく撫でる。

 

ルシア「……頑張ったね。」

 

ルシアはムクホークに声をかける。

 

そして自然と笑みをこぼす。

 

ここまで戦ってきて初めてだった。

 

明確に、ひとつ先のステージへ踏み込んだ実感があった。

 

ピカチュウも、モウカザルも強くなった。

 

もちろん、ムクホークも。

 

ただ、今日のバトルは違った気がした。

 

セナに一歩近づいた、そんな確かな実感があった。

 

♢♢♢

 

遠くで大きな音が響く。

 

ルシアの体に力が入る。

 

すぐに立ち上がるとリノが歩いていった方向へ視線を向けた。

 

視線の先には、チャーレムの群れ。

 

5体のチャーレムが、ルシアたちに向かってゆっくりと歩いてくる。

 

ルシアは歯を食いしばった。

 

まだ終わりじゃない。

 

チャーレムはエスパー・かくとうタイプ。

 

モウカザルは相性が悪い。

 

ピカチュウにも有効打はない。

 

ムクホークはリノとのバトルで傷ついている。

 

もう戦える状態ではなかった。

 

ルシアは無理やり口角を上げると、モンスターボールを投げた。

 

光が弾け、モウカザルとピカチュウがルシアの前に並んだ。

 

戦うしかない。

 

逃げられない。

 

ルシア「……モウカザル、ピカチュウ。」

 

ルシア「……力を貸して。」

 

声が震えた。

 

それでも、モウカザルとピカチュウはしっかりと前を向いた。

 

ルシア「ピカチュウ! でんじほう!」

 

ルシア「モウカザル! かえんほうしゃ!」

 

ピカチュウが電撃を放ち、モウカザルの口から激しい炎が噴き出した。

 

電撃と火炎が、正面から迫るチャーレムたちへ向かっていく。

 

チャーレムたちは歯を食いしばった。

 

ルシアは拳を握った。

 

……それでいい。

 

いつもは、相手を倒すために戦う。

 

だから、ピカチュウは接近戦ででんじほうを叩き込む。

 

モウカザルも同じ。

 

本来は接近戦が得意なポケモンだった。

 

でも、今は違う。

 

倒せなくてもいい。

 

追い払えればそれでいい。

 

ルシアはチャーレムたちから目を離さなかった。

 

モウカザル、ピカチュウ。

 

この子たちが安心して戦えるように、私だってできることがある。

 

1体のチャーレムが飛び出した。

 

とびひざげり。

 

狙いはモウカザルだった。

 

ルシア「モウカザル!避けて!」

 

ルシア「ピカチュウ!でんじほう!」

 

モウカザルが素早く体を逸らした。

 

チャーレムの蹴りは空を切る。

 

そして、そのまま地面へ激突した。

 

体勢を崩したチャーレムへピカチュウが一気に距離を詰める。

 

至近距離から強烈な電撃を叩き込むと、チャーレムの体が大きく弾かれた。

 

そのまま後方へ吹き飛び、洞窟の壁に激突する。

 

チャーレムは地面に崩れ落ち、動かなくなった。

 

ルシアはすぐに残るチャーレムたちへ視線を移した。

 

あと4体。

 

ルシアの前にはモウカザルとピカチュウが並んでいた。

 

次のチャーレムとルシアたち3人が睨み合った。

 

♢♢♢

 

最後のチャーレムが崩れ落ちる。

 

でも、モウカザルもピカチュウも限界だった。

 

ルシアも肩で息をしている。

 

荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりとその場に膝をつく。

 

しばらく呼吸を整えると、隣にいたモウカザルへ手を伸ばした。

 

傷だらけの頭を優しく撫でる。

 

次に、ピカチュウを両腕で抱き上げると、顔についた土を指先でそっと払ってやる。

 

ピカチュウの体を支えながらルシアは小さく息を吐いた。

 

そして、2体をモンスターボールへ戻した。

 

ルシアはゆっくりと腰を下ろすと洞窟の壁に背中を預けた。

 

♢♢♢

 

その時だった。

 

チャンピオンロードの入り口から巨大なポケモンが飛び込んでくる。

 

ルシア「……。」

 

洞窟の壁に寄りかかったまま、ルシアの顔から血の気が引いた。

 

図鑑で見たことがある。

 

だから、わかる。

 

見間違えるわけがなかった。

 

ファイヤー。

 

カントー地方の伝説のポケモン。

 

ファイヤーはルシアを見つめると、静かに目を細める。

 

ルシアはなんとなく感じ取った。

 

……戦おうとしている。

 

逃げようとしても体が動いてくれなかった。

 

足が震えているのがわかる。

 

ルシアは壁に手をつき、ゆっくりと体を起こす。

 

そして戻したばかりのモンスターボールを握り締めた。

 

ピカチュウ、モウカザル、ムクホーク。

 

全員、限界だった。

 

でも、全員で戦わないとこっちが死ぬ。

 

ルシア「……ごめん。みんな。」

 

3つのボールが開き光が弾けた。

 

モウカザル、ピカチュウ、ムクホーク。

 

3体がルシアの前に並んだ。

 

傷だらけの体で、それぞれファイヤーを見据える。

 

モウカザルも、ピカチュウも、ムクホークも。

 

誰もファイヤーから視線を外さなかった。

 

一瞬、静かな空気が流れた。

 

ルシアは大きく息を吸った。

 

♢♢♢

 

ルシア「モウカザル!いわなだれ!」

 

ルシア「ピカチュウ!でんじほう!」

 

ルシア「ムクホーク!ブレイブバード!」

 

3体が一斉に動き出した。

 

モウカザルが腕を振り上げると、巨大な岩石がファイヤーへ向かって降り注いだ。

 

続けて、ピカチュウが強烈な電撃を撃ち出す。

 

ムクホークも傷だらけの翼を広げ、全身に力を込めて突進した。

 

岩石がファイヤーを捉え、電撃がその体を貫く。

 

さらにムクホークの体当たりが炸裂した。

 

攻撃は通っている。

 

確かに効いていた。

 

それでもファイヤーは崩れない。

 

ファイヤーが大きく翼を広げた。

 

だいもんじ。

 

巨大な炎が放たれる。

 

灼熱の熱気が洞窟いっぱいに広がった。

 

猛烈な炎が、ルシアたちへ襲いかかる。

 

ルシアは咄嗟に地面へ身を投げ出した。

 

そのまま転がりながら体を逸らし、迫る炎をかわす。

 

モウカザルもピカチュウも炎を受けながら立ち上がった。

 

ムクホークは苦しそうに翼を動かし、どうにか羽ばたき続けていた。

 

限界は近かった。

 

それでもルシアはファイヤーから逃げなかった。

 

逃げられないなら、勝つしかない。

 

ルシアも、モウカザルも、ピカチュウも、ムクホークも。

 

4人はまだ誰も諦めていなかった。

 

♢♢♢

 

ルシアの視界が揺らいだ。

 

もう限界だった。

 

野生ポケモンとの戦闘。

 

トレーナーたちとの野良バトル。

 

さらにリノとの激闘。

 

その直後に襲いかかってきたチャーレムの群れ。

 

ルシアもモウカザルたちも、戦える限界をとっくに超えていた。

 

ルシアはゆっくりと膝をつく。

 

もう、立っていられなかった。

 

モウカザルもピカチュウも、地面に腕をついたまま、苦しそうにファイヤーを見上げていた。

 

ファイヤーが大きく翼を広げた。

 

そして、洞窟に響き渡る咆哮を上げた。

 

ルシア「……。」

 

……だいもんじ。

 

避ける気力も、元気も残っていなかった。

 

終わる。

 

ルシアは息を呑んだ。

 

ファイヤーの放った炎が、美しくルシアたちの体を照らした。

 

「……かみなり。」

 

次の瞬間、凄まじい落雷が洞窟を貫いた。

 

ファイヤーの放っただいもんじを真正面から叩き落とす。

 

巨大な炎が弾け飛び、無数の火の粉となって四散した。

 

ルシアは息を呑んだ。

 

何が起きたのかわからなかった。

 

視界に黒い龍が飛び込んでくる。

 

巨大な翼を広げ、大地を踏み締めた。

 

そして、その背中から赤い帽子を被った青年がゆっくりと地面に降りる。

 

肩には小さなピカチュウ。

 

ルシアの体から力が抜けた。

 

ルシアが見たのはそこまでだった。

 

レッド「……リザードン。」

 

メガリザードンXはレッドへ顔を向けると、小さく頷いた。

 

レッド「……ストーンエッジ。」

 

メガリザードンXが拳を握った。

 

次の瞬間、鋭く尖った岩石がファイヤーへ向かって放たれる。

 

無数の岩がその体に突き刺さり、ファイヤーが苦しそうに咆哮した。

 

レッド「ボルテッカー。」

 

レッドの肩からピカチュウが勢いよく飛び出した。

 

その小さな体を激しい電撃が包み込む。

 

一気に加速したピカチュウが、ファイヤーに飛び掛かる。

 

電撃を纏った一撃がファイヤーを捉え、その巨体を勢いよく突き飛ばす。

 

ファイヤーは何度も地面を跳ね、ようやく動きを止めた。

 

レッド「……。」

 

ファイヤーはゆっくりと体を起こした。

 

そしてレッドを見つめた。

 

やがてファイヤーは大きく翼を広げ、洞窟の奥へ飛び去っていく。

 

レッド「……。」

 

レッドはその場に倒れ、目を閉じたままのルシアを見下ろした。

 

レッド「……無茶しすぎだ。」

 

レッドはルシアを抱き上げると、リザードンの背中へそっと乗せた。

 

続けて、ピカチュウ、モウカザル、ムクホークも抱え上げ、同じように背中へ乗せていく。

 

全員を乗せ終えると、レッドもリザードンの背中に乗った。

 

リザードンが大きく翼を広げた。

 

力強く羽ばたくと、巨体がゆっくりと地面から離れていく。

 

高度を上げ、そのままチャンピオンロードの入口へ向かって飛び立った。

 

チャンピオンロード最奥部。

 

ルシア1人の挑戦は離脱という形で幕を閉じた。




こんにちは!いつも読んでいただいてありがとうございます!
ようやくレッドが出てくるところまで掲載できました!
オリキャラも徐々に増えつつあるので、気になった点とか説明不足な点があれば教えてください!
オリキャラについてはセナ以外、明確な元ネタがあります!気づいた人は教えてくれると嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします!
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