ルシア「ムクホーク!ブレイズキック!」
ムクホークが大きく咆哮した。
その足に炎が纏わりつく。
力強く、美しい炎が燃え上がった。
リノ「サーフゴー!10まんボルト!」
リノの声が洞窟に響いた。
サーフゴーが拳を握り、電撃を集め始める。
リノの額から汗が流れ落ちた。
私は間違っていない。
そう思っていた。
でも違う。
本質はそこじゃない。
私自身がルシアを舐めていた。
アイドルだったから。
トレーナーとしてのルシアをちゃんと見ていなかった。
だから自分でメガシンカを縛った。
追い込まれるとも考えず、雑にゴールドラッシュを使った。
1対1だからサーフゴーを下げられない。
火力が落ちたサーフゴーのまま戦わないといけない。
多分、どこかで油断していた。
私がルシアに負けるわけがない。
そう思っていたから、今、苦しくなっている。
このまま負けるなんて、そんな無様なことできない。
リノ「発射!」
サーフゴーの拳から、激しい電撃が放たれた。
洞窟の空間を切り裂くように、電撃がムクホークへ向かって駆け抜けていく。
ルシア「ムクホーク!」
ルシアの声に応えるように、ムクホークもまっすぐに飛び立った。
左足に力を込める。
正面から迫る電撃がムクホークの体を捉えた。
それでも止まらなかった。
翼を大きく広げる。
そして電撃を受けながらも一直線に突き進む。
ルシアは拳を強く握った。
ムクホークも歯を食いしばっていた。
今、ルシア自身にできることはない。
ただ、ムクホークを見つめることしかできなかった。
ムクホークがさらに距離を詰めた。
そして、炎を纏った左足がサーフゴーの体を掴む。
炎が激しく揺らめく。
ムクホークは電撃を受けながらも、掴んだ足に力を込める。
もう止まらない。
燃え盛るブレイズキックがサーフゴーを捉えた。
サーフゴーの足が宙に浮いた。
リノ「サーフゴー!10まんボルト!」
リノの声が震えた。
あと一撃。
あと一撃入れれば、ムクホークは落ちる。
サーフゴーは地面を跳ねながら、電撃を放った。
火力も、スピードも落ちている。
それでも、満身創痍のムクホークにとどめを刺すには十分だった。
放たれた電撃がムクホークを捉える。
そのまま、サーフゴーとムクホークが同時に洞窟の壁へ激突した。
2体とも限界だった。
リノは小さく息を吐いた。
♢♢♢
サーフゴーとムクホークは洞窟の壁にもたれかかったまま動かなかった。
リノ「……終わり。」
ルシア「……え?」
リノ「これ以上は無理でしょ。お互い。」
ルシアはもう一度、2体の姿を見つめた。
サーフゴーもムクホークも傷だらけだった。
これ以上、戦える状態じゃない。
審判もいない野良バトル。
幕引きは自分たちで決めるしかなかった。
リノはルシアへ視線を移す。
……理解してしまった。
ルシアなりにここまで本気で戦ってきた。
そして、ポケモンたちと一緒に乗り越えてきた。
そして、ルシアには才能がある。
ムクバードのでんこうせっかから、ダブルウィングへつなげた動きだってそう。
多分、私の技の使い方を真似して自分なりに作り替えた。
あと少し運がルシアに向いていたら、私は負けていた。
セナに勝つ。
それは無理だと思う。
でも見たいとも思う。
ルシアが強くなってセナに食らいつく姿を。
リノは小さく笑みをこぼした。
ユナのことは何一つ解決していない。
それでもルシアが。
私がユナと同じくらい好きだった画面の向こうの憧れが、私と同じ世界を見ている。
それが嬉しかった。
だから自然と笑みがこぼれてしまった。
リノは踵を返すと、チャンピオンロードの出口へ向かって一歩踏み出した。
リノ「またね。ルシア。」
ルシア「……え?」
ルシアから驚いたような声が漏れた。
リノは一度足を止め、小さく息を吐く。
……私はつくづく面倒なオタクだと思う。
ユナの件を持ち出して、ルシアを刺激して。
バトルまでして、満足して。
そして最後には、ルシアが強くなるその一瞬に、自分もいたい。
そんなことを思ってしまっている。
少しだけ、自分が嫌いになる。
でも、仕方ない。
面倒くさいのがオタクの性だから。
リノ「……カロス地方、ミアレ研究所。」
ルシア「……。」
リノ「『強いトレーナーが訪ねると思います』って口利きしてあげる。」
ルシア「……リノ。」
リノ「セナ倒すなら使うでしょ。メガシンカ。」
リノ「……勝ちなよ。ユナのためにも。」
それだけ言うと、リノは振り向かなかった。
乱れた髪を、左耳にかける。
その姿を目で追っていたルシアの瞳が、大きくなった。
リノの左耳には、メガストーンをあしらった赤いイヤリングが輝いている。
鮮やかな赤い光が、ルシアの視界に飛び込んできた。
ルシア「ありがとう!」
リノは手をひらひら振るとそのまま洞窟の出口に消えた。
♢♢♢
ルシアはゆっくりと立ち上がると、ムクホークの元へ歩み寄った。
ムクホークは傷だらけの体を壁に預けたまま、苦しそうに笑った。
ルシアはその前にしゃがみ、ゆっくりと視線を合わせた。
ルシア「……ムクホーク、お疲れ様。」
そう言うと、進化して赤く鋭くなった頭のトサカを、優しく撫でる。
ルシア「……頑張ったね。」
ルシアはムクホークに声をかける。
そして自然と笑みをこぼす。
ここまで戦ってきて初めてだった。
明確に、ひとつ先のステージへ踏み込んだ実感があった。
ピカチュウも、モウカザルも強くなった。
もちろん、ムクホークも。
ただ、今日のバトルは違った気がした。
セナに一歩近づいた、そんな確かな実感があった。
♢♢♢
遠くで大きな音が響く。
ルシアの体に力が入る。
すぐに立ち上がるとリノが歩いていった方向へ視線を向けた。
視線の先には、チャーレムの群れ。
5体のチャーレムが、ルシアたちに向かってゆっくりと歩いてくる。
ルシアは歯を食いしばった。
まだ終わりじゃない。
チャーレムはエスパー・かくとうタイプ。
モウカザルは相性が悪い。
ピカチュウにも有効打はない。
ムクホークはリノとのバトルで傷ついている。
もう戦える状態ではなかった。
ルシアは無理やり口角を上げると、モンスターボールを投げた。
光が弾け、モウカザルとピカチュウがルシアの前に並んだ。
戦うしかない。
逃げられない。
ルシア「……モウカザル、ピカチュウ。」
ルシア「……力を貸して。」
声が震えた。
それでも、モウカザルとピカチュウはしっかりと前を向いた。
ルシア「ピカチュウ! でんじほう!」
ルシア「モウカザル! かえんほうしゃ!」
ピカチュウが電撃を放ち、モウカザルの口から激しい炎が噴き出した。
電撃と火炎が、正面から迫るチャーレムたちへ向かっていく。
チャーレムたちは歯を食いしばった。
ルシアは拳を握った。
……それでいい。
いつもは、相手を倒すために戦う。
だから、ピカチュウは接近戦ででんじほうを叩き込む。
モウカザルも同じ。
本来は接近戦が得意なポケモンだった。
でも、今は違う。
倒せなくてもいい。
追い払えればそれでいい。
ルシアはチャーレムたちから目を離さなかった。
モウカザル、ピカチュウ。
この子たちが安心して戦えるように、私だってできることがある。
1体のチャーレムが飛び出した。
とびひざげり。
狙いはモウカザルだった。
ルシア「モウカザル!避けて!」
ルシア「ピカチュウ!でんじほう!」
モウカザルが素早く体を逸らした。
チャーレムの蹴りは空を切る。
そして、そのまま地面へ激突した。
体勢を崩したチャーレムへピカチュウが一気に距離を詰める。
至近距離から強烈な電撃を叩き込むと、チャーレムの体が大きく弾かれた。
そのまま後方へ吹き飛び、洞窟の壁に激突する。
チャーレムは地面に崩れ落ち、動かなくなった。
ルシアはすぐに残るチャーレムたちへ視線を移した。
あと4体。
ルシアの前にはモウカザルとピカチュウが並んでいた。
次のチャーレムとルシアたち3人が睨み合った。
♢♢♢
最後のチャーレムが崩れ落ちる。
でも、モウカザルもピカチュウも限界だった。
ルシアも肩で息をしている。
荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりとその場に膝をつく。
しばらく呼吸を整えると、隣にいたモウカザルへ手を伸ばした。
傷だらけの頭を優しく撫でる。
次に、ピカチュウを両腕で抱き上げると、顔についた土を指先でそっと払ってやる。
ピカチュウの体を支えながらルシアは小さく息を吐いた。
そして、2体をモンスターボールへ戻した。
ルシアはゆっくりと腰を下ろすと洞窟の壁に背中を預けた。
♢♢♢
その時だった。
チャンピオンロードの入り口から巨大なポケモンが飛び込んでくる。
ルシア「……。」
洞窟の壁に寄りかかったまま、ルシアの顔から血の気が引いた。
図鑑で見たことがある。
だから、わかる。
見間違えるわけがなかった。
ファイヤー。
カントー地方の伝説のポケモン。
ファイヤーはルシアを見つめると、静かに目を細める。
ルシアはなんとなく感じ取った。
……戦おうとしている。
逃げようとしても体が動いてくれなかった。
足が震えているのがわかる。
ルシアは壁に手をつき、ゆっくりと体を起こす。
そして戻したばかりのモンスターボールを握り締めた。
ピカチュウ、モウカザル、ムクホーク。
全員、限界だった。
でも、全員で戦わないとこっちが死ぬ。
ルシア「……ごめん。みんな。」
3つのボールが開き光が弾けた。
モウカザル、ピカチュウ、ムクホーク。
3体がルシアの前に並んだ。
傷だらけの体で、それぞれファイヤーを見据える。
モウカザルも、ピカチュウも、ムクホークも。
誰もファイヤーから視線を外さなかった。
一瞬、静かな空気が流れた。
ルシアは大きく息を吸った。
♢♢♢
ルシア「モウカザル!いわなだれ!」
ルシア「ピカチュウ!でんじほう!」
ルシア「ムクホーク!ブレイブバード!」
3体が一斉に動き出した。
モウカザルが腕を振り上げると、巨大な岩石がファイヤーへ向かって降り注いだ。
続けて、ピカチュウが強烈な電撃を撃ち出す。
ムクホークも傷だらけの翼を広げ、全身に力を込めて突進した。
岩石がファイヤーを捉え、電撃がその体を貫く。
さらにムクホークの体当たりが炸裂した。
攻撃は通っている。
確かに効いていた。
それでもファイヤーは崩れない。
ファイヤーが大きく翼を広げた。
だいもんじ。
巨大な炎が放たれる。
灼熱の熱気が洞窟いっぱいに広がった。
猛烈な炎が、ルシアたちへ襲いかかる。
ルシアは咄嗟に地面へ身を投げ出した。
そのまま転がりながら体を逸らし、迫る炎をかわす。
モウカザルもピカチュウも炎を受けながら立ち上がった。
ムクホークは苦しそうに翼を動かし、どうにか羽ばたき続けていた。
限界は近かった。
それでもルシアはファイヤーから逃げなかった。
逃げられないなら、勝つしかない。
ルシアも、モウカザルも、ピカチュウも、ムクホークも。
4人はまだ誰も諦めていなかった。
♢♢♢
ルシアの視界が揺らいだ。
もう限界だった。
野生ポケモンとの戦闘。
トレーナーたちとの野良バトル。
さらにリノとの激闘。
その直後に襲いかかってきたチャーレムの群れ。
ルシアもモウカザルたちも、戦える限界をとっくに超えていた。
ルシアはゆっくりと膝をつく。
もう、立っていられなかった。
モウカザルもピカチュウも、地面に腕をついたまま、苦しそうにファイヤーを見上げていた。
ファイヤーが大きく翼を広げた。
そして、洞窟に響き渡る咆哮を上げた。
ルシア「……。」
……だいもんじ。
避ける気力も、元気も残っていなかった。
終わる。
ルシアは息を呑んだ。
ファイヤーの放った炎が、美しくルシアたちの体を照らした。
「……かみなり。」
次の瞬間、凄まじい落雷が洞窟を貫いた。
ファイヤーの放っただいもんじを真正面から叩き落とす。
巨大な炎が弾け飛び、無数の火の粉となって四散した。
ルシアは息を呑んだ。
何が起きたのかわからなかった。
視界に黒い龍が飛び込んでくる。
巨大な翼を広げ、大地を踏み締めた。
そして、その背中から赤い帽子を被った青年がゆっくりと地面に降りる。
肩には小さなピカチュウ。
ルシアの体から力が抜けた。
ルシアが見たのはそこまでだった。
レッド「……リザードン。」
メガリザードンXはレッドへ顔を向けると、小さく頷いた。
レッド「……ストーンエッジ。」
メガリザードンXが拳を握った。
次の瞬間、鋭く尖った岩石がファイヤーへ向かって放たれる。
無数の岩がその体に突き刺さり、ファイヤーが苦しそうに咆哮した。
レッド「ボルテッカー。」
レッドの肩からピカチュウが勢いよく飛び出した。
その小さな体を激しい電撃が包み込む。
一気に加速したピカチュウが、ファイヤーに飛び掛かる。
電撃を纏った一撃がファイヤーを捉え、その巨体を勢いよく突き飛ばす。
ファイヤーは何度も地面を跳ね、ようやく動きを止めた。
レッド「……。」
ファイヤーはゆっくりと体を起こした。
そしてレッドを見つめた。
やがてファイヤーは大きく翼を広げ、洞窟の奥へ飛び去っていく。
レッド「……。」
レッドはその場に倒れ、目を閉じたままのルシアを見下ろした。
レッド「……無茶しすぎだ。」
レッドはルシアを抱き上げると、リザードンの背中へそっと乗せた。
続けて、ピカチュウ、モウカザル、ムクホークも抱え上げ、同じように背中へ乗せていく。
全員を乗せ終えると、レッドもリザードンの背中に乗った。
リザードンが大きく翼を広げた。
力強く羽ばたくと、巨体がゆっくりと地面から離れていく。
高度を上げ、そのままチャンピオンロードの入口へ向かって飛び立った。
チャンピオンロード最奥部。
ルシア1人の挑戦は離脱という形で幕を閉じた。
こんにちは!いつも読んでいただいてありがとうございます!
ようやくレッドが出てくるところまで掲載できました!
オリキャラも徐々に増えつつあるので、気になった点とか説明不足な点があれば教えてください!
オリキャラについてはセナ以外、明確な元ネタがあります!気づいた人は教えてくれると嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします!