チャンピオンロードの入り口。
ルシアはゆっくりと目を覚ました。
ルシア「……ん。」
ぼんやりとした視界の中で体を起こす。
しかし、その場で固まった。
ルシア「え!?」
思わず声が裏返る。
1人の青年が目の前に座っている。
赤い帽子。
そして隣にはリザードン。
見間違えるわけがなかった。
カントー地方の伝説のトレーナー。
レッドだった。
ルシア「え!?!?」
ルシアは完全に混乱していた。
目の前にいる青年を、何度も見つめ直す。
レッドはそんなルシアを見つめると小さく笑った。
そうなるのも無理はなかった。
レッド本人にとっては大したことではないのかもしれない。
それでも、ルシアにとっては違う。
伝説のポケモンに遭遇し、命を落としかけた。
そして、目を覚ますと伝説のトレーナーが目の前に座っている。
驚かない方がおかしかった。
レッド「……起きたか。」
ルシア「え、え、え!?」
レッド「……落ち着いて。」
ルシア「無理!」
レッドはもう一度、頬を緩めた。
隣にいたリザードンも呆れたように鼻を鳴らす。
ルシアは慌てて深呼吸を繰り返した。
何度も息を吸って、吐く。
それでもなかなか落ち着かなかった。
……レッドがいる。
しかも、本物。
夢じゃない。
ルシアは目の前の青年を見つめたまま、ようやく口を開いた。
ルシア「助けてくれたの?」
レッド「……うん。」
レッド「……危なそうだったから。」
ルシア「……ありがとう。」
レッド「いいよ。」
ルシアはまだどこかぎこちなかった。
レッド「……チャンピオンロードはまだ早かったね。」
ルシアの顔が少しだけ曇った。
悔しかった。
反論したかった。
でも、できなかった。
レッドがいなかったら、自分たちはどうなっていたかわからない。
リノとのバトルも、チャーレム戦も関係ない。
力不足だった。
ルシアの頭に残っていたのはそれだけだった。
ルシア「……うん。」
レッドは小さく頷いた。
レッド「……でも、君は強くなると思う。」
ルシア「……え?」
予想外の言葉だった。
レッド「……ハナダシティでのジム戦、ちょうど見てたんだ。」
ルシア「……え。」
レッド「……いいバトルだったよ。」
レッドは小さく微笑むと、ゆっくりと体を起こそうとした。
ルシアはそんなレッドをじっと見つめていた。
レッド「……じゃあ。」
レッドは踵を返すと、チャンピオンロードへ踏み込もうとした。
ルシア「……あ。」
……行ってしまう。
待って。
ありがとう。
どうしたら強くなれる?
いろんな言葉が頭に浮かんだ。
でも違った。
ここで別れたら自分は強くなるチャンスを失う。
この人から学びたい。
この人のバトルをもっと見たい。
なんで強いのか知りたい。
ルシアは口を開いた。
躊躇はなかった。
ルシア「待って!」
レッドが振り向いた。
ルシア「ついていきたい!あなたに!」
レッド「……え。」
予想外の言葉に、今度はレッドが固まった。
ルシア「強くなりたいの!」
ルシア「あなたのバトルを教えて!」
レッド「……え。」
レッドは何か言おうと口を開いた。
しかし言葉が出てこなかった。
予想外だった。
あまりにも予想外すぎた。
なんて返せばいいのかわからなかった。
レッドは少し考える。
別に断る理由はない。
ハナダジムでのカスミ戦も見ていた。
面白い少女だった。
興味はある。
チャンピオンロードを抜けるまで。
そのくらいなら別に構わない。
レッド「……なんでそんなに強くなりたいの?」
ルシア「え。」
ルシア「セナに勝ちたいの!」
レッド「……あれに。」
レッドもセナのことは知っていた。
バトルだって見た。
セナに勝つ。
迷いなくそう言い切れる人間が今この世に何人いるだろうか。
レッドですら100%勝てるとは言い切れなかった。
それくらい怪物だった。
ルシア「うん!あれに!」
ルシアが大きく笑った。
レッドは、迷いなく太陽のように笑うその笑顔を見つめた。
レッド「……なんで勝ちたいの?」
ルシア「かっこよかったから!セナが!」
レッド「……。」
ルシア「だから勝ちたいの!」
レッドは息を呑んだ。
理由なんてどうでもよかった。
レッドが見ていたのは夢を語る時の顔だった。
ルシアは迷わない。
そして自分を信じて疑わない。
レッドは小さく微笑んだ。
レッド「……ついてきて。」
ルシアの瞳が大きくなった。
レッド「……話すの得意じゃないから。」
レッド「…教えられるかは分からないけど、見せるくらいならできると思う。」
ルシア「……。」
ルシア「ありがとう!」
ルシアは立ち上がると、レッドの後ろに並んだ。
モウカザルたちもゆっくりと休むことができた。
ルシアは再びチャンピオンロードへ踏み込んだ。
今度は、レッドと2人で。
♢♢♢
レッド「リザードン、ニトロチャージ。」
リザードンが地面を蹴った。
巨体を炎で包み込むと、凄まじい勢いでゴローニャたちへ突進する。
燃え盛る体が次々とゴローニャを捉え、その巨体を勢いよく吹き飛ばした。
リザードンの全身からさらに力が溢れ出す。
ニトロチャージの副次効果。
素早さが跳ね上がっていた。
ルシア「……。」
ルシアはしばらく動けなかった。
……スケールが違う。
ゴローニャはいわ・じめんタイプ。
だからかくとうタイプやはがねタイプの技で攻める。
このセオリーは、間違っていないはずだった。
でも、レッドは違う。
圧倒的な力の前では、相性なんて関係ない。
それだけじゃない。
ニトロチャージの副次効果で、スピードまで上げてしまう。
目の前のポケモンを倒しながら、次の敵のことまで考えて戦っている。
ポケモンの鍛え方もレッド自身の思考も。
何もかもルシアとはレベルが違いすぎた。
レッドがゆっくりと振り返る。
レッド「……え?」
ルシア「……あ。」
ルシアは呆然と立ち尽くしていた。
気づけば、レッドとの距離が随分と離れていた。
ルシアは慌てて走り出した。
ぼーっとしてたら置いていかれる。
ついていかないと。
一緒にいられる時間は一切無駄にできない。
この人からならもっと学べるはず。
こんなチャンス、次はいつ来るかわからない。
ルシアは前を歩くレッドを追いかけた。
♢♢♢
ルシア「インファイト!」
ムクホークが一気に距離を詰めた。
ゴローニャの正面へ飛び込むと、鋭い連撃を次々と叩き込む。
拳と蹴りが巨体を捉え、ゴローニャの体勢が大きく崩れた。
インファイト。
ムクホークに進化してから覚えた技だった。
その背後から、別のゴローニャがムクホークを狙った。
ルシア「ピカチュウ!アイアンテール!」
ピカチュウが地面を蹴った。
鋼鉄のように硬くなった尻尾を振り上げ、迫るゴローニャへ勢いよく振り下ろす。
レッドはその様子を少し離れた場所から眺めていた。
……この子は、やっぱり強くなると思う。
旅に出て半年で、この吸収力。
この成長速度は、普通じゃない。
そして、モウカザル、ムクホーク、ピカチュウ。
まだ粗はあるものの、全員が光るものを持っている。
特にあのムクホーク。
筋肉のつき方もスピードも明らかにおかしい。
普通のムクホークじゃない。
レッドはルシアのムクホークから視線を外さなかった。
♢♢♢
ポケモンリーグ、チャンピオンルーム。
セナのパソコンから通知音が鳴った。
セナはパソコンを開くとメールボックスを確認した。
差出人はポケモンリーグ運営。
件名には『PWC2021 要項』と書かれている。
セナはメールを開くと要項に目を通した。
頭の上にいたチラチーノも身を乗り出してパソコンを覗き込む。
多分、読めない。
それでも、目を細めて真剣に画面を見つめていた。
セナ「……げ。」
PWC2021。
開催形式は地方対抗戦。
前回のPWCも地方対抗戦だった。
だから、てっきり今回は個人戦だと思っていた。
セナは両手で頭を抱えた。
個人戦なら、僕だけが強ければいい。
でも、団体戦なら話は変わる。
僕が勝っても、他が負ければチームは勝てない。
……どうしよう。
セナはモニターを開くと、前回大会の結果を探した。
画面に表示されたのは、PWCの最終順位だった。
優勝はカントー地方。
代表選手は、レッド、グリーン、ミサ。
準優勝はホウエン地方。
ダイゴ、リラ、ミツル。
そして、3位はシンオウ地方。
シロナ、クロツグ、ゴヨウ。
もう一方の3位はガラル地方。
キバナ、ネズ、ポプラ。
セナは画面をゆっくりとスクロールした。
カロス、パルデア、イッシュ、そしてジョウト。
それぞれの地方の代表選手を、一人ずつ確認していった。
一通り確認するとセナは小さく息を吐いた。
セナ「……そりゃ勝てないわ。」
シンオウとカントーの準決勝は、何度も見ていた。
シロナさんがレッドに負けるところも、何回も見直した。
今、シンオウが代表チームを組むなら。
多分、僕、シロナさん、クロツグさん。
……勝てない。
……僕が勝っても、他が勝てない。
でも、どうすればいい?
防衛戦でもカスしか来ない。
ルカリオに攻撃を当てる奴すら、ほとんどいない。
相手が弱すぎて、僕が強くなっているのかもわからない。
……それなのに、シロナさんを超えるレベルの選手を探す。
……無理だろ。
セナはそこまで考えると、パソコンを閉じた。
今は考えられなかった。
とりあえず、見なかったことにする。
セナは椅子から立ち上がると、チャンピオンロードへ向かった。
日課のトレーニングの時間だった。
♢♢♢
チャンピオンロード、最奥部。
セナはスマートフォンのカウンターを止めると、その場に立ち止まった。
ルカリオも同じだった。
30分で100体の野生ポケモンを倒すのが毎日の日課になっていた。
それくらいやらないと特訓にならない。
ルカリオの動きのキレも、技を繰り出すスピードも、その威力も、チャンピオンになった頃とは比べものにならないほど向上していた。
セナ「……いいね。」
セナはルカリオの頭へ手を伸ばし優しく撫でる。
ルカリオは当然のようにその手を受け入れると気持ちよさそうに目を細めた。
強くなっている。
間違いない。
そのはずなのに、セナもルカリオも満たされなかった。
メガシンカは手に入れた。
新しいポケモンも仲間になった。
ルカリオ、グライオン、バンギラス、グレンアルマ、リオル、そしてチラチーノ。
手持ちも6体揃った。
それでもセナの立場を揺るがす挑戦者は現れない。
ルカリオ以外のポケモンに出番は来ない。
セナたちは孤独に強くなっていった。
【シンオウニュース】
シンオウチャンピオン・セナ選手、防衛戦35連勝達成 210体を撃破、ルカリオに攻撃を当てたのはわずか2体
2018年12月
シンオウチャンピオン・セナ選手が、防衛戦35連勝を達成した。
2018年5月に前チャンピオンのシロナ選手を破って以来、一度も敗北することなく王座を守り続けている。
注目すべきはその圧倒的な試合内容だ。
これまで行われた35試合は、いずれも6対6のフルバトル。
セナ選手はルカリオ1体のみで戦い続け、合計210体のポケモンを撃破している。
さらに驚くべきことに、210体のうちルカリオに攻撃を命中させたポケモンは、わずか2体しかいない。
7戦目の挑戦者が使用したリザードン。
19戦目の挑戦者が使用したマニューラ。
この2体だけが、セナ選手のルカリオに攻撃を当てることに成功している。
残る208体は、一度も攻撃を命中させることができなかった。
チャンピオン防衛戦に挑むのは、各地のジムを突破し、四天王を倒してきた実力者たち。
その挑戦者たちが、ルカリオ1体を相手に次々と敗れている。
セナ選手の強さが際立つ一方、改めて評価されているのが、唯一攻撃を命中させたリザードンとマニューラだ。
勝利には届かなかったものの、210体中わずか2体という記録は、両ポケモンの実力を示すものとして注目を集めている。
そして、もう一つ話題になっているのが、セナ選手の手持ちポケモンだ。
35試合を通じて、バトルに登場したのはルカリオのみ。
セナ選手に2体目のポケモンはいるのか。
そんな疑問も広がっている。
一方、セナ選手が移動する際には、グライオンに掴まって飛ぶ姿が目撃されている。
さらに、セナ選手の頭の上には、いつもチラチーノの姿がある。
少なくともルカリオ以外のポケモンがいることは確かだ。
しかし、グライオンは移動役として、チラチーノは頭の上で過ごす姿ばかりが知られており、バトルでの実力は明らかになっていない。
35連勝を達成した絶対王者が、グライオンとチラチーノをいつバトルに繰り出すのか。
それとも、このままルカリオ1体で勝ち続けるのか。
防衛戦35連勝。
いまだルカリオを倒した挑戦者は現れていない。
セナ選手の圧倒的な強さと、いまだ明かされない手持ちポケモンの実力に、今後も注目が集まりそうだ。
@sinnoh_battle_fan
シンオウニュースの記事見た?
@poke_watch_21
見た
やばすぎて笑う
@champion_watch
攻撃を当てたのは2体←もう変な笑い出る
@choco_mint_07
「チラチーノは頭の上で過ごす姿ばかりが知られており」←これ好き
@minccino_love
チラチーノ可愛いよね
@sinnoh_days
チャンピオンになる前はチラーミィだったんだよ
@milky_puff
セナもよく見たら可愛い顔してるんだよな
@poke_fan_27
身長も小さいしね
@cinccino_fan
チラチーノのバトル見たい
@gym_challenger
じゃあルカリオ倒せよ
@battle_watch_08
無理