ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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3話

僕はミオジムの外へ出ると、モンスターボールを開いた。

 

中からグライオンが姿を現す。

 

僕の手持ちは、まだ4匹だけだった。

 

ルカリオ、グライオン、チラーミィ、そして黄色い色違いのリオル。

 

グライオンと色違いのリオルは、この11年間で仲間になった。

 

グライオンも、出会った頃はまだグライガーだった。

 

今では立派に進化し、僕と一緒に戦えるまでに成長している。

 

もちろん、グライオンもリオルも戦える。

 

でも、僕が目指しているのは世界最強。

 

無敗の王者。

 

だから決めていた。

 

シンオウチャンピオンになるまでは、ルカリオ以外をバトルに出さない。

 

僕とルカリオ。

 

2人でシンオウチャンピオンになる。

 

グライオンも、チラーミィも、リオルもみんな納得している。

 

グライオンが僕の腕に手をかけた。

 

頭の上には、いつものようにチラーミィが乗っている。

 

グライオンに身を預けると、ゆっくりと体が地面から離れた。

 

高度が上がり、見慣れたミオシティの街並みが眼下に広がっていく。

 

グライオンは僕を掴んだまま、次のジムへ向かって飛び立った。

 

♢♢♢

 

セナは、瞬く間にシンオウ地方で話題になり始めた。

 

ミオジムのトウガン、クロガネジムのヒョウタ、ハクタイジムのナタネ。

 

わずか1週間ほどで、3人のジムリーダーが相次いで敗れた。

 

異常な速さだった。

 

しかも、セナがバトルで使用したポケモンはルカリオのみ。

 

ほかのポケモンを繰り出すことなく、次々とジムを突破する。

 

そして、勝利後の姿も印象的だった。

 

当然のようにジムバッジを受け取りながら、その直前には安心したように小さく笑う。

 

そんなセナとルカリオの姿が、Poketterで少しずつ話題になっていた。

 

@sinnoh_battle_fan

セナってトレーナーのバトル見た?

 

@poke_watch_21

見た。秒殺だった。

 

@milky_puff

セナって可愛いよね? 何歳なんだろ。

 

@sinnoh_days

20歳だって。

 

@choco_mint_07

え、全然見えない! 15歳くらいだと思ってた。

 

@gym_challenger

次はキッサキジムに挑戦するらしいよ。

 

♢♢♢

 

キッサキジム前。

 

セナとグライオンは、ゆっくりとジムの前に降り立った。

 

セナはイヤフォンを外し、音楽を止めた。

 

聴いていたのは、アイドルグループ「Stella」の『タイムライド』。

 

Stellaは、解散した「Lune」の元メンバーがプロデュースするアイドルグループだった。

 

セナもマナの影響で、こうした音楽を聴くようになっていた。

 

好きな曲を聴き、気持ちを整える。

 

それがセナのルーティンになっていた。

 

イヤフォンをしまうと、セナはジムの扉に手をかけた。

 

キッサキシティジムリーダー、スズナ。

 

次はこいつだ。

 

セナはいつも通りバトルコートに立った。

 

頭の上にはチラーミィが乗っている。

 

セナ本人よりも真剣な顔で、向かい側に立つスズナを見つめていた。

 

今日は公開ジム戦だった。

 

キッサキジムの観客席には、セナの試合を見ようと20人ほどの観客が集まっている。

 

その視線が注がれる中、セナとスズナはコートを挟んで向かい合った。

 

スズナ「君、話題のトレーナーだよね! 強いって!」

 

スズナ「だけど私も気合い、入ってるから!」

 

スズナ「そこんとこ、見せたげるから覚悟しちゃってよね!」

 

スズナはそう言うと、モンスターボールを握った。

 

セナも静かにボールを構える。

 

審判「使用ポケモンは3体! それでは両者、ポケモンを!」

 

スズナ「出てきて! マンムー!」

 

セナ「ルカリオ。」

 

2体のポケモンがフィールドに姿を現した。

 

大きな牙を持つマンムーと、その正面に立つルカリオ。

 

互いに視線を向け、睨み合う。

 

セナの表情は変わらなかった。

 

その頭の上で、チラーミィだけが眉間にしわを寄せている。

 

審判「それでは、バトルスタート!」

 

スズナ「マンムー! こおりのつぶて!」

 

マンムーが力強く踏み出した。

 

その前方に巨大な氷の結晶が形作られ、鋭い先端をルカリオへ向ける。

 

次の瞬間、結晶が勢いよく撃ち出された。

 

セナ「グロウパンチ。」

 

ルカリオが拳を固く握る。

 

迫り来る氷の結晶に対し、一歩も退かずに拳を高速で振り抜く。

 

拳が結晶の正面を捉えた瞬間、氷に亀裂が走った。

 

巨大な結晶は粉々に砕け散り、無数の破片がコートへ降り注ぐ。

 

スズナ「……すごいじゃん。」

 

スズナの口から小さな声が漏れた。

 

セナは何も返さなかった。

 

セナ「行くよ。ルカリオ。」

 

ルカリオが静かに頷いた。

 

セナ「ルカリオ。しんそく。」

 

ルカリオが地面を蹴った。

 

一気に加速すると、マンムーとの距離を瞬く間に詰め、その巨体の横を駆け抜けた。

 

スズナ「え!? なに!?」

 

スズナもマンムーも、反応が止まった。

 

セナ「バックステップ。」

 

マンムーの背後で急停止したルカリオが、再び地面を蹴る。

 

勢いよく跳びあがると、マンムーの正面へ着地した。

 

スズナ「……。」

 

スズナは絶句した。

 

戦場で思考が止まる。

 

その一瞬で、勝負は決まってしまう。

 

そう思わせるだけの圧力が、セナとルカリオにはあった。

 

セナ「牙を掴んで投げ上げろ。」

 

ルカリオがマンムーの牙を両手で掴んだ。

 

そのまま体を沈め、勢いをつけて一気に持ち上げる。

 

マンムーは反応できず、踏ん張ることもできなかった。

 

巨大な体が地面から離れ、そのまま宙へ投げ上げられる。

 

スズナ「マンムー!」

 

スズナが目を見開いた。

 

そんなの、知らない。

 

なにこれ。

 

私、こんなバトルやったことない。

 

セナ「はどうだん。」

 

ルカリオが拳を前へ突き出した。

 

放たれた波動の塊が撃ち出される。

 

そして、空中で身動きの取れないマンムーを捉えた。

 

マンムーの巨体が、地面に叩きつけられる。

 

マンムーは倒れたまま、体を起こすことができなかった。

 

審判「マンムー、戦闘不能。」

 

審判「ルカリオの勝ち!」

 

セナとルカリオは、当然のように正面を見つめていた。

 

その頭の上で、チラーミィだけが目をぱちぱちさせている。

 

スズナはその場に立ち尽くしていた。

 

観客席に集まった20人ほどの観客も、息を呑んだままフィールドを見つめている。

 

誰も声を上げない。

 

セナ「……次、どうぞ。」

 

セナの冷たい声が、静まり返ったキッサキジムに響いた。

 

♢♢♢

 

キッサキジム、観客席。

 

1人の少女が、バトルコートに立つセナを見つめていた。

 

ミユ、15歳。

 

キッサキシティに住む中学生だった。

 

横にはニンフィア。

 

ミユの子供の時からのパートナーだった。

 

ミユはポケモンバトルを愛している。

 

そして、セナに出会ってしまった。

 

ミユはここまでのジム戦をすべて見た。

 

相手の意表を突く発想。

 

ルカリオの攻撃力とスピード。

 

そして、勝利した直後にセナが見せる、小さな笑顔。

 

そのすべてに魅了されていた。

 

ミユ「……すごい。」

 

思わず声が漏れた。

 

それ以上、言葉が出てこなかった。

 

フィールドでは、ルカリオとグレイシアが向かい合っている。

 

ミユは視線を逸らすことなく、バトル再開の合図を待っていた。

 

審判「バトル再開!」

 

ミユは大きく目を見開く。

 

一瞬たりとも見逃したくなかった。

 

ルカリオがフィールドを駆け抜けた。

 

はどうだん。

 

しんそく。

 

グロウパンチ。

 

次々と繰り出される技は、どれもすごかった。

 

波動の威力も、目で追うのがやっとの速度も、拳を振るう動作の一つ一つも。

 

自分のバトルとは比べものにならなかった。

 

ミユはスズナへ視線を向ける。

 

その顔には冷や汗が伝っていた。

 

フィールドに立つグレイシアも、歯を食いしばっていた。

 

ミユはスズナの強さを知っている。

 

歳も近く、一緒に遊ぶこともある。

 

だからこそ分かる。

 

こんなスズナの顔は今まで見たことがない。

 

それでも、スズナとグレイシアは必死に食らいついていた。

 

グレイシアの放ったれいとうビームが、ルカリオを捉える。

 

少しずつ、ルカリオの動きを追えるようになっていた。

 

セナ「ルカリオ。」

 

セナの声に応じ、ルカリオが一気に距離を詰めた。

 

スズナ「グレイシア! ふぶき!」

 

グレイシアが大きく息を吸い込む。

 

周囲の空気が急激に冷え込む。

 

次の瞬間、猛烈な吹雪がルカリオへ襲いかかった。

 

セナ「はどうだん!」

 

それでも、ルカリオは止まらない。

 

吹き荒れる冷気の中を突き進む。

 

セナもルカリオも、迷わなかった。

 

ルカリオが拳を突き出すと、蒼い波動の塊が吹雪を突き抜けた。

 

吹雪を切り裂きながら、一直線にグレイシアへ向かう。

 

はどうだんがグレイシアを捉えた。

 

グレイシアの体が大きく弾かれ、地面へ叩きつけられる。

 

スズナ「……グレイシア。」

 

スズナの握り締めていた拳から、ゆっくりと力が抜けた。

 

審判「グレイシア、戦闘不能。」

 

審判「ルカリオの勝ち。」

 

観客席で、ミユは小さく息を吐いた。

 

本当に強い。

 

吹雪を受けながら、はどうだんを撃ち込んで倒してしまった。

 

どうしてあんな動きができるのか。

 

どうしてあんなに強いのか。

 

それでも、とにかく強い。

 

ミユはセナを見た。

 

セナとルカリオは、まっすぐスズナを見つめていた。

 

♢♢♢

 

セナはルカリオの背中を見つめていた。

 

右足が凍りついている。

 

セナ「……ルカリオ、大丈夫?」

 

ルカリオは振り返り、小さく頷いた。

 

その姿を見て、セナはわずかに笑った。

 

よかった。

 

ここで弱音を吐くようなら、王にはなれない。

 

ルカリオが望むなら。

 

僕が必ず、王座まで連れていく。

 

一方、スズナは最後のモンスターボールを握り締めていた。

 

信じられない。

 

この人、いったい何なの。

 

歳だって、そんなに変わらないはず。

 

私は18歳で、この人は20歳。

 

たった2歳しか違わない。

 

それなのに、まるで勝てる気がしない。

 

見ている世界が違う。

 

ジムリーダーは本来、挑戦者の実力を試す立場。

 

そのはずだった。

 

スズナは拳を強く握る。

 

違う。

 

もう、試すなんて偉そうなことを言っていられない。

 

私が倒しに行く。

 

せめてルカリオだけでも倒す。

 

スズナ「お願い! ユキメノコ!」

 

モンスターボールが開き、光の中からユキメノコが姿を現した。

 

その体がふわりと浮かび上がり、スズナの隣に並ぶ。

 

スズナは顔を上げた。

 

正面に立つセナと視線がぶつかる。

 

スズナ「とっておきのポケモンで相手、してあげるんだから!」

 

声が震えていた。

 

それでも、スズナは前を向く。

 

震えたっていい。

 

喰らいつく。

 

審判「バトルスタート!」

 

審判の声が響き、観客たちの視線が一斉にバトルコートへ集まった。

 

挑戦者を応援するような空気ではない。

 

このトレーナーとルカリオは、次にどんなバトルを見せてくれるのか。

 

観客席は、そんな期待に包まれていた。

 

セナ「ルカリオ。ラスターカノン。」

 

ルカリオが拳に力を込めた。

 

はどうだん、グロウパンチ、しんそく。

 

ここまで見せた技は、すべてゴーストタイプのユキメノコには効かない。

 

状況はシンプル。

 

ラスターカノンをユキメノコに当てる。

 

ルカリオの拳から、鋼鉄のエネルギーが放たれた。

 

銀色の光線が一直線にユキメノコへ迫る。

 

スズナ「避けて! ユキメノコ!」

 

ユキメノコが素早く体を逸らした。

 

姿勢を低くすると、銀色の光線がその頭上を通り過ぎていく。

 

セナ「……。」

 

セナはわずかに目を細めた。

 

頭の上のチラーミィも、同じようにユキメノコを見つめている。

 

ラスターカノンの発射が遅い。

 

あまりにも遅かった。

 

普段のルカリオならあり得ない。

 

セナはルカリオの足元へ視線を落とす。

 

右足が凍りついたままだった。

 

グレイシアの遺した凍結が、ルカリオの瞬発力を奪っている。

 

スズナ「ユキメノコ!シャドーボール!」

 

ユキメノコの前方に影の塊が生まれる。

 

そしてルカリオへ向かって撃ち出された。

 

セナ「避けろ!」

 

ルカリオが地面を蹴った。

 

横へ踏み込むと、影の塊がすぐ傍を通り過ぎていく。

 

攻撃は外れた。

 

それでも、セナの額には冷や汗が浮かんでいた。

 

まずい。

 

遅い。

 

遅すぎる。

 

このままじゃ捉えられる。

 

セナは小さく息を吐いた。

 

嫌な予感が脳裏をよぎった。

 

ポケモンバトル。

 

トレーナーの指示に従い、ポケモンたちが戦う。

 

使える技、ポケモンのコンディション、相手との相性。

 

その時々で勝敗を分ける要素はいくらでも存在する。

 

どれほど強いトレーナーでも、負ける時は負ける。

 

運が勝敗を左右することだって珍しくない。

 

それでも、セナは自分の敗北を許さなかった。

 

ジムリーダーを相手に、たった1体のポケモンで2体を撃破。

 

そして今、3体目のポケモンとも戦っている。

 

それだけでも十分に異常なことだった。

 

ただ、セナにとっては違った。

 

11年間、鍛えてきた。

 

セナ自身も、ルカリオも。

 

誰にも負けないと信じられるところまで強くなり、勝てると確信して旅に出た。

 

一戦たりとも落とすつもりはない。

 

だからこそ、セナを恐怖が支配していた。

 

敗北への恐怖。

 

11年間、一度も許そうとしなかった敗北が、すぐそこまで迫っていた。

 

ルカリオが苦しそうに膝をつく。

 

セナはその背中を見つめていた。

 

冗談だろ。

 

負けるのか?僕が。

 

ここまでやってきたのに。

 

ルカリオももう限界だ。

 

本当に、僕が負ける?

 

スズナ「ユキメノコ!シャドーボール!」

 

ユキメノコが高く飛び上がった。

 

スズナは拳を強く握る。

 

いける。

 

ルカリオだけでも落とせる。

 

セナは顔を上げた。

 

スズナの声が、やけにはっきりと耳に響いていた。

 

目が覚めたような気がした。

 

違う。

 

僕は負けない。

 

負けるわけがない。

 

ここまでやってきた。

 

セナはゆっくりと口を開く。

 

セナ「ルカリオ。」

 

ルカリオは返事をしなかった。

 

それでも、膝をついたままの体に力を込めた。

 

セナ「蹴り飛ばせ。」

 

セナが飛ばした指示は、たった一言だった。

 

迫り来るシャドーボールを蹴り飛ばす。

 

スズナ「発射!」

 

スズナも、もう引けなかった。

 

ここで決める。

 

ユキメノコがシャドーボールを撃ち込んだ。

 

ルカリオは左足に力を込める。

 

そして、膝をついた体を支えると、凍りついた右足を勢いよく振り抜いた。

 

影の塊が右足の凍結部分に炸裂する。

 

衝撃で氷が砕け、破片が周囲へ飛び散った。

 

ルカリオが苦痛に顔をしかめた。

 

セナ「……それ。」

 

セナは小さく笑った。

 

氷は砕けた。

 

あとは一撃。

 

一撃でいい。

 

全力を叩き込め。

 

セナ「ラスターカノン!」

 

セナの声が震えた。

 

ルカリオは地面を蹴り、ユキメノコとの距離を一気に詰めた。

 

そのまま腕を伸ばし、ユキメノコの体へ押し当てる。

 

スズナ「……。」

 

スズナは何も言えなかった。

 

完敗だった。

 

怖い、この人。

 

そして今の私は、この人に勝てない。

 

スズナは呆然と目の前の光景を見つめていた。

 

♢♢♢

 

次の瞬間、ルカリオの腕から銀色の光が放たれた。

 

至近距離で炸裂した鋼鉄のエネルギーが、ユキメノコを捉える。

 

ユキメノコの体がゆっくりと落下し、そのまま地面に横たわった。

 

審判「ユキメノコ、戦闘不能。」

 

審判「よって勝者、挑戦者セナ!」

 

審判の声がキッサキジムに響き渡った。

 

セナは笑えなかった。

 

負けかけた。

 

怖い。

 

負けるのが怖い。

 

セナの頭を占めていたのはそれだけだった。

 

スズナが何かを言っている。

 

けれど、その言葉は何一つ頭に入ってこなかった。

 

セナは震える手でジムバッジを受け取った。

 

そのままジムの出口へ向かい、扉を開く。

 

1人になりたかった。

 

♢♢♢

 

セナはキッサキジムの外へ出た。

 

キッサキシティには雪が降っていた。

 

冷たい雪が静かに降り積もる中、セナはすぐに歩き出すことができなかった。

 

その場に立ち尽くしたまま、呆然と雪景色を見つめる。

 

僕は何を間違えた?

 

何が悪かった?

 

どこが甘かった?

 

なんで負けかけた?

 

疑問は尽きない。

 

そして、一つの結論に辿り着いた。

 

全部だ。

 

僕が甘い。

 

ルカリオは頑張っている。

 

僕が不甲斐ない。

 

僕がもっと早く気づいていればよかった。

 

技構成だって変えられた。

 

これまで費やしてきた時間なんて関係ない。

 

負ける可能性を、すべて消せ。

 

いらないものを全部捨てろ。

 

そこまで考えがまとまると、セナはもう迷わなかった。

 

頭の上に乗っていたチラーミィが、心配そうにセナの顔を覗き込んだ。

 

セナはポケットからスマホを取り出した。

 

Poketterの通知を切る。

 

Stellaの通知も同じ。

 

好きなアイドルグループ。

 

それでも、迷わず通知を切った。

 

続いて連絡先を開く。

 

不要な連絡先を、一つずつ削除していった。

 

トウガンも。

 

マナも。

 

全部切った。

 

ノイズはすべて捨てる。

 

セナはスマホをしまうと、イヤフォンを取り出した。

 

思い切り腕を振りかぶり、遠くへ投げ捨てる。

 

イヤフォンは雪の中へ落ちた。

 

これもいらない。

 

全部いらない。

 

最後に残ったのは、スマホの裏に挟んでいた1枚のチェキだった。

 

ルシア。

 

Stellaの中で一番好きなメンバーのチェキ。

 

写真の中では、ルシアがヒコザルと頬を寄せ合い、楽しそうに笑っていた。

 

セナはチェキを取り出した。

 

これも捨てようと、手を動かしかける。

 

セナ「……。」

 

雪の中に捨てるのは、さすがに心が痛む。

 

セナはしばらくチェキを見つめると、裏返してスマホに挟み直した。

 

全部捨てた。

 

これでいい。

 

これでもっと強くなれる。

 

セナは安心したように息を吐くと、雪の降る街を歩き始めた。

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