ポケットモンスター 金星の星跡   作:セナ@ハーメルン

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33話 ルシアVSノエル

カロス地方、ミアレシティ、ミアレ研究所。

 

ルシアは目の前の扉を見つめると、一度ゆっくりと呼吸を整えた。

 

扉に手をかけると、そっと開く。

 

中では、プラターヌ博士がすでに待っていた。

 

プラターヌ「やぁ!君がルシアさんだね!」

 

出迎えてくれた博士の声は、驚くほど明るかった。

 

その声につられるように、ルシアの表情も自然と明るくなる。

 

ルシア「こんにちは!ルシアです!」

 

プラターヌ「リノ君から聞いているよ。どうぞ。」

 

博士に案内され、ルシアは研究所の奥へと進んだ。

 

通された応接室にはソファが置かれており、ルシアは勧められるまま腰を下ろす。

 

向かい側にはプラターヌ博士が座る。

 

初めて訪れる研究所に少し緊張していたルシアだったが、博士の気さくな雰囲気のおかげで、自然と肩の力が抜けていた。

 

白衣を着た女性がコーヒーを運んできた。

 

ノエル「……どうぞ。」

 

ルシアの前に、温かいコーヒーが置かれる。

 

ルシア「……ありがとうござ、え!?」

 

お礼を言いかけたルシアの口から、思わず間の抜けた声が飛び出した。

 

ノエル「……?」

 

女性が不思議そうにルシアを見る。

 

ルシアはその顔を見つめたまま、固まってしまった。

 

見覚えがある。

 

というより知っている。

 

白衣を着ているから、一瞬わからなかった。

 

でも、その顔は間違いなく見たことがあった。

 

Stellaで活動していた頃、何度も目にしていた顔。

 

Luneのノエル。

 

ユイと同じ時間を過ごしてきたLuneのメンバー。

 

ルシアは目の前の女性から視線を外せなかった。

 

どうしてここにいるのか。

 

どうして白衣を着ているのか。

 

何ひとつわからない。

 

ノエルは何事もなかったかのようにそこに立っていた。

 

ルシア「……Luneのノエルさんですか?」

 

ノエル「……え。」

 

ノエルはきょとんとした表情でルシアを見つめた。

 

ルシアはそんなノエルから目を離せなかった。

 

Luneの曲はもちろん知っていた。

 

というより、大好きだった。

 

『ぴゅあいんざわーるど』『私のいちばんかわいいところ』『センセーション』『ぱわーオブらぶ』『スターライトヴァルキリー』。

 

挙げればキリがない。

 

そんなLuneのノエルが、今、目の前にいる。

 

ルシア「私、Lune大好きなんです!」

 

ノエル「……えぇ。」

 

ルシア「ユイさんにもお世話になってて!」

 

ノエル「……あぁ。ユイのとこの子なんだ。」

 

ノエルはようやく腑に落ちたように、ふっと微笑んだ。

 

一方、向かい側に座っていたプラターヌ博士は、突然始まった2人のやり取りにおろおろしていた。

 

ルシアを見て、ノエルを見る。

 

すっかり話についていけず、2人の顔を交互に眺めるばかりだった。

 

♢♢♢

 

ノエルはプラターヌ博士の隣に腰を下ろす。

 

いつもならわざわざ話に加わる必要もない。

 

けれど、ユイのところの子となれば少し話は違った。

 

ノエルはルシアへ目を向けると、ゆっくりと口を開いた。

 

Luneでの活動を終えてから、ノエルはコーディネーターとしてカロス地方で活動していた。

 

たくさんのポケモンと出会い、さまざまなパフォーマンスを目にしてきた。

 

そんな中で、ノエルの心を奪ったものがあった。

 

メガシンカの光。

 

人とポケモンが絆を重ねることで起こる、進化を超えた進化。

 

その光に、その煌めきに、ノエルはすっかり魅了されてしまった。

 

もっと知りたい。

 

もっと近くであの光を見たい。

 

そうしてノエルは、プラターヌ博士とともにメガシンカを追い求める道へ進んだ。

 

今はこの研究所で、博士の助手として働いている。

 

それがノエルがここにいる理由だった。

 

♢♢♢

 

3人で軽く世間話を済ませると、プラターヌ博士は大きな箱を持ってきた。

 

ルシアの目の前に置くと、ゆっくりと蓋を開ける。

 

中には、綺麗な石があしらわれたブレスレットが入っていた。

 

プラターヌ「これがキーストーン。メガシンカに必要な石になる。」

 

ルシアはブレスレットをじっと見つめた。

 

これが、キーストーン。

 

プラターヌ「せっかくだしプレゼントするよ。」

 

ルシア「……いいんですか?」

 

思わず目を大きくする。

 

プラターヌ「セナ君に勝つんだろう?」

 

ルシア「……セナを知ってるんですか?」

 

プラターヌ「あぁ。」

 

プラターヌ「……彼は強いよ。」

 

ルシア「でも勝ちます!」

 

迷いのない返事だった。

 

プラターヌ博士はルシアの顔を見つめ、満足そうに笑った。

 

……いいね。

 

そのギラギラした顔、とてもいい。

 

あのセナ君に本気で勝つと言い切るか。

 

面白い子だ。

 

リノ君の言った通りだな。

 

プラターヌ「ノエルさん。ルシアさんの相手をしてくれないか。」

 

ノエル「わかりました。」

 

ルシアは隣に座るノエルへ顔を向けた。

 

……え?

 

ノエルさんとバトル?

 

ノエル「試さないとね。メガシンカ。」

 

ノエルはルシアに向かって、優しく微笑んだ。

 

♢♢♢

 

ミアレ研究所、バトルコート。

 

ルシアとノエルはコートを挟んで向かい合っていた。

 

ルシアの腕には、先ほどプラターヌ博士から受け取ったキーストーンのブレスレット。

 

そして、隣に立つライチュウの手にはライチュナイトY。

 

カントー地方でマチスから託されたメガストーン。

 

初めてのメガシンカ。

 

ルシアは腕のブレスレットに目を落とし、それから正面へ視線を戻した。

 

隣のライチュウもまっすぐ前を向いている。

 

向かい側ではノエルがゆっくりと腕を伸ばした。

 

ノエル「……知ってると思うけどさ。」

 

ルシアが顔を上げる。

 

ノエル「Luneは『戦えるアイドル』。」

 

ノエル「あたしもそこそこ強いから、本気で行くよ。」

 

ノエルは微笑むと、手にしたモンスターボールを開いた。

 

白い光がコートへ広がり、デンリュウがノエルの前に降り立つ。

 

黄色い体に、丸みを帯びた長い首。

 

デンリュウはゆっくりと顔を上げ、向かい側のライチュウを見つめた。

 

ライチュウとデンリュウ。

 

2匹のでんきタイプのポケモンが、バトルコートの中央を挟んで向かい合った。

 

♢♢♢

 

プラターヌ「それでは、バトルスタート!」

 

開始の合図とともに、ノエルは胸元のネックレスへ静かに指を添えた。

 

ノエル「ますかるのゆあ。ふるふるる。」

 

柔らかな声がバトルコートに落ちる。

 

その瞬間、ネックレスに埋め込まれたキーストーンが眩い光を放った。

 

光はデンリュウへと伸び、その体を包み込んでいく。

 

デンリュウの体毛が大きく膨れ上がり、長く伸びていく。

 

白い毛が豊かに広がり、やがて光が弾けた。

 

メガデンリュウが立っている。

 

ルシア「ライチュウ!メガシンカ!」

 

ルシアも腕のブレスレットを掲げた。

 

キーストーンが輝き、ライチュウの体を光が包み込む。

 

丸みを帯びた体が少しずつ引き締まり、輪郭が変わっていった。

 

ピカチュウを思わせる、すらりとした体つき。

 

光の中でその姿がはっきりしていく。

 

そして次の瞬間、眩い輝きが弾けた。

 

メガライチュウYが大きく吠えた。

 

ルシアはゆっくりと隣へ目を向ける。

 

メガシンカしたライチュウは、しっかりと地面を踏み締めていた。

 

力もコントロールできている。

 

その様子を見て、ルシアの頬が自然と緩んだ。

 

ライチュウも楽しそうだった。

 

……これが、私たちの新しい力。

 

メガライチュウYは嬉しそうに笑うと、正面へ顔を向けた。

 

そして、向かい合うメガデンリュウを鋭く睨みつけた。

 

プラターヌ博士は、ルシアとメガライチュウYをじっと見つめる。

 

初めてのメガシンカ。

 

それでも、ライチュウは力に溺れることなく正面のメガデンリュウと向き合っている。

 

問題なくコントロールできているようだった。

 

プラターヌ博士は楽しそうに笑った。

 

……いいね。

 

ナギサジム戦で見せた、あの凄まじいバトル。

 

今度は目の前で見せてほしい。

 

プラターヌ博士がルシアに望むのはそれだけだった。

 

ルシア「ライチュウ!でんじほう!」

 

メガライチュウYが大地を力強く踏み締める。

 

両手の間に激しい電撃が集まり、巨大な砲弾が形作られていく。

 

メガライチュウYはその電撃の塊を、正面のメガデンリュウへ向かって勢いよく投げつけた。

 

ノエル「デンリュウ!避けて!」

 

メガデンリュウが素早く体を逸らした。

 

電撃の砲弾がすぐ横を通り抜ける。

 

そのままメガデンリュウは地面を蹴り、メガライチュウYへ向かって真っ直ぐ踏み込んだ。

 

しかし、その直後。

 

空を切ったはずのでんじほうが、突然軌道を変えた。

 

電撃の砲弾が大きく弧を描き、勝手に旋回する。

 

ルシア・ノエル「え?」

 

2人の声が重なった。

 

避けたはずの電撃が、背後からメガデンリュウへ迫った。

 

次の瞬間、でんじほうがメガデンリュウの背中を貫いた。

 

激しい電撃がその体を包み込み、前へ踏み込んでいたメガデンリュウの姿勢が大きく崩れる。

 

メガデンリュウは衝撃に耐えきれず、その場で膝をついた。

 

ルシアも、ノエルも、そしてメガライチュウYですら、何が起きたのかわかっていなかった。

 

避けられたはずのでんじほうが、勝手に軌道を変えて命中した。

 

♢♢♢

 

3人が呆然としている中、プラターヌ博士が苦笑した。

 

無理もなかった。

 

メガライチュウY自体、最近になって発見されたばかりのメガシンカ。

 

その特性も能力もまだあまり知られていない。

 

プラターヌ「メガライチュウYのとくせい『ノーガード』。」

 

プラターヌ「お互いの攻撃は『必ず』当たるんだ。」

 

ルシア「……え。」

 

ルシアはゆっくりとメガライチュウYへ顔を向けた。

 

ライチュウも振り返り、2人の視線がぶつかる。

 

……必ず当たる?

 

でんじほうも?

 

きあいだまも?

 

どちらも威力は高い代わりに相手に当てるのが難しい技だった。

 

それが必ず当たる。

 

……すごい。

 

それなら私たちの戦い方が大きく変わる。

 

ルシアは先ほどのでんじほうを思い返した。

 

メガデンリュウが避けた直後、電撃の砲弾はまるで何かに引き寄せられるように旋回し、その背中を捉えた。

 

あんな動き今まで見たことがない。

 

これがメガシンカ。

 

ルシアはメガライチュウYを見つめたまま、ぎゅっと拳を握った。

 

ノエル「デンリュウ!りゅうのはどう!」

 

メガデンリュウが大きく咆哮した。

 

両拳を握り締めると、竜のエネルギーが一気に膨れ上がる。

 

次の瞬間、巨大な衝撃波が放たれた。

 

メガライチュウYは正面からその一撃を受け止めた。

 

激しい衝撃に体を押されながらも、地面を強く踏み締めて歯を食いしばる。

 

プラターヌ「相手のも必ず当たるからね。」

 

背後から聞こえてきた博士の解説に、ルシアは口元を緩めた。

 

……そこはどうでもいい。

 

ライチュウはもともと、大地を踏み締めて相手の攻撃を受け止めながら、自分の攻撃を通してきた。

 

攻撃を受けることには慣れている。

 

でんじほうときあいだま。

 

この2つが必ず当たってくれる。

 

それだけで十分だった。

 

ルシア「でんじほう!連打!」

 

メガライチュウYが頷き、その場で高く跳び上がった。

 

空中で両手を動かすと、周囲にいくつもの電撃の砲弾が作り出される。

 

そして、次々と放り投げた。

 

狙いを定める必要なんてない。

 

適当に投げられた砲弾は、それぞれ違う方向へ飛んでいく。

 

しかし、すぐに軌道が変わった。

 

空中で大きく旋回し、次々とメガデンリュウへ向かっていく。

 

ルシア「よし!」

 

うまくいく。

 

これでいい。

 

ノエル「まもる!」

 

メガデンリュウの前方に光の防壁が広がった。

 

迫ってきた電撃の砲弾が次々とぶつかり、激しい光を散らしながら弾け飛ぶ。

 

ノエル「……物騒ね。」

 

ノエルは苦しそうに笑みをこぼす。

 

その向かい側でルシアは楽しそうに笑っていた。

 

ルシアは目の前のメガデンリュウを見つめながら、思考を巡らせていた。

 

でんじほうときあいだま。

 

この2つは、適当に放り投げるだけで勝手に相手を狙ってくれる。

 

だったら、どう使うのが一番いいんだろう。

 

……考えろ。

 

もっと考え続けろ。

 

メガライチュウYが地面に着地した。

 

ノエル「デンリュウ!はかいこうせん!」

 

メガデンリュウの鋭い眼光が、正面のメガライチュウYを捉えた。

 

口元に凄まじいエネルギーが集まり、次の瞬間、巨大な光線が一気に放たれる。

 

ルシア「ライチュウ!でんじほう!」

 

メガライチュウYは尻尾を振り上げ、先端に電撃を集めた。

 

瞬く間に砲弾を作り出すと、迫ってくる光線へ向かって勢いよく投げつける。

 

電撃の砲弾は一直線に飛び、はかいこうせんと正面から激突した。

 

激しい光が弾け、2つの攻撃がぶつかり合ったまま炸裂する。

 

ノエル「……。」

 

ノエルの額を汗が伝った。

 

……上手い、この子。

 

一方、ルシアの中でもひとつの確信が生まれていた。

 

ライチュウから離れた技は勝手に相手を狙ってくれる。

 

だったら撃ち出すタイミング次第でいくらでも使える。

 

今みたいに相手の攻撃に合わせれば迎撃にもなる。

 

相手がライチュウを直接狙ってくるなら、その攻撃ごとねじ伏せればいい。

 

……もっと知りたい。

 

もっといい使い方を。

 

もっとこの力を使いこなしたい。

 

ルシアの頬が自然と緩んだ。

 

目の前にはまだメガデンリュウがいる。

 

隣のメガライチュウYも楽しそうに笑っていた。

 

ルシアも同じだった。

 

2人は笑いながらまっすぐ前を向いていた。

 

♢♢♢

 

プラターヌ博士は、少し離れたところから2人のバトルを見つめていた。

 

ルシアのバトルを直接見るのは、これが初めてだった。

 

ナギサジムでのデンジ戦は映像で見ていたが、あの時はムクホークやゴウカザルの凄まじい強さに目を奪われていた。

 

……なるほど。

 

ポケモンの才能や勢いに隠れているけれど、この子は相当考えてバトルをしている。

 

技の使い方ひとつにしてもそうだ。

 

ただ指示して使わせるのではなく、必ず何かしらの工夫を織り交ぜる。

 

その一手間が相手を出し抜く強さにつながっている。

 

……セナ君に似ている部分があるな。

 

もっとも、彼の戦い方には人間らしい悪辣さがある。

 

残忍で容赦がない。

 

一方のルシアさんは柔軟で上手い。

 

それでいて勢いも破壊力も申し分ない。

 

……強くなるかもしれないな。

 

プラターヌ博士は興味深そうに目を細めた。

 

そして、もう一度ルシアとメガライチュウYへ視線を向けた。

 

ルシア「きあいだま!」

 

ノエル「かみなり!」

 

メガライチュウYが両手からきあいだまを撃ち放つ。

 

同時に、メガデンリュウの周囲に激しい電撃が走り、巨大な雷が降り注いだ。

 

互いの攻撃は相手を正確に捉え、その体を貫いた。

 

ほとんど同時だった。

 

メガライチュウYは歯を食いしばりながら踏ん張っていたが、やがて足元が崩れ、ゆっくりと膝をついた。

 

向かい側のメガデンリュウも同じだった。

 

2匹の体から光が溢れ、メガシンカが解除されていく。

 

元の姿に戻ったライチュウとデンリュウは、そのまま動けない。

 

ノエルは小さく息を吐いた。

 

プラターヌ「終わろうか。」

 

両者ともに限界だった。

 

バトルは引き分け。

 

ルシアはゆっくりと顔を上げた。

 

ルシア「……勝ちたかったぁ。」

 

悔しそうな声が漏れる。

 

プラターヌ「……まぁ上出来だろう。いいバトルだったよ。」

 

プラターヌ博士は満足そうに笑い、ルシアへ目線を向ける。

 

ルシアも一応、笑みを返す。

 

けれどやっぱり悔しかった。

 

ただの模擬戦だって関係ない。

 

公式戦でも、それ以外でも、やるからには勝ちたかった。

 

♢♢♢

 

向かい側ではノエルも笑みをこぼしていた。

 

Luneでは末っ子枠。

 

ポケモンバトルも、メンバーの中では一番弱い。

 

それでも、Luneの外に出ればほとんど負けることはなかった。

 

そんな自分が引き分けに持ち込まれた。

 

……強いなぁ。

 

技の使い方も、ポケモンの鍛えられ方も普通じゃない。

 

それに、初めて使うメガシンカであの完成度。

 

力を持て余すこともなく、すぐに特性を理解して使いこなしていた。

 

間違いなく強かった。

 

……また戦いたいな。

 

ノエルは傍らのデンリュウへ手を伸ばし、優しく頭を撫でた。

 

それから額に浮かんだ汗を拭う。

 

自然と頬が緩んでいた。

 

久しぶりに、最高に楽しかった。

 

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