カロス地方、ミアレシティ。
ミアレスタジアムは、大会前の熱気に包まれていた。
観客席には大勢の人が集まり、あちこちから楽しそうな話し声が聞こえてくる。
カロスオープンが開幕しようとしていた。
ルシアは控室で静かに自分の番を待っている。
今回の大会は、ポケモン1匹同士で戦うシングルバトル。
それほど大きな大会ではなかったものの、ルシアにとっては初めて参加する大会だった。
ルシアはゆっくりと息を吸い、吐き出した。
もう一度、深呼吸する。
……大丈夫。
そう思いながらも少し落ち着かなかった。
これまでジム戦は何度も経験してきたけれど、大会に参加するのは初めてだった。
控室で静かに待ちながら、ルシアは何度か呼吸を整えた。
スタジアムの熱気が、控室にまで伝わってくる。
カロスオープン、第一試合。
その開始が、間近に迫っていた。
♢♢♢
ルシアの番がやってきた。
控室を出て、スタジアムへと続く通路を歩いていく。
一歩ずつコートへ近づくにつれ、観客席の声が大きくなっていった。
そして、ルシアが姿を現した途端、客席の一角がざわめき始めた。
『あれ、ルシアじゃない?』
『まじ?ほんとじゃん!すげー!』
『あの殺人ムクホークの子?』
『Stellaの!そうそう!』
ルシアは思わず俯いた。
……恥ずかしい。
殺人ムクホークって言わないで……。
顔を上げづらいまま、コートへと歩いていく。
けれど、自分の持ち場に着く頃には、余計なことは頭から消えていた。
ルシアはゆっくりと顔を上げ、向かい側に立つトレーナーを見つめた。
ルシア「出てきて!ライチュウ!」
トレーナー「頼んだ!ヤミラミ!」
両者が同時にモンスターボールを投げる。
ボールが開き、2つの光がコートへ飛び出した。
ルシアの前にはライチュウ。
向かい側にはヤミラミが姿を現す。
2匹は互いに正面を向き、コートを挟んで向かい合った。
審判「それでは、バトルスタート!」
開始の合図とともに、ルシアは腕のキーストーンを握り締めた。
眩い光がライチュウを包み込み、その姿が変わっていく。
光が弾けると、メガライチュウYが大地を力強く踏み締めた。
『メガライチュウ!?』
『ナギサジムでは使ってなかったよね!?』
観客席がざわめき、ルシアへと注目が集まる。
ルシアはぐっと拳を握った。
注目を浴びることには慣れている。
これまで何度もステージに立ち、大勢の観客の前で踊ってきた。
このくらいで緊張なんてしない。
向かい側でもメガシンカの光が広がり、ヤミラミの姿が変わっていった。
光が消えると、巨大な宝石を携えたメガヤミラミがコートに降り立つ。
ルシア「ライチュウ!でんじほう!」
メガライチュウYが電撃の砲弾を作り出し、無作為に撃ち放った。
砲弾は空中で大きく旋回すると、メガヤミラミへ向かって飛んでいく。
電撃がその体を捉え、メガヤミラミは歯を食いしばった。
トレーナー「シャドーボール!」
メガヤミラミが影の塊を作り出し、正面へ投げつける。
ルシア「でんじほう!」
ルシアの声がスタジアムに響いた。
メガライチュウYが再び電撃の砲弾を撃ち出す。
迫ってきた影の塊と正面からぶつかり、2つの技が激しく炸裂した。
凄まじい衝撃音がスタジアムに響き渡り、電撃と影が弾け飛ぶ。
ルシアの顔に、自然と笑みが浮かんだ。
……楽しい。
最近は、少しずつバトルを楽しめるようになっていた。
ポケモンたちの実力も、ルシア自身のトレーナーとしての実力も以前とは違う。
相手の攻撃を見て、自分で考え、技をぶつけ合う。
そうした攻防を楽しめるだけの強さが、ようやく身についてきた。
メガヤミラミの体が壁に激突した。
衝撃で体勢を崩すと、その体を包んでいたメガシンカの光が薄れていく。
元の姿に戻ったヤミラミは、ゆっくりと地面に倒れた。
審判「ヤミラミ、戦闘不能!」
審判「よって勝者!ルシア選手!」
ルシア「よし!」
ルシアは嬉しそうに拳を握り締めた。
『ルシア!』
『おめでとう!』
観客席から次々と声が飛んでくる。
カロス地方での大会にもかかわらず、ルシアを応援する声があちこちから上がっていた。
ルシアは客席へ顔を向け、笑顔で手を振り返した。
自然と笑みが溢れていた。
観客席の後方では、1人の女性がその様子を眺めていた。
「……いいバトルするやん。」
腕の中に抱かれたエモンガもこくりと頷いた。
「まぁ、当たるとしたら決勝か。」
女性は楽しそうに笑った。
それからエモンガを抱えたまま、ゆっくりと席を立つ。
次は、自分の番だった。
♢♢♢
ルシアはその後も勝ち進んでいった。
カロス地方は、メガシンカが発祥した土地。
大会に参加しているトレーナーにも、メガシンカを扱う者が多かった。
それでも、ルシアは負けなかった。
新たな力を手に入れたライチュウ。
独自の巨大な炎を燃やすゴウカザル。
そして、圧倒的な攻撃力で相手をねじ伏せるムクホーク。
3匹とともに勝利を重ね、ルシアはついに決勝進出を決めた。
初めて参加した大会で、ここまで勝ち上がってきた。
ルシアはスタジアムへ視線を向けた。
これから始まるのは準決勝第二試合。
勝者が、決勝で自分と戦うことになる。
ルシアは静かにコートを見つめた。
♢♢♢
実況「準決勝第二試合はリノ選手とツキ選手です!」
その名前を聞いた瞬間、ルシアの視線がコートへ落ちた。
思わず、手に持っていたタマゴを抱える腕に力が入る。
ルシア「……リノ。」
……リノも出てたんだ。
全然気づかなかった。
もしリノが勝てば、決勝で戦える。
もう一度、リノと。
今度こそ、決着をつけたい。
ルシアはリノの姿を見つめてから、反対側へ視線を移した。
……ツキ?
知らない名前だった。
コートに立っていたのは、小柄な女性。
肩にはエモンガが乗っている。
長い髪が乱れて顔にかかっており、表情はよく見えなかった。
ルシアはその女性をじっと見つめた。
♢♢♢
スタジアムの中央で、リノとツキが向かい合った。
観客席から歓声が上がる中、2人はそれぞれモンスターボールを強く握り締めていた。
審判「それでは、両者ポケモンを!」
リノ「出てきて!クチート!」
ツキ「来い!バシャーモ!」
2人が同時にボールを投げた。
白い光がコートへ広がり、リノの前にクチートが姿を現す。
向かい側では、バシャーモが地面に降り立った。
クチートは正面を向き、バシャーモもまっすぐに相手を見据える。
2匹がスタジアムの中央を挟んで向かい合った。
審判「それでは、バトルスタート!」
リノはゆっくりと髪を耳にかけた。
耳元で揺れるイヤリングに指を添え、そこにあしらわれたキーストーンへ優しく触れる。
リノ「倍の倍のFIGHT!」
リノ「メガシンカ!」
キーストーンが眩い光を放った。
その光がクチートへと伸び、小さな体を包み込んでいく。
頭の大きなツノが2つに分かれ、それぞれが大きく広がっていった。
やがて光が弾け、メガクチートがリノの前に立った。
向かい側では、ツキが腕を掲げた。
ツキ「メテオに乗れ、少女よ!」
ツキ「メガシンカ!」
バシャーモの体も眩い光に包まれた。
光の中でその姿が変わっていき、やがてメガバシャーモが現れる。
メガバシャーモはツキの隣に並び、正面のメガクチートを見据えた。
実況「両者ともにメガシンカ!メガクチートとメガバシャーモが激突します!準決勝第二試合、いきなりメガシンカ対決です!」
リノ「クチート!いわなだれ!」
メガクチートが拳を強く握り締めた。
実況「バシャーモの頭上に巨大な岩が出現!そのまま一斉に降り注ぎます!」
巨大な岩が次々と落下し、メガバシャーモへと迫った。
ツキ「バシャーモ!みきり!」
メガバシャーモが地面を蹴り、一気に走り出した。
迫る岩を見据えながら体を翻し、落下する岩と岩の間を駆け抜けていく。
実況「メガバシャーモ、速い!縦横無尽に降り注ぐ岩を次々とかわしていきます!」
岩が地面に激突する中、メガバシャーモの動きはさらに鋭さを増していった。
踏み込みが速くなり、走る速度が跳ね上がる。
実況「さらにメガバシャーモの特性『かそく』!スピードが上がっていきます!」
ツキはその様子を眺めながら、楽しそうに笑っていた。
肩に乗ったエモンガも満足そうに鼻を鳴らす。
メガバシャーモは降り注ぐ岩をかわし続け、さらに速度を上げていった。
ツキ「ブレイズキック!」
メガバシャーモが地面を強く蹴った。
一気に加速すると、右足に激しい炎が燃え上がる。
頭上から迫る巨大な岩に向かって跳び上がり、燃え盛る脚を叩きつけた。
岩が砕け散り、破片が周囲へ飛び散る。
実況「メガバシャーモ!頭上の岩をブレイズキックで粉砕!そのままメガクチートの頭上を取った!」
砕けた岩の間を抜け、メガバシャーモが空中で体勢を整える。
右足の炎は消えていない。
そのまま脚を大きく振り上げ、眼下のメガクチートへ狙いを定めた。
リノ「クチート!アイアンヘッドで受け止めて!」
メガクチートが頭上へ顔を向けた。
2つに分かれた巨大なツノを持ち上げ、落下してくるメガバシャーモへ突き出す。
次の瞬間、燃え盛る右足が振り下ろされた。
実況「ブレイズキックとアイアンヘッドが激突!メガバシャーモの炎とメガクチートの鋼が真っ向からぶつかります!」
炎をまとった脚と鋼のツノがぶつかり合い、激しい衝撃が広がった。
メガバシャーモは空中から脚を押し込み、メガクチートも頭上の一撃を受け止めていた。
ツキは目の前の攻防から視線を外さない。
そして口元に不敵な笑みを浮かべた。
メガバシャーモは鋼のツノとの拮抗を解くと、軽やかに後方へ跳び、静かに着地した。
その体から、さらにエネルギーが迸る。
実況「メガバシャーモの特性『かそく』!バトル中は素早さが上がり続けます!」
この短い攻防の中で、すでに2段階。
メガバシャーモのスピードは、簡単には捉えられないほどに上がっていた。
リノは正面のメガバシャーモを見つめ、それからメガクチートの様子を確認した。
思わず歯を食いしばる。
……まだやれる。
やりようはある。
メガクチートも顔を上げると、まっすぐ前を向く。
リノはもう一度、メガバシャーモへ視線を戻した。
リノ「クチート!つるぎのまい!」
メガクチートが両拳を握り締め、闘志を高めていく。
実況「つるぎのまい!メガクチートが攻撃力を引き上げます!」
ツキ「ブレイズキック!」
メガバシャーモはすでに踏み込んでいた。
かそくによって跳ね上がったスピードで、一気に距離を詰めていく。
つるぎのまいはさせない。
メガバシャーモが右脚に激しい炎をまとわせ、そのまま大きく振り上げた。
リノ「捕まえて!」
その声とともに、メガクチートがつるぎのまいを中断した。
実況「おっと!メガクチートがつるぎのまいを中断!攻撃力はまだ上がりきっていません!」
リノが拳を握り締める。
振り下ろされる炎の脚に向かって、メガクチートの巨大なツノが開いた。
次の瞬間、鋭い牙がメガバシャーモの脚に食らいついた。
炎がツノへ燃え移り、メガクチートの体を焼いていく。
それでもメガクチートは歯を食いしばりながら、メガバシャーモの脚を離さない。
実況「メガクチートがメガバシャーモの脚に噛みついた!炎を受けながらも離しません!いったい何をするつもりでしょうか!」
リノの顔に笑みが浮かんだ。
……それでいい。
ツキもリノの狙いに気づく。
しかし、メガバシャーモの脚はすでに捕まっていた。
リノ「じゃれつく!」
メガクチートは炎を浴びながらも、強く地面を蹴った。
メガバシャーモの脚をツノで捕まえたまま、一気に体を引き寄せる。そのまま背中へ回り込み、ぴたりと張り付いた。
メガバシャーモが苦しそうに声を上げる。
実況「じゃれつく!メガクチートがメガバシャーモの背中に張り付きました!脚も捕まえたまま離しません!」
リノ「そのまま!」
どれだけスピードが上がっても、最初から張り付いていれば関係ない。
振り落とされないようにしがみつきながら、じゃれつき続ける。
このまま倒れるまで離さなければいい。
……落とせる。
ツキ「やるじゃん!かみなりパンチ!」
ツキは楽しそうに笑っていた。
メガバシャーモは完全に捕まっている。
明らかに追い詰められているはずなのに、ツキの表情に動揺はなかった。
メガバシャーモが上半身を大きく捻った。
右拳に激しい電撃をまとわせ、背中に張り付くメガクチートへ叩き込む。
実況「かみなりパンチ!メガクチートに入りました!」
一撃目。
電撃を浴びたメガクチートの体が揺れる。
それでもツノは脚を捕まえたまま、背中にしがみつく腕も緩まない。
メガクチートは離さなかった。