ポケットモンスター 金星の星跡   作:セナ@ハーメルン

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35話 リノVSツキ

カロス地方、ミアレシティ。

 

ミアレスタジアムは、大会前の熱気に包まれていた。

 

観客席には大勢の人が集まり、あちこちから楽しそうな話し声が聞こえてくる。

 

カロスオープンが開幕しようとしていた。

 

ルシアは控室で静かに自分の番を待っている。

 

今回の大会は、ポケモン1匹同士で戦うシングルバトル。

 

それほど大きな大会ではなかったものの、ルシアにとっては初めて参加する大会だった。

 

ルシアはゆっくりと息を吸い、吐き出した。

 

もう一度、深呼吸する。

 

……大丈夫。

 

そう思いながらも少し落ち着かなかった。

 

これまでジム戦は何度も経験してきたけれど、大会に参加するのは初めてだった。

 

控室で静かに待ちながら、ルシアは何度か呼吸を整えた。

 

スタジアムの熱気が、控室にまで伝わってくる。

 

カロスオープン、第一試合。

 

その開始が、間近に迫っていた。

 

♢♢♢

 

ルシアの番がやってきた。

 

控室を出て、スタジアムへと続く通路を歩いていく。

 

一歩ずつコートへ近づくにつれ、観客席の声が大きくなっていった。

 

そして、ルシアが姿を現した途端、客席の一角がざわめき始めた。

 

『あれ、ルシアじゃない?』

 

『まじ?ほんとじゃん!すげー!』

 

『あの殺人ムクホークの子?』

 

『Stellaの!そうそう!』

 

ルシアは思わず俯いた。

 

……恥ずかしい。

 

殺人ムクホークって言わないで……。

 

顔を上げづらいまま、コートへと歩いていく。

 

けれど、自分の持ち場に着く頃には、余計なことは頭から消えていた。

 

ルシアはゆっくりと顔を上げ、向かい側に立つトレーナーを見つめた。

 

ルシア「出てきて!ライチュウ!」

 

トレーナー「頼んだ!ヤミラミ!」

 

両者が同時にモンスターボールを投げる。

 

ボールが開き、2つの光がコートへ飛び出した。

 

ルシアの前にはライチュウ。

 

向かい側にはヤミラミが姿を現す。

 

2匹は互いに正面を向き、コートを挟んで向かい合った。

 

審判「それでは、バトルスタート!」

 

開始の合図とともに、ルシアは腕のキーストーンを握り締めた。

 

眩い光がライチュウを包み込み、その姿が変わっていく。

 

光が弾けると、メガライチュウYが大地を力強く踏み締めた。

 

『メガライチュウ!?』

 

『ナギサジムでは使ってなかったよね!?』

 

観客席がざわめき、ルシアへと注目が集まる。

 

ルシアはぐっと拳を握った。

 

注目を浴びることには慣れている。

 

これまで何度もステージに立ち、大勢の観客の前で踊ってきた。

 

このくらいで緊張なんてしない。

 

向かい側でもメガシンカの光が広がり、ヤミラミの姿が変わっていった。

 

光が消えると、巨大な宝石を携えたメガヤミラミがコートに降り立つ。

 

ルシア「ライチュウ!でんじほう!」

 

メガライチュウYが電撃の砲弾を作り出し、無作為に撃ち放った。

 

砲弾は空中で大きく旋回すると、メガヤミラミへ向かって飛んでいく。

 

電撃がその体を捉え、メガヤミラミは歯を食いしばった。

 

トレーナー「シャドーボール!」

 

メガヤミラミが影の塊を作り出し、正面へ投げつける。

 

ルシア「でんじほう!」

 

ルシアの声がスタジアムに響いた。

 

メガライチュウYが再び電撃の砲弾を撃ち出す。

 

迫ってきた影の塊と正面からぶつかり、2つの技が激しく炸裂した。

 

凄まじい衝撃音がスタジアムに響き渡り、電撃と影が弾け飛ぶ。

 

ルシアの顔に、自然と笑みが浮かんだ。

 

……楽しい。

 

最近は、少しずつバトルを楽しめるようになっていた。

 

ポケモンたちの実力も、ルシア自身のトレーナーとしての実力も以前とは違う。

 

相手の攻撃を見て、自分で考え、技をぶつけ合う。

 

そうした攻防を楽しめるだけの強さが、ようやく身についてきた。

 

メガヤミラミの体が壁に激突した。

 

衝撃で体勢を崩すと、その体を包んでいたメガシンカの光が薄れていく。

 

元の姿に戻ったヤミラミは、ゆっくりと地面に倒れた。

 

審判「ヤミラミ、戦闘不能!」

 

審判「よって勝者!ルシア選手!」

 

ルシア「よし!」

 

ルシアは嬉しそうに拳を握り締めた。

 

『ルシア!』

 

『おめでとう!』

 

観客席から次々と声が飛んでくる。

 

カロス地方での大会にもかかわらず、ルシアを応援する声があちこちから上がっていた。

 

ルシアは客席へ顔を向け、笑顔で手を振り返した。

 

自然と笑みが溢れていた。

 

観客席の後方では、1人の女性がその様子を眺めていた。

 

「……いいバトルするやん。」

 

腕の中に抱かれたエモンガもこくりと頷いた。

 

「まぁ、当たるとしたら決勝か。」

 

女性は楽しそうに笑った。

 

それからエモンガを抱えたまま、ゆっくりと席を立つ。

 

次は、自分の番だった。

 

♢♢♢

 

ルシアはその後も勝ち進んでいった。

 

カロス地方は、メガシンカが発祥した土地。

 

大会に参加しているトレーナーにも、メガシンカを扱う者が多かった。

 

それでも、ルシアは負けなかった。

 

新たな力を手に入れたライチュウ。

 

独自の巨大な炎を燃やすゴウカザル。

 

そして、圧倒的な攻撃力で相手をねじ伏せるムクホーク。

 

3匹とともに勝利を重ね、ルシアはついに決勝進出を決めた。

 

初めて参加した大会で、ここまで勝ち上がってきた。

 

ルシアはスタジアムへ視線を向けた。

 

これから始まるのは準決勝第二試合。

 

勝者が、決勝で自分と戦うことになる。

 

ルシアは静かにコートを見つめた。

 

♢♢♢

 

実況「準決勝第二試合はリノ選手とツキ選手です!」

 

その名前を聞いた瞬間、ルシアの視線がコートへ落ちた。

 

思わず、手に持っていたタマゴを抱える腕に力が入る。

 

ルシア「……リノ。」

 

……リノも出てたんだ。

 

全然気づかなかった。

 

もしリノが勝てば、決勝で戦える。

 

もう一度、リノと。

 

今度こそ、決着をつけたい。

 

ルシアはリノの姿を見つめてから、反対側へ視線を移した。

 

……ツキ?

 

知らない名前だった。

 

コートに立っていたのは、小柄な女性。

 

肩にはエモンガが乗っている。

 

長い髪が乱れて顔にかかっており、表情はよく見えなかった。

 

ルシアはその女性をじっと見つめた。

 

♢♢♢

 

スタジアムの中央で、リノとツキが向かい合った。

 

観客席から歓声が上がる中、2人はそれぞれモンスターボールを強く握り締めていた。

 

審判「それでは、両者ポケモンを!」

 

リノ「出てきて!クチート!」

 

ツキ「来い!バシャーモ!」

 

2人が同時にボールを投げた。

 

白い光がコートへ広がり、リノの前にクチートが姿を現す。

 

向かい側では、バシャーモが地面に降り立った。

 

クチートは正面を向き、バシャーモもまっすぐに相手を見据える。

 

2匹がスタジアムの中央を挟んで向かい合った。

 

審判「それでは、バトルスタート!」

 

リノはゆっくりと髪を耳にかけた。

 

耳元で揺れるイヤリングに指を添え、そこにあしらわれたキーストーンへ優しく触れる。

 

リノ「倍の倍のFIGHT!」

 

リノ「メガシンカ!」

 

キーストーンが眩い光を放った。

 

その光がクチートへと伸び、小さな体を包み込んでいく。

 

頭の大きなツノが2つに分かれ、それぞれが大きく広がっていった。

 

やがて光が弾け、メガクチートがリノの前に立った。

 

向かい側では、ツキが腕を掲げた。

 

ツキ「メテオに乗れ、少女よ!」

 

ツキ「メガシンカ!」

 

バシャーモの体も眩い光に包まれた。

 

光の中でその姿が変わっていき、やがてメガバシャーモが現れる。

 

メガバシャーモはツキの隣に並び、正面のメガクチートを見据えた。

 

実況「両者ともにメガシンカ!メガクチートとメガバシャーモが激突します!準決勝第二試合、いきなりメガシンカ対決です!」

 

リノ「クチート!いわなだれ!」

 

メガクチートが拳を強く握り締めた。

 

実況「バシャーモの頭上に巨大な岩が出現!そのまま一斉に降り注ぎます!」

 

巨大な岩が次々と落下し、メガバシャーモへと迫った。

 

ツキ「バシャーモ!みきり!」

 

メガバシャーモが地面を蹴り、一気に走り出した。

 

迫る岩を見据えながら体を翻し、落下する岩と岩の間を駆け抜けていく。

 

実況「メガバシャーモ、速い!縦横無尽に降り注ぐ岩を次々とかわしていきます!」

 

岩が地面に激突する中、メガバシャーモの動きはさらに鋭さを増していった。

 

踏み込みが速くなり、走る速度が跳ね上がる。

 

実況「さらにメガバシャーモの特性『かそく』!スピードが上がっていきます!」

 

ツキはその様子を眺めながら、楽しそうに笑っていた。

 

肩に乗ったエモンガも満足そうに鼻を鳴らす。

 

メガバシャーモは降り注ぐ岩をかわし続け、さらに速度を上げていった。

 

ツキ「ブレイズキック!」

 

メガバシャーモが地面を強く蹴った。

 

一気に加速すると、右足に激しい炎が燃え上がる。

 

頭上から迫る巨大な岩に向かって跳び上がり、燃え盛る脚を叩きつけた。

 

岩が砕け散り、破片が周囲へ飛び散る。

 

実況「メガバシャーモ!頭上の岩をブレイズキックで粉砕!そのままメガクチートの頭上を取った!」

 

砕けた岩の間を抜け、メガバシャーモが空中で体勢を整える。

 

右足の炎は消えていない。

 

そのまま脚を大きく振り上げ、眼下のメガクチートへ狙いを定めた。

 

リノ「クチート!アイアンヘッドで受け止めて!」

 

メガクチートが頭上へ顔を向けた。

 

2つに分かれた巨大なツノを持ち上げ、落下してくるメガバシャーモへ突き出す。

 

次の瞬間、燃え盛る右足が振り下ろされた。

 

実況「ブレイズキックとアイアンヘッドが激突!メガバシャーモの炎とメガクチートの鋼が真っ向からぶつかります!」

 

炎をまとった脚と鋼のツノがぶつかり合い、激しい衝撃が広がった。

 

メガバシャーモは空中から脚を押し込み、メガクチートも頭上の一撃を受け止めていた。

 

ツキは目の前の攻防から視線を外さない。

 

そして口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

メガバシャーモは鋼のツノとの拮抗を解くと、軽やかに後方へ跳び、静かに着地した。

 

その体から、さらにエネルギーが迸る。

 

実況「メガバシャーモの特性『かそく』!バトル中は素早さが上がり続けます!」

 

この短い攻防の中で、すでに2段階。

 

メガバシャーモのスピードは、簡単には捉えられないほどに上がっていた。

 

リノは正面のメガバシャーモを見つめ、それからメガクチートの様子を確認した。

 

思わず歯を食いしばる。

 

……まだやれる。

 

やりようはある。

 

メガクチートも顔を上げると、まっすぐ前を向く。

 

リノはもう一度、メガバシャーモへ視線を戻した。

 

リノ「クチート!つるぎのまい!」

 

メガクチートが両拳を握り締め、闘志を高めていく。

 

実況「つるぎのまい!メガクチートが攻撃力を引き上げます!」

 

ツキ「ブレイズキック!」

 

メガバシャーモはすでに踏み込んでいた。

 

かそくによって跳ね上がったスピードで、一気に距離を詰めていく。

 

つるぎのまいはさせない。

 

メガバシャーモが右脚に激しい炎をまとわせ、そのまま大きく振り上げた。

 

リノ「捕まえて!」

 

その声とともに、メガクチートがつるぎのまいを中断した。

 

実況「おっと!メガクチートがつるぎのまいを中断!攻撃力はまだ上がりきっていません!」

 

リノが拳を握り締める。

 

振り下ろされる炎の脚に向かって、メガクチートの巨大なツノが開いた。

 

次の瞬間、鋭い牙がメガバシャーモの脚に食らいついた。

 

炎がツノへ燃え移り、メガクチートの体を焼いていく。

 

それでもメガクチートは歯を食いしばりながら、メガバシャーモの脚を離さない。

 

実況「メガクチートがメガバシャーモの脚に噛みついた!炎を受けながらも離しません!いったい何をするつもりでしょうか!」

 

リノの顔に笑みが浮かんだ。

 

……それでいい。

 

ツキもリノの狙いに気づく。

 

しかし、メガバシャーモの脚はすでに捕まっていた。

 

リノ「じゃれつく!」

 

メガクチートは炎を浴びながらも、強く地面を蹴った。

 

メガバシャーモの脚をツノで捕まえたまま、一気に体を引き寄せる。そのまま背中へ回り込み、ぴたりと張り付いた。

 

メガバシャーモが苦しそうに声を上げる。

 

実況「じゃれつく!メガクチートがメガバシャーモの背中に張り付きました!脚も捕まえたまま離しません!」

 

リノ「そのまま!」

 

どれだけスピードが上がっても、最初から張り付いていれば関係ない。

 

振り落とされないようにしがみつきながら、じゃれつき続ける。

 

このまま倒れるまで離さなければいい。

 

……落とせる。

 

ツキ「やるじゃん!かみなりパンチ!」

 

ツキは楽しそうに笑っていた。

 

メガバシャーモは完全に捕まっている。

 

明らかに追い詰められているはずなのに、ツキの表情に動揺はなかった。

 

メガバシャーモが上半身を大きく捻った。

 

右拳に激しい電撃をまとわせ、背中に張り付くメガクチートへ叩き込む。

 

実況「かみなりパンチ!メガクチートに入りました!」

 

一撃目。

 

電撃を浴びたメガクチートの体が揺れる。

 

それでもツノは脚を捕まえたまま、背中にしがみつく腕も緩まない。

 

メガクチートは離さなかった。

 

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