2019年2月。
ポケモンリーグ、応接室。
セナはソファに腰を下ろし、客が来るのを待っていた。
頭の上には、今日もチラチーノが乗っかっている。
セナは特に何をするでもなく、ぼんやりと約束の時間を待っていた。
やがて応接室の扉が開いた。
ルナ「やっぴー!」
明るい声が部屋に響いた。
セナはゆっくりとおそるおそる顔を上げる。
金髪。
派手な顔立ち。
紫色の髪飾り。
そして、おそらく年上。
セナ「……。」
……厳しい。
シンオウ地方、人気シンガーソングライター「LUNA」。
かつてLuneの紫担当として活躍した伝説の歌姫が、そこに立っていた。
ルナ「ルナでーーーーす!よろしくぴ!」
軽快な挨拶とともに、ルナは向かい側のソファへどかっと腰を下ろした。
セナ「シンオウチャンピオンのセナです。」
セナ「……よろしくお願いします。」
セナもゆっくりと腰を下ろした。
……挨拶、これでよかったよな。
そんなことすら不安になる。
……面倒だ。
人付き合いは苦手だった。
ポケモンバトルで価値を測れない相手は、なおのこと面倒だ。
セナは向かい側のルナを見つめた。
セナ「それで用件は?」
ルナ「国を作りたい!」
セナ「……は?」
セナは目の前の女性を見つめた。
……何を言ってるんだ、この女。
見た目がアレなら、中身もアレか?
思わず口を開きかけたところで、ぴたりと止まる。
……危ない。
この人はシンオウの歌姫。
少なくとも、歌の世界ではシンオウチャンピオンみたいなものだ。
そこまで上り詰める人間なら、何かしら光るものを持っているはず。
……話だけでも聞くか。
セナ「一応聞きましょう。」
ルナ「うし!!!」
ルナの大きな声が応接室に響き渡った。
セナは黙ってルナを見つめる。
……いちいち声がでかい。
ルナは鞄から預金通帳と分厚い資料を取り出し、テーブルの上に並べた。
資料の表紙には、大きく文字が書かれていた。
『バトルフロンティア建設計画』
セナ「……バトルフロンティア。」
セナは静かに視線を落とした。
……へぇ。
少し興味が湧いた。
ルナ「そう!一枚噛まない?!」
ルナは身を乗り出すと、楽しそうに笑っている。
セナはゆっくりと書類に目を通しながら、ルナの言葉に耳を傾ける。
ルナは資料を広げると、計画について説明を始めた。
シンオウ地方にバトルフロンティアを建設する。
ただ、既存のホウエン地方に存在するバトルフロンティアとは、似て非なるものだった。
ホウエンフロンティアは上級トレーナーが自らの実力を試すため、フロンティアブレーンに挑むことを主な目的としている。
ルナが構想しているシンオウフロンティアは違う。
従来のバトル施設に加え、新米トレーナーや中級者が強くなるためのエリアも構築する。
上級者だけでなく、さまざまな実力のトレーナーが利用できる場所を目指していた。
建設予定地は、ミオシティから船で向かうことのできるこうてつじまの隣に位置する離島。
島全体を開拓し、シンオウフロンティアとして整備する。
目的はシンオウ地方の発展。
そして、ルナ自身がオーナーとなりバトルフロンティアを国として建国すること。
セナは黙ったまま資料のページをめくった。
そのまま計画書を読み進めていく。
セナ「…それでなんで僕に?」
ルナ「広告塔!」
セナ「……。」
ルナ「あとバトル施設やるのにシンオウチャンピオンと協力しないとかないっしょ!流石に!」
セナ「……それはともかく広告塔は無理ですよ。」
ルナが目を細めた。
ルナ「……なんでよ。」
セナ「僕、そんなビジュアルじゃないでしょう。」
ルナ「可愛いよ?ちっちゃいし。」
セナ「……。」
……あんまり言葉は通じないらしい。
セナは手元の資料に視線を戻した。
セナ「予算はどうするんですか?」
セナ「…ここに20億って。」
すると、ルナは待ってましたとばかりに預金通帳を開いた。
そのままセナの前へ差し出す。
セナは通帳に並ぶ数字を見つめると、絶句した。
……なんで持ってるんだよ。
セナはゆっくりとルナへ視線を移した。
2人の目が合う。
ルナは相変わらず楽しそうにニヤニヤしていた。
……本当にやるんか、この人。
いや、多分この人はやる。
セナはもう一度、手元の企画書に目を落とした。
実際、計画はしっかりと練られている。
予算だってある。
もし実現すれば、シンオウに強いトレーナーが育つかもしれない。
それこそPWCの代表になるような選手だって。
セナはそこまで考えると、ゆっくりと息を吐いた。
……やっぱりやらなくていいや。
もうじき、防衛戦は50連勝を突破する。
その中でまともな挑戦者は1人もいなかった。
誰も僕のレベルまで来られない。
だったら、どれだけ施設を作ったところで無駄だ。
僕の時間は弱い奴に使うほど余っていない。
広告塔だって面倒くさい。
僕は今も強くなっている。
PWCだって僕が全部勝てばいい。
セナは手元の企画書を眺めた。
ルナさんは多分すごい人なんだろう。
……変わってるけど。
でも、僕は関わらない。
そこまで考えを整理するとセナはゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
セナ「お断りします。」
ルナは大袈裟に目を見開いた。
ルナ「えぇ!?なんで!?」
セナ「…僕にメリットが何ひとつないので。」
ルナはがっくりと肩を落とした。
セナ「でも、企画書も練られていて現実的に可能だと思います。」
セナ「僕じゃなくても乗ってくれる人はいるんじゃないですか、シンオウ以外なら。」
ルナ「ウチはお前とやりたいねん!」
セナ「……。」
あまりにも早い返答にセナは目を細めた。
セナ「なんでですか。」
ルナ「一番強いから。」
ルナ「世界で一番強いやつと組みたいわ。」
セナ「……。」
……こいつ、わかってるじゃないか。
セナの口元がわずかに緩んだ。
それでも首を縦に振ることはない。
セナは手元の資料をまとめるとルナへ差し出した。
しかし、ルナは受け取ろうとしなかった。
ルナ「持っといてや。」
セナ「……え。」
ルナ「やりたくなるかもしれんやろ!」
セナ「……。」
ルナは楽しそうに笑うと、連絡先を差し出した。
ルナ「ほい、連絡先。」
ルナ「なんかあったら連絡して。」
セナはそのままルナの連絡先を受け取る。
本来なら突き返していた。
資料だって無理やり返せばいい。
ただ、なんとなく受け取ってしまった。
セナは、自分の存在を世界に証明できる人間を愛している。
ルナはまさにそうだった。
「歌」という分野で自分の存在を世界に証明した人間。
セナは、そんな相手を蔑ろにする気にはなれなかった。
ルナと別れたセナはチャンピオンルームへ戻る。
そして、デスクの上に預かった資料を適当に放り投げる。
そのままゆっくりと腕を伸ばすと、軽く体をほぐした。
そろそろトレーニングの時間だった。
♢♢♢
2019年、3月。
ルシアとツキアシはミアレシティを出発し、カロス地方のジムを巡っていた。
ルシア「……。」
ルシアは隣を歩くツキアシへ視線を向けた。
ツキアシはニコニコしながら、ルシアを眺めている。
……なんか思っていたのと違う。
カロスに来てからジムバッジは3つ集まった。
それなのに、ジム戦の間もツキアシさんは後ろでニコニコしているだけ。
普段はよく話す。
むしろ話しやすいし、一緒にいて楽しい。
それなのにバトルのことは何も教えてくれなかった。
それでも、ルシアたちは勝ち続けていた。
ハクダンシティ、エイセツシティ、ヒャッコクシティ。
3つのジムを突破した。
ルシアもポケモンたちも確実に強くなっていた。
ペロッパフは、相変わらずルシアの頭の上にいる。
それはもう、当たり前のように。
ふわふわした小さな体を落ち着かせると、すっかり自分の居場所にしてしまっている。
どこかへ行く様子もない。
頭の上にはペロッパフ。
腕の中には、大切に抱えたポケモンのタマゴ。
そして、隣にはツキアシ。
ルシアとツキアシは、そんなふうに一緒に歩きながら、カロス地方を楽しく旅していた。
そんな旅を続けていた、ある日のことだった。
ルシアが腕に抱えていたタマゴが、突然淡い光を放ち始めた。
ルシア「あ!タマゴ!」
その声に、隣を歩いていたツキアシも振り返った。
ルシアは慌ててその場にしゃがみ込むと、タマゴを両手で支えながら、そっと地面に置いた。
光は少しずつ強くなっていく。
ルシアは目を離せなかった。
やがてタマゴの輪郭が光の中に溶け、小さなポケモンの姿へと変わっていった。
ルシア「……あ。」
思わず声が漏れた。
そこにいたのはイーブイだった。
小さくて、ふわふわで、少し眠そうな顔をしている。
ルシアはしゃがみ込んだまま、目の前のイーブイを見つめた。
イーブイもゆっくりと顔を上げる。
2人の視線がぶつかった。
ルシアの頬が自然と緩んだ。
ポケモンが生まれる瞬間に立ち会うのは、初めてだった。
嬉しい。
すごい。
それだけじゃない。
いろんな気持ちが一度に溢れてくる。
何を言えばいいのかもわからなかった。
ルシアはただ、目の前に生まれたばかりのイーブイを見つめ、笑みをこぼしていた。
ツキアシも、少し離れたところからイーブイを見つめていた。
……ユイも持ってたなぁ。
ふとユイの肩に乗っていたイーブイを思い出す。
懐かしい記憶に、ツキアシの口元にもほんの少し笑みが浮かんだ。
イーブイが小さな足で地面を蹴った。
そのままルシアの腕の中へ飛び込むと、嬉しそうに鳴く。
ルシアは両腕でイーブイを抱きかかえると、ゆっくりと頭を撫でた。
ふわふわの毛が指先に触れる。
……気持ちいい。
この子にとっては初めて見る世界。
そして自分が初めてのパートナーだった。
ルシアはイーブイを抱いたままゆっくりと立ち上がった。
イーブイも目を丸くしてルシアを見上げる。
ペロッパフもびっくりしてルシアの頭を掴むとイーブイを見下ろす。
ルシア「よろしくね、イーブイ。」
イーブイ「ぶい!」
さっきよりも大きな声が響いた。
ルシアは腕の中のイーブイを見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
♢♢♢
ルシアたちは次の目的地へ向かって歩き始める。
ルシアは腕の中のイーブイを見つめ、ふっと目を細めた。
頭の上にはペロッパフ。
腕の中には生まれたばかりのイーブイ。
……なんか一気に雰囲気変わったなぁ。
少し前までは、ゴウカザル、ムクホーク、そしてライチュウ。
火力!パワー!スピード!
そんな感じだった。
みんな強くなるにつれて、見た目や雰囲気にも迫力が出てきた気がする。
最近はなんだかふわふわしている。
頭の上も、腕の中も。
……癒されるなぁ。
ルシアは頬を緩めた。
隣にはツキアシがいる。
彼女の肩にはエモンガが乗っている。
ルシアとツキアシ。
そして、ペロッパフ、イーブイ、エモンガ。
みんなで並んで歩いていく。
ほとんど保育園だった。
@sinnoh_league_news
シンオウチャンピオンセナ、防衛戦50連勝達成
@chino_sena
セナ君おめでとう!
@league_fan_19
もうそんな感じじゃないんだよな
@pika_watch
セナちょっと怖いよ……
@sinnoh_viewer
50連勝なんだ
もう試合見てないわ
@battle_fan_08
今日も圧倒的だったぞ
見ろよ
@trainer_days
いやいいわ
どうせいつも通りだろ
@lucario_fan
ルカリオ以外のポケモン出た?
@league_report
出てない
@cinccino_love
チラチーノって戦うことあるのかな?
@sinnoh_battle
わかんない
てかルカリオ以外出てないし
@mega_fan_25
前回の挑戦者はメガシンカ使いだったぞ
@trainer_2019
そうなの?
誰?
@absol_watch
メガアブソル使ってた
攻撃は当たんなかったけど
@lol_pokemon
草
@lucia_waiting
ルシアまだ?
@sinnoh_fan
まだだろ
こんばんは、セナです!
いつも読んでいただいてありがとうございます!
現在も執筆を続けておりますが、おそらくセナVSルシアはちょうど100話あたりになると考えています。現在は50話までプロット完成しています。
セナVSルシアで完結ではないですが、結末まで追いかけていただけると嬉しいです!
作者X垢も置いておきます、(@Poke0913)よければフォローしてもらえると嬉しいです!
感想もお待ちしています!