ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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4話

セナはグライオンに乗り込むと、次のジムへ向かった。

 

ヨスガジム、トバリジム、ノモセジム。

 

その後も勢いは止まらない。

 

3つのジムを立て続けに突破した。

 

あまりにも速かった。

 

普通のポケモントレーナーは旅をする。

 

訪れた街で新しいポケモンと出会い、捕まえ、ほかのトレーナーたちと戦う。

 

そうして経験を積みながら、少しずつ強くなっていく。

 

セナは違う。

 

11年間、孤独に勝利と向き合い続けた時間は、そんなものより重かった。

 

訪れた街で人と関わることもなければ、道中を楽しむこともない。

 

ジムリーダーを倒してバッジを受け取れば、すぐにグライオンに乗って次の街へ向かう。

 

寄り道など、ほとんどしなかった。

 

ジムを突破する速度は圧倒的だった。

 

旅を始めて、約3週間。

 

シンオウ地方、ナギサシティ。

 

ナギサジムの前に立ったセナは、迷わず扉に手をかけた。

 

@sinnoh_gym_news

セナ、ジムバッジ7個獲得

旅を始めて約3週間

 

@poke_fan_27

え、マジで?

 

@battle_watch_08

全部見たけどスズナ戦以外はほぼ苦戦なしだった

 

@lucario_fan

ルカリオのみでジムリーダー7人抜きってすごすぎる

 

@snow_poke_14

うそ……

 

@kissaki_live

スズナ、あの試合は勝ちそうだったよね

 

@glaceon_love

スズナのグレイシアがルカリオの足を凍らせて追い詰めたけど、結局倒せなかった

 

@sinnoh_trainer

次はデンジか

 

@gym_battle_fan

デンジ戦楽しみ

 

♢♢♢

 

ナギサジムでのバトルは、佳境に差しかかっていた。

 

シンオウ地方最強のジムリーダー、デンジ。

 

そのデンジのポケモンが、立て続けに2体倒されていた。

 

デンジ「……嘘だろ。」

 

デンジは戦闘不能となったライチュウを見つめたまま、動かなかった。

 

しばらく、目の前の現実を受け入れられない。

 

視線の先にはセナとルカリオが立っている。

 

2人は当然のようにデンジを見つめていた。

 

セナ「次。」

 

デンジが顔を上げると、セナと視線がぶつかった。

 

デンジは最後のモンスターボールを取り出した。

 

ルカリオは肩で息をしている。

 

こいつは怪物だ。

 

だが勝てない相手じゃない。

 

ここまでルカリオを倒せたジムリーダーは一人もいないらしい。

 

なら、俺が倒す。

 

デンジはボールを強く握り締めた。

 

デンジ「こいつが!オレの!最後の切り札ッ!」

 

デンジ「頼んだ!エレキブル!」

 

投げられたボールが開き、光の中からエレキブルが姿を現した。

 

エレキブルは、ルカリオを正面に捉えると、大きく咆哮する。

 

審判「バトル再開!」

 

審判の声が響いた。

 

セナ「グロウパンチ。」

 

デンジ「かみなりパンチ!」

 

ルカリオとエレキブルが同時に地面を蹴った。

 

互いに距離を詰め、正面から拳を振り抜く。

 

2体の拳が激突した。

 

ルカリオが歯を食いしばり、さらに腕へ力を込める。

 

押し合っていた拳が少しずつ前へ進み、エレキブルの腕を押し返した。

 

グロウパンチの副次効果。

 

ルカリオの攻撃力が上昇する。

 

デンジ「エレキブル! ほのおのパンチ!」

 

エレキブルが再び拳を握り締めた。

 

その拳に炎が灯る。

 

エレキブルは地面を強く蹴る。

 

燃え盛る拳を構えたまま、一気にルカリオとの距離を詰めた。

 

セナ「はどうだん!」

 

セナの声が大きくなった。

 

ルカリオが拳を突き出した。

 

至近距離で蒼い波動が炸裂する。

 

衝撃をまともに受けたエレキブルの巨体が揺れた。

 

それでもエレキブルは止まらなかった。

 

歯を食いしばり、強引に一歩前へ踏み込む。

 

炎をまとった拳が振り抜かれた。

 

ほのおのパンチがルカリオを捉える。

 

ルカリオの体は大きく弾き飛ばされた。

 

セナ「……ッ!」

 

ルカリオは地面に叩きつけられる。

 

そのまま何度も地面を跳ねながら転がった。

 

はどうだんは確かに通った。

 

それなのに、エレキブルは無理やりほのおのパンチを叩き込んできた。

 

当然ではある。

 

ルカリオにはレントラーとライチュウとの2戦で受けたダメージが残っている。

 

一方、エレキブルはまだ大きなダメージを負っていない。

 

セナは歯を食いしばった。

 

それは負ける理由にはならない。

 

ルカリオで勝てないならこの先も勝てない。

 

ここでルカリオを通せないなら、僕は世界一にはなれない。

 

デンジはルカリオから視線を外さない。

 

セナのバトル映像は見ていた。

 

あれだけ話題になっていれば、当然だ。

 

倒れる瞬間まで、油断するな。

 

ここで倒す。

 

デンジ「エレキブル!ほのおのパンチ!」

 

エレキブルが拳を握り締めた。

 

デンジ「行け!」

 

デンジの声と同時に、エレキブルが地面を蹴った。

 

炎をまとった拳を構え、ルカリオへ向かって突進する。

 

セナはその間も、ルカリオを見つめていた。

 

絶体絶命。

 

2回目の死を覚悟してもおかしくないほど、追い詰められていた。

 

それなのに、なぜだろう。

 

負ける気がしなかった。

 

恐怖もなかった。

 

すべて捨てたからだろうか。

 

分からない。

 

その時だった。

 

セナの脳裏に、声が届いた。

 

「右。」

 

セナは導かれるように口を開いた。

 

セナ「……右、ルカリオ。」

 

ルカリオも同じだった。

 

吸い込まれるように体を右へずらす。

 

次の瞬間、エレキブルの燃え盛る拳が、ルカリオのすぐ横を通り過ぎた。

 

攻撃は空を切った。

 

セナはゆっくりと目を見開いた。

 

エレキブルの動きが、妙にゆっくりと見えた。

 

いや、違う。

 

時間そのものが、ゆっくりと流れているような感覚だった。

 

見える。

 

エレキブルの死角も。

 

デンジの表情も。

 

戦場に転がるあらゆる情報が、手に取るように分かる。

 

セナはルカリオへ視線を向けた。

 

ルカリオもセナを見つめ返していた。

 

その瞬間、ルカリオの声がはっきりと聞こえた。

 

右。

 

さっきそう言ったのはルカリオだった。

 

間違いない。

 

ルカリオは僕の意思が分かる。

 

そして今、この瞬間。

 

僕にもルカリオの意思が分かる。

 

これまで一方通行だった僕の意思が、今つながった。

 

セナ「ルカリオ。」

 

ルカリオが地面を蹴った。

 

セナ「左。」

 

ルカリオが左へ踏み込む。

 

セナ「前、二歩。」

 

ルカリオは前へ2歩進む。

 

セナ「はどうだん。」

 

ルカリオの腕に蒼い波動が集まり始めた。

 

デンジ「エレキブル!」

 

デンジの声が響いた。

 

もう遅かった。

 

ルカリオはすでにエレキブルの背後を取っている。

 

完全な死角。

 

そこから放たれた波動の塊がエレキブルの背中で炸裂した。

 

ルカリオが拳に力を込めた。

 

いつもよりずっと強く。

 

今の僕には、ルカリオの気持ちが手に取るように分かった。

 

勝ちたい。

 

負けたくない。

 

負けたら死んでやる。

 

僕と同じ覚悟でルカリオも戦っていた。

 

僕たちが見ていた未来は同じだった。

 

やがて、エレキブルの巨体がゆっくりと地面に倒れ込む。

 

審判の声がバトルコートに響いた。

 

僕は小さく笑った。

 

勝ったのは嬉しい。

 

なんだかパワーアップした、それも嬉しい。

 

でも、一番嬉しいのはそこじゃなかった。

 

僕はたくさん無理をしてきた。

 

ルカリオにもたくさん無理をさせてきた。

 

それでもルカリオは嫌じゃなかった。

 

それが一番嬉しかった。

 

審判「エレキブル戦闘不能、ルカリオの勝ち!」

 

審判「よって勝者、挑戦者セナ!」

 

審判の声がナギサジムに響き渡った。

 

デンジはその場に立ち尽くしていた。

 

俺、勝ってただろ。

 

油断もしていない。

 

おかしくなったのはあの最後の一撃からだ。

 

ほのおのパンチを避けられた。

 

そのまま死角に回り込まれ、はどうだんを撃ち込まれた。

 

しかも、完全に背後を取られていた。

 

デンジはセナへ視線を向けた。

 

最後の攻防を思い返しても、あの動きだけは理解できない。

 

こいつの中で、明らかに何かが変わった。

 

デンジ「おめでとう。」

 

デンジは引きつった笑みを浮かべながら、セナにビーコンバッジを手渡した。

 

セナはバッジを受け取ると、丁寧に頭を下げた。

 

デンジは一瞬、口を閉ざした。

 

それでも、聞かずにはいられなかった。

 

デンジ「……最後、何した?」

 

セナは少し考え込むと、ゆっくりと口を開いた。

 

セナ「声が聞こえたんです。ルカリオの。」

 

デンジは固まったまま、セナを見つめた。

 

2人の視線がぶつかる。

 

セナ「……いえ、なんでもありません。」

 

セナは小さく息を吐くと、踵を返す。

 

ジムの入り口でもう一度深く頭を下げ、そのまま外へ出ていった。

 

デンジ「……ルカリオの声?」

 

デンジはセナの言葉を何度も反芻した。

 

信じられなかった。

 

ポケモンの声が聞こえたという話をそのまま受け入れることなどできなかった。

 

それでもセナが嘘をついているとは思えない。

 

むしろ、そうでもなければ最後のあの動きは説明がつかなかった。

 

デンジはセナが出ていった扉を見つめていた。

 

♢♢♢

 

ナギサジムの外。

 

セナが手にしていたバッジケースを、頭の上のチラーミィが覗き込む。

 

セナはケースを開くと、そのままチラーミィに手渡した。

 

チラーミィは嬉しそうに受け取り、尻尾を使ってバッジを磨き始める。

 

その様子を見ながら、セナはゆっくりと歩き出した。

 

ルカリオの声が聞こえた。

 

あれは間違いない。

 

僕とルカリオの力だ。

 

勝利以外を切り捨てた。

 

勝つためにすべてを捨てた。

 

勝利の女神に魂を売り払った。

 

だからここまで辿り着けた。

 

もし、勝利の女神がいるのなら。

 

これは、僕たちに神様が与えてくれた力だ。

 

勝利の女神が、僕たちに世界一になれと言っている。

 

この力を使いこなす。

 

死ぬまで使って、死ぬまで全部勝つ。

 

チラーミィが満足そうにバッジケースを差し出してきた。

 

セナはケースを受け取り、閉じた。

 

セナ「……よし。行こうか。」

 

セナはグライオンに掴まった。

 

目指すのは、チャンピオンロード。

 

もう立ち止まる理由なんてなかった。

 

@sinnoh_gym_news

セナ、ナギサジムのデンジを突破

ジムバッジ8個獲得、次はポケモンリーグへ

 

@poke_watch_21

速すぎない?

旅始めてまだ3週間くらいだよね?

 

@battle_fan_08

てかデンジ戦見た?

 

@electric_poke

最後、ルカリオがおかしな動きしてたよな

 

@sunnyshore_live

エレキブルのほのおのパンチ避けて、死角からはどうだん決めてた

 

@trainer_note_17

なんか不思議な力が働いたように見えた

 

@lucario_fan

わかる

あの最後の動き、明らかにおかしかった

 

@sinnoh_battle

これ、四天王も突破しそうじゃない?

 

@poke_fan_27

わかる。普通にありそう

 

@champion_watch

シロナVSセナ、早く見たい

 

♢♢♢

 

シンオウ地方、ポケモンリーグ。

 

チャンピオンルーム。

 

室内では、2人の大人がモニターに映し出された試合映像を眺めていた。

 

現シンオウチャンピオン、シロナ。

 

そして、元チャンピオンであり、現在はチャンピオン補佐を務めるクロツグ。

 

2人が注目していたのは1人の青年。

 

先日行われたナギサジムでの一戦。

 

セナVSデンジ。

 

シロナは最後の攻防を何度も見直していた。

 

エレキブルのほのおのパンチ。

 

ルカリオがその攻撃を回避した直後から、明らかに動きが変わっていた。

 

シロナは黙ったまま映像を巻き戻す。

 

もう一度再生する。

 

おかしい。

 

明らかに動きが変だった。

 

まるで互いの意思が直接伝わっているかのような。

 

まるで未来が読めているかのような。

 

そんな動きだった。

 

シロナ自身もルカリオを育てているからわかる。

 

普通はこうはならない。

 

シロナは再び映像を巻き戻した。

 

不気味だった。

 

クロツグ「……やっぱりおかしいよな。ここ。」

 

シロナ「えぇ。明らかに変ね。」

 

シロナは再び映像を巻き戻した。

 

何度見返しても、違和感は消えない。

 

ただ、映像から得られる情報には限界があった。

 

クロツグ「……こいつ、強いな。」

 

隣でクロツグが楽しそうに笑った。

 

彼が見ていたのは、セナの表情だった。

 

その瞳には何も映っていないように見える。

 

決着がつくまで笑わない。

 

楽しそうな素振りも見せない。

 

ただ、圧倒的に強い。

 

クロツグは改めてモニターへ視線を向けた。

 

20歳。

 

旅を始めて、まだひと月も経っていない。

 

小柄な体に子供のような顔つき。

 

頭の上にはチラーミィが乗っている。

 

それなのに、どうしようもなく強かった。

 

シロナ「……来るわね。ここまで。」

 

シロナも頷いた。

 

この実力なら間違いなくポケモンリーグまで勝ち上がってくる。

 

彼が何を背負っているのか。

 

何を考えているのか。

 

その答えはフィールドで分かる。

 

シロナは小さく笑った。

 

彼とスタジアムで向かい合うことが楽しみになった。

 

♢♢♢

 

セナはチャンピオンロードを抜けた。

 

目の前にはポケモンリーグがそびえ立っている。

 

チャンピオンロードでは、野生のポケモンとも、歴戦のトレーナーたちとも戦ってきた。

 

その中で、いくつか分かったことがある。

 

ナギサジムで起きたあの現象。

 

僕はルカリオと思考を共有できるようになった。

 

ルカリオの考えが分かる。

 

僕の考えも、ルカリオに伝わる。

 

おそらく、ルカリオが持つ波動の性質によるものだと思う。

 

グライオンやチラーミィとはできないから。

 

そして、もう一つ。

 

長くつながっていると限界が来る。

 

基本は1分。

 

2分を超えたあたりから、頭痛、吐き気、眩暈。

 

結構きつい。

 

昨日は10分間つなげてみた。

 

頭が割れるように痛かった。

 

吐き気も止まらなかった。

 

それでも死ななかった。

 

ということは少なくとも10分は使える。

 

もっと長く使えるかもしれない。

 

僕とルカリオは、この現象を「リンク」と呼ぶことにした。

 

ルカリオとつながるからリンク。

 

勝つために必要ならこの力も使う。

 

どれだけ苦しくても死なないなら構わない。

 

僕は勝つ。

 

この力を使ってシンオウチャンピオンになる。

 

セナはポケモンリーグの扉に手をかけた。

 

そして迷わず開いた。

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