セナは迷わずポケモンリーグの扉を開いた。
その先に広がっていたのは、四天王とのバトルコート。
四天王、1人目。
むしタイプの使い手、リョウ。
セナが中へ足を踏み入れると、正面に立つリョウが明るい声を上げた。
リョウ「ハーイ!ようこそ!ポケモンリーグへ!」
リョウ「僕は四天王のリョウです!ヨロシク!」
セナは前を向いたままリョウが話し終わるのを待っていた。
頭の上のチラーミィもじっと目を細めている。
2人とも、リョウの話を聞いていなかった。
やがてリョウがモンスターボールを握ると、セナもボールを構えた。
リョウ「行くよ!ガーメイル!」
セナ「ルカリオ。」
2つのボールが開き、光が弾けた。
現れたのはガーメイルとルカリオ。
2体はバトルコートを挟み、正面から向かい合った。
審判「バトルスタート!」
セナに迷いはない。
相手は四天王。
リンクを出し渋って勝てるような相手ではない。
セナ「……リンク。」
小さく呟いた瞬間、セナの視界が広がった。
ルカリオの声が届く。
セナは正面のガーメイルを見据えた。
イメージするのは、最高の自分。
被弾ゼロ、6タテ。
ルカリオも小さく頷いた。
見ている先はずっと同じだった。
これまでもこれからも、ずっと同じ。
セナの四天王への挑戦が始まった。
しかし、その試合内容は圧倒的だった。
セナ「……しんそく。」
ルカリオが一気に加速した。
リョウのドラピオンが反応するよりも早く、その体へ強烈な一撃が突き刺さる。
ドラピオンは苦しそうに呻き声を上げながら吹き飛ばされる。
そして、地面を3度跳ねた末に壁へ激突した。
リョウ「……。」
リョウはすぐに声を出せなかった。
シンオウの四天王を務めて、もう長い。
それなのに一度も攻撃を当てられなかった。
審判「……ドラピオン戦闘不能。」
審判「よって勝者、挑戦者セナ。」
セナはルカリオをボールへ戻すと、そのまま歩き出した。
額からは汗が流れ、足取りもどこかおぼつかない。
少なくとも、リョウにはそう見えた。
リョウ「き、君!」
呼び止められたセナが振り返った。
リョウ「どうしたの? 大丈夫?」
セナ「はい。」
セナはそれだけ答えると、リョウの部屋を後にした。
リョウも、それ以上は追わなかった。
自分は負けた。
一撃も入れられずに負けた。
その事実が頭から離れなかった。
セナの心配をする余裕はリョウにはなかった。
♢♢♢
2人目の四天王、キクノ。
3人目の四天王、オーバ。
そして4人目、ゴヨウ。
セナとルカリオは一度も倒れることなく、4人の四天王を同日に撃破した。
もちろんリンクは繋ぎっぱなし。
使わない理由がなかった。
リンクを使うようになってから、セナのバトルは周囲の目にも別人のように映っていた。
まるで未来を見ているかのような回避。
ルカリオの異常な判断速度とセナの的確な指示。
そして何より不気味だったのはルカリオの実行能力だった。
砕けた岩を拾い、相手に投げつける。
マンムーの牙を掴み、その巨体を宙へ投げ上げる。
そうした発想は、以前からセナの戦い方に見られていた。
だが、リンクによってその発想を実行に移す速度も、正確さも大きく変わった。
セナが考えたことを、ルカリオが迷わず実行する。
観客たちには、まるで人間がルカリオの肉体を直接操って戦っているように見えている。
ポケモン同士の戦いでありながら、その動きには明確に人間の悪意が感じられる。
そんな戦い方へと変わっていた。
ゴヨウのエルレイドが崩れ落ちたのを確認するとセナは小さく拳を握った。
時計に目を落とす。
リョウ戦、8分。
キクノ戦、12分。
オーバ戦、7分。
ゴヨウ戦、13分。
合計約40分のリンク接続。
さすがに苦しい。
でも僕の勝ちだ。
明日はシロナ戦。
明日勝てば、僕はようやくシンオウチャンピオンとして生まれ落ちる。
ただ、明日がゴールじゃない。
明日、僕たちは生まれられるか。
その戦いだ。
僕は四天王の部屋を後にしようとゆっくり足を踏み出した。
一歩ずつ、慎重に進んでいく。
ゴヨウ「……君。」
背後からゴヨウさんに呼び止められた。
なに?
面倒だな。
そう思いながら振り返る。
セナ「……なんですか?」
ゴヨウさんと目が合った。
ゴヨウ「……大丈夫ですか。」
僕は小さく息を吐いた。
またそれか。
うるさいな。
セナ「はい。」
セナ「逆に大丈夫ですか。」
ゴヨウ「……え?」
セナ「同日に四天王突破されてますけど。」
あ。
……つい言ってしまった。
よくない。
疲れているとイライラしてしまう。
今日は帰ろう。
僕はゴヨウさんの部屋を後にした。
四天王の部屋を出たところで、頭の上のチラーミィが尻尾を振り、僕の頭をぺちっと叩いた。
セナ「……ごめんて。」
チラーミィは小さく鼻を鳴らすと、僕の頭の上で腕を組んだ。
…。
何はともあれ僕の勝ちだ。
明日、シロナを倒す。
♢♢♢
シンオウ地方中がセナの躍進を目の当たりにしていた。
ルカリオの圧倒的なスピードとパワー。
技のキレ。
そして、セナ自身の発想力と的確な指示。
勝利しても笑うことなく、淡々と次のバトルへ向かう姿。
その瞳には、勝利以外の何も映っていないようだった。
すべてが異質だった。
シンオウチャンピオン、シロナ。
22歳でシンオウ地方の頂点に立ち、それから10年間、王座を守り続けてきた。
圧倒的な実力を誇るシンオウの女王。
誰もが知る、シンオウの顔だった。
そんなシロナについて、これまでにない声が上がり始めていた。
シロナが負けるかもしれない。
明日、セナはそのシロナと頂点をかけて戦う。
それなのに、挑戦者であるセナの手持ちは、ルカリオ以外知られていなかった。
これまでのジム戦も、四天王戦も、すべてルカリオ1体で突破している。
誰一人として、ルカリオを倒せない。
明らかに異常だった。
シンオウ地方、ポケモンリーグスタジアム。
観客動員数は約5万人。
2018年5月1日。
シンオウチャンピオン防衛戦。
セナVSシロナ。
明日、シンオウの頂点を決める戦いが始まろうとしていた。
♢♢♢
シンオウ地方、ポケモンリーグスタジアム。
約5万人の観客で埋め尽くされたスタジアムに、実況の声が響き渡った。
実況「シンオウチャンピオン防衛戦!シンオウチャンピオン、無敗の女王シロナ選手!」
実況「挑戦者はセナ選手!旅を始めて約1ヶ月!各地のジムバトル、四天王戦をルカリオのみで突破した怪物と呼ばれています!」
観客席から爆発するような歓声が沸き起こった。
巨大なスタジアムの中央。
バトルフィールドを挟んでセナとシロナが向かい合っていた。
セナの頭の上には、いつもどおりチラーミィが乗っている。
シロナはセナを見つめ、ゆっくりと微笑んだ。
シロナ「ようこそ。ポケモンリーグへ。」
シロナ「私はシロナ」
セナ「知ってます。始めましょう。」
シロナの言葉をセナが遮った。
シロナ「……えぇ。」
シロナは手元のモンスターボールを握り直した。
セナもボールを取り出す。
言いたいことは、バトルで語ればいい。
審判「使用ポケモンは6体!それでは両者、ポケモンを!」
シロナ「震えよ!魂!ミカルゲ!」
セナ「ルカリオ。」
2人が同時にモンスターボールを投げた。
宙を舞うボールが開き、光が弾ける。
シロナの前にはミカルゲ。
そして、その正面にルカリオが姿を現した。
2体がフィールドの大地を踏み締め、向かい合う。
♢♢♢
セナは静かに正面を見つめていた。
昨日のリンクによる疲労はまだ抜けていない。
それでもルカリオは戦う。
僕も戦う。
シロナさんのバトル映像は死ぬほど見てきた。
技構成も変えた。
勝つために、できることはすべてやってきた。
今日も勝つ。
審判「それでは、バトルスタート!」
審判の声が響いた。
その瞬間、セナは勝利へ手を伸ばした。
どんな相手であろうと必要なら使う。
勝つためなら迷わない。
セナ「……リンク。」
ルカリオと思考がつながった。
同時に頭の奥を突き刺すような激痛が走る。
割れるような頭痛だった。
昨日の痛みがまだ引いていない。
セナはゆっくりと呼吸を整えた。
関係ない。
勝つだけだ。