ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

6 / 7
6話

セナ「ルカリオ。シャドーボール。」

 

ルカリオが地面を蹴る。

 

一瞬でミカルゲとの距離を詰めた。

 

シロナ「ミカルゲ!あくのはどう!」

 

実況「ルカリオが一気に距離を詰める!ミカルゲも迎え撃ちます!」

 

シャドーボール。

 

本来は影の塊を放ち、相手にぶつける技。

 

しかし、セナとルカリオにとってはその限りではない。

 

既存の技でさえ、自分たちにとって最適な形へと変えていく。

 

ミカルゲの前で、ルカリオが高く跳び上がった。

 

シロナが息を呑む。

 

ルカリオの右手には、巨大なシャドーボールが形成されていた。

 

ミカルゲの放った暗黒の波動が、ルカリオの下を通り過ぎる。

 

ルカリオが右腕を振り下ろす。

 

拳とともに巨大な影の塊がミカルゲへ直接叩きつけられた。

 

実況「シャドーボールを直接叩きつけた!ルカリオ、凄まじい一撃です!」

 

強烈な衝撃を受けたミカルゲが、大きく吹き飛ばされた。

 

ルカリオはそのままフィールドへ着地する。

 

セナも小さく息を吐く。

 

頭の上のチラーミィは、吹き飛ばされたミカルゲをじっと見つめている。

 

通用する。

 

…僕たちは勝てる。

 

シロナ「ミカルゲ!」

 

吹き飛ばされたミカルゲが、地面から体を起こそうとする。

 

その瞬間だった。

 

すでにルカリオが、ミカルゲの目の前に立っていた。

 

右腕には再び巨大な影の塊が形成されている。

 

そのまま拳が振り下ろされ、シャドーボールがミカルゲへ叩きつけられた。

 

シロナ「……え。」

 

シロナは固まった。

 

動けなかった。

 

指示がない。

 

ルカリオが勝手に動いた。

 

少なくともシロナにはそう見えた。

 

ミカルゲは力なく地面へ落ち、そのまま動かなくなった。

 

審判「……ミカルゲ、戦闘不能。」

 

審判の静かな声がスタジアムに響いた。

 

観客たちも言葉を失っていた。

 

目の前で起きたことを理解できないまま、フィールドに立つセナとルカリオを見つめ続けている。

 

シロナのミカルゲが、あっけなく倒された。

 

セナが強いことは知っていた。

 

ルカリオが異常なほどの実力を持っていることも、分かっていたつもりだった。

 

だが、実際に目の前で見せつけられると、話は違った。

 

シロナが負ける。

 

10年間、シンオウの頂点に立ち続けてきた女王。

 

その敗北が初めて現実のものとして感じられた瞬間。

 

シロナはミカルゲをボールへ戻すと、ゆっくりと顔を上げた。

 

何をしたの?この子。

 

今の動きは何?

 

どうしてルカリオは動けたの?

 

何も分からなかった。

 

ミカルゲの調子が悪かったわけではない。

 

動きにも、技の威力にも違和感はなかった。

 

シロナの脳裏にチャンピオンルームで見た映像が浮かんだ。

 

セナとデンジのジム戦。

 

あの時はエレキブルのほのおのパンチを避けた瞬間から、ルカリオの動きが変わっていた。

 

でも、今は違う。

 

あの時に感じた異様な雰囲気を、セナとルカリオは試合開始直後から纏っている。

 

気味が悪かった。

 

セナに何が起きているのか、シロナには何も分からなかった。

 

シロナは次のモンスターボールを握る。

 

バトルは止まってくれない。

 

シロナ「優雅なる水の精!ミロカロス!」

 

投げられたボールが開き、光が弾けた。

 

その中からミロカロスが姿を現し、シロナの前へ降り立つ。

 

実況「シロナ選手、2体目はミロカロス!ミカルゲを失った女王、ここから巻き返せるか!」

 

シロナは拳を握り締めた。

 

ミロカロス。

 

私のポケモンの中でも、一番耐久力がある。

 

セナくんのことは、何も分からない。

 

だからここで知る。

 

そして、この子を止める。

 

一方、セナとルカリオはまっすぐ前を見つめていた。

 

その視線の先にあるのは勝利だけ。

 

それ以外は何もない。

 

シロナも、ミロカロスも、セナの目には映っていなかった。

 

@sinnoh_battle

ミカルゲ瞬殺されたんだけど……

 

@poke_watch_21

嘘でしょ……

 

@champion_fan

シロナさん負けちゃう?

 

@ghost_poke_08

ミカルゲがあんな倒れ方すると思ってなかった

 

@lucario_love

怖いけどかっこいいんだよな、あのルカリオ

 

@trainer_note_17

セナってルカリオ以外出さないのかな?

 

@chiramii_fan

あのチラーミィ、ずっと前向いてるの可愛い

 

@sinnoh_live

次はミロカロスVSルカリオ

 

♢♢♢

 

審判「バトル再開!」

 

シロナ「ミロカロス!ハイドロポンプ!」

 

ミロカロスが口元に水流を集め、一気に撃ち出した。

 

実況「ミロカロス、ハイドロポンプ!凄まじい水流がルカリオへ迫ります!」

 

セナ「……。」

 

セナは何も言わなかった。

 

それでもルカリオは姿勢を低くすると、地面を蹴って前方へ滑り込んだ。

 

猛烈な水流が頭上を通り過ぎていく。

 

実況も観客も、その異変にはっきりと気づいた。

 

指示がない。

 

ルカリオがセナの声を聞かずに動いている。

 

セナはまるで気に留めない。

 

セナ「はどうだんを投げ上げろ。」

 

ルカリオが腕に蒼い波動を集め、上空へ向かって放り投げた。

 

シロナも視線を外さない。

 

空中に浮かぶ波動の位置とルカリオの位置、両方を目で追い続ける。

 

セナ「しんそく。」

 

ルカリオが再び地面を蹴った。

 

一瞬でミロカロスの背後へ回り込むと、後頭部へ鋭い蹴りを叩き込む。

 

ミロカロスが歯を食いしばり、衝撃に耐えた。

 

シロナ「ルカリオを止めて!ハイドロポンプ!」

 

狙うのは、蹴りを放った直後に距離を取るルカリオ。

 

ミロカロスが向き直り、口元へ水流を集めた。

 

その瞬間だった。

 

上空から蒼い波動の塊が落下する。

 

実況「上からはどうだん!先ほど投げ上げた一撃がここで降ってきた!」

 

ミロカロスが顔を上げる間もない。

 

波動がその頭を直撃した。

 

シロナ「ミロカロス!」

 

ミロカロスが前を向いた。

 

何度も攻撃を受けながら、その瞳に宿る闘志は少しも揺らいでいない。

 

セナもルカリオも、静かにミロカロスを見つめている。

 

実況「ミロカロス、凄まじい攻撃を受けながらも、まだ倒れません!」

 

セナは実況の声を聞きながら、呼吸を整えた。

 

簡単には倒させてくれない。

 

分かっていた。

 

でも、僕たちには時間がない。

 

これ以上、時間はかけられない。

 

シロナ「ミロカロス!じこさいせい!」

 

実況「ここでじこさいせい!ミロカロスが体力を回復していきます!」

 

ミロカロスの体が淡い光に包まれた。

 

傷ついた体が、少しずつ癒えていく。

 

セナの顔色が変わる。

 

セナ「ルカリオ!」

 

セナの声が大きくなった。

 

この試合が始まってから初めてだった。

 

その声と同時にルカリオも走り出す。

 

ここで回復を許せば、間に合わない。

 

これ以上、時間は使えない。

 

セナ「はどうだん!」

 

ルカリオの腕に蒼い波動が集まる。

 

ミロカロスとの距離を詰めながら、一直線に波動の塊を撃ち出した。

 

シロナ「ミラーコート!」

 

シロナも戦術を切り替えた。

 

ここではどうだんを撃ち返す。

 

そしてルカリオを倒す。

 

ミロカロスの前に、光の鏡が浮かび上がろうとしていた。

 

実況「ミラーコート!シロナ選手、ここで反撃を狙います!」

 

ミラーコート。

 

受けた特殊技を2倍の威力で跳ね返す技。

 

セナ「しんそく!ミラーコートを破壊!」

 

ルカリオがさらに一歩、前へ踏み出した。

 

次の瞬間、一気に加速する。

 

自ら放った波動を追い越し、ミロカロスの目前へ迫った。

 

シロナ「……ミラーコートを破壊?」

 

一瞬、理解が追いつかなかった。

 

それでも、試合は待ってくれない。

 

形成されつつある光の鏡を前に、ルカリオが足を振り上げた。

 

鋭い蹴りがミラーコートを捉える。

 

光の鏡に亀裂が走る。

 

そして、粉々に砕け散った。

 

シロナ「ミロカロス!」

 

ミロカロスが目を見開いた。

 

砕け散った光の向こうから、蒼い波動が迫ってくる。

 

もう防ぐ壁はない。

 

避けることもできない。

 

実況「ミラーコートが砕けた!はどうだんが直撃!!」

 

次の瞬間、波動の塊がミロカロスを真正面から撃ち抜いた。

 

土煙がゆっくりと晴れていく。

 

スタジアムの中央には、倒れたまま動かないミロカロスの姿があった。

 

その傍らには、自らのはどうだんに巻き込まれたルカリオが静かに立っていた。

 

審判「ミロカロス、戦闘不能!」

 

審判の声が、静まり返ったスタジアムに響き渡った。

 

実況も息を呑み、言葉を失っていた。

 

今の戦い方にこそ、他の誰でもないセナの強さが表れていた。

 

自分すら巻き込む。

 

それでも勝つためなら止まらない。

 

ルカリオは倒れたミロカロスを静かに見下ろしていた。

 

♢♢♢

 

シロナは倒れたミロカロスを呆然と見つめていた。

 

あのルカリオは何?

 

自分のルカリオとはあまりにも違いすぎる。

 

上空へ投げ上げたはどうだん。

 

しんそくでミラーコートを破壊するという発想。

 

あの思考回路も、動きも、すべてが人間のものだった。

 

セナくん自身がルカリオの体を操作している。

 

そうとしか思えなかった。

 

シロナは顔を上げ、フィールドの向こうに立つセナを見つめた。

 

ミカルゲとミロカロス。

 

2体ともほとんど何もできずに倒された。

 

こんなことは今まで一度もなかった。

 

止めないと、このまま終わる。

 

シロナは次のモンスターボールを強く握り締めた。

 

観客席からも無数の視線がシロナへ注がれている。

 

10年間、シンオウの頂点に君臨してきた無敗の女王。

 

そのシロナが少しずつ追い詰められていた。

 

試合は続いていく。

 

シロナもポケモンたちも、何もできなかったわけではない。

 

ロズレイドのリーフストーム。

 

トゲキッスのはどうだん。

 

そしてシロナのルカリオが繰り出すしんそく。

 

攻撃は少しずつセナのルカリオを捉え始めていた。

 

それでも、セナとルカリオ、2人をつなぐ意思にまでは手が届かなかった。

 

試合開始から約20分。

 

シロナのルカリオが、ゆっくりと地面へ倒れ込んだ。

 

審判「ルカリオ、戦闘不能!」

 

その向こうで、セナのルカリオは当然のように前を向いていた。

 

肩で荒く息をしている。

 

体にはいくつもの傷が刻まれていた。

 

それでも倒れない。

 

倒れることなどあり得ない。

 

そう思わせるほど、セナのルカリオは堂々と立ち続けていた。

 

『シロナさんもう負けるじゃん』

 

『ルカリオ倒せないのマジ?』

 

『シロナさん調子悪い?』

 

『いや、セナがおかしい』

 

『てか顔やばくない?大丈夫?』

 

観客席のあちこちからそんな声が漏れていた。

 

シロナもセナへ視線を向けた。

 

そして、言葉を失った。

 

セナの額には冷や汗が浮かび、目の下には濃い隈ができていた。

 

体はふらつき、視線の焦点も定まっていない。

 

それでも、両足はしっかりと大地を踏み締めていた。

 

シロナ「……セナくん?」

 

シロナが口を開いた。

 

その声に、セナの視線がゆっくりとシロナへ向けられた。

 

セナはシロナを見つめた。

 

リンクの限界は近い。

 

これ以上はまずい。

 

本能で分かる。

 

おそらくルカリオも分かっている。

 

それでもリンクを切る理由にはならなかった。

 

だって僕は。

 

だってルカリオは。

 

まだ勝っていない。

 

勝っていない人間が。

 

勝利を掴んでいない人間が。

 

手を緩めるなんておかしい。

 

今日、ここで限界を超えないなら、僕たちに明日はない。

 

未来もない。

 

セナはゆっくりと口を開いた。

 

セナ「……出してこいよ。ガブリアス。」

 

シロナは何も言わず、セナを見つめていた。

 

セナ「楽しみにしてたんだよ。」

 

それだけ言うとセナは口元を歪めた。

 

不気味だった。

 

勝利に取り憑かれた亡霊。

 

少なくとも、人間の顔とは思えなかった。

 

実況も観客もしばらく声を上げることができなかった。

 

♢♢♢

 

シロナは最後のモンスターボールを握り締めると、一度目を閉じた。

 

もう分かっている。

 

おそらく私は今日、この子に負ける。

 

私のポケモンたちは、5体がかりでもルカリオを倒せなかった。

 

残されたガブリアスだけで、相手のポケモンを6体倒す。

 

難しいことくらい、分かっている。

 

でも、それは戦いを放棄していい理由にはならない。

 

セナくんの顔を見れば分かる。

 

何かを背負っている。

 

彼にも、負けたくない理由があることだけは伝わってくる。

 

でも、私がそれ以上の事情を慮ることはできない。

 

それなら、今の私がシンオウチャンピオンとしてできること。

 

最後まで、ポケモンと共に戦い抜くこと。

 

シロナは手の中のモンスターボールへ視線を落とした。

 

私のエース。

 

ずっと一緒に過ごしてきた相棒。

 

シロナの目が潤んだ。

 

もう一度、私と一緒に戦って。

 

ガブリアス。

 

シロナ「天空へ舞え!ガブリアス!」

 

シロナがモンスターボールを放った。

 

宙を舞うボールが開き、美しい光が弾ける。

 

その中から、ガブリアスが姿を現した。

 

シロナのエース。

 

シンオウの象徴。

 

そして、彼女の原点。

 

ガブリアスがスタジアムの大地へ降り立った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。