セナ「ルカリオ。シャドーボール。」
ルカリオが地面を蹴る。
一瞬でミカルゲとの距離を詰めた。
シロナ「ミカルゲ!あくのはどう!」
実況「ルカリオが一気に距離を詰める!ミカルゲも迎え撃ちます!」
シャドーボール。
本来は影の塊を放ち、相手にぶつける技。
しかし、セナとルカリオにとってはその限りではない。
既存の技でさえ、自分たちにとって最適な形へと変えていく。
ミカルゲの前で、ルカリオが高く跳び上がった。
シロナが息を呑む。
ルカリオの右手には、巨大なシャドーボールが形成されていた。
ミカルゲの放った暗黒の波動が、ルカリオの下を通り過ぎる。
ルカリオが右腕を振り下ろす。
拳とともに巨大な影の塊がミカルゲへ直接叩きつけられた。
実況「シャドーボールを直接叩きつけた!ルカリオ、凄まじい一撃です!」
強烈な衝撃を受けたミカルゲが、大きく吹き飛ばされた。
ルカリオはそのままフィールドへ着地する。
セナも小さく息を吐く。
頭の上のチラーミィは、吹き飛ばされたミカルゲをじっと見つめている。
通用する。
…僕たちは勝てる。
シロナ「ミカルゲ!」
吹き飛ばされたミカルゲが、地面から体を起こそうとする。
その瞬間だった。
すでにルカリオが、ミカルゲの目の前に立っていた。
右腕には再び巨大な影の塊が形成されている。
そのまま拳が振り下ろされ、シャドーボールがミカルゲへ叩きつけられた。
シロナ「……え。」
シロナは固まった。
動けなかった。
指示がない。
ルカリオが勝手に動いた。
少なくともシロナにはそう見えた。
ミカルゲは力なく地面へ落ち、そのまま動かなくなった。
審判「……ミカルゲ、戦闘不能。」
審判の静かな声がスタジアムに響いた。
観客たちも言葉を失っていた。
目の前で起きたことを理解できないまま、フィールドに立つセナとルカリオを見つめ続けている。
シロナのミカルゲが、あっけなく倒された。
セナが強いことは知っていた。
ルカリオが異常なほどの実力を持っていることも、分かっていたつもりだった。
だが、実際に目の前で見せつけられると、話は違った。
シロナが負ける。
10年間、シンオウの頂点に立ち続けてきた女王。
その敗北が初めて現実のものとして感じられた瞬間。
シロナはミカルゲをボールへ戻すと、ゆっくりと顔を上げた。
何をしたの?この子。
今の動きは何?
どうしてルカリオは動けたの?
何も分からなかった。
ミカルゲの調子が悪かったわけではない。
動きにも、技の威力にも違和感はなかった。
シロナの脳裏にチャンピオンルームで見た映像が浮かんだ。
セナとデンジのジム戦。
あの時はエレキブルのほのおのパンチを避けた瞬間から、ルカリオの動きが変わっていた。
でも、今は違う。
あの時に感じた異様な雰囲気を、セナとルカリオは試合開始直後から纏っている。
気味が悪かった。
セナに何が起きているのか、シロナには何も分からなかった。
シロナは次のモンスターボールを握る。
バトルは止まってくれない。
シロナ「優雅なる水の精!ミロカロス!」
投げられたボールが開き、光が弾けた。
その中からミロカロスが姿を現し、シロナの前へ降り立つ。
実況「シロナ選手、2体目はミロカロス!ミカルゲを失った女王、ここから巻き返せるか!」
シロナは拳を握り締めた。
ミロカロス。
私のポケモンの中でも、一番耐久力がある。
セナくんのことは、何も分からない。
だからここで知る。
そして、この子を止める。
一方、セナとルカリオはまっすぐ前を見つめていた。
その視線の先にあるのは勝利だけ。
それ以外は何もない。
シロナも、ミロカロスも、セナの目には映っていなかった。
@sinnoh_battle
ミカルゲ瞬殺されたんだけど……
@poke_watch_21
嘘でしょ……
@champion_fan
シロナさん負けちゃう?
@ghost_poke_08
ミカルゲがあんな倒れ方すると思ってなかった
@lucario_love
怖いけどかっこいいんだよな、あのルカリオ
@trainer_note_17
セナってルカリオ以外出さないのかな?
@chiramii_fan
あのチラーミィ、ずっと前向いてるの可愛い
@sinnoh_live
次はミロカロスVSルカリオ
♢♢♢
審判「バトル再開!」
シロナ「ミロカロス!ハイドロポンプ!」
ミロカロスが口元に水流を集め、一気に撃ち出した。
実況「ミロカロス、ハイドロポンプ!凄まじい水流がルカリオへ迫ります!」
セナ「……。」
セナは何も言わなかった。
それでもルカリオは姿勢を低くすると、地面を蹴って前方へ滑り込んだ。
猛烈な水流が頭上を通り過ぎていく。
実況も観客も、その異変にはっきりと気づいた。
指示がない。
ルカリオがセナの声を聞かずに動いている。
セナはまるで気に留めない。
セナ「はどうだんを投げ上げろ。」
ルカリオが腕に蒼い波動を集め、上空へ向かって放り投げた。
シロナも視線を外さない。
空中に浮かぶ波動の位置とルカリオの位置、両方を目で追い続ける。
セナ「しんそく。」
ルカリオが再び地面を蹴った。
一瞬でミロカロスの背後へ回り込むと、後頭部へ鋭い蹴りを叩き込む。
ミロカロスが歯を食いしばり、衝撃に耐えた。
シロナ「ルカリオを止めて!ハイドロポンプ!」
狙うのは、蹴りを放った直後に距離を取るルカリオ。
ミロカロスが向き直り、口元へ水流を集めた。
その瞬間だった。
上空から蒼い波動の塊が落下する。
実況「上からはどうだん!先ほど投げ上げた一撃がここで降ってきた!」
ミロカロスが顔を上げる間もない。
波動がその頭を直撃した。
シロナ「ミロカロス!」
ミロカロスが前を向いた。
何度も攻撃を受けながら、その瞳に宿る闘志は少しも揺らいでいない。
セナもルカリオも、静かにミロカロスを見つめている。
実況「ミロカロス、凄まじい攻撃を受けながらも、まだ倒れません!」
セナは実況の声を聞きながら、呼吸を整えた。
簡単には倒させてくれない。
分かっていた。
でも、僕たちには時間がない。
これ以上、時間はかけられない。
シロナ「ミロカロス!じこさいせい!」
実況「ここでじこさいせい!ミロカロスが体力を回復していきます!」
ミロカロスの体が淡い光に包まれた。
傷ついた体が、少しずつ癒えていく。
セナの顔色が変わる。
セナ「ルカリオ!」
セナの声が大きくなった。
この試合が始まってから初めてだった。
その声と同時にルカリオも走り出す。
ここで回復を許せば、間に合わない。
これ以上、時間は使えない。
セナ「はどうだん!」
ルカリオの腕に蒼い波動が集まる。
ミロカロスとの距離を詰めながら、一直線に波動の塊を撃ち出した。
シロナ「ミラーコート!」
シロナも戦術を切り替えた。
ここではどうだんを撃ち返す。
そしてルカリオを倒す。
ミロカロスの前に、光の鏡が浮かび上がろうとしていた。
実況「ミラーコート!シロナ選手、ここで反撃を狙います!」
ミラーコート。
受けた特殊技を2倍の威力で跳ね返す技。
セナ「しんそく!ミラーコートを破壊!」
ルカリオがさらに一歩、前へ踏み出した。
次の瞬間、一気に加速する。
自ら放った波動を追い越し、ミロカロスの目前へ迫った。
シロナ「……ミラーコートを破壊?」
一瞬、理解が追いつかなかった。
それでも、試合は待ってくれない。
形成されつつある光の鏡を前に、ルカリオが足を振り上げた。
鋭い蹴りがミラーコートを捉える。
光の鏡に亀裂が走る。
そして、粉々に砕け散った。
シロナ「ミロカロス!」
ミロカロスが目を見開いた。
砕け散った光の向こうから、蒼い波動が迫ってくる。
もう防ぐ壁はない。
避けることもできない。
実況「ミラーコートが砕けた!はどうだんが直撃!!」
次の瞬間、波動の塊がミロカロスを真正面から撃ち抜いた。
土煙がゆっくりと晴れていく。
スタジアムの中央には、倒れたまま動かないミロカロスの姿があった。
その傍らには、自らのはどうだんに巻き込まれたルカリオが静かに立っていた。
審判「ミロカロス、戦闘不能!」
審判の声が、静まり返ったスタジアムに響き渡った。
実況も息を呑み、言葉を失っていた。
今の戦い方にこそ、他の誰でもないセナの強さが表れていた。
自分すら巻き込む。
それでも勝つためなら止まらない。
ルカリオは倒れたミロカロスを静かに見下ろしていた。
♢♢♢
シロナは倒れたミロカロスを呆然と見つめていた。
あのルカリオは何?
自分のルカリオとはあまりにも違いすぎる。
上空へ投げ上げたはどうだん。
しんそくでミラーコートを破壊するという発想。
あの思考回路も、動きも、すべてが人間のものだった。
セナくん自身がルカリオの体を操作している。
そうとしか思えなかった。
シロナは顔を上げ、フィールドの向こうに立つセナを見つめた。
ミカルゲとミロカロス。
2体ともほとんど何もできずに倒された。
こんなことは今まで一度もなかった。
止めないと、このまま終わる。
シロナは次のモンスターボールを強く握り締めた。
観客席からも無数の視線がシロナへ注がれている。
10年間、シンオウの頂点に君臨してきた無敗の女王。
そのシロナが少しずつ追い詰められていた。
試合は続いていく。
シロナもポケモンたちも、何もできなかったわけではない。
ロズレイドのリーフストーム。
トゲキッスのはどうだん。
そしてシロナのルカリオが繰り出すしんそく。
攻撃は少しずつセナのルカリオを捉え始めていた。
それでも、セナとルカリオ、2人をつなぐ意思にまでは手が届かなかった。
試合開始から約20分。
シロナのルカリオが、ゆっくりと地面へ倒れ込んだ。
審判「ルカリオ、戦闘不能!」
その向こうで、セナのルカリオは当然のように前を向いていた。
肩で荒く息をしている。
体にはいくつもの傷が刻まれていた。
それでも倒れない。
倒れることなどあり得ない。
そう思わせるほど、セナのルカリオは堂々と立ち続けていた。
『シロナさんもう負けるじゃん』
『ルカリオ倒せないのマジ?』
『シロナさん調子悪い?』
『いや、セナがおかしい』
『てか顔やばくない?大丈夫?』
観客席のあちこちからそんな声が漏れていた。
シロナもセナへ視線を向けた。
そして、言葉を失った。
セナの額には冷や汗が浮かび、目の下には濃い隈ができていた。
体はふらつき、視線の焦点も定まっていない。
それでも、両足はしっかりと大地を踏み締めていた。
シロナ「……セナくん?」
シロナが口を開いた。
その声に、セナの視線がゆっくりとシロナへ向けられた。
セナはシロナを見つめた。
リンクの限界は近い。
これ以上はまずい。
本能で分かる。
おそらくルカリオも分かっている。
それでもリンクを切る理由にはならなかった。
だって僕は。
だってルカリオは。
まだ勝っていない。
勝っていない人間が。
勝利を掴んでいない人間が。
手を緩めるなんておかしい。
今日、ここで限界を超えないなら、僕たちに明日はない。
未来もない。
セナはゆっくりと口を開いた。
セナ「……出してこいよ。ガブリアス。」
シロナは何も言わず、セナを見つめていた。
セナ「楽しみにしてたんだよ。」
それだけ言うとセナは口元を歪めた。
不気味だった。
勝利に取り憑かれた亡霊。
少なくとも、人間の顔とは思えなかった。
実況も観客もしばらく声を上げることができなかった。
♢♢♢
シロナは最後のモンスターボールを握り締めると、一度目を閉じた。
もう分かっている。
おそらく私は今日、この子に負ける。
私のポケモンたちは、5体がかりでもルカリオを倒せなかった。
残されたガブリアスだけで、相手のポケモンを6体倒す。
難しいことくらい、分かっている。
でも、それは戦いを放棄していい理由にはならない。
セナくんの顔を見れば分かる。
何かを背負っている。
彼にも、負けたくない理由があることだけは伝わってくる。
でも、私がそれ以上の事情を慮ることはできない。
それなら、今の私がシンオウチャンピオンとしてできること。
最後まで、ポケモンと共に戦い抜くこと。
シロナは手の中のモンスターボールへ視線を落とした。
私のエース。
ずっと一緒に過ごしてきた相棒。
シロナの目が潤んだ。
もう一度、私と一緒に戦って。
ガブリアス。
シロナ「天空へ舞え!ガブリアス!」
シロナがモンスターボールを放った。
宙を舞うボールが開き、美しい光が弾ける。
その中から、ガブリアスが姿を現した。
シロナのエース。
シンオウの象徴。
そして、彼女の原点。
ガブリアスがスタジアムの大地へ降り立った。