ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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7話

セナの口元が緩んだ。

 

…やっと来た。

 

…僕もルカリオも満身創痍だ。

 

でも、いい。

 

それでいい。

 

セナはゆっくりと顔を上げる。

 

ルカリオも正面に立つガブリアスを見据えている。

 

これを倒せば、僕はもっと強くなれる。

 

欲しいものがここにある。

 

ルカリオとガブリアスがフィールドの中央で向かい合った。

 

実況「ついに最後の1体!シロナ選手のエース、ガブリアスが登場!迎え撃つのは、ここまで5体を倒してきたセナ選手のルカリオです!」

 

スタジアムを埋め尽くす観客たちの視線がフィールドへ注がれた。

 

後がないシロナ。

 

そして彼女のエースであるガブリアス。

 

この2人がどんな戦いを見せるのか。

 

そして、セナにも注目が集まっていた。

 

彼は一体何者なのか。

 

なぜ、あれほどボロボロになりながら戦い続けているのか。

 

そして、この戦いの果てに新たな英雄は誕生するのか。

 

期待、興奮、困惑。

 

さまざまな感情が入り乱れる中、最後の戦いが始まろうとしていた。

 

審判「バトル再開!」

 

シロナ「ガブリアス!ドラゴンダイブ!」

 

ガブリアスが地面を蹴った。

 

一気に加速し、凄まじい勢いでルカリオとの距離を詰める。

 

セナ「ルカリオ!」

 

セナの声がスタジアムに響いた。

 

ルカリオは迫り来るガブリアスに合わせて体を逸らした。

 

ガブリアスの突進がすぐ傍を通り過ぎ、空を切る。

 

セナ「ルカリオ!シャドーボール!」

 

ルカリオの腕に影の塊が集まった。

 

そのまま振り抜くと、黒い球体がガブリアスへ向かって撃ち出される。

 

実況「ドラゴンダイブを回避!ルカリオ、すかさずシャドーボールで反撃!」

 

シロナ「スケイルショット!」

 

ガブリアスがルカリオへ狙いを定めた。

 

無数の鱗が鋭い弾丸となり、一斉に放たれる。

 

シャドーボールがガブリアスを捉えた。

 

同時に、ルカリオにも鱗の弾丸が次々と突き刺さる。

 

互いの攻撃が直撃した。

 

実況「両者直撃!ガブリアスも被弾!しかしルカリオも吹き飛ばされた!」

 

スケイルショットの衝撃でルカリオの体が宙に浮いた。

 

そのまま後方へ弾き飛ばされる。

 

そして、何度も背中から地面に叩きつけられる。

 

ルカリオは腕をついて体を起こそうとする。

 

それでも片膝が地面に落ちた。

 

実況「ルカリオが膝をついた!ここまでシロナ選手の5体を倒してきたルカリオが、ついに膝をつきました!」

 

今日、初めてだった。

 

ルカリオが膝をついた。

 

セナは必死にガブリアスを見つめていた。

 

動きは分かる。

 

読めている。

 

死角だって見えている。

 

そのはずだった。

 

それなのに、隙がない。

 

一瞬、隙を見つけても、次の瞬間には消えている。

 

セナとガブリアスの視線がぶつかった。

 

僕だって、ルカリオと戦う。

 

僕たちがお前を倒す。

 

そして僕がチャンピオンになる。

 

セナは額に浮かんだ冷や汗も拭わず、ガブリアスを見つめ続けていた。

 

シロナ「ガブリアス!じしん!」

 

ガブリアスが大地を力強く踏み鳴らした。

 

次の瞬間、フィールド全体が激しく揺れ始める。

 

実況「ガブリアスのじしん!凄まじい揺れがフィールドを襲います!」

 

セナ「はどうだん!」

 

ルカリオが壁を蹴り、揺れるフィールドを見下ろすように高く跳び上がった。

 

腕に蒼い波動が収束する。

 

そのままガブリアスへ狙いを定め、波動の塊を撃ち出した。

 

シロナ「ドラゴンダイブ!」

 

ガブリアスが地面を蹴り、迫り来る波動へ向かって加速した。

 

次の瞬間、凄まじい勢いの突進がはどうだんを正面から打ち砕く。

 

衝撃で砂埃が巻き上がった。

 

実況「ガブリアス、はどうだんを正面から突破! ルカリオの攻撃を打ち破りました!」

 

シロナは目を細めた。

 

ガブリアスなら通用している。

 

戦えている。

 

押せている。

 

これならまだチャンスはある。

 

シロナは巻き上がる砂埃を見つめながら拳を握り締めた。

 

シロナとガブリアス。

 

まだ、女王の目は死んでいなかった。

 

♢♢♢

 

ガブリアスのドラゴンダイブが、ルカリオを捉える。

 

上空で凄まじい勢いの突進を受けた。

 

ルカリオの体が地面へ強く叩きつけられる。

 

シロナ「ガブリアス!ストーンエッジ!」

 

ガブリアスがさらに畳み掛けた。

 

鋭く尖った岩が次々と形成され、ルカリオへ降り注ぐ。

 

セナ「しんそく!」

 

ルカリオはすぐに体を起こし地面を蹴った。

 

降り注ぐ岩の間を駆け抜け、体を逸らしながら回避していく。

 

そのままガブリアスとの距離が縮まった。

 

そして鋭い蹴りを叩き込む。

 

シロナ「ガブリアス!」

 

シロナの声がスタジアムに響く。

 

応えるように、ガブリアスが歯を食いしばる。

 

蹴りを受けながら踏ん張るものの、少しずつ後方へ押されていく。

 

セナ「ッ!」

 

まだだ。

 

押し込め。

 

まだいける。

 

セナ「ルカリオ!」

 

セナの声が響いた。

 

技の指示ではない。

 

ただ、名前を呼んだだけ。

 

それでもルカリオには十分だった。

 

さらに足へ力が込められる。

 

ガブリアスが後退する。

 

それでも、両腕を地面に突き立てた。

 

押し込まれる勢いに逆らう。

 

まだ爪を食い込ませて踏ん張る。

 

実況「ガブリアス、耐えた!ルカリオの強烈な一撃を受けながらも踏みとどまりました!」

 

シロナ「まだよ!ガブリアス!」

 

シロナの額から汗が流れ落ちた。

 

まだ、終わらせない。

 

こんなに楽しい勝負、簡単には終わらせない。

 

シロナ「ガブリアス!りゅうせいぐん!」

 

ガブリアスが大きく咆哮した。

 

実況「りゅうせいぐん!シロナ選手、ここで大技を繰り出した!」

 

スタジアムの上空が美しく輝いた。

 

光が広がり、無数の流星が降り始める。

 

セナ「……ッ!」

 

セナは歯を食いしばりながら、ルカリオを見つめた。

 

ルカリオも限界だった。

 

分かる。

 

流星がどこに落ちるのか。

 

全部分かる。

 

それなのに体が動かない。

 

ルカリオは立ったまま動かなかった。

 

降り注ぐ流星が次々とルカリオを捉える。

 

その体に幾度も直撃し、周囲の地面が砕け散っていく。

 

それでもルカリオは動けず、流星を受け続けた。

 

実況「りゅうせいぐんが直撃!ルカリオの姿が見えません! 」

 

土煙がゆっくりと晴れていく。

 

シロナは固く握っていた拳を開いた。

 

確実に仕留めたはず。

 

あれだけの攻撃を受けて、耐えられるわけがない。

 

そう確信していた。

 

シロナはゆっくりと土煙の向こうへ視線を向けた。

 

シロナ「……嘘でしょ。」

 

思わず声が漏れた。

 

隣では、ガブリアスも苦しそうに息をしている。

 

土煙の向こうに、ルカリオが立っていた。

 

顔は下を向き、全身から力が抜けている。

 

それでも、確かに立っていた。

 

やがて、ルカリオの口元がゆっくりと歪んだ。

 

セナも同じだった。

 

セナ「……こっちの番だ。」

 

セナの顔は明らかに異常だった。

 

額から滴り落ちる汗。

 

目の下に刻まれた濃い隈。

 

それでも、苦しそうに笑っている。

 

不気味な怪物は、まだ生きていた。

 

実況「立っている!ルカリオが立っています!あのりゅうせいぐんを受けて、なお倒れません!」

 

セナ「ルカリオ。」

 

ルカリオが地面を蹴った。

 

その瞬間だった。

 

プツン。

 

セナとルカリオのつながりが切れた。

 

♢♢♢

 

セナの膝が崩れた。

 

ルカリオを見つめたまま、ゆっくりと体が傾いていく。

 

あ。

 

終わった。

 

つなぎすぎた。

 

もう僕の声はルカリオには届かない。

 

あと一撃だったのに。

 

あと一撃入れれば、僕の勝ちだったのに。

 

その願いも、もうルカリオには届かなかった。

 

僕はゆっくりと地面へ倒れ込んだ。

 

体に力が入らない。

 

目は見える。

 

耳も聞こえる。

 

だからこそ分かる。

 

ルカリオは走っている。

 

あ。

 

今、跳んだ。

 

……はどうだん?

 

ルカリオ。

 

戦ってくれるんだ。

 

僕がいなくてもルカリオも勝ちたいんだ。

 

ルカリオが踏み出してくれた。

 

僕の夢を、君が1人で背負ってくれた。

 

ガブリアスがゆっくりと倒れ込んだ音がした。

 

最後の一撃は見えなかった。

 

残念だけど。

 

ルカリオ、ありがとう。

 

僕の夢を、最後に1人で叶えてくれてありがとう。

 

審判「……ガブリアス、戦闘不能。ルカリオの勝ち。」

 

審判「よって勝者、挑戦者セナ。」

 

審判の声が聞こえた。

 

僕の勝ち。

 

いや、僕たちの勝ち。

 

僕は地べたに這いつくばったまま王になった。

 

♢♢♢

 

シロナは、倒れたガブリアスを後ろから見つめていた。

 

実況「……決着です。10年間無敗を誇ったシンオウチャンピオン、シロナ選手が敗れました。」

 

実況「勝者は挑戦者セナ選手。しかし……セナ選手が倒れています。救護班が駆け寄っています。」

 

観客席からは歓声と悲鳴が入り混じり、スタジアム全体が騒然としていた。

 

シロナはその喧騒から離れるように、ゆっくりと目を閉じた。

 

悔しい。

 

結局、私はルカリオを倒すことができなかった。

 

ガブリアスも頑張ってくれた。

 

ほかのポケモンたちも同じだった。

 

閉じた瞼の端から涙がこぼれ、頬を伝っていく。

 

それでも満足してしまった。

 

新しいチャンピオンは、間違いなく自分より強い。

 

10年前の自分よりも若い。

 

勝利に貪欲で、正直な青年。

 

もっと、この子のことを知りたい。

 

何を考えてここまで来たのか。

 

どうしてそこまで強くなりたいのか。

 

負けた今だからこそ、話したいことがあった。

 

シロナはゆっくりと目を開けると、ガブリアスのもとへ歩き出した。

 

倒れた相棒の傍らに膝をつき、その頭を優しく撫でる。

 

シロナ「ありがとう。」

 

たった一言だけ語りかけると、ガブリアスをボールへ戻した。

 

無敗の女王は静かにその冠を下ろした。

 

♢♢♢

 

2018年5月1日。

 

シンオウ地方、ポケモンリーグスタジアム。

 

10年間、王座を守り続けてきた無敗の女王が敗れた。

 

シンオウの歴史が変わった日だった。

 

新チャンピオン、セナ。

 

20歳。

 

旅を始めて、わずか約1ヶ月。

 

使用したポケモンはルカリオのみ。

 

あまりにも異質で、強くて、眩しかった。

 

新たなチャンピオンの誕生に、シンオウ地方は大きく沸く。

 

小柄で、可愛らしい顔立ち。

 

それでいて、誰もが認めざるを得ない圧倒的な実力。

 

そして、常識にとらわれないルカリオのバトルスタイル。

 

話題になるには十分すぎた。

 

♢♢♢

 

ポケモンリーグ、チャンピオンルーム。

 

シロナからの引き継ぎを済ませると、セナはソファに腰を下ろす。

 

今日からはここがセナの部屋だった。

 

隣ではチラーミィが満足そうに息を吐いている。

 

セナとチラーミィが並んで座っても、まだ十分に余裕があるほど大きなソファだった。

 

向かい側にはルカリオも腰を下ろしていた。

 

セナ「チラーミィ。」

 

名前を呼ばれたチラーミィが顔を上げた。

 

セナは鞄に手を入れると、一つの石を取り出した。

 

ひかりのいし。

 

チラーミィが触れればチラチーノへと進化する石。

 

チラーミィの瞳が大きく見開かれる。

 

セナ「そろそろ進化しようか。」

 

チラーミィの目が輝いた。

 

セナは小さく笑った。

 

僕はチャンピオンになった。

 

最強の証明は一旦ここで終わり。

 

これからはもっと強くなるために命を燃やす。

 

環境も肩書も揃った。

 

今まで以上に強くなれる。

 

ルカリオだけじゃない。

 

チラーミィも、グライオンも、リオルも。

 

全員で強くなる。

 

新しく強いポケモンも仲間にする。

 

今の僕たちの力を、もっと鋭く、もっと強く鍛え上げる。

 

チラーミィも同じだ。

 

もっと強くなれる。

 

チラーミィはセナの手元へ尻尾を伸ばす。

 

そしてひかりのいしにそっと触れた。

 

チラーミィの体が白い光に包まれる。

 

光の中でその体が少しずつ大きくなっていく。

 

尻尾も大きく成長し、幾つにも分かれて広がった。

 

やがて光が弾ける。

 

セナの目の前にはチラチーノが立っている。

 

チラチーノはセナを見上げ、楽しそうに笑った。

 

セナはスマホを手に取ると、チラチーノの図鑑を開いた。

 

『白い 体毛は 特別な 脂で コーティングされているので 敵の 攻撃を 受け流すのだ。』

 

セナ「……。」

 

白い体毛。

 

敵の攻撃を受け流す。

 

……いいじゃん。

 

セナは手を伸ばし、チラチーノの頭を優しく撫でた。

 

チラチーノは満足そうに胸を張る。

 

その姿を見て、セナもルカリオも笑みをこぼした。

 

もっと強くなれる。

 

もっと先に行ける。

 

この時は、みんなそう思っていた。

 

【シンオウニュース】

 

シンオウに新王者誕生 20歳のセナが無敗の女王シロナを撃破、10年間の王座に幕

 

2018年5月1日、シンオウ地方のポケモンリーグスタジアムで行われたチャンピオン防衛戦で、挑戦者のセナ選手(20)がシンオウチャンピオン・シロナ選手に勝利した。

 

シロナ選手は22歳でチャンピオンに就任して以来、10年間にわたり無敗を維持してきた。その記録が、20歳の新たな王者によって塗り替えられることとなった。

 

今回チャンピオンに就任したセナ選手は、今年4月にトレーナーとして旅を開始。

 

ミオジムのトウガンを皮切りに、各地のジムリーダーを次々と撃破し、わずか約3週間で8個のジムバッジを獲得した。

 

さらに、ポケモンリーグでは四天王のリョウ、キクノ、オーバ、ゴヨウを同日に突破。

 

旅を始めて約1ヶ月という異例の速さで、シンオウの頂点へと辿り着いた。

 

特筆すべきは、その戦績だけではない。

 

セナ選手はジム戦から四天王戦、そして今回のチャンピオン戦に至るまで、ルカリオ1体のみを使用して勝ち進んできた。

 

その戦い方も、従来のポケモンバトルとは大きく異なっている。

 

相手の動きを正確に捉える判断力と、既存の技を独自の発想で活用する戦術。

 

さらに、トレーナーからの指示がない状態でもルカリオが的確に動くなど、その連携には専門家やファンからも驚きの声が上がっていた。

 

今回のシロナ戦でも、その異質な戦い方は健在だった。

 

セナ選手のルカリオは、ミカルゲ、ミロカロス、ロズレイド、トゲキッス、ルカリオを次々と撃破。

 

最後に登場したガブリアスは、持ち前のスピードと攻撃力でルカリオを追い詰め、激しい攻防が繰り広げられた。

 

しかし、試合終盤にはセナ選手自身の体調にも異変が見られた。

 

顔色は悪く、足元もふらついており、試合を続けられる状態なのか懸念される場面もあった。

 

そして決着の直前、セナ選手がフィールド上に倒れ込む事態が発生。

 

それでもルカリオは戦闘を続行し、最後のはどうだんでガブリアスを撃破した。

 

勝利が告げられた時、セナ選手は地面に倒れたまま動けず、救護班が駆け寄った。

 

歴史的な新チャンピオン誕生の瞬間は、歓声と困惑が入り交じる異例の光景となった。

 

一方、敗れたシロナ選手は、倒れたガブリアスを労い、静かにボールへ戻した。

 

最後まで全力を尽くした無敗の女王にも、観客たちの注目が集まった。

 

20歳という若さ。

 

小柄で可愛らしい容姿。

 

そして、ルカリオ1体でシンオウの頂点に立った圧倒的な実力。

 

これまでの常識を覆す新チャンピオンの誕生に、シンオウ地方は大きな盛り上がりを見せている。

 

10年間続いたシロナ政権が終わり、新たな王者セナの時代が幕を開けた。

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