ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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ルシア編
8話


2018年4月30日。

 

シンオウ地方、ナギサシティ、ナギサホール。

 

会場を埋め尽くした観客たちの歓声がライブハウス全体に響き渡る。

 

人気アイドルグループ「Stella」のライブが、ちょうど幕を閉じたところだった。

 

ステージには3人の少女。

 

ルシア、リン、そしてユナ。

 

3人は観客席へ向かって満面の笑みを浮かべると、声を揃えた。

 

3人「ありがとうございましたー!」

 

明るい声がホールいっぱいに広がり、客席からは大きな拍手と歓声が沸き起こった。

 

ステージの上で笑い合う3人の少女。

 

その笑顔は美しく、眩いほどの輝きを放っていた。

 

Stella。

 

シンオウ地方を代表する人気アイドルグループ。

 

そして、来月には結成1周年を迎えようとしていた。

 

その前身には、かつてシンオウ地方を熱狂させたアイドルグループの存在があった。

 

数年前、シンオウ地方を中心に爆発的な大ヒットを記録した伝説のアイドルグループ「Lune」。

 

Stellaは、そのLuneの意思を受け継ぐ形で結成されたグループだった。

 

プロデューサーを務めるのは、Luneの元メンバー、ユイ。

 

かつて多くの人々を魅了したアイドルが、今度は新しい世代を送り出す立場となっていた。

 

そしてStellaもまた、結成から間もなく1年を迎える中、順調に人気を集めている。

 

ルシア、17歳。

 

メンバーカラーは赤。

 

パートナーはヒコザル。

 

モデルのようにすらりとしたスタイルと、見る者まで明るい気持ちにさせる眩しい笑顔が魅力の少女。

 

ステージに立てば、その華やかな存在感で多くのファンを惹きつける。

 

Stellaの太陽、ルシア。

 

リン、17歳。

 

メンバーカラーはミントグリーン。

 

パートナーはリーフィア。

 

ぱっちりとした大きな瞳に、見ているこちらまで思わず笑ってしまうような明るい笑顔。

 

誰よりもアイドルという存在を愛し、努力を惜しまない少女だった。

 

Stellaの一番星。

 

その輝きは彼女自身が大好きなアイドルとしてステージに立つ姿に表れていた。

 

そしてユナ、17歳。

 

メンバーカラーは青。

 

パートナーはシャワーズ。

 

儚げな雰囲気をまとった美少女で、アイドルらしい華やかさとは少し違う、素朴な容姿が特徴だった。

 

けれど、ひとたびルシアやリンと並んでステージに立てばその印象は変わる。

 

2人の輝きに埋もれることなく、息を呑むほど美しい姿を見せる。

 

Stellaの月、ユナ。

 

太陽、一番星、そして月。

 

それぞれ異なる個性と輝きを持った3人の少女たちは、今日もステージの中心で美しく舞っていた。

 

♢♢♢

 

ライブを終えた翌日。

 

ナギサシティ、cutie project事務所。

 

ルシアとユナは並んでソファに腰を下ろす。

 

そして、目の前の大きなモニターを見つめていた。

 

ルシアの膝の上にはヒコザル。

 

その隣では、シャワーズがユナに寄り添うように座っている。

 

画面に映し出されているのは、ポケモンリーグスタジアム。

 

これから始まるのはシンオウチャンピオン防衛戦。

 

シロナVSセナ。

 

2人はその試合を見るために、事務所のモニターの前に集まっていた。

 

ルシアはポケモンバトルが大好きだった。

 

自分でバトルをする機会はない。

 

パートナーもヒコザルだけ。

 

それでも、ほかのトレーナーたちが戦う姿を見るのは昔から大好きだった。

 

今日も身を乗り出し、試合が始まるのを待っている。

 

膝の上のヒコザルも、そんなルシアにつられるように画面を見つめていた。

 

ルシア「ほら!始まるよ!」

 

弾んだ声が部屋に響いた。

 

隣に座るユナは、そんなルシアの様子を見て困ったように笑う。

 

足元ではシャワーズが顔を上げ、ユナを見つめていた。

 

ユナはその頭をそっと撫でると、ルシアと一緒にモニターへ視線を向けた。

 

ルシアとユナは並んでモニターを覗き込んだ。

 

画面の中では、セナとシロナがフィールドを挟んで向かい合っている。

 

ユナ「……この子?挑戦者。」

 

ユナは首を傾げながら、隣のルシアへ問いかけた。

 

画面越しでもわかる。

 

小さい。

 

それになんか可愛い。

 

少なくとも、強そうには見えなかった。

 

ユナの中では、強い人といえば体が大きくて、筋肉があって、いかにも強そうな人だった。

 

正直、こんな子がシロナに挑戦するなんて、ちょっと意外だった。

 

そもそもユナは、ポケモンバトルに興味がない。

 

今日だって、ルシアが試合を見ると言ったから一緒についてきただけ。

 

それ以上の理由なんてなかった。

 

ユナがもう一度モニターへ目を向けると、隣のルシアが楽しそうに笑った。

 

ルシア「この人、超強いから!」

 

♢♢♢

 

ルシアはもう一度ユナへ顔を向けた。

 

ルシア「始まるよ。」

 

その声に、ユナもモニターへ視線を戻す。

 

画面の向こうでは、セナとルカリオ、そしてシロナとミカルゲがフィールドを挟んで向かい合っていた。

 

やがて審判の声が響き、試合が始まる。

 

ユナも自然と画面に見入っていた。

 

そして、次の瞬間だった。

 

ユナ「……え?」

 

ルシア「……。」

 

一瞬だった。

 

ユナは思わず声を漏らしたものの、それ以上は何も言えなかった。

 

隣のルシアに至っては言葉すら出てこない。

 

画面の中ではシロナのミカルゲが倒れていた。

 

2人ともシロナの強さは知っている。

 

ルシアだってセナの強さは知っているつもりだった。

 

だから、今日の試合を楽しみにしていた。

 

それなのに、もうミカルゲが倒れている。

 

何が起きたのかまるでわからなかった。

 

2人はただ、目の前で起きたことを理解できないまま、モニターを見つめ続けていた。

 

画面に映る小柄な男の子。

 

さっきまで強そうには見えなかったその子が、シロナのポケモンを一瞬で倒してしまった。

 

それなのに、セナが纏っている空気は異様なほど張り詰めていた。

 

小柄な体にどこか幼さの残る顔立ち。

 

そんな外見とはまるで釣り合わない。

 

まるで、全てを拒絶しているような。

 

自分以外の全ての上に立とうとしているような。

 

そんな空気すら感じられた。

 

画面越しだというのに、2人はセナから目を離せなかった。

 

そして、何も言えない2人を置き去りにして、試合は進んでいく。

 

ミロカロス。

 

ロズレイド。

 

トゲキッス。

 

そして、シロナのルカリオ。

 

2人が知っているポケモンたちが、次々とルカリオの前に倒れていった。

 

どのポケモンも、シロナと共に数々の勝利を重ねてきた強者たち。

 

それなのに、誰もセナのルカリオを止められない。

 

シロナの手持ちは残り1匹になっていた。

 

ルシアはずっとセナから目を離さなかった。

 

強いから。

 

かっこいいから。

 

でもそれだけじゃなかった。

 

ルシアは画面に映るセナの顔をじっと見つめる。

 

苦しそうだった。

 

顔色も悪く、見ているだけで心配になるような表情をしている。

 

それなのになぜか目が離せない。

 

うまく言葉にはできなかった。

 

ただ、あの小柄な男の子から、何かとてつもないものを感じていた。

 

ルシア「……この人も戦ってる。」

 

小さな声が漏れた。

 

ユナ「え?」

 

ユナは思わずルシアの顔を見た。

 

何を言っているんだろう。

 

戦っているのはルカリオ。

 

セナじゃない。

 

トレーナーが指示を出して、ポケモンが戦う。

 

 

それがポケモンバトルのはずだった。

 

ユナはもう一度モニターへ視線を戻す。

 

画面の中では、セナが苦しそうな表情のままフィールドを見つめている。

 

しばらくその姿を眺めてみた。

 

でも、やっぱりわからなかった。

 

ルシアが何を感じているのかユナには理解できなかった。

 

ルシアは膝の上のヒコザルを撫でながら、ずっとモニターを見つめていた。

 

……この人、すごい。

 

私も、こんな風になりたい。

 

画面の中では、ルカリオとガブリアスが激しく戦っている。

 

ドラゴンダイブとはどうだん。

 

2匹の技がぶつかり合うたびに、フィールドが大きく揺れていた。

 

どっちも強い。

 

本当に、すごい。

 

でも、私が気になっているのはポケモンたちだけじゃなかった。

 

セナの顔を見る。

 

……苦しそう。

 

今にも倒れちゃいそうなくらい。

 

それなのにずっとガブリアスを見てる。

 

なんでだろう。

 

なんでそこまでできるんだろう。

 

……ああ、そっか。

 

この人も何かを背負ってるんだ。

 

絶対に負けたくないんだ。

 

ここだけは誰にも譲れないんだ。

 

何を背負っているのかなんて私にはわからない。

 

どうしてそこまで勝ちたいのかも全部はわからない。

 

でも、すごい。

 

かっこいい。

 

気づけばヒコザルを撫でる手も止まっていた。

 

私はもうセナから目を離せなかった。

 

♢♢♢

 

画面の中でセナが倒れた。

 

ゆっくりと前のめりに崩れ落ちていく。

 

私は何も言えずにその姿を見ていた。

 

声を出そうとしても言葉が出てこない。

 

ユナ「え、大丈夫なの?!」

 

隣からユナの声が聞こえた。

 

でも、今だけはそんなこと気にしていられなかった。

 

だって。

 

ルカリオはまだ戦ってる。

 

セナが倒れても、ルカリオは振り向かない。

 

まっすぐガブリアスを見つめている。

 

そしてゆっくりと腕を構えた。

 

蒼いはどうが集まっていく。

 

セナはもう倒れている。

 

指示なんて出せない。

 

それなのにルカリオは迷わなかった。

 

シロナさんも、固まってた。

 

私も、息をするのを忘れてた。

 

…だって美しかったから。

 

多分、セナにはもう見えてない。

 

それでもルカリオは、倒れた場所を振り返ることさえしなかった。

 

私は、今までたくさんのステージに立ってきた。

 

眩しい照明も、綺麗な景色も、数え切れないほど見てきた。

 

でも、こんなの見たことない。

 

あの蒼いはどうは、私が人生で見てきた何よりも美しかった。

 

胸の奥が熱くなった。

 

もう、何も考えられない。

 

ただ、あの光景だけが目に焼きついていた。

 

そして、わかってしまった。

 

今、この瞬間。

 

私の人生の歯車が狂った音がした。

 

♢♢♢

 

審判の声が響く。

 

試合の終了を告げる合図。

 

セナが勝った。

 

ルカリオだけで勝った。

 

シロナさんのポケモンを、たった1匹のルカリオで全部倒してしまった。

 

でも、違う。

 

私にとってはそんなことどうでもよかった。

 

違う。

 

こんなの違う。

 

知らなかった。

 

こんな世界があるなんて。

 

セナは、かっこよくチャンピオンになったわけじゃない。

 

余裕の表情で相手を圧倒したわけでもない。

 

最後には自分が倒れた。

 

そのまま地面に伏せたままチャンピオンになった。

 

普通なら、そんな姿をかっこいいなんて思わない。

 

でもそうじゃない。

 

そんなことじゃない。

 

私は知ってしまった。

 

人が命を賭けることの美しさを。

 

ポケモンバトルの美しさを。

 

人とポケモンが繋がることの美しさを。

 

……私も。

 

私もあんな風になりたい。

 

あの感覚を、自分でも感じてみたい。

 

あの人たちが見ている世界を、私も知りたい。

 

もう戻れない。

 

この試合を見る前の私には、絶対に戻れない。

 

セナは地面に倒れている。

 

私はセナを見つめたまま、心の中で強く思った。

 

私は、この人に勝ちたい。

 

♢♢♢

 

気づけば、ルシアは立ち上がっていた。

 

膝の上にいたヒコザルも、そんなルシアを見上げている。

 

ユナ「……どうしたの?」

 

隣から聞こえた声に、ルシアはゆっくりと振り向いた。

 

ルシア「……ユナ、ごめん。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ユナの肩がびくりと震えた。

 

……え?

 

なんで謝るの?

 

ユナはルシアの顔を見つめる。

 

いつもの明るい笑顔はなかった。

 

なんだろう。

 

嫌だ。

 

なんか嫌な予感がする。

 

なんか、聞きたくないことを言われる気がした。

 

ルシア「……私、旅に出る。」

 

ユナは目を見開いた。

 

ルシア「セナに勝ちたい。」

 

……え?

 

何を言ってるの?

 

頭が真っ白になった。

 

まるで、誰かに後頭部を殴られたような衝撃だった。

 

ユナは何も言えずにルシアの姿を見つめ続けた。

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