ポケットモンスター 金星の星跡   作:月ちゃん@ハーメルン

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9話

ナギサシティ、cutie project事務所。

 

社長室の扉がノックされた。

 

ユイ「どうぞー。」

 

声をかけながら、ユイは扉の方へ振り向いた。

 

ユイ。

 

cutie project代表取締役。

 

Stellaプロデューサー。

 

そして、かつてシンオウ地方を熱狂させた伝説のアイドルグループ「Lune」の元メンバー。

 

アイドル時代のユイは、その華やかな存在感でシンオウ地方を席巻し、「王道スーパーアイドル」と呼ばれていた。

 

そんな彼女も、今ではアイドルをプロデュースする立場になっている。

 

やがて扉が開く。

 

ユイが目を向けると、そこにはルシアが立っていた。

 

ユイはルシアへ視線を向けると、ソファに座るよう促した。

 

ルシアが腰を下ろすのを見てから、自分も向かい側のソファに座る。

 

そばにいたイーブイを抱き上げると、膝の上に乗せる。

 

そして、改めてルシアへ顔を向けた。

 

ユイ「……どうしたの?」

 

その声にルシアが顔を上げた。

 

少し間を置いてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

ルシア「……Stellaを休ませてください。」

 

ユイ「……え?」

 

思わず声が漏れた。

 

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 

Stellaを休む?

 

ユイはすぐに言葉を返せず、膝の上のイーブイを抱いたまま固まってしまった。

 

そして、しばらくルシアの顔を見つめ続けていた。

 

ルシア「……見たんです。シンオウチャンピオン防衛戦。」

 

ルシアはユイの目をまっすぐに見つめたまま、話し始めた。

 

ルシア「私、セナに勝ちたい。」

 

ルシア「ヒコザルと一緒にセナに挑戦したい。」

 

ユイは何も言えなかった。

 

あの試合なら自分も見ていた。

 

ユイ自身、ポケモンバトルにはそれなりに自信がある。

 

四天王級なんて言われることもある。

 

バトルのことだってそれなりにわかっているつもりだった。

 

シロナがどれだけ強いのかもよく知っている。

 

セナに勝ちたい?

 

あの子に?

 

無理でしょ。

 

あんなの強いなんて言葉じゃ足りない。

 

それくらいユイにだってわかる。

 

それでも、ルシアは本気でセナに勝ちたいと言っている。

 

あまりにも無謀だった。

 

ユイはルシアの目を見た。

 

まっすぐに自分を見つめている。

 

無理だよ。

 

アイドルをやりなさい。

 

そう言ってしまえばいい。

 

それだけのはずなのにその言葉は出てこなかった。

 

ユイは膝の上のイーブイを抱いたまましばらくルシアを見つめ続けていた。

 

ユイ「……どうやって?」

 

ルシア「強くなる!」

 

ユイ「具体的には?」

 

ルシア「旅をして、たくさんバトルして、バッジを集める!」

 

ユイ「どこを旅するの?」

 

ルシア「……。」

 

ユイ「シンオウ?それだけでいいの?」

 

ルシアは黙ってしまった。

 

さっきまで勢いよく答えていたのに、今度は何も言えない。

 

そんなルシアを見て、ユイは小さく息を吐いた。

 

多分、本気なんだと思う。

 

セナに勝ちたいという気持ちは、きっと本物なんだろう。

 

でも、そこに辿り着くまでの具体的な道のりは、何も見えてこない。

 

そもそも、どこを旅するのかさえ決まっていないのだ。

 

無理もなかった。

 

ルシアはまだ17歳。

 

何でも器用にこなせるような子でもない。

 

ユイは膝の上のイーブイを抱いたまま、しばらく黙っていた。

 

♢♢♢

 

ユイ「……。」

 

Stellaは来月、結成1周年を迎える。

 

記念ライブに向けた準備だってすでに進んでいた。

 

ルシア、ユナ、リン。

 

Stellaは、この3人で成り立っているグループ。

 

たった1人欠けるだけで、グループの活動そのものが止まってしまう可能性だってある。

 

ユイとしても、簡単に首を縦に振るわけにはいかなかった。

 

膝の上では、イーブイが心配そうにユイの顔を覗き込んでいる。

 

向かい側のルシアも、何も言わずにユイを見つめ続けていた。

 

ユイは黙ったまま、しばらくその視線を受け止めていた。

 

ふと脳裏に昔の記憶がちらつく。

 

少し前のことだった。

 

あの頃、Luneは人気の絶頂にいた。

 

ライブを開けば会場は満員。

 

グッズだって飛ぶように売れる。

 

メンバーたちもそれぞれ活動の幅を広げ、何もかもが順調に進んでいた。

 

そんな時だった。

 

ツキアシ「旅に出たい。」

 

たった、その一言。

 

その一言で、Luneは解散した。

 

ユイはすぐには受け入れられなかった。

 

あれだけ人気があったのに。

 

まだまだ、やれることだってあったのに。

 

それでも、Luneは終わってしまった。

 

ユイのアイドルとしての人生も、そこで一度終わった。

 

だからStellaを作った。

 

自分が叶えられなかった夢を、ルシアたちに託すために。

 

3人は順調に人気を集め、来月には結成1周年を迎えるところまで来ていた。

 

それなのに、また同じことが起きようとしている。

 

今度は、自分が夢を託した少女たちの未来が、終わろうとしていた。

 

♢♢♢

 

ユイは拳をぎゅっと握りしめた。

 

ツキアシのことを恨んでいるわけじゃない。

 

あの子は、ただ自分の夢を選んだだけ。

 

それで誰かが不幸になったわけでもない。

 

みんな、それぞれ自分の道を進んでいる。

 

私だってそう。

 

でもあの頃の私は違った。

 

ツキアシが旅に出ると決めた時、どうしても送り出せなかった。

 

見送りに行くことさえできなかった。

 

最後に顔を合わせたのがいつだったのかも、もう覚えていない。

 

だから今度こそ、ルシアのことだけを考えるなら、笑顔で言いたかった。

 

「いってらっしゃい。」

 

たった、それだけ。

 

そう言って送り出したかった。

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