超かぐや姫オリ主短編集   作:LuN@iL

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pixivでも投稿したものです
Claude君にストーリー、主人公、酩酊街モチーフの設定を説明して
本文を作ってもらってます
公正編集をして、できました


宵の街が月になる夜

最初に酒を醸したのが誰だったのか、俺は知っている。

口に含んだ米を噛んで、甕に吐き出して、寝かせただけの白く濁った液体だ。うまいかと聞かれたら、正直、首を傾げる。

それでも村の連中は、あれを飲んだ夜だけは笑った。飢えも、病も、昨日死んだ誰かのことも、ひと晩だけ忘れて笑った。

その笑い声を聞いて、俺は思った。

 

 

ああ、このまま永遠に終わらなければ良い、と

 

転生特典なんてものを授かっていたと気づいたのは、酒が村に根づいた頃だ。

疲れ切った者に、救いを望む者に、永遠と安楽と忘却を。

提灯の灯る夜の街と、終わらない宵と、湯気の立つ盃。

誰も急かさず、誰も責めない、つらい現実から逃れたい者が、迷い込める場所。

 

俺はそれを、ただ「街」と呼んでいた。

 

のちの人々は、そこを酔いの街と呼び、死んだ者が最後に立ち寄る世界のひとつとして語り継いだ。

酒を醸す者たちは、いつの間にか俺を酒の神と呼び、祠を建てた。

神なんて柄じゃない。俺はただの、酒好きの案内人だ。

 

その街には、時間がなかった。朝も夜もなく、ただ宵だけが、どこまでも続いている。

望む者に扉を開き、永遠を過ごしたければ、永遠を過ごせた。望めば、いるべき場所へ帰ることもできた。

 

もっとも、最初のうち、俺はそんなことを何も知らなかった。

街に入るには、俺の許しがいる。扉をくぐる行為がいる。そう思い込んで、しめ縄で輪を立てて茅の輪くぐりを作ってみたり、祠の前に鳥居を何本も並べてみたりした。

戦や嵐でぼろぼろになった村の連中を街に迎えると、留まる者も去る者もいた。

去る者は壊れた家や畑を直していった。留まる者はただ幸せそうに酩酊を貪った。

そのどちらも正しいと、俺の役割で、この力の意味だと思った。

 

 

*

 

 

最初に彼女と会ったとき、彼女はウミウシだった。

霧の深い朝だった。祠の前に、掌ほどの生き物が這い上がってきて、供えた濁り酒の甕の縁を、ゆっくりと乗り越えた。そいつは、言った。

 

「あなたが、酒の神?」

 

声は、ウミウシの口から出ているようには聞こえなかった。もっと遠くの、もっと澄んだ場所から響いてくる、少女の声だった。

 

「遠い浜で聞いたの。つらい思いをした者に、ひと晩の宿を貸す神様がいるって。だから、ここまで這ってきた」

 

「這ってきたって、どれくらい」

 

「三月くらい」

 

笑いかけて、やめた。小さな体が、小刻みに震えていたからだ。

聞けば、その体は、犬DOGEという相棒のものだった。本当は犬の形をしていたらしい。

彼女は月の人間で、いや、人間ですらなくて、本来は肉体を持たない存在なのだという。

帰る途中で船が壊れ、肉体を作る機能も、相棒の肉体を作るのが限界だった。

 

「だから、犬DOGEだけが体をもらえたの。私は、犬DOGEを通してここにいる」

 

そう言って、彼女は、かぐやと名乗った。

 

俺は、祠を指した。

「祈れ」

 

「……え?」

 

「祠に祈れば、入れる。俺の街だ。夜が終わらない、疲れた奴のための場所だ」

 

ウミウシは、しばらく迷っていたが、やがて小さな体を祠の前に丸めた。

祈りの言葉はいらない。ただ、休みたいと思えばいい。

 

次の瞬間、霧が、提灯の灯りに変わった。

気づけば、隣にひとりの少女が立っていた。

十五、六に見える。長い髪の、どこか浮世離れした少女が、自分の両手をまじまじと見下ろしている。

 

驚いた。現世の彼女は、どう見てもウミウシだった。街が、彼女に元の姿を返したのだ。

 

「……手が、ある」

 

かぐやは、指を一本ずつ曲げて確かめていた。やがて、ぽろぽろと涙をこぼした。

 

「ずっと、なかったの。どれだけ願っても、戻らなかった……」

 

俺は何も言わず、盃を差し出した。彼女は両手で受け取って、ひと口含み、むせて、それから、ずいぶん久しぶりに笑った。

途中「あなたがヤチヨなの?」や「ヤチヨって神様知らない?」など聞かれた理由を聞いて、ただわからないとしか言えなかった。

 

「ここでは、元の姿でいられる。外に出れば、また戻っちまうが」

 

「それでもいい」

 

彼女は、提灯の並ぶ道を見渡した。

 

「帰る場所が、あるなら」

 

あの日から、八千年。

 

 

*

 

 

言葉にすれば一行で済む。けれど実際は、一日ずつ積み重ねた八千年だ。

村が焼かれた年があった。国が割れて、兵が山を越えてきた年もあった。小さなウミウシの姿のまま、彼女は何も変わらず、人の世の方が目まぐるしく変わっていった。出会った人が死ぬたびに、彼女は街へ帰ってきて、黙って盃を傾けた。

 

俺は、守ると決めていた。

刃が彼女に届きそうになれば、間に立った。

飢えた土地では、米と酒を担いで掌に乗せた彼女を連れ出した。

祠が壊されて信仰が薄れて、俺は名ばかりの神のまま、彼女を抱えて戦場を歩いた。

神の力なんて、そのくらいにしか使えなかった。

 

都が燃えた年、彼女は煤だらけで街に倒れ込んできた。俺は何も言わず。

「守れなかった」と彼女は言った。

「守ろうとしたんだろ」と俺は答えた。

それだけの会話を、八千年のあいだに何度繰り返しただろう。

 

夜になれば、ふたりで提灯の下を歩く。彼女はたまに泣いて、たまに怒って、たまにどうでもいい話で笑った。

 

犬DOGEは、街の中でもウミウシの姿のまま、いつも彼女の傍らで丸くなっていた。彼女がそれを撫でる手つきは、犬を撫でるそれだった。

 

 

*

 

 

その夜、街の提灯は、いつもより少し暗かった。

かぐやは橋の欄干に腰掛けて、長いこと黙っていた。川面に映る灯りが、ゆらゆらと揺れている。

 

「ねえ。わかったの」

 

「何が」

 

「この八千年が、なんだったのか」

 

彼女は笑った。泣いているようにも見えた。

 

「私ね、やちよに『なる』んだ……全部、繋がってたの。始まりも終わりも」

 

「あの隕石も、壊れた体も、きっと全部、必要だったの。犬DOGEがウミウシになったのも、あなたに会えたのも」

 

「そうか。よかったな」

 

それしか言えなかった。

 

「よかった、のかな」

 

「出口が見えたんだろ。成すべき事を見つけたなら、よかったんだよ」

 

彼女は欄干から降りて、俺の顔をじっと見上げた。

 

「……あなた、顔色が悪い」

 

「神様はもともと、そういう顔だ」

 

「ごまかさないで」

 

隠していたつもりはない。ただ、言う機会がなかっただけだ。

 

 

*

 

 

自分の終わりが近いことは、ここ数百年、うすうす感じていた。

神と呼ばれても、俺は転生した人間だ。八千年は、人間には長すぎた。

祠の信仰が薄れるたびに、体が少しずつ軽くなっていった。

 

「かぐや」

 

「……うん」

 

「この街を、お前にやる」

 

彼女は一瞬、何を言われたのか理解できない顔をした。

 

「街って、あなたの、酩酊の……」

「ああ。つらい思いをした奴を迎え入れる場所。俺の力だ。お前になら、任せられる」

 

「いらない」

 

即答だった。

 

「いらない。そんなの、あなたがいなくなるみたいじゃない」

 

「いなくなるんだよ、そろそろ」

 

「やだ」

 

子どもみたいに首を振る彼女は、八千年前に提灯の道で、自分の手を見つめて泣いていた少女と、少しも変わっていなかった。

俺は笑って、その頭に手を置いた。

 

「お前はこれから先も、長い時間を行く。出口のその先でも、きっと、疲れる夜が来る。そのとき、帰る場所がほしいだろう」

 

「……」

 

「俺はもう、守ってやれない。でも、この街なら、お前をずっと待っていられる。それに、お前が誰かを迎える側にもなれる」

「ここなら、お前は元の姿でいられる。外じゃ、犬DOGEの体を借りるしかないんだろ」

 

彼女は長いこと黙っていた。やがて、俺の手を両手で包んだ。

 

「……なんで、ずっと一緒に……」

 

「八千年、付き合えた。上出来だ」

 

 

*

 

 

街の提灯が、ひとつ、またひとつと、揺れはじめた。

譲渡は、静かに始まった。俺の中にあったものが、彼女の中へと流れ込んでいく。灯りは暖かい橙から、青白い光へ。木造の軒先は、細い光の線になって、夜空へほどけていく。酒の匂いが薄れ、代わりに、澄んだ冷たい風が通り抜けた。

 

街が、変わっていく。

 

これが何になるのかは、やっと俺にもわかった。

いつか人が、遠くの誰かと繋がる世界。傷ついた誰かが、息をつける夜の場所。

 

彼女の中で、何かが共鳴した。かぐやの本体、あのもと光る竹が、遠い電子の海へ、街の灯りを繋いでいく。

いつか人は、手のひらに収まる小さな端末ひとつで、ここに来られるようになる。

月を見上げるように、誰もが訪れる、光の街。

「……ツクヨミ」

 

彼女が、ぽつりと言った。

 

「やっぱり、この街がツクヨミ」

 

「いい名前だ」

 

「あなたが、最初に作ってくれた街だよ」

 

「違う。お前が、これから作る街だ」

 

体が、もうほとんど透けていた。足元から、提灯の光と同じ色に溶けていく。痛みはなかった。むしろ、八千年ぶりに肩の荷が下りたような、不思議と軽い心地だった。

 

「じゃあな、かぐや。……いや、やちよ、か」

 

「どっちでもいい。どっちも、私だから」

 

「そうだな」

 

最後に見た彼女は、泣きながら、笑っていた。

それで十分だった。

 

酒の神は、盃をひとつ、橋の欄干に置いた。いつか誰かが、ここで足を止める夜のために。

そして、生まれたばかりの月の下で、静かに消えた。




一応設定はすでに固まっている作品ですが
シリーズにするかは迷ってます
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