エルフ王は唯一むに! ~王より刀鍛冶がしたい僕、剣の神になる?~ 作:茉森 晶
【挿絵表示】
亜方逸樹が描いてくれた漫画版1話がTwitter(X)で読めますので、どうぞよろしく。
https://x.com/akataizki/status/2064279687820673319
キィン! キィン! キィン!
山深い森の中、一軒の鍛冶小屋から、鉄を打つ音が響く。
と言っても、熱した鉄を打ち延ばす工程ではなく、すでに仕上がった刀身に銘を入れているのだった。
「なんて
尖った耳。アーモンド型の目。スレンダーな体躯。
瞳の色はルビーのように鮮やかな紅。
透き通るような金髪はポニーテールにまとめているが、その美しい黄金色もすっかり煤けている。
「今までで一番『
その世界では見慣れない、反りのある片刃の剣。
そう、エルフが【刀】を打っているのだ。
「ザクト! 肝心な最後の仕上げなんだから、集中集中!」
『ザクト』と、鍛冶を補助する者が呼んだ。
それがエルフ男子の名。
「わかってるってば」
机の上に並んだ道具の中から、青白い光を宿した小刀を手に取る。
それを右手に構え、完成したばかりの刀身に左手をかざす。
と、コバルトブルーに輝く魔法陣が刃の上に浮かび上がる。
「ザクト・レインシスが
もっとも輝いた瞬間、目にも止まらぬ早業でザクトの小刀が銘を切った。
その文字から魔力が染み込んでいき、刀身は激しく白い光を放つ。
「君の名前は
輝きが落ち着いたその刀身は、名の通り、雪のような白い金属色になっていた。
「ディアム、どう? かなりいいんじゃない?」
「ああ、問題無い。鉄も喜んでる」
ディアムは刀身を確認し、用意してあった
犬のような耳とシッポがついた小人の姿。
小柄なザクトよりさらに小さな体でありながら、師匠のような物言い。
「もう我慢できない! 試してくる!」
「あ、おい、ザクト!」
作務衣のまま、小屋から飛び出していくザクト。
ディアムは『ま、いつものことだが』と呟くと、壁に掛けられたペンダントの石の中へ、あくびとともに帰って行った。
* *
小屋から少し離れた森の中。
腕を回して抱えても指が届かないほど太い大木を前に、ザクトは
「森の精霊さん……また少し分けてもらいます」
ザクトは
無詠唱で水属性の魔力を送ると、白銀の刃からキーンと高音が鳴り響き、まるで吹雪が噴き出すように白い煙が立ちのぼる。
無心で柔らかな構え。ゆっくり深呼吸し精神統一するそんなザクトを、遠目に見る者がいた。
「あの人が……救世主様? あんな可愛らしい方が……」
漂ってくる冷気に少し身震いしつつ、茂みの中から様子を窺う。
「でも確かに、エルフな
「すぅ…………ふッ!!」
瞬間、ザクトが横薙ぎに刀を振った。
激しい風の音と、ノコギリが高速で木材を通過したような爆音が一瞬鳴り響いた。
「うーん……会心のひと振りになってくれたよ。魔法の乗りがメチャクチャいい感じ……!」
(最近は、良くも悪くもバランスのいい刀になってきたな。1年目に打った
ザクトは心の中で呟き、切なげな顔で溜息をつく。
(あの
目の前の大樹の幹を、刀の柄で角度をつけトンと押す。
と、まっすぐ立っていた大木がバランスを失い、ゆっくりと倒れていく。
「…………えっ?」
ザクトに見とれていた黒髪の少女は、ハッと我に返る。
目の前、自分の方へ、大木が倒れてくることにやっと気付いた。
「ひやあッ!?」
「え?」
少女の悲鳴を聞き、ザクトは驚きながらも、刀に魔力を再注入。
「んんんんん……だぁッ!!」
先ほどの静かなヨコ一文字とは違い、下段から豪快に斬り上げるタテ一閃。
倒れ行く大木を衝撃波が駆け抜け、文字にならない轟音が鳴る。
それは真っ二つに割けた。
ズドーン!
地響きを立て、少女の両脇に超大型サイズの木材が沈む。
「はにゃ……わ……」
ゆったり気味だった
草の絨毯の上、パッタリと倒れた少女はおだやかな笑顔で失神していた。
「この子……人間? なんでここまで入って来れたんだ?」
慌てて駆け寄ったザクトは、あまりのイレギュラーに混乱していた。
(結界は3日前に張り直したばかり。僕の魔法を抜けてくるほどの大魔法使いにも見えない)
「とすると……邪心が無い人間? そんなの、存在するの?」
訝しげに、まじまじと少女の顔を確認する。
まだあどけなさの残る、いかにも聖職者といった気品ある顔立ち。
「しかも……かわいい、な?」
(エルフに転生して20年。人間の女子なんて……もう緊張するよ)
見た目は10歳くらいの細身の美少年エルフだが、肉体的な成長スピードが遅く、それはザクトのコンプレックスでもあった。
その特徴は【ハイエルフ】のものらしいとする言い伝えもあるが、前例が少なすぎるためエルフの中でも確証はない。
「ほっとくわけにもいかないし……よっ、と」
小柄な少年が、肉感的な体型の女性を、お姫様だっこで持ち上げる。
それだけでもザクトの特別さが感じられるが、見ているのは森の動物たちだけだった。