エルフ王は唯一むに!  ~王より刀鍛冶がしたい僕、剣の神になる?~   作:茉森 晶

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004話『私の一生、あなたに捧げます』

 

 

 鬼にしたはずの心も、すっかり角を折られてしまったザクト。

 

 どうしたものかと腕組みしていると、ルーラが遠慮がちに唇を開いた。

 

 

「私、『エルフ王』のことは誰にも話してません。ここへも、ひとりで来ました」

 

「どういうこと? 宮廷巫女(シャーマネス)……なんだよね?」

 

「私が受けた神託は『日付にして明日の朝、ケイト王国を大災害級の魔族が襲う』『その危機を救うのはエルフ王』『エルフ王に辿り着けるのはルーラ』 そして、もうひとつ……」

 

 

 ルーラはひと息ついて、それに続ける。

 

 

「『エルフ王の存在を人間には伏せるように』でした」

 

「……ふーん」

 

 

(神様も一応、エルフ族に気を遣ってくれてるのかな? その上で、僕に『やれ』って言ってる?)

 

 

「国には『国を滅ぼす上級魔族が来る』『その危機を救う勇者に、私だけが会いに行ける』とだけ伝えました。私、嘘は言いません」

 

「……まぁ、信じてあげてもいいかな」

 

 

 『詐欺師ほど善人に見えるもの』くらいには警戒するはずのザクトだが、ルーラのことは『これで騙されたらしょうがない』と思えるほど純粋に見えた。

 

 

(転生前は剣道を20年、この世界ではエルフ一(いち)の剣客ユリ姉(ねえ)に10年みっちり鍛えられ、ここ5年間は我流で魔法刀術を研究してきたけど……)

 

 

 『和(にっぽん)』が好きで、就職してからも趣味で剣道を続けていた朝香(あさか)唯逸(ただいつ)。

 

 

(最初は、言われるまま『唯一のエルフ男子を絶やさないため』だった。でも、いつのまにか強くなるのが楽しくなってたな)

 

 

 ハイエルフのスペックもあり、転生してからのハードな鍛錬もそれほど苦ではなかった。

 

 

「大災害級の魔族……僕に倒せるかな? 自分じゃ『それなりに強い』とは思うんだけど、通用するか本当にわからないんだよね」

 

「実際に会ってみたら、こんな可愛らしい方で、正直、少し不安だったんですが……」

 

 

 先程、ザクトを初めて見た時のことを思い出し、ルーラは興奮気味に目を輝かせる。

 

 

「私に向かって倒れてくるあの大木を、一瞬で真っ二つにしたあの必殺技! すごかったです! やっぱり神様のおっしゃることに間違いはないですね!」

 

「あはは……ただの木を切っただけなんだけどね」

 

 

 やわらかく微笑んだあと、ザクトはふと、遠くを見るような目で手にした刀を眺める。

 

 

(人間の国を守るために上級魔族と戦う……そんな危険なこと、エルフの民たちは許さないだろうな~)

 

 

 溜息とともに、刀を鞘に収める。

 

 そして、考え込むと耳を触るクセが出てしまう。

 

 

(種(エルフ)の未来がかかった自分の体、危険に晒していいわけない。けど……元人間として、見捨てるわけにもいかない)

 

 

 どちらの気持ちも確かにある。

 

 が、それ以外の、どこかワクワクするような気持ちに本人もまだ気付いていなかった。

 

 

「あの……こんなお願いをしている立場で、とても申し上げにくいのですが……」

 

 

 ザクトの反応が悪くないことを肌で感じながら、ルーラは意を決したような表情で切り出した。

 

 

「すみません、国からの報酬は保証できません」

 

「どういうこと? 僕の正体を伏せたとはいえ、国の指示で来たんでしょ?」

 

「私の受けた神託……完全には信じてもらえなかったんです。まだ新米巫女なもので……」

 

 

(うん……まぁ、国の判断は正しいか。ルーラが嘘ついてないとしても、神を騙(かた)る何者かって可能性もある)

 

 

「えーと……あまりお金のことは言いたくないけど、エルフの里のためにも外貨は必要。救世主とか言われても、でっかいリスクでただ働きってのもね」

 

 

(そうだよな。4年前のあの時、どうしてもお金が必要で、僕は……)

 

 

 意識しないつもりでいても、つい苦い記憶が甦る。

 

 それは、先程も思い出していた『手放した刀』のことだった。

 

 

(おい、後悔はしないって決めただろ。いつかの時のため、今はお金を貯めて……)

 

 

 ザクトが気を散らしていたその時――

 

 

「ですので……私を【絶対服従メイド】として、あなたの元に置いてくださいませんか?」

 

 

 ルーラは真剣な表情でそう言った。

 

 

「…………は!? な、なに言ってんの?」

 

「もちろん、見合った報酬にはならないですよね。でも、もし受けてくださるなら……私の一生、あなたに捧げます」

 

 

 20年、子供時代をやり直しているとはいえ、転生前は立派な成人男性だったザクトこと朝香(あさか)唯逸(ただいつ)。

 

 久しぶりに会った人間の女子がこんなことを言ってくれば、いかがわしいことを考えないわけがない。

 

 

「そ、そんなに安売りするもんじゃないと思うけど? 自分の人生だよ?」

 

「一国を救っていただくのに、私ひとり分で足りるはずもありません。が、どんなお仕事でも覚えます! 何人分の働きもできるように頑張ります!」

 

 

 ルーラのまっすぐな眼差しに気圧され、ザクトはつい視線を逸らす。

 

 

「どうしてそこまで……? 家族のため?」

 

「……私、家族はいません」

 

「え?」

 

「それどころか、2年前までの記憶も断片的にしかなくて。私には……何もないんです」

 

 

 ルーラは寂しそうに呟く。

 

 が、すぐ笑顔になって続ける。

 

 

「だから……理由を訊かれても、うまく答えられません。でも『人が好き』という気持ちはあって。ケイト王国の人々が救われるなら、私の人生は意味あるものになるかと」

 

 

(やっぱり魔法結界は正常だったんだな。うう……心が綺麗すぎてつらい)

 

 

 『人間たちを救う』

 

 『力を試したい』

 

 すでにザクトの中では承諾寄りだったが、何よりルーラの人柄に惹かれている分も大きかった。

 

 

「【絶対服従メイド】の件は置いといて……この話、引き受けるよ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ただし、条件がある。僕が【エルフ男子】だってことは秘密にすること」

 

 

 ズズイッと、精いっぱいシリアスめにした顔を近づける。

 

 が、そのエルフ少年の、妖精のような美しい顔立ちにルーラはつい見とれてしまう。

 

 

「? おーい、ちゃんと聞いてる?」

 

「ハッ……は、はい! すみません!」

 

 

(元々ちょっと抜けた子みたいだけど……大丈夫かな、ほんとに)

 

 

「エルフの里にも黙って行くことになるから、そもそも目立たないようにしたいんだ。君を信用するしかないけど……」

 

「私、何をされたって秘密は守ります!」

 

 

 ルーラなりに気合を入れた顔で、グッと拳を握る。

 

 

(本当にそう思ってはいるんだろうけど……『嘘は言わない』っていう自分のキャラと真逆のタスクなの、わかってるのかな?)

 

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