VR ストライクウィッチーズ 作:エーリカ・ダイスキ
正直言って私は、あの2人を甘く見ていた。
私達と入れ違いで戦場に到着した増援が見たのは、敵の小型高速ネウロイを、高機動だけで翻弄し撃墜するハルとロミルダの姿だった。
後ろを取られていても、振り回すような機動でいつのまにかネウロイの追跡を振り切り、逆に返り討ちにする。彼女達が使っているのがKar98だったのもここではプラスに働いていた。歩兵銃故に先端に銃剣を取り付けることができる。弾が切れても銃剣による攻撃ができる。
特に射撃するには近すぎるような近接戦闘になった時にはその効果は非常に高い。
実際、戦いを見ていたウィッチの話では、わざとオーバーシュートさせて追い越される直前に銃剣でコアを一撃で砕くと言った方法をとっていたらしい。
それでも、大型ネウロイによって地上は蹂躙されてしまっていて、結局戦線は押し下げられてしまった。
あの第一戦線から生きて脱出できたのは合計で歩兵二個中隊に満たない人数しかいなかった。しかも重装備は脱出時に殆ど破棄されていた。
それでいて稼げた時間は1日強。
惨敗だった。
確かに第一戦線はまだ完成していない中途半端なもので兵力も予定の半分しか展開していなかったから仕方がないのかもしれない。
しかし想定が甘過ぎたのはある。
だけれど、それでも2人は約束通り生きて帰ってきた。
そのことだけが当時の私は嬉しかった。
Bad Muskau Advanced airfield AM 10:55
March 3.1940
ネウロイの本格侵攻を前に基地は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
戦場で1分でも長く制空権を確保しようとするために飛ばせる機体もウィッチも、順番に滑走路を駆け上がっていく。
その一連の流れの中で、私や、被弾損傷機が合間を縫うように地上に降りていく。
私達が基地に降りてから30分後、ようやくハルとロミルダが戻ってきた。
ストライカーユニットは一戦しかしていないとは思えないほどにくたびれていて、潤滑油や冷却液が滲み出していた。
着陸したハルとロミルダがタキシングで格納庫に戻ってくるのを私は待っていた。
おかえり、無事に帰ってきてくれてありがとうと、言おうと思ってハルの顔に赤い血が垂れているのに気づいた。
「ハル!貴女鼻血が……」
「……なんでもありません。もう止まってます」
なんでもないわけがなかった。脳に損傷があるかもしれない、そう思えて仕方がなかった。
「大丈夫じゃないわ。すぐに軍医に診せに行くわよ」
軍医は、まだ忙しそうにはしていなかった。戦場から運ばれてくる負傷者はまだこの基地には到達していない。
三十代くらいの軍医はハルを検診しつつ、顔を顰めていた。助手であろう医療ウィッチが同時にハルの体に回復魔法をかけていた。
「体全体に急激な負荷がかかっている。今までのこのような症状は?」
「鼻血まではいきませんが、目眩や吐き気くらいまでは何度か……」
検診中に私が持ってきた彼女の身体履歴を軍医はにらみながら、しかし1分に満たない考察の上で結論を出した。
「ふむ、固有魔法の弊害か」
ハルの固有魔法は重力加速度。
「君の固有魔法、その力は体にかかる荷重を一時的に押さえ込んで軽減させる力だ。荷重自体を無にする事は出来ない。押さえ込みがなくなればその分の反動を体が受けているんだ。おそらくそれが原因だろう」
「それは……」
なんてことだと私は天を仰いだ。戦うために使っていた力で、自分の体を壊してしまっていたなんて、彼女はどう思ったのだろう。
「体に負荷がかかって壊れてしまうから、僕個人としてはその能力の使用は禁止と言いたいのだが……」
「先生、それは無理です」
即答だった。だけれど私からも彼女の力の使用は制限させなければならない。まだ幼いのだ。そんな子に無理をさせながら戦わせ続けるわけにもいかない。
「だろうな。おそらく空軍上層部もドクターストップには不服だろうな」
確かに、若くしてダブルエースになった彼女を広告塔に使用しようとする声は意外と多い。
負け続けで、もはや国すら放棄せざるおえないこのカールスラントには希望を与えるイコンが必要なのだ。
「対処療法でなんとかするしかない。飛行後は必ず検査を受けて、必要なら医療ウィッチによる回復魔法の施行も視野に入れるように」
「では私からも、ハルさん、能力の使用は禁止とまではいきません。ですが、今までみたいな使用は控えることよ」
これはハルの命を、部下の命を預かる上官としての命令。
「そんな……」
「貴女はまだ幼いのよ。成長期の体に負担をかければ将来的にどのような悪影響があるかわからないわ」
「分かりました……」
「心配しないで、能力に頼らなくても貴女は十分強いわ」
ハルの表情は暗かった。
医務室でハルを診察してもらっている合間も戦いは次の段階に移っていた。
私とハルは、偶然通りかかったバルクホルンさんにブリーフィングに出るよう言われ、そのまま直行する形で格納庫に併設されたブリーフィングルームに向かうことになった。
部屋にはすでにロミルダやフーベルクといった。ウィッチ達がかき集められていた。
「よし、全員いるな。あー……バルクホルンだ。こういうのは得意じゃないんだがな、手短に説明するぞ」
そういってバルクホルンさんはカールスラント東部が描かれている地図を使って説明を始めた。
「ネウロイの大規模侵攻は司令部が想像しているものよりも大規模なものであることが分かってきた。現在防衛線も全箇所で大規模な攻撃を受けている。そこで現在カールスラントは国土を一時放棄、ノイエ・カールスラントへの民間人および資産の疎開行う計画を発動させた」
「ビフレスト作戦ってやつね」
第一次ネウロイ大戦の際に本土が戦場になった事を受けて十年前から計画されていた国家疎開プラン。それがビフレスト作戦。
「しかし……今から発動して間に合うのですか?」
「良い質問だロスマン軍曹、準備期間を含めると東部方面国境およびベルリン市街からの民間人および工業能力の避難は早くても5月になる、そこから全てが完了するまで見積もっても約一年はかかる」
「1年間の持久戦って事ですか」
それが上手くいくかはわからない。だけれど軍人であるがゆえに、出来ないというわけにはいかなかった。私達の銃後には、無防備な市民がいるのだ。
「すでにトランシルヴァニアとの連絡は途絶えている。あそこも陥落は時間の問題だろう。あの土地がネウロイを引き付ける役割を果たしていたからこそ今まで東部戦線はかろうじて持ちこたえていたんだ。それが陥落したとなっては、カールスラントが国家としてネウロイを相手にするのも限界というわけだ」
そこで言葉を区切ったバルクホルンさんは、地図にトランシルヴァニア陥落と一言書き加えた。
「なんとしてでも東部前線を守り時間を稼ぐ、それしか我々に残された道はない。第52航空戦闘団がカバーするエリアはこの第二臨時戦車橋から下はオルテガの街を含むこのエリアだ。現在多数のネウロイが空と陸の双方から侵入してきている。私達に課せられた任務は制空権の確保だ。制空権が確保でき次第地上攻撃部隊が投入される予定だ」
「質問は?」
「すいません、先ほどの戦いでストライカーが損傷しているのですが……」
「君は確かアントナーか。心配するな、ストライカーは予備を使えるよう手配しておく」
「他に質問はないようだな、では各員出撃準備」
こうして私達の長い防衛戦は始まった。
貴女の探している空の英雄の物語。それは必ずしもかっこいいだけのものではない。
血反吐を吐いてでも空に上がり、ネウロイを来る日も来る日も落とさなければならない、地獄の日々でもあったのよ。
それでも、私達は必死にそれを戦った。
それが、誰かを守るためだから。