東方寄生郷 作:冷笑界隈代表「うぇい」
「じゃあ咲夜、さよならだ」
バッ!
朔斗と魔理沙を乗せた箒が、猛烈な速度で上空へと飛び立っていった。
あの速度なら、一時間もあれば紅魔館に辿り着く。私は、お嬢様さえ無事でいてくれればそれでいい。
「当然よ。私は紅魔館のメイド長だもの。必ず生きて帰るわ」
ここで死ぬわけにはいかない。レミリアお嬢様が万全な姿を取り戻すのを見るまでは、絶対に。
私は振り返り、「霊夢の姿をしたソレ」を正面から見据えた。
ソレの首は、異常な角度へとねじ曲がっていく。まるで死体がひとりでに動いているかのように、骨の砕ける不気味な音が辺りに響く。ポキポキ、ポキポキと。
「少しいいかしら? その変なお面、外したらどう? ――センスがないわよ」
ソレに対する警戒を限界まで引き上げる。
直後、偽霊夢の手元で針金がギラリと光った、その瞬間――
カンッ!
視認できないほどの速度で飛来した針金を、ナイフの腹で弾き飛ばす。すかさず時を止め、私は一瞬で偽霊夢の目の前へと肉薄した。
「私は遠距離戦が嫌いなの。インファイトで楽しみましょう?」
キィン! キィン!
時の停止を解除すると同時に、至近距離からの容赦ないナイフ捌きを叩き込む。合間に鋭い蹴りを織り交ぜ、敵の体勢を確実に崩していく。
「ガラ空きよ!!」
確実な一撃となった蹴りが炸裂し、異形の身体が派手に吹き飛んだ。
「貴方は本当に霊夢なの? これくらいはハッキリしてもらいたいわね。――なぜ私達を襲ったの? 誰の命令?」
「カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!」
どうやら、まともに答える気はないらしい。
吹き飛んだはずの敵が、その勢いのまま私の腕を掴んできた。私は渾身の頭突きをその顔面に叩き込み、力任せに振りほどく。
追撃として至近距離から放たれた猛スピードの針金を、紙一重の体捌きで回避する。
「もういいわ……萃香とベルを無残に殺したようなクズな貴方は――永遠に地獄の業火で焼かれ続けて死に続ければいい」
一つ、確信したことがある。
こいつは私が知っている霊夢じゃない。ならば、これ以上生かしておく必要性も、手加減する理由もない。
「本気で、殺すわよ!」
先ほどを遥かに凌駕する速度で、ナイフと蹴りの嵐を叩き込む。
バァン!!
顎へのクリーンヒットが決まり、異形が遥か後方へと消し飛ぶ。どれほどの化け物だろうと、今の衝撃で一瞬は動きが止まるはず。
私はその隙を逃さず、世界の時を止めた。
虚空へ向けて、一瞬の間に200本ものナイフを投擲する。
そして――解除。
360度、全方位からナイフという名の殺意が収束する。この状況から逃れる術など、存在しない。勝てる
深く確信した瞬間
サッ……
「消えた!?」
目の前の偽霊夢が、音もなく空間から掻き消えた。完全に見失ってしまった。
――どこに潜んだの?
索敵を試みようとした、その瞬間だった。
「ひっ……!」
背後から突き刺さる、肌を焼くような猛烈な殺意。
振り向いた視界に飛び込んできたのは、顔を異形に歪ませ、狂気を孕んだ顔を浮かべる偽霊夢の姿だった。本能的な恐怖が脳を支配し、一瞬だけ足がすくむ。
カチ……!
刹那、嵐のような猛攻が襲来する。
斬撃、刺突、打撃。多彩かつ容赦のない連続攻撃、防戦一方で翻弄される。先ほどまでとは比べ物にならない圧倒的な速度。――あいつ、完全に本気を出してきた。
「……っ、でも、もう時間は十分に稼いだわ。そろそろ逃げさせてもらい……」
撤退を決意し、時間を停止させようとしたまさにその時。
視界の全方位、360度すべてを埋め尽くすように、無数の針金が狂い咲くように放たれた。
――時間停止が先か、肉体を貫かれるのが先か。
―迷いの竹林―
霊夢のような異形と戦っていた十六夜咲夜は時間停止で竹林の森まで逃走していた
「はぁ、はぁ、はぁ……っ。ここまで来れば、流石に大丈夫かしら……」
辛うじて時を止め、死線からの脱出には成功した。しかし、代償は小さくはない
――グチョグチョ……
「いっ……! 流石に、これは応えるわね……」
左足の肉に深く食い込んだ針金を、痛みに耐えながら引き抜く。溢れ出る鮮血を抑えるため、私は容赦なくスカートの裾を引き破り、即席の包帯として傷口へ固く縛り付けた。
「……ふぅ。何はともあれ、これで役目は果たしたわ。お嬢様のもとへ帰りましょう」
血に染まった自らの左足を引きずりながら、地面に手を突き、毅然と立ち上がろうとする。
──だが、足が動かない
違和感に息を呑み、自身の足元へ視線を落とした、その瞬間だった。
「カチカチカチカチカチ!」
鼓膜を不快に揺らす金属音が響く。振り返った視界に飛び込んできたのは──あの、偽霊夢の姿だった。
いつの間にか、私の両足はさらに数本の針金によってズタズタに引き裂かれ、地面に縫い留められていたのだ。
「ひっ……! なんで、なんでここにいるのよ!?」
有り得ない。そんなわけがない!
これは何かの悪い夢だ!こいつとは十キロ以上は距離を離したはず。時止めを解除してから、まだ二分しか経っていない。魔力の痕跡だって、完全に消し去ってきたはずなのに……!
追いつかれるはずがない……! 有り得ない有り得ない有り得ない!!このままじゃ殺される!!
プライドも、メイドとしての矜持も今吹き飛んでいた。動かない足を引きずりながら、爪が剥がれるのも構わず、両手で泥を掻いて必死に這い逃げる。
「誰か……! 助けて! 誰かぁ……っ!」
絶望の絶叫が竹林に木霊する。偽霊夢の手が私に伸びようとした、その時だった。
「いやぁ……咲夜さんにこんな事するなんて、いい度胸してるね!」
突如、身体を縛り付けていた針金が弾け飛び、拘束から解放される。
頭上から降ってきたのは、聞き馴染んだ、ひどく不敵な声だった。
「形夢……!?」
魂魄形夢
最近紅魔館に加わったばかりの新参でありながら、その戦闘力は博麗の巫女をも凌駕する、現在の紅魔館における「最強で無敵」の男。
「いやー、暇潰しに迷いの竹林を散歩してたら、まさかこんな大物に出くわすとはね。……咲夜さん、ここは俺に任せて下がってください。こいつの相手は俺がします。ほら、これ回復薬。はやく紅魔館へ逃げて俺ならチョチョイのちょいですよ」
刹那が軽く地を蹴ったかと思うと、次の瞬間には、あの恐るべき偽霊夢の体が吹き飛ばされていた。圧倒的な力。攻撃が見えなかった──この男なら、あの化け物にも勝てる。
「わ、分かったわ……! お願い、絶対に生きて帰ってきて頂戴……!」
刹那から投げ渡された回復薬を握り締め、私は痛む足を鼓舞した。背後で始まる次元の違う戦いの轟音を背に受けながら、私は命からがら、迷いの竹林を脱出するのだった。
この小説では本家異形郷で死んでいたキャラが生存する場合があります。但しそれは一時的なものでもしかしたら次の話で死ぬって可能性もあります。...キャラの死亡人数は異形郷編では本家異形郷の約半数程です。
ちなみに次回は魔理沙&朔斗編です。