薄暗い中、赤い帯が遠くの空に浮かんでいる。夕暮れではない。
午前5時の朝焼けだ。宮野春樹は自転車を漕いでいた。
背負ったリュックには着替えと筋トレ用のグッズが入っていた。
雑貨屋の前に自転車を止め、雑貨屋の中の階段を勢い良く上がっていく。
雑貨屋の2階が24時間ジムになっており、トレーニングをはじめようというのだ。
階段を登る途中、違和感があった。いつもと違うのだ。
よく見ると数人の影が動いている。バーベルのガチャンという音が聞こえる。先客だ。
5時にトレーニングをする奴がいるのか。珍しいものだと春樹は思った。
雑貨屋の前に自転車はなかったので、彼らは徒歩で来たのだろう。
2階に上がり、ジムを見渡してみると
5人の男がバーベルラックの前でたむろしていた。クルド人だ。
なぜ朝早い時間に5人もいるのだ。
筋肉隆々の腕にはこれでもかというぐらい入れ墨が入っている。
怖い。いや、帰ろう。嫌な予感しかしない。すぐに階段を降りようとした。
「オニイサーン!チョトマテー!」
ちょっと待ってなのか、ちょっと待てのどちらなのか分からない。
片言の日本語からは恐怖しか感じない。
「キントレシテイカナイノ?」
5人ほどのクルド人に囲まれた。絵面はカツアゲと変わらない。
「いや、いいです帰ります」
「ボクラト イッショニ キントレシヨウ!」
妙に日本語が上手い。喋っているのは1人だけで、
後の4人は余り日本語を喋れなさそうだが。
「じゃあ。はい…やりましょう」
覚悟を決めた。
元々ベンチプレスをやる予定で来ていたので、ベンチプレスから始めた。
「・・・・・・・」
無言でトレーニングの様子を見られている。非常にやりづらい。
「閧ゥ逕イ鬪ィ縺悟ッ繧堤李繧√k縺?」
何語かわからない。英語でないことは確かだ。
私から内臓を抜いてどう売りさばくかの相談をしているのだろうか。
「アー オニイサン チョットイイ?」
「はい」
「アームズカシイ ナンテイウンダロ」
もう一人のクルド人が何かを言っている。
「Google鄙サ險ウ菴ソ縺医h」
何語かわからないが、Googleだけはハッキリと聞こえた。
Googleは世界共通らしい。
Google翻訳の画面をみせてくれた。
”肩甲骨をよせていないので肩を痛めます”
なるほど。ベンチプレスのフォームが良くなかったらしい。
肩甲骨を寄せるイメージでバーベルを持ち上げる。軽い。
今までのフォームだと胸筋をあまり使えていなかったらしい。
数回上げた後バーベルをラックに戻す。ベンチから上半身を起こし、
顔を上げるとサムズアップした彼らがこちらを見つめていた。
「パァン」 高く上げたお互いの右手を打ち合わせた。
これも世界共通らしい。